最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女06 魔法の使えない魔女

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油断はしていなかった、はず。
 この魔族がここまで短気だとは、想定外だっただけ。ただそれだけのこと。
 私の魔法で作り出した私と瓜二つのドールの首が飛んだ。帽子が風に飛ばされたようにアッサリと飛んだ。
 ドールとは言え、自分の首が飛ぶ光景を見たい物好きはいないと思う。

「もう一度言う、何者だ貴様」

 どういった訳か、コイツには人形だと最初からバレていたみたい。

「いきなり私の首を刎ねる輩に名乗る名などない」

 私は少し頭にきていた。
 見ると魔族の右手は鋭い鉤爪になっている。その鉤爪で私のドールの首を刎ねやがった。

「何故魔族が人間の町に潜伏している」
「ククク⋯この感じ、そうかお前は魔女だな。魔女は死に絶えたと聞いていたが、よもや生き残りがいようとはな」

 うーん、会話が成立していない。
 まあ、訳など聞かずとも潜伏している理由など一目瞭然なんだけどね。
 目の前の魔族は強い。たぶん?
 私程ではないにしても、まともに戦うと恐らく苦戦するだろう。たぶん?
 少し卑怯かもしれないけど、先に仕掛けたのはあっちだし、やっちゃっていいよね?
 という訳で、私は魔族の首を刎ねた。
 赤子の手を捻るようにアッサリと。私のドールにしたように。
 頭部を失った魔族は、血飛沫を撒き散らせながら力無くその場に崩れ落ちる。

「相変わらずご主人様は凄まじいにゃ⋯それに目的を聞く前に倒しちゃって良かったのにゃ?」
「想像は出来る」

 最近魔族たちの動きが活発になってきたと各地の精霊たちが口を揃えて言っている。
 戦争が始まる。近いうちに。
 ということは、新しい魔王でも誕生したのだろうか。要所要所に魔族を潜伏させての情報収集をしていたのだと思う。
 目立たないように魔族の死体の痕跡を消しておく。今後も注視しておく必要があるかもしれない。
 もし戦争が始まったら、たぶん人間たちでは勝てないと思うから。
 戦争が回避出来るように陰ながら助力はするつもりだけど、そもそもあなたたち人間が前大戦の立役者でもある魔女を全員殺しちゃったのが悪い。
 私はその恨みが一生消えることはないと思う。
 だけど、八つ当たりしても意味ないから。助けるか、助けないかと言われたらやっぱり人間の味方をしちゃうと思う。
 取り敢えず、魔族崇拝者たちが変な儀式をしているのは止めた方がいいかな。仮に魔族が見かけたら喜んで駆けて行きそうだし。利用されそうだし。
 そんなことをブツブツと頭の中で考えていたら、またしても誰かに声を掛けられた。

「やあ、キミみたいな魅力的な女性に出逢えるなんて運命を感じてしまったよ」

 なんだ、ナンパか。
 こういう輩はハッキリ言ってウザい。

 無視して通り過ぎようとしたら左腕を掴まれてしまった。
 気安く触らないでと、手を振りほどいて睨みつけようとした時だった。
 寒気を感じるほどの禍々しい殺気を感じた。
 その殺気を駄猫も感じたのだろう。私を守るべくなのかキザな青年に飛びかかった。
 しかし、キザな青年は余裕の表情でそれを否し、右手の甲で駄猫を弾き飛ばす。
 身の危険を感じた私は、すぐに手を振りほどき、大きく後ろへと下がり、キザな青年と距離を置く。

 すっかり騙されたわ。
 コイツ、人の皮を被った魔族だ。

「先ほどのやり取りを見ていたよ。仲間を駆除してくれた礼をしないとね」

 あら、見られていたのね。周りの気配には注意していたつもりだったけど。さて、ここで戦闘をすると目立ってしまうし、被害が出ちゃうね。
 場所を変えるべく、私は駆け出した。

「逃がさないよ?」

 キザな青年は私の後を追って来る。

 あれ⋯?
 あれあれ?

 走りながら危険察知の魔法を自身に施そうとしたのだけど、何故だか魔法が発動しない。危険察知どころか、攻撃系統の魔法も全て発動しない。

 やられた。

 人気の無い場所まで移動した私は、自身の置かれている状況を整理する。
 ふと、左腕を見ると手首のところに痣にも見える∞マークのような物がちょうど手首を一周するような形でついていた。
 こんな痣はさっきまでは無かったはず。思い当たる節があるとすれば、さっきの魔族に腕を掴まれたときに何かをされたのかもしれない。
 そう推測し、キザな青年魔族を睨む。

「そんな顔してると可愛い顔が台無しだよ」

 余計なお世話よ。このマーク、どうやら擦っただけでは消えないみたい。
 魔女である私は、魔法があれば、何でもすることが出来る。
 しかし、裏を返せば魔法がないと何も出来ない。幸いにも、先ほどの戦闘で付与した身体強化の効果がまだ残っている。生身よりは幾分かマシ。でも幾分か程度。
 攻撃系統の魔法が使えない以上、武器を使って戦うしかない。

「どうしたんだい? かかってこないのかい?」

 コイツ白々と⋯。
 いつもならば先制即効血祭りにあげてるところなのに。

「もしかして魔女のくせに魔法がつかえないのかい?」

 やっぱり魔女であることがバレてたみたい。
 それにしてもコイツ、いちいち勘に障る。こんな時だからこそ慎重に行動しないといけない。
 カッとなって突っ込んだらそれこそ相手の思うツボ。

「来ないならこっちから行くよ」

 私は身構えた。相手の僅かな動きにでも反応出来るように集中する。
 しかし、奴は動かなかった。
 何やら詠唱めいたものが聴こえてくる。
 どうやら相手は魔法を行使するらしい。先ほどの魔族みたいにガチガチの前衛スタイルの場合どう対処すべきかと思っていたが、魔法は寧ろ私の土俵。魔族の魔法というものがどんなものかは知らないけど、今聴こえている詠唱は、風の理り句。
 魔法大全集第1節1-4風刄エアーカッターで間違いない。
 魔法大全集をマスターした私に分からない魔法はない。事前に魔法が分かれば、対処する時間を稼ぐことができる。

「少し勿体無いが、斬り刻まれろ!」

 私の予想通り、無数の風の刄が私に向かって襲い掛かる。
 この程度の魔法に時間を掛けすぎ。

 はぁぁ~
 欠伸がでる攻撃ね。
 私は、全ての刄を躱すだけではなく、逆にそれを利用して、相手に風の刄を返した。余程油断していたのだろう。私の返した刄が奴の右腕を削ぎ落とした。

「グハッ⋯馬鹿なっ⋯魔法は封じたはずだ。一体何をした!」

 魔法の特性、動きを寸分たがわず理解し、その方向性を変えただけなんだけど、そんなに驚くことなのだろうか?
 奴は、懲りずに次の魔法の詠唱を始めている。

 えっと、お次は⋯⋯魔法大全集第3節5-2紅蓮蒼波ファイアウェイブかな。
 火属性で、やや中級よりの魔法だった。
 それにしても、もっと強い魔法を撃てば良いものを、まだ余裕をかましているのだろうか。

「ククッ、この魔法は私が使える最大火力の魔法だ! 逃げることは不可能! 喰らって爆ぜろ!」

 え、これで最大?
 高さ3メートルの炎の波が一直線で襲ってくる。魔法が使えない今の私ではこの波を飛び越えることは出来ない。だけどこの波には大きな弱点がある。
 私は魔法の特訓の過程でぶっ倒れるほどこの魔法も繰り返し使っていたので知っている。波の中央にあたる部分と地面との境界線に人が屈めるくらいの炎に干渉しないスペースがあることを。
 こういう欠陥がある部分をデフと呼んでいた。
 デフは魔法を行使する側からすると弱点にもなりうる。ただ魔法を行使するだけではなく弱点も知り得てこそ本当にその魔法を会得したことになる。
 うん、全て先生の受売りだけどね。
 私は走り出す。
 炎の波が近付くと、さっと身を屈めて地面と一体化しチャンスを伺う。この魔法のもう一つの弱点は、視界が悪くなる。
 発動後は、術者は相手が見えない。それにその場所でこの魔法はないよね。
 草木が生い茂っていて炎によって焼かれ、過ぎ去った後は煙が立ち込めている。
 炎の波が通り過ぎてもこれじゃ、視界が悪すぎ。どうぞ死角から狙って下さいと言わんばかりに。
 一瞬、これも作戦か? とも思ったけど今までの仕草、言動から見ていてコイツがそんなに賢くないことは一目瞭然だった。
 私は、屈んで炎の波をやり過ごし煙に紛れて相手の居た場所目掛けて走り出す。
 相手に見えない=私にも見えないので、気配を頼りに突き進む。
 相手が多少なりとも警戒していたら、賢かったら、私の突進は空振りに終わったかもしれない。
 目的地へと近付くと私の視界にキザ魔族の姿が映った。
 貴方が馬鹿で助かったわ。
 グサリと短刀がキザ魔族に突き刺さる。

 身体? 違う。
 手足? 違う。

 人間と違い魔族はしぶとい。心の臓も二つあるしね。一突きで仕留める場合は、身体ではなく頭部を狙うのが効果的。
 ここテストに出るかもよ? いや、出ないけど。
 私の短刀が見事にキザ魔族の頭部に命中した。そのまま力無く地面へと倒れ込む。キザ魔族が息絶えたと同時に私の左手首のマークが消えた。
 やはり、何らかの技だったのだろう。
 魔法かな?
 いや、違う。少なくともそんな魔法私は知らない。
 魔族特有の魔法なら分からないけど。
 相手の魔法を封じる魔法は確かにある。
 けど、相応の準備がいるし、こんなマークは付かない。

 痕跡を処理して私はこの場を去った。
 駄猫のキズも癒してあげないといけないしね。
 そういえば駄猫。今回まったく役に立たなかったね。あの場で飛び出さずに魔法で対処していれば効果があったかもしれないけど。
 ま、私を助けようとしてくれたことは認めるけど、眷族が主人を守るのはむしろ当たり前なんだけど、今回はお咎めなしにしてあげる。

 私って優しいよね。
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