最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女08 過去の出会い【前編】

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 私と聖女様が初めて出逢った頃の話。
 それは40年ほど前の話。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「早く来ないと置いてくよー」

 今日も私と眷族のにゃもさんは、何処か知らない土地を絶賛進行中!
 それにしても、この辺りは魔物の数が少ない。誰かが倒してるのかな?
 それとも数を抑える何かがあるのかな?

「ご主人様、そろそろ日が暮れるにゃ」
「そだね、でも近くに街はまだ見えないよ」
「空からなら見えるかもにゃ」
「だーめ! 今は歩きたい気分なの!」

 私はにゃもさんの提案を一蹴して、勘を頼りにひたすら進んでいく。

 気が付けば辺りは暗くなってしまった。私の勘も大したことないみたい。

「もうだめにゃ、一歩も歩けないにゃ⋯」

 草むらへとバタンキューするにゃもさん。丸1日歩いたくらいで弱音をあげるとは、まだまだだね!

「今日はこの辺りで野宿でもしよっか」
「野宿は嫌いにゃ! ふかふかのベッドで横になりたいにゃ~!」
「そんな贅沢言わないの。はみ出し者の私たちが生きていられるだけまだましだよ」
「にゃ! ご主人様、話が重いにゃ」
「静かに!」

 私は何かの気配を感じた気がした。

「⋯魔物かにゃ? にゃもは何も感じないにゃ」
「違う。複数の人間ともう1人は⋯たぶん人間だけど、何か少し違う」

 私は一目散に駆け出す。言い知れぬ不安を感じたから。誰かが助けを求めてる?
 でも声が聞こえた訳じゃない。なんだろう、こんな感じ初めて。

 程なくして、洞窟を見つけた。
 すぐに魔法で内部をスキャンしてみる。

 ⋯そんなに深くないかな。

「中にいるのかにゃ?」
「うん、7人いるね。その中の1人が襲われてるみたい。恐らく野盗だと思う。6人居るけど、たぶん大丈夫かな?」

 私は気配と姿を消して洞窟の中へと入っていく。
 ただの縦穴だと思っていたら、野盗たちの住処となっているのか、中は照明設備が完備してあり、生活必需品と思われるものが散乱している。
 住む分には困らないだけの設備があり、食料が備蓄してある横穴まであった。
 耳を澄ませば、奥の方から声が聞こえて来る。

「お頭、早くやっちゃいましょうよ!」
「まさか聖女を犯れるなんて最高だなっ」
「ほら、身ぐるみ剥いでやれよ」
「⋯いやっ、やめてっ⋯」

その声を聞いた途端、私の脳裏に最悪の状況が思い描かれた。

「ご主人様、急に止まってどうしたにゃ?」

 私の顔色が変わったのをにゃもさんが感じ取ったみたい。

「⋯悪党は殺す」
「にゃ?」

 次に私が気が付いた時は、野盗どもを皆殺しにした後だった。

 背後に怯える少女が一人。

 あれ、私⋯
 あ、そっか、聞くに耐えない会話を聞いちゃって両親が殺された時のことを思い出しちゃったんだ。そしたら急に頭の中が真っ白になっちゃって⋯。

 これ、私がやったんだよね・・。

 私の前には無残にもただの肉塊と化した野盗たちが散らばっていた。
 取り敢えず血だらけな身体を魔法の洗浄クリーンウォッシュで洗い流す。

 後ろを振り返って少女の顔を見る。
 銀髪碧眼の少女。あっ、無粋な野盗たちの返り血で綺麗な銀髪が汚れちゃってる。
 それにしても、なんて綺麗な瞳なのだろう。キラキラ輝いてまるでダイヤモンドみたい。
 うん、すっごく怯えてるね、無理もないか。
 でも、ギリギリ間に合ったみたい。酷いことはされなかったみたいだね。良かった。間に合って。でも服がボロボロだね。
 私はカバンから身を隠す用のフードコートを取り出し、少女の前にソッと置いた。その際、少女にニコッとだけ微笑み、洞窟から出るべく出口に向かって足を進めた。

「あ、あの⋯あ、ありがとう」

 弱々しかったが、ハッキリと聞こえた。
 まだ年は10台半ばくらいなのに、すっごく怖い思いしただろうに、強い子だなぁ。
 私はもう一度だけ振り返った。

「ううん、間に合って良かったね。後、怖がらせてごめんね」

 私は洞窟を後にする。
 洞窟を出てすぐに透明化で自身の姿を消した。彼女1人で行動させるのは危険だし、陰ながら護衛するつもりだった。私のあんな姿を見せてしまったから、一緒にいるのは逆に怖がらせてしまいそうだし、自重する。

「なんでご主人様がそこまでしないといけないのにゃ」
「うーん、何かね、あの子普通の人間と違うからかな?」
「にゃもは別に何も感じなかったけどにゃー」

 私には感じた。あの子は守らなければならない気がするんだよね。絶対。

 暫くすると、少女が洞窟から出てきた。
 私が渡したフードコートを羽織っている。
 辺りをキョロキョロと見回して、一目散に駆け出す。
 私は、その方向に先回りして、魔物がいれば排除して行く。なるべく物音を立てないように。

 少女の向かう先に、砦のようなものが見えた。恐らくあそこが目的地だと思う。騎士の格好をした者が数名こちらに向かってくる。
 もしかしてバレたの?
 いや、どうやら少女を捜していた捜索隊みたい。少女を見つけると大慌てで駆けていく。
 これで安心かな。少女と真横ですれ違う。

「ありがとう、魔女・・さま」

 え?

 そのまま少女は捜索隊の元へ走り去っていった。

 もしかして私のことが見えていたの?
 そんなはず⋯ないよね。
 でも、もしそうなら確かめたい。見破れるのは、同種の力を持った魔女だと思うから。

 数日が経過し、私はある場所へと足を運んでいた。それは先日助けた少女が向かった場所。
 この砦のような城塞国家は、聖地アグヌスというらしい。
 なぜ、聖地なのかは分からない。中々に大きな国なので、会えるかどうかは正直分からないけど、少女を探してみようと立ち寄ってみた。

 そうと決まればまず宿を借りる。にゃもさんが限界だったから。
 情景を眺めながら、お腹は空かないからいらないんだけど、味は分かるし折角なので特産品である虹色鳥の串焼きを頬張り、白湯を飲みながらまったりブラブラ観光を続けること数日。聞き覚えのある声に呼び止められた。

「あなたは、こないだの⋯」

 思わず振り返った先にいたのは、間違いなくあの時助けた少女だった。
 しかし、少女1人ではなく2人の護衛の騎士を連れていた。おっとヤバい。怪しまれないように返事しないと!
 えっと、取り敢えず挨拶だよね? でいいよね?

「こんにちは」

 護衛がヒソヒソと話し出す。
 今の私は、普通の町娘の格好をしているので、魔女だとはバレないと思うけど、少なくともあの少女は私のことを魔女だと認識してる。
 冷や汗が流れ落ちる。この数10秒の沈黙がやけに長く感じる。

「この人は、私の命の恩人です。私と同等の扱いをして下さい。決して無礼は許しません」
「「はっ!」」

 少女は自分よりも2倍以上も年の離れた騎士に強く命令していた。
 凄い、この子は何者なのだろう?
 もしかしたら、同じ魔女なんじゃないだろうかという淡い期待と、もし違った場合はすぐさま記憶を操作して逃げる必要がある。第3者に魔女の存在を知られれば私の命はないのだから。そうやって今まで生き延びて来たのだから。

「今、少しお時間ありますか? 良ければその、あの時の御礼をさせて下さいませんか」

(どうするにゃご主人様)

 にゃもさんからの念話だった。
 私と眷族とは、頭の中で会話をすることができる。

(大丈夫だと思う。この子はとてもいい子だと思うから)

「はい、大丈夫です」

 少女は、良かったと満面の笑みを浮かべる。
 なんて、可愛い子なんだろう。思わず同姓の私がドキッとしてしまった。
 少女に手を握られ、護衛の騎士と一緒に私たちは少女の住まいだという、大きな教会のような聖堂のような場所へと案内された。

 入り口から上を見上げる。
 塔の最上階に私よりも何倍も大きな大鐘楼が見える。

「凄い、大きいな」

 思わず素でそんなことを口ずさんでしまった。

「あははっ、ですよね、私も初めてこの大聖堂を見たときは同じような感じでした」

 少し恥ずかしくなり、下を向いた。
 だって、こんなやりとり何年もしたことがなかったから。同世代と言っても私の方がだいぶ上だけど、外見年齢は私と同じくらいだから、これは同世代って言ってもいいよね?
 同世代の友達なんて生まれてこの方誰1人としていなかった。

 はぁ⋯

 私、この子とお友達になりたいなぁ、なれたらいいなぁ。
 大聖堂内を案内されて、私は少女の自室へと招かれた。案内中は後ろをついてきた騎士も流石に少女の自室までは入ってこなかった。
 でも、外の扉の前で待機しているみたいだけど。
 自室と言ってもかなり広い。
 大部屋が1つあるだけなんだけど、20メートル級のメガスライムが丸々収まりそうだった。

「やっと2人っきりになれましたね」

 私は緊張していた。だって、すごい出会い方しちゃったし。

「まず、あの時ちゃんと御礼を言えてませんでした。危ないところを救っていただき本当にありがとうございました」

 少女は深々とお辞儀をする。

「いえ、そんな⋯私の方こそ、その、怖い思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 ゴツンっ

 私が慌てて少女と同じようにお辞儀をするものだから、2人の頭が勢いよくブツかってしまった。

「あたたって、ごめんなさい!」

 少女も痛かったのか目尻に少しだけ涙が見えた。

「いえ、大丈夫ですよ」
「すぐに治します!」

 私は極度の緊張からか、警戒するのを忘れて、杖を取り出し、再生《リプロ》を使用してしまった。

「それが、魔法ですか?」

(ご主人様、魔法はマズいにゃ!)

「あっ⋯」

 人間の前で堂々と魔法を使ってしまった。
 うぅぅ⋯。
 パニックになって、何も考えずにいると、少女に両手を掴まれた。

「温かくて優しい光。これが魔女さまの力なんですね」

 暫し沈黙が流れた。

 この場からすぐに逃げるべきだろうか?
 今の発言から目の前の少女が少なくとも私と同じ魔女ではないことが確定した。
 いつものように記憶を操作すれば今までのことはなかったことに出来る⋯でも⋯。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね、私はアン。あなたは?」

「⋯私のことが怖くないんですか?」

 私は怖い。
 この答えを聞くのがすごく怖い。今の時代魔女といえば、畏怖の対象でしかない。
 それに、初対面で事故だけどおぞましい姿を見せてしまっているから。だけど、彼女の答えは私の考えていたものとは真逆だった。
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