最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女14 教会の闇3

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  ミハエル様の陰湿な誘いを断ってから2週間が経過していた。
 てっきり、何か報復されるかとビクビクして過ごしていたのに結局何にもなかった。
 それはそれでいいんだけど、この怯えて過ごしてた分どうしてくれるのさ! ちゃんと慰謝料請求するからねっ!
 でも一つ感謝してることもある。
 ミハエル様は私を脅して屈服させる為に教会の闇について色々と話してくれた。私は忘れないようにその日の内にレイランに説明して脳内メモしてもらっていた。
 そもそも教会の闇なんて言われているのには理由がある。この王都は、人口約30万人を誇る大きな国。私がいた聖地アグヌスは人口約5万人だから凡そ6倍。初めて王都を訪れた時はその人の多さにビックリしたんだよね。
 この広い王都に教会は複数あるんだけど、聖女がいるのは中央工区にある私がいる教会だけ。
 つまり、30万人中私一人だけ! なんでもっと聖女を量産しないのさっ! って思ったけど、特別な力を持ってる聖女ってそうそう生まれて来ないみたい。
 聞くところによると、親子でも聖女の力を受け継ぐかどうかは20パーセント以下なんだって。
 私の両親は一般人だったけど、突然的に聖女の力を持った私が生まれた。稀にそんなことが起こるらしい。でも、なぜそんな貴重な存在である聖女のシオン様は教会の奴らに殺されたの? と矛盾が生じる。

 シオン様は知りすぎてしまった。知り過ぎたことを教会側の人間に勘付かれてしまった。それだけ貴重な聖女様を犠牲にしてでも守らなければならなかった教会の闇って一体何なの?

 お金だよ!

 教会運営という名目で、参拝者や治療を求める人々からお布施という名の寄付を募り、それを着服して私服を肥やしている奴がいる。
 私が毎日やってる教会内での治療は勿論お金なんて取らない。だけど、お布施名目で結局お金を取っちゃってるらしい。
 初めは私もそのことを知らなかった。だってあいつら、私の見えない所でお布施を強要してたんだもん!
 でも、みんな嫌な顔一つしていないのもまた事実。私に傷や病気を治してもらえるなら安いものだと思っているのかもしれない。
 確かに教会は無収入だからさ、人々からの寄付がないと成り立たないのは分かるよ? だけど、やり方が汚い! ああ言うのは気持ちの問題なのに、全員から徴収するわ、その金額の上限はないわ、挙げ句の果てに、聖女様の考案した聖水なんてものを勝手に販売してる始末。
 勿論私そんなもの考案してないし、シオン様も知らないって言ってた。
 その薬を飲めば1年は病気をしないらしい。
 本当にそんな効果があるのならいいけど、これが結局いい加減な代物で、高いお金を払ってその薬を買って飲んだのに病気になったって人が私に治癒を求めてきた事例が何度かある。
 でも、みんなその薬を買ったことを後悔していない。薬を飲んでなかったらきっと、もっと重たい病気にかかっていたって、一様に口を揃えてた。
 薬の効果を疑っていない。これってもう洗脳もいいとこだよ。

 私は真実を知ってからその言葉を聞くたびに申し訳なくてその人たちの目を直視することが出来なかった。
 例を挙げればキリがない。
 でも私1人が意を唱えても結局握り潰されるだけ。
 じゃあさ、教会のトップに暴露する? シオン様の見立てでは、教会トップの教皇様もグルだって話。
 じゃ、この国の治安維持してる警備隊に密告する?
 レイランの話では警備隊も全てではないにしても何人かは教会の息かかった者がいるらしい。
 じゃ、この国の王に直訴する?
 そう! その為に今私は決定的な証拠を集めてる訳。言い逃れ出来ないようにね!
 と言うような話を昨晩レイランと協議してた。
 逃れられない証拠を突き付けて全員捕まえてやるんだからね!

「アン様、少しお時間宜しいでしょうか?」

 その日の公務終了後に、自室へ帰ろうとしている私を身の回りの世話をしてくれているヤンさんに仰々しく呼び止められた。

「どうしたんですか、改まって」

 ヤンさんは、終始下を向いて俯いている。話そうかどうか迷っているといった感じだろうか。

「ミハエル様が⋯⋯昨晩お亡くなりになりました」
「えっ⋯」

 ミハエル様って、あのミハエル様のことだよね? 私を養子にしたいって言ってた⋯。

 突然の告知に私の思考が停止する。

 私が呆然としていたのだろう、ヤンさんが私を気遣ってくれる。

「大丈夫ですか、アン様」

 気持ちの整理が追いつかない。
 依然として呆然とする私を横目にヤンさんは続ける。

「ミハエル様は、昨晩何者かに暗殺されました。シオン様と同じような手口から犯人は同一人物と言われています」

 暗殺された理由は分かっていないらしいけど、私には心当たりがある。ていうかそれしか考えられない。その心当たりを思うと、想像を絶する恐怖が私を襲った。
 膝がガクガクと震えて、よろけてしまう。視界に靄が掛かったようになり、目を開けているはずなのに徐々に暗くなっていく⋯。
 その場に立っていられなくなった私は、地面に倒れ込みそうによろめいた所をヤンさんに抱き抱えられた。
 私、今きっとすごい顔してるんだろうなぁ⋯⋯。
 だって、ヤンさんが物凄く心配そうな顔して私のことを見てる。何か喋っているけど、全然耳に入ってこないや⋯⋯。

 そのまま私は意識を失った。

 次に気が付いた時には、自室のベッドで寝ていた。
 横にはヤンさんの姿が見える。
 どうやら私の看病をしてくれていたみたい。

 私はミハエル様が亡くなって、いろんなことを考えてしまい気が動転してしまった。ミハエル様が亡くなった悲しさは確かに少しはある。でもそれ以上に次に狙われるのは私かもしれないと考えてしまうと胸が苦しい。怖くてどうしようもない。

「明日の公務はお休みにしておきました。今日明日とゆっくり休んで下さい」

 優しい言葉を掛けてくれるヤンさん。ヤンさんはいつでも私に対して優しい。

 私は怖い。
 レイランがいるとはいえ、実質私1人で教会に牙を向けようとしているこの現状に。
 仲間が欲しいよ。秘密を共有してくれる仲間が。贅沢言わないから、せめて情報共有出来て、私を慰めてくれるだけでもいいよ。

 私は飢えているのかもしれない。
 真の友達、仲間というものに。

 ヤンさんは、どちら側の人間なのだろう。私の味方? それともやっぱり教会側?
 出来ることなら全部を打ち明けて、私の仲間になって欲しい。
 でも、レイランが聖女の付人は監視の役も担ってるから教会側の手先だって言ってた。
 でも、私はヤンさんを信じたい。
 だって、今も不安になってる私の面倒を見てくれてるんだもん。大丈夫、きっと秘密を打ち明けたら、私の味方になってくれるよ!
 でも、打ち明ける前に一応レイランに聞いてからの方がいいかな。一応ね。

 そんな事を考えていると、少しだけ気持ちが楽になってきた。
 少なくともまだ私が生かされてるってことは、今は殺す気がないってことだと思うから。
 前向きに考えるんだ私!
 でもやっぱり、ミハエル様が殺されてしまったのは、私に教会の秘密をベラベラと喋ってしまったからだよね? だとしたら、私の動向を絶対気にしてるはず。もしかしたら、四六時中何処かから見張られているかもしれない。少なくとも今後はそう思って行動した方が良いかもしれない。用心に越したことはないのだから。

「ご心配をおかけしました⋯」

 ヤンさんが、私の頭を撫でてくれた。
 温かい手、優しい温もりを感じた。
 ああ、やっぱりヤンさんは私の味方なんだ。私は1人じゃない。折れかけていた私の心は、ヤンさんがいればきっと大丈夫。 

 私、まだ頑張れるよシオン様!

 しかし、次に発せられたヤンさんの言葉に私は絶望のドン底に叩き落とされた。

「アン様、一つだけ忠告しておきます」

 あ、きっと無理をするなって事かな?

「ミハエル様から何をお聞きになったかは知りませんが、あまり深く考えないことです。それと他言は無用ですよ」

 ヤンさんのこんな鋭い眼孔初めて見た。

「えっ、それってどう言う⋯」

 ヤンさんはいつものように優しくニッコリと微笑むと、それ以降口を閉ざしてしまった。
 もしかしてヤンさんは、私とミハエル様との間に何かあったことを知っているの?
 ってことは、ヤンさんは結局教会側だったって事?

 信じていたのに⋯私、信じていたのに。
 もう誰も信用出来ないよ。誰も信用したくない。

 私以外は全員教会の手先なんじゃないだろうか。
 もう何も考えたくないや。

 あはは、私って弱いな⋯⋯ほんとに。

 その後私は、数日に渡って自室に篭ってベッドの上から出なかった。
 というより、体調を崩して出られなかった。
 熱が39度まで上がり、半ば意識は朦朧としていた。

 自分に治癒を施せばいい?
 無理なんだよね。
 治癒は他人には使えても自分には使えない。
 つまり、私は病気や怪我を負っても自分で治すことが出来ない。

 数日かけて動けるようにった私は、まずレイランに会いに行った。

「それは大変でしたね、アン様⋯」
「私、もう嫌だよ、、誰も信用出来ないし、常に怯えて生活するのはもう嫌だよ」

 自分でも分かってる。子供みたいに癇癪起こしてることは。
 でも、聖女の勉強をする為に一時的に訪れただけの場所で、なんで身の危険を感じながらオドオドしながら生活しないといけないのさ。
 このまま教会の悪巧みを黙って見過ごせば、残り3年我慢すれば、私はアグヌスに帰れる、そう思ってた。
 だけど、シオン様が亡くなってそれは一変してしまった。
 次の聖女候補が見つかるまで私は勉強をしながら王都に居続けなければならなくなった。
 度重なる追い討ちに、もう何もかもが嫌になった。
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