最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女26 国王の苦難1

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 アルフレッド3世視点
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 儂は80年続く、この王都ミュゼルバの国王をしておる。

 王都と言うこともあってか、過去他国からの侵略や戦争などと言った事例も発生せず、まさに平和の象徴などと他国からは呼ばれていた。

 しかし、実態はそうではない。
 表立ってそうならぬよう裏で手を回し、何度か訪れていた戦争の危機を回避していたに過ぎない。
 ある時は多額のお金を支払い、ある時は国地以外の辺境地の主権を譲渡したりなど。
 常に争いを回避する為に色々な手段を講じて来た。
 平和主義と言えば聞こえはいいが、腰抜け野郎と呼ぶ者もおる。
 儂は、自らも後者だと思うておる。
 しかし、後悔を思った事は一度もない。
 争いで血を流されるのが嫌いなのだ。争わぬ道があるならば、何だってするつもりだった。

「国王陛下。お呼びで御座いましょうか?」

 玉座の間に呼び寄せたのは、主に教会や主要施設の運営を担当している側近の一人、ブラウ卿じゃ。
 実は昨日、匿名である情報が寄せられていた。

「うむ。其方に一つ尋ねたいのじゃがな。現在、聖地アグヌスより聖女が勉学の為に王都を訪れていると聞いたのじゃがそれは誠の事か?」
「左様にございます。彼女の名前はサーシャ。まだ少女の身でありながら、実に立派なお方で御座います。なんでも彼女の母君がこの国の一代前の聖女であったようで、若かりし頃の母君を知りたいというのも、来られた目的と聞いております」
「ならば、是非儂も国王として挨拶せねばならんな」
「あ、いえ、それは⋯⋯」

 ブラウ卿は、あからさまに嫌そうな反応をしていた。

「なんじゃ、何か問題でもあるのか?」
「い、いえ、何の問題も御座いません。当人にはその旨お伝えしておきます」

 やはり、あの情報は本当なのじゃろうか⋯
 確かめねばならぬ。

 その日の夕刻、件の聖女と一対一で謁見する事となった。

「良くぞ参った。儂は、王都ミュゼルバの第3代国王、アルフレッド3世じゃ」
「お初にお目に掛かります。私は、アグヌスで聖女をしておりますサーシャと申します。国王様におかれましては、平和の象徴と聞き及んでおります。本当に豊かで平和な国に感銘を受ける次第に御座います」

 目の前の少女は、スカートの端を摘み、可愛らしく軽くお辞儀をする。
 年相応のあどけなさを感じつつも、淑女としての心構えは流石と言えるじゃろうか。

 現在この場には、儂と聖女だけしかおらん。
 まぁ、そうなるように仕向けたのは他ならぬ儂なのじゃがな。
 一対一での謁見でなければならなかったのじゃ。
 でなければ、真意を問う事は出来なかったじゃろう。
 それに、先程から感じる第3者の視線。
 しかし、不思議と嫌な感じはしない。
 目の前の少女を優しく見守るようなそんな感じじゃろうか。
 周りを見渡すが、確かにこの謁見の間には2人以外には誰もおらん。

「まずは、命を狙われるような事になってしまい、謝罪させて頂きたい。本当に申し訳なかった」
「いえ、そんな、頭を上げて下さい。結果的に私は無事ですし、王国騎士団所属の騎士様に救って頂きました。お礼を言うのは寧ろこちらの方に御座います」

 その後、たわいもない世間話をした後、本題へと入る。

「今回其方を王宮へと呼んだのは、真意を聞く為じゃ」
「真意、と申しますと?」

 今朝方儂の耳に入った情報を聖女へと説明する。

 教会が長年に渡り悪事を働き、国民へ多大な迷惑を掛けている。聖女を道具として教会が意のままに操っている。

 この2点。
 情報を持って来た衛兵からの話では、複数の国民から聞いたと言う事じゃ。

「はい、真実に御座います」

 即答じゃった。
 聖女は一点の曇りもない真っ直ぐな目をしている。

 その後、聖女がもたらしてくれた情報は、俄かには信じ難い教会の腐敗した実情だった。

 何人もの聖女が犠牲になり、母君もその1人と言う。
 俄かには信じ難い⋯じゃが、嘘をついているように見えないのもまた事実じゃ。
 じゃが、聖女と言えど他国の者の証言一つで国王である儂が行動を起こす訳にはいかぬ。

「事を裏付ける確たる証拠はあるか?」
「御座います。ですが、ここにはありません。ある場所に隠してあります。それと、今回の診療所を襲った連中は全員近くの馬小屋に拘束しております」

 賊を拘束とな。
 聖女が一人でやった訳ではあるまいし、自国から連れて来たと言う護衛たちが優秀なのか?

「ほぉ、まさか其方1人がやったのではあるまい?」
「はい。親切な方にご助力頂きました」

 身内ではないのか。親切な方のう。気にはなるが今は置いておこう。儂が直接確認に行く訳には行くまい。

「誰か確認に向かわせよう」

 聖女は困惑しているのか何かを言いたそうにしていた。

「心配せずとも良い。儂の最も信頼のおける人物じゃ。ザークスはおるか!」

  暫くの後、謁見の間に1人の人物がやって来る。
 全身黒一色のタキシードを纏い、右目にモノクロをつけ、銀色に輝く髭が特徴的だろうか。

「彼は私の側近で名をザークスと言う。ザークスよ、聖女と一緒に診療所を襲った賊を捉えて参れ。城の入り口に待機させている衛兵を動かして構わん」
「畏まりました。すぐに行って参ります」

 ザークスは、聖女の方に身体を向けると、右手を曲げて仰々しいお辞儀をする。

「では参りましょうか」

 聖女とザークスが部屋を後にする。
 ザークスを見た途端、聖女が少し驚いた顔をしたように見えたが、気のせいじゃろうか?

 これでこの部屋には儂1人。
 いや、依然として誰かの視線を感じる。

「そろそろ出てきてはくれんかの?」

 隠れていると言う事は何か理由があるという事。
 流石に姿を見せてはくれぬか。と思っていたら、

「ご無礼をお許し下さい」

 確かに何もいなかった場所から女性が現れた。
 妙齢の女性で、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
 いかんいかん、この歳で妙な雑念は捨てねばな。

 地面に片膝をつけ、頭を下げていた。

「このような姿勢で申し訳ございません。ご機嫌麗しゅう、お初にお目に掛かります国王様ぁ。私は、とあるご主人様に支えております。ミーアと申します。この度のご無礼、この場で即刻首を刎ねられても文句は御座いません」

 中々に肝が座っておる。少し無礼が過ぎると注意くらいはしておこうと思っておったが、先手を取られては許さない訳には行かぬようじゃな。

「面をあげよ。別にどうこうしようとは思わぬ。聖女を守るが故の事なのであろう? ならばそれを非と咎める程、器は小さくないと思うておる」
「寛大な御心遣いありがとうございます」
「2、3質問したいのだが、答えたくない事は答えなくて良い」
「ご主人様からは、自身の正体以外は嘘偽りなく問われた事には応じるように言われております」

 ご主人様とな? 聖女本人が主人ではないと言う事か。

「では問おう。儂の監視役をしていたと言う事で間違いはないか?」
「仰る通りで御座います。ご主人様の命で、国王様の人となりを調査しておりました」

 やはりそうじゃったか、より強く視線を感じたのは聖女と会ってからじゃが、数日前より何らかの視線は感じていたのじゃ。
 儂の調査と言うのは恐らく、聖女を守る上で儂自身が教会側の共犯者であるかどうかを調べていたと言う事じゃろう。儂に全てを打ち明けた所で、全てを握り潰されてしまえば意味が無くなってしまうからの。

「ならば、そちらの言う所の儂が信用に足る人物だと証明されたと言うことで良いのか?」
「仰る通りで御座います。国王様でしたら、何10年も続くこの教会の闇を解決して頂けるとご主人様が判断致しました」
「ではもう一つ。今朝方儂の耳に入った情報もお主たちが画策した事か?」

 いくらなんでもタイミング良過ぎるからな。そう考えるのが妥当であろう。

「流石は国王様に御座います。全てお見通しで御座いますね。国王様のお耳に入るように仕向けたのは確かにそうですが、すぐにお会い出来るかどうかは正直賭けで御座いました」
「儂からしてみればそれすらも掌の上で操られているような気分じゃがな」

 さて、一番聞きたいのは、さっきから話に出ている目の前のこの人物を動かしているご主人様と呼ばれる人物の正体なのじゃが⋯正体に関わる事に関しては応えられないと最初に釘を刺されておるしな。

「分かった。ではもう下がって良いぞ」
「本当に処罰は必要ありませんので?」
「うむ。このような見目麗しい女性と会話する機会もないのでな。処罰どころかウェルカムじゃよ」
「⋯さっ流石は国王様ですね、冗談がお上手で」

 再び、深々とお辞儀をして其の者は、謁見の間を後にした。
 扉からではなく、窓から去って行ったのは少々理解に苦しむが、先程までに感じていた誰かの視線も今では全く感じなくなった。

 さて、どうしたものかの⋯。
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