最後の魔女

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
44 / 110

最後の魔女43 開戦の回避

しおりを挟む
 無謀にも単身魔の巣窟となっている場所へ赴く人物の後を追った。

「ニーナ」

 いきなり背後から声をかけたせいか、ビクリと肩を震わせ恐る恐る後ろを振り向くニーナ。

「リアさん!」

 間に合って良かった。
 私は馬車から降りて、駆け寄ってくるニーナにデコピンをお見舞いした。
 何故出会い頭にそんな仕打ちをされたのか分からず涙目になるニーナに物申す。

「1人で何してるの。死にたいの?」

 私の小言は数分に渡り続いた。
 喋るのが苦手な私にここまでさせるとは、恐ろしい子。
 あれ、リグ何だか私の行動に引いてない?

「ごめんなさい⋯。命を粗末にしているつもりはないんです。ですけど、これしか思いつかなくて⋯」

 私はニーナの顔の前で指を4本立てる。

「4回」
「4回?」
「昨日ニーナが死にかけた数」
「え、それはどういう⋯」
「不思議に思わなかった?」

 最初、驚いた表情をしたニーナだったけど、思い当たる節があるようで、

「盗賊に襲われた時、何故だか盗賊が消えてしまいました。あ、道中モンスターに狙われなかったり、いきなり寒くなくなったり、刺客が突然血を吐いて倒れたり、、もしかしてそれって⋯」
「シュリ、姿を見せていい」

 私の呼び掛けで姿を現し、私の肩にちょこんと座るシュリ。

「あっ! あの時の妖精さん!」

 ん? 何で知ってるの?
 私はシュリを見る。
 姿は見せないように陰ながら守るように指示していたんだけどな。

「ごめーん、一瞬だけ姿を見られちゃったみたい!」

 てへっと可愛らしいポーズを取るシュリ。
 まぁ、別にいいけど。

 シュリは私からニーナの肩に移動し、何やら2人とも仲良く話しをしていた。

「お姉様、これからどうするの?」

 うーん。ニーナの仇を取りたいと言うのに協力してあげてもいいのだけど、それだと数百体の魔族と戦うことになるのよね。正直面倒。

 聖女であるサーシャの話では、数日待てば、各地から派遣された兵たちが魔族を討伐するためにベラキール王国近くのガリュウ要塞に集まるそうだけど。
 私が単身で動くより、そっちを待った方がいい。

 取り敢えず、ニーナに事の真相を話しておく。
 口下手な私ではなく、駄猫のにゃもがね。

 真相を聞かされたニーナは、落胆しつつも、両親たちが間違ったことをしていなかった事をして国民から非難された訳ではないと、安堵していた。同時に今まで以上に怒りを覚えたみたいだけど。
 まぁ、無実の罪で自国が滅ぼされたら、怒るのは当然か。

「後は勇者とかその辺の人に任せる」
「リアさん!」

 真剣な表情で私を見るニーナ。

「つまりは人族と魔族との戦争が始まるんですよね?」
「ん、始まる」
「回避する方法はないのでしょうか?」

 え、回避? どうして?

 内心では驚きつつも決して顔には出さずに無表情を崩さなかった私に構わずニーナは続けた。

「戦争になれば、たくさんの人が死にます」

 そうだね。それが戦争だしね。当たり前だけど、何がいけないのだろうか?
 互いに相容れない存在同士、戦うことでしか解決の道はないと言うのに。今までだってずっとそうだった。
 それを否定するの?

「何が言いたいの?」

 私にはニーナの言わんとすることの意味が分からなかった。
 戦争を回避? 仮に今回避したとしても、先延ばしにするだけ。遅かれ早かれまた再発は必至。意味がない。

「ベラキール王国で、多くの命を失いました。王族、国民も含めて皆大切な命です。一つとして失っていいはずはないんです。それを奪った根本原因を作った魔族は正直憎いです。仇を取りたいと思いました。ですけど、憎しみの連鎖と言うものは何処かで断ち切らないと、どちらかが全滅するまで続いてしまいます。それと同時に新たな憎しみの火種を生んでしまいます。戦争が始まれば双方たくさんの命が失われる事でしょう。私にこんな事を言う資格はないのでしょうけど、この戦争を回避出来る手段があるのでしたら、回避したい。先延ばしにするだけかもしれないですけど、それによって救われる命も少なからずあるはずですから」
「単なる偽善ね」

 リグが冷たくあしらう。

「魔族と人族は所詮敵同士。戦う事でしか互いの存在を証明出来ないの。回避? 笑わせないでよね。仮にこの場で考える事があるとすれば、どうやって最小限の犠牲で魔族を全滅させられるかよ」

 ちょっと強引な考えだとは思うけど概ね私もリグと同意。

「それでも私は⋯」

 ニーナが下を向いてしまった。
 目尻には涙を浮かべている。

 戦争の回避か。
 うーん。そんな事出来るのだろうか。

 人間側に犠牲を出さないだけなら、私が一人でカタをつければいいのだけど。
 今回は数が多いし、流石にちょっとそれは厳しいかもしれない。

 倒すではなく、撤退させるならばそんなに難しい事ではないかもしれない。

 例えばほら、進軍出来ないように周りを奈落の底にするとか、堅牢な壁を作るとか?
 はたまた、魔王軍の指揮官を暗殺するとか?

 うん、どれもパッとしないね。

 変な思考を巡らせていると、何かが近付く気配を感じた。

「お姉様」

 リグも気が付いたのだろう。
 この感じ、魔族で間違いないね。

「ニーナ、馬車の中に入ってて」

 この馬車の中ならば、防御結界を貼っているので、並大抵の事が起きなければ大丈夫なはず。

 空を見上げると、1人の魔族がこちらを観察していた。
 偵察かな?
 ま、根城から近いからね。偵察がいても不思議ではない。あちらからしたら、マッチョな御者に少女が2人。
 とても脅威になるとは思っていないだろう。
 でも、このまま報告されるのも避けたいかな。
 などと思っていると、魔法陣の構築を視認した。

 1m級の火の玉が、数発同時に繰り出された。

 リグが馬車の屋根に登り、悪魔の腕を顕現させ、迫り来る火の玉を文字通り搔き消した。

 あの腕の前では魔法は無効化されてしまうようだ。
 あれ、リグの悪魔の腕の効力は、確か物凄いスピードで殴るだけだと思ってたけど。
 後で聞いてみよう。
 自らの放った魔法が掻き消されて偵察魔族が動揺している。

 諦めて帰るかと思いきや、今度は無数の燃え盛る槍を数えるのが億劫な程に周りに出現させた。

 右手をこちらに向け振り下ろすと、無数の槍がまさしく雨のように降り注がれた。

 チラリとリグに目をやる。

「問題ないわ。お姉様には埃一つつけさせないんだから」

 あれは、物理と魔法の合わせ技。
 異空間から取り出した槍を浮遊させ火をつけて殺傷力の上乗せと拡散力を増加させている。リグの悪魔の腕だけでは無効化出来ない。

 どうするのかと思えば、リグは悪魔の腕を馬車毎私たちを包めるサイズまで肥大化させ、そのまま呑み込む。

 悪魔の腕に槍が刺さる。
 だが、燃えている部分は魔法の為、悪魔の腕に触れたものから消化されていく。

 全ての槍が飛来し終わったのを確認したリグは、突き刺さったままの悪魔の腕を槍毎消し去った。

「こっちの番よ」

 腕を消したら次に悪魔の黒い羽を顕現させたかと思えばリグの姿はそこにはなかった。
 一瞬の内に偵察魔族の背後まで移動していたリグは、左手を振り下ろした。

 魔族は何の抵抗も出来ず絶命した。

 戻って来たリグがご褒美を欲しそうにしていたので、その頭を優しく撫で、労った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...