最後の魔女

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
48 / 110

最後の魔女47 ダーブル領主の苦悩

しおりを挟む
今回の魔王軍の侵攻は世界全土へと周知された。
 また同時に編成された連合討伐軍により撃退されたとも広まり、世界各国にそれほど大きな混乱は訪れることはなかった。
 噂とは尾ひれがつくもので、公には認知されていない最強の勇者の出現だとか。復活した魔王を見事に撃退しただとか、それは様々だった。

「全く。全部お姉様のおかげだってのに。良いように捻じ曲げやがって!」

 朝っぱらからリグがキーキーと騒いでいた。
 今日も平和な朝である。

 ニーナと別れてから既に1ヶ月が経過していた。

 私は一種の無気力感に苛まれ、この1ヶ月の間、殆どがベットの上でゴロゴロと横になって過ごした。
 だけど、ただ横になっていた訳ではないと断固として主張する。
 仮にも魔女だしね、魔法の研鑽だけは毎日欠かさず行なっている。
 最近は、魔法大全集先生に載っていないオリジナルの魔法の開発にハマっている。
 魔法と魔法を組み合わせた複合魔法。

 魔法は何者にも縛られない無数の可能性があるのだと思い知らされた。
 永く生きて来たけどまだまだ覚えることはいっぱいありそう。

「少し出てくる」

 駄猫とじゃれあっているリグを残し、転移で向かった先は聖地アグヌスにいる聖女をしているサーシャの元だった。

「貴女はいつも唐突に現れるね」

 若干呆れ顔のネグリジェを着ている美少女。
 寝起き姿のサーシャも凄く可愛い。
 まだ朝方というのもあってか、眠そうにしているのが伺える。
 聖女と言う職業柄、普段は敬語で話すサーシャだけど、私といる時は基本くだけ口調になっている。
 私としてもその方が話しやすいからいいんだけどね。親近感も湧くし。

「久しぶり」
「久しぶりリア。また会えて嬉しいよ」

 私はサーシャに今回の魔族騒動の真相を打ち明けた。
 サーシャにだけは、真実を知っていて欲しいから。

「何となく、リアがやったんだろうなって思ってたよ」

 流石は私のサーシャ。どうやらバレバレだったらしい。

「後ね、魔王はまだ復活していない」

 そう、現在私は魔界に眷属もといスパイを送り込んでいる。幸いにもまだバレずに潜入し続けている。
 魔族たちの動向を逸早く知る為に。

 駄猫?

 違うよ。駄猫は魔界に飛ばしてから速攻魔族に蹴散らされてすぐに帰って来たから。

 定期的に調査報告を受けているけど、やはり魔王はまだ復活していない。
 復活する為にはあるものが必要らしく、魔族は躍起になってそれを探している。
 魔界やそれこそ地界すらも。

「そもそもの疑問なんだけど、なんで魔王が復活してないのに魔族たちは攻めてきたのかな?」
「覇権争いみたい」
「え?」

 何それ? ってなるよね。
 私も報告を受けた時はそう思ったから。
 今回の進軍の首謀者は、あの魔界で出会った魔族の幹部。
 簡単に言えば、自分が使えるということをアピールしたかったらしい。
 魔族の階級制度は、当然の事ながら魔王が最上に君臨し、その下に四人の元老院が配置され、次点に魔王軍最高司令官がおり、更にその下に魔王軍隊長の幹部たちがいる。
 魔王軍は全部で第十隊まである。数字が下がるに連れ魔王軍の実力も上がっていく。

 魔族階級をのし上がるには自らの強さも勿論のことながら、その有能度を誇示する必要がある。
 故に第九隊隊長だった首謀者の幹部は上の位に上がる為独断で今回の進軍を推し進めた。

 結果的にその目論見は私たちに阻止されてしまい、また貴重な転移門の損失の責任を取らされてしまい、降格処分となったそうだ。

 サーシャは私の説明をメモを取りながら聞いていた。
 たぶん、いや、絶対この情報は人族には初出情報だと思う。聞き流していい内容じゃないと判断したのだろう。でも私的には世間話のつもりだったりする。

 コンコンと部屋がノックされた。

「サーシャ様、そろそろ起きて頂けなければ朝の治療に遅刻してしまいますよ」
「ごめんなさいキャシー。すぐに支度します」

 キャシーさんもメイド見習いでお世話になった以来なので久し振りだなぁ。

「ごめんねリア、今日がお休みならもっともっとお喋りしていられるのに⋯」

 サーシャは聖女として教会で大切なお仕事をしなければならない。だから邪魔をしてはいけない。サーシャの治療待ってる人がたくさんいるのだから。

「ううん、私の方こそ急に押し掛けてごめん。また来るね」

 名残惜しいけど、サーシャと別れ、リグたちの待つ宿屋へと戻った。

 ちょうどこの部屋を訪れていた珍しい訪問者と居合わせた。

「あ、お姉様お帰りなさい。お客さん? が、来てますよ」

 小さな体躯に緑を基調としたドレスを羽織り、頭には忙しなく動く触覚が見ていて飽きなさそう。
 裏返しのコーヒーカップにちょこんと座っていた。

 私を見るや否や、パァっと表情を晴れやかにし、私の胸元まで飛んで来た。
 間違っても潰さないように優しく受け止める。

「精霊さん、どうしたの?」

 この子は、ここダーブルを守護している精霊さん。
 普通の人には見えないけど、私には見える。どうやらリグにも見えるみたい。
 清い心の持ち主が見えるのかな? なんてね。

 精霊さんは、一方的に私にお願いを告げて、足早に去っていった。

「受けるの?」

 実は悩み中だったりする。
 だって、お願いというのが⋯

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 同時刻、ダーブル領主の家

 そこにはその町の有力貴族数人と領主による会合が行われていた。

「一ヶ月経ちましたが、難民受け入れの為の宿舎工事が未だに進んでいないようですが?」
「ですからそれは前々から申し上げているように建設予定地となっている一帯は、この街唯一の御神木が建っているのです。御神木は開拓以前から生えていた歴史ある…」
「領主殿! 元々この地は山々に囲まれていて、それらを開拓する程の費用や時間はありません。御神木一帯の土地以外に優良な土地がないのもまた事実。御神木は、ただ伐り倒すのではなく丁重に供養すれば、何の問題もないでしょう。大きさから言って移し換えるのは困難。今は遠い過去の言伝えよりも目先の問題に対処すべきです」
「そうですな。日に日にベラキール王国からの難民が増える一方。今では街の宿は全て満室となり、外から来る方達からの苦情が後を絶たないのです」
「苦情が来ているのは何も外からだけではないですぞ。旅行者がお金を落とすのを生業としてきた行商の者たちは、全くと言っていいほど収入が入って来ず、既に一割の者はここダーブルを離れたと聞きます。難民者は最低限のお金しか落としていきませんからね。これではこの街自体の存続すら危ぶまれる状況ですぞ」
「そうだ! 何よりも領主殿自身が頭を抱えておられたではないですか」

 皆からの非難を浴び、元気なく肩を落とす領主。

「そうなのだが…その…何といいますか…夜な夜な夢の中に出て来るんですよ…」

 領主は目の下にクマを作っており、満足に寝ていないのが伺えた。
 領主が語るには、何でも御神木を伐り倒せば、この土地に災いが起こるだろうと言う、他の者からすれば俄かには信じられないといった内容だった。

「まさかただの夢に怯えて中止したいと?御神木を伐り倒して何が起こると言うのですか…今のご時世、そのような不可解な出来事が起こるとは到底思えませんがね」
「どちらにしても、すぐに建設を開始せねば、我々が強制的に兵を動かす事になりますぞ」

 領主は更に頭を抱えて悩んでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

三年目の離婚から始まる二度目の人生

あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。 三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。 理由はただ一つ。 “飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。 女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。 店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。 だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。 (あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……) そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。 これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。 今度こそ、自分の人生を選び取るために。 ーーー 不定期更新になります。 全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇

処理中です...