最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女47 ダーブル領主の苦悩

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今回の魔王軍の侵攻は世界全土へと周知された。
 また同時に編成された連合討伐軍により撃退されたとも広まり、世界各国にそれほど大きな混乱は訪れることはなかった。
 噂とは尾ひれがつくもので、公には認知されていない最強の勇者の出現だとか。復活した魔王を見事に撃退しただとか、それは様々だった。

「全く。全部お姉様のおかげだってのに。良いように捻じ曲げやがって!」

 朝っぱらからリグがキーキーと騒いでいた。
 今日も平和な朝である。

 ニーナと別れてから既に1ヶ月が経過していた。

 私は一種の無気力感に苛まれ、この1ヶ月の間、殆どがベットの上でゴロゴロと横になって過ごした。
 だけど、ただ横になっていた訳ではないと断固として主張する。
 仮にも魔女だしね、魔法の研鑽だけは毎日欠かさず行なっている。
 最近は、魔法大全集先生に載っていないオリジナルの魔法の開発にハマっている。
 魔法と魔法を組み合わせた複合魔法。

 魔法は何者にも縛られない無数の可能性があるのだと思い知らされた。
 永く生きて来たけどまだまだ覚えることはいっぱいありそう。

「少し出てくる」

 駄猫とじゃれあっているリグを残し、転移で向かった先は聖地アグヌスにいる聖女をしているサーシャの元だった。

「貴女はいつも唐突に現れるね」

 若干呆れ顔のネグリジェを着ている美少女。
 寝起き姿のサーシャも凄く可愛い。
 まだ朝方というのもあってか、眠そうにしているのが伺える。
 聖女と言う職業柄、普段は敬語で話すサーシャだけど、私といる時は基本くだけ口調になっている。
 私としてもその方が話しやすいからいいんだけどね。親近感も湧くし。

「久しぶり」
「久しぶりリア。また会えて嬉しいよ」

 私はサーシャに今回の魔族騒動の真相を打ち明けた。
 サーシャにだけは、真実を知っていて欲しいから。

「何となく、リアがやったんだろうなって思ってたよ」

 流石は私のサーシャ。どうやらバレバレだったらしい。

「後ね、魔王はまだ復活していない」

 そう、現在私は魔界に眷属もといスパイを送り込んでいる。幸いにもまだバレずに潜入し続けている。
 魔族たちの動向を逸早く知る為に。

 駄猫?

 違うよ。駄猫は魔界に飛ばしてから速攻魔族に蹴散らされてすぐに帰って来たから。

 定期的に調査報告を受けているけど、やはり魔王はまだ復活していない。
 復活する為にはあるものが必要らしく、魔族は躍起になってそれを探している。
 魔界やそれこそ地界すらも。

「そもそもの疑問なんだけど、なんで魔王が復活してないのに魔族たちは攻めてきたのかな?」
「覇権争いみたい」
「え?」

 何それ? ってなるよね。
 私も報告を受けた時はそう思ったから。
 今回の進軍の首謀者は、あの魔界で出会った魔族の幹部。
 簡単に言えば、自分が使えるということをアピールしたかったらしい。
 魔族の階級制度は、当然の事ながら魔王が最上に君臨し、その下に四人の元老院が配置され、次点に魔王軍最高司令官がおり、更にその下に魔王軍隊長の幹部たちがいる。
 魔王軍は全部で第十隊まである。数字が下がるに連れ魔王軍の実力も上がっていく。

 魔族階級をのし上がるには自らの強さも勿論のことながら、その有能度を誇示する必要がある。
 故に第九隊隊長だった首謀者の幹部は上の位に上がる為独断で今回の進軍を推し進めた。

 結果的にその目論見は私たちに阻止されてしまい、また貴重な転移門の損失の責任を取らされてしまい、降格処分となったそうだ。

 サーシャは私の説明をメモを取りながら聞いていた。
 たぶん、いや、絶対この情報は人族には初出情報だと思う。聞き流していい内容じゃないと判断したのだろう。でも私的には世間話のつもりだったりする。

 コンコンと部屋がノックされた。

「サーシャ様、そろそろ起きて頂けなければ朝の治療に遅刻してしまいますよ」
「ごめんなさいキャシー。すぐに支度します」

 キャシーさんもメイド見習いでお世話になった以来なので久し振りだなぁ。

「ごめんねリア、今日がお休みならもっともっとお喋りしていられるのに⋯」

 サーシャは聖女として教会で大切なお仕事をしなければならない。だから邪魔をしてはいけない。サーシャの治療待ってる人がたくさんいるのだから。

「ううん、私の方こそ急に押し掛けてごめん。また来るね」

 名残惜しいけど、サーシャと別れ、リグたちの待つ宿屋へと戻った。

 ちょうどこの部屋を訪れていた珍しい訪問者と居合わせた。

「あ、お姉様お帰りなさい。お客さん? が、来てますよ」

 小さな体躯に緑を基調としたドレスを羽織り、頭には忙しなく動く触覚が見ていて飽きなさそう。
 裏返しのコーヒーカップにちょこんと座っていた。

 私を見るや否や、パァっと表情を晴れやかにし、私の胸元まで飛んで来た。
 間違っても潰さないように優しく受け止める。

「精霊さん、どうしたの?」

 この子は、ここダーブルを守護している精霊さん。
 普通の人には見えないけど、私には見える。どうやらリグにも見えるみたい。
 清い心の持ち主が見えるのかな? なんてね。

 精霊さんは、一方的に私にお願いを告げて、足早に去っていった。

「受けるの?」

 実は悩み中だったりする。
 だって、お願いというのが⋯

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 同時刻、ダーブル領主の家

 そこにはその町の有力貴族数人と領主による会合が行われていた。

「一ヶ月経ちましたが、難民受け入れの為の宿舎工事が未だに進んでいないようですが?」
「ですからそれは前々から申し上げているように建設予定地となっている一帯は、この街唯一の御神木が建っているのです。御神木は開拓以前から生えていた歴史ある…」
「領主殿! 元々この地は山々に囲まれていて、それらを開拓する程の費用や時間はありません。御神木一帯の土地以外に優良な土地がないのもまた事実。御神木は、ただ伐り倒すのではなく丁重に供養すれば、何の問題もないでしょう。大きさから言って移し換えるのは困難。今は遠い過去の言伝えよりも目先の問題に対処すべきです」
「そうですな。日に日にベラキール王国からの難民が増える一方。今では街の宿は全て満室となり、外から来る方達からの苦情が後を絶たないのです」
「苦情が来ているのは何も外からだけではないですぞ。旅行者がお金を落とすのを生業としてきた行商の者たちは、全くと言っていいほど収入が入って来ず、既に一割の者はここダーブルを離れたと聞きます。難民者は最低限のお金しか落としていきませんからね。これではこの街自体の存続すら危ぶまれる状況ですぞ」
「そうだ! 何よりも領主殿自身が頭を抱えておられたではないですか」

 皆からの非難を浴び、元気なく肩を落とす領主。

「そうなのだが…その…何といいますか…夜な夜な夢の中に出て来るんですよ…」

 領主は目の下にクマを作っており、満足に寝ていないのが伺えた。
 領主が語るには、何でも御神木を伐り倒せば、この土地に災いが起こるだろうと言う、他の者からすれば俄かには信じられないといった内容だった。

「まさかただの夢に怯えて中止したいと?御神木を伐り倒して何が起こると言うのですか…今のご時世、そのような不可解な出来事が起こるとは到底思えませんがね」
「どちらにしても、すぐに建設を開始せねば、我々が強制的に兵を動かす事になりますぞ」

 領主は更に頭を抱えて悩んでしまった。
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