最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女52 盗賊団ヴォルス2

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 重厚な鋼鉄製の扉。
 傭兵さんが3人がかりで開けようと試みるもまるでビクともしていない。あんまり頑張ると血管プッツンしちゃうよ。顔は既にゆでダコにみたいになっている。扉には突起さえ見当たらないことから察するに中からしか開かない仕組みになっているのだろう。
 朽ちているとはいえ、元砦と言うこともあり、出入りできるような窓も見当たらない。

「下がって」

 私が右手を前へ突き出すと3人が大慌てで左右へと別れた。

「我に応えよ。灼熱の業火をその身に纏い、全てを溶かし尽くす火球とならん。火撃《ファイアーボルト》」

 放たれたのは、頭部サイズの火の玉だった。
 標的となった重厚な扉を音もなく丸く溶かし、役目を終えやがて消え去った。
 無詠唱でも撃てるのだけどたまには詠唱があってもいい。

「流石お姉様ですね。私だとどうしても破壊音が出てしまいますからね」
「うん。でももうバレてるとは思うけど」

 私が先に中へと入ると、案の定待ち伏せされる形となっていた。
 数の程は20人かな。さっきのを目の当たりにしてるからもう見た目に惑わされてはくれないようで、武器を構え警戒していた。

「一体お前らは何者だ! 何しに来やがった!」

 私は、セリーヌに目配せする。

「お前たちの都市シュメルハイツ襲撃計画は全て知っている。無駄な足掻きをやめて素直に降伏すれば無駄な殺生はしないと約束しよう」
「な、何故貴様等がそれを知っている⋯」
「副長、あの3人は確かバオ村の実験の為に使い捨てで雇った傭兵たちですぜ」
「何、なるほどな、最初から分かって依頼を受けたってか。そういえば、お前たちを見張ってた奴が戻って来ないと思ったらそう言うことだったか」
「も、勿論よ! 悪事は見過ごせない性分でね」

 何だか勝手に勘違いしているみたいだけど、別に支障はないから黙っておく。
 元々奴らとの話し合いは全てセリーヌに任せることになっている。私とリグはあくまで彼女たちに雇われた傭兵仲間という設定。

「傭兵は金さえ払えば何だってする俺たち盗賊と同じ生き物だと思ってたんだがな。まあいいさ。たった4人・・・で俺たちヴォルス盗賊団を相手にしようってんなら、返り討ちしてくれるまでだ」

 副長が手を振り下ろすと、槍を構えた5人の男たちが真っ直ぐに向かってくる。

 しかし、金縛りにでもあったのか途中で全員止まってしまった。
 私は事前に傭兵さんたちにこう話していた。

 戦闘は極力貴女たちが行うこと。援護は私がするから目の前の敵だけに集中して。とね。

 私からの支援を受けて、通常よりも身軽になった3人がばったばったと相手を斬り伏せる。
 私は動きを封じたり、3人への攻撃の邪魔をしたりと陰ながらサポートしていた。そう、陰ながら。
 側から見れば、私は無防備に突っ立ってるだけ。
 これをチャンスと思わない訳はなく、左右から斬りつけられる⋯が、その刃が私に届くはずもなく、まるで即効性でかつ致死性の毒でも喰らったかのようにその場に倒れ込んだ。
 皆一様に紫色の顔をして、口から泡を吹いていた。

 気が付けば3分としない内に入口の広間を静圧してしまった。
 まだ息があるのは副長と呼ばれていた男だけ。
 後は、物言わぬ肉塊に成り果てていた。

「あ、ありえない⋯何者なんだ貴様等は⋯」

 セリーヌが剣を構えていたので、制止させておく。

「一応そいつは生かしといて」
「え? あ、はい、分かりました」

 大将が捕まえれなかった時の為の保険だった。

 奥の方から男が飛んでくる。
 正確に言えば、放り投げられたと言った方がいいだろうか。

「ひぃぃぃ、どうか命だけはぁぁぁお助けくだせえぇぇぇ」

 ギロリと赤く怪しく異彩を放つ両目の少女が現れた。
 言わずもがな、リグの事なのだけど⋯

「こちらも終わったんですね」
「うん。そっちは?」
「大将らしき人物以外は皆殺しにしておきました」

 砦に入る際、リグとは別行動を取っていた。

 確か砦内には100人くらいいた筈なんだけど、入口にいたのを差し引いても80人? をこんなに短期間で⋯⋯なんて恐ろしい子。
 だけど、先程感じた異質な気配が何処にも感じられない。逃げられた? いや、そんなはずはない。逃走されないように予め結界を張っておいたのだから。
 最後に残っている大将とやらに会いに行けば分かるか。
 私がリグに対して頷くと、言いたいことを察してくれたのか、残った副将に対してリグが詰め寄る。

「大将のとこに案内してくれる?」

 側から見れば可憐な少女に尋ねられただけで、悪党が言うことを聞く道理などないはずだけど、地面に頭を擦り付け、すがるような目でリグを見上げる。

「何でもします、案内しますからどうか命だけはぁぁぁ!」

案内されやって来たのは、地下の階段を何段も降りた先の小さな小部屋だった。
 ここへ来る道中に奴等の亡骸が散乱していたのは、言うまでもない。
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