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最後の魔女88 シルフィ
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彼女の名前は、シルフィ・ロウティーチ・バラム。バラム王国第一王女だ。母は元々平民の出で、その美貌と気立ての良さから周囲では有名だった。
ある時、国王の凱旋パレードで彼女を見たバング・シードラン・バラムの目に留まった。バングの一目惚れだった。
周りは当然のことながら、身分の違いを挙げ二人の仲を強く反対したが、父親と兄を流行病で亡くし、若くして国王となったバングは、王族にしては珍しく下々の気持ちを理解した王であり、国民からの人気も高かった。当初は、母であるターニャも自分が王妃などになれるはずもないと、国王の求婚を断り続けていた。
バングは諦めなかった。
ある時は贈り物をし、ある時はデートに誘った。そうして諦めずにアタックを続ける内に折れたのは母ターニャの方だった。
国王バングとしてではなく、一人の男バングとして、段々と惹かれていった。
そんな二人が恋に落ち、やがて夫婦となることを決意するのにそんなに時間は掛からなかった。
暫くして、二人の愛の結晶である娘シルフィが生まれた。まさに幸せの絶頂期であったが、そんな幸せも永遠には続かなかった。
シルフィが八歳になった頃、もう一人の妻と名乗る若い女がターニャの前に現れた。
バラム王国に限らず、この世界で一夫多妻制は珍しくなく、それが当たり前のことだった。何より、ターニャとの間に男の子が産まれなかったのも原因の一つだった。そのことに感して、バングは『初の女王国でも良いじゃないか』と周囲に漏らしていただけに、少しだけ負に落ちる点はあったが、ターニャも二人目の妻を迎えるということ自体に反対はしなかった。
彼女の名前はエルスレイン。ターニャと同じ平民であり前代未聞の子連れでの第二夫人となったにも関わらずターニャの時と違い不思議と周りの反対はなかった。
しかし、それを境にバングは変わってしまった。あれ程愛していたターニャに見向きもしなくなったのだ。
そう、それはまるで誰かに洗脳されているかのようだった。この違和感を感じているのは当事者であるターニャだけだった。
バング本人もターニャ以外に対しては以前と変わった素振りは見せていない為、他の人が気が付かないのも無理はなかった。
元々周りの反対を押し切っての結婚だったこともあり、その王の態度が変わったことにより、ターニャの肩を持つものは誰もいなくなった。必然的に周りの反応も冷たくなり、最終的にバングからは暴力まで振るわれるようになってしまった。
「あの人は人が変わってしまったわ」
王城に彼女の居場所は無くなった。
そんな絶望のドン底にあってもターニャの心が折れなかったのは、他ならぬバングとの間に生まれたシルフィの存在だった。ターニャはシルフィを溺愛しており、そのシルフィの幸せを考えているだけで他の全てを犠牲にする覚悟があった。
そんな立場に追いやられ、四年の月日が経過した。
精神的にも肉体的にも限界を迎えてしまったターニャは、やがて病にかかり寝たきりの生活が続いた。
後宮の一室で暮らすことが多くなり、看病はいつもシルフィと最近配属された王妃様専用小間使いであるアリシアが行っていた。
最初はいつものように軽い風邪程度だったにも関わらず、それが重症化し、どんどんと衰弱していった。三日が経過し、一週間が経過する。
今ではシルフィが呼び掛けても、ターニャは反応しない。シルフィは涙を溢してそれを悲しんだ。
王城お抱えの治癒師にも診てもらったが原因は不明だった。シルフィとアリシアはどんな病をも治してくれる聖女様の派遣を要望したが、父バングは取り合ってくれることはなかった。
シルフィは諦めず、隙を見て隣国の聖女様へ書状をしたためる。兼ねてからターニャの親友であった者へ事情を説明し、配送を依頼したのだ。
それを受け取った心優しき聖女は、書面に記載してあった内容を鑑み、自ら正式にではなくお忍びで治療に来てくれたのだ。このことが公になれば、王が認めていないのだ。勝手なことをした処分は免れない。故に水面下で行う必要があった。聖女様は全てを理解した上で自らの立場も顧みずに協力を申し出てくれた。
目立つ場所を避ける為に密かに後宮からターニャを運び出し、王宮の外れにある今は使われていない古屋で聖女様と落ち合う運びとなった。
すぐに聖女様の治療が始まったが、すぐにその手が止まる。振り返ると、真剣な表情のまま信じられない言葉を告げる。
「病気の類ではありません。これは、何者かによる呪怨の可能性があります」
それを聞き、皆一様に言葉をなくした。シルフィに至っては、言われたことの意味が理解出来ず、周りの反応を見て只々動揺していた。
呪怨とは、呪いの一種で長い時間を掛けて儀式を行い始めて発動することが可能で、数ある呪いの類で最もその効力が一際強いと言われていた。
偏に呪怨と言っても様々あるが、中には三日と待たずに死に至る強力なものまで存在する。
「聖女様、呪怨を解く方法はあるんですか?」
皆、聞きたくても口が開かなかった。それを知って知らずかシルフィが恐る恐る尋ねる。
「二つあります」
聖女様が言うには、術者に解除してもらう方法がまず一つ。もう一つは、呪怨を解く為に用いられる幻想花を煎じて飲ませることだった。
ある時、国王の凱旋パレードで彼女を見たバング・シードラン・バラムの目に留まった。バングの一目惚れだった。
周りは当然のことながら、身分の違いを挙げ二人の仲を強く反対したが、父親と兄を流行病で亡くし、若くして国王となったバングは、王族にしては珍しく下々の気持ちを理解した王であり、国民からの人気も高かった。当初は、母であるターニャも自分が王妃などになれるはずもないと、国王の求婚を断り続けていた。
バングは諦めなかった。
ある時は贈り物をし、ある時はデートに誘った。そうして諦めずにアタックを続ける内に折れたのは母ターニャの方だった。
国王バングとしてではなく、一人の男バングとして、段々と惹かれていった。
そんな二人が恋に落ち、やがて夫婦となることを決意するのにそんなに時間は掛からなかった。
暫くして、二人の愛の結晶である娘シルフィが生まれた。まさに幸せの絶頂期であったが、そんな幸せも永遠には続かなかった。
シルフィが八歳になった頃、もう一人の妻と名乗る若い女がターニャの前に現れた。
バラム王国に限らず、この世界で一夫多妻制は珍しくなく、それが当たり前のことだった。何より、ターニャとの間に男の子が産まれなかったのも原因の一つだった。そのことに感して、バングは『初の女王国でも良いじゃないか』と周囲に漏らしていただけに、少しだけ負に落ちる点はあったが、ターニャも二人目の妻を迎えるということ自体に反対はしなかった。
彼女の名前はエルスレイン。ターニャと同じ平民であり前代未聞の子連れでの第二夫人となったにも関わらずターニャの時と違い不思議と周りの反対はなかった。
しかし、それを境にバングは変わってしまった。あれ程愛していたターニャに見向きもしなくなったのだ。
そう、それはまるで誰かに洗脳されているかのようだった。この違和感を感じているのは当事者であるターニャだけだった。
バング本人もターニャ以外に対しては以前と変わった素振りは見せていない為、他の人が気が付かないのも無理はなかった。
元々周りの反対を押し切っての結婚だったこともあり、その王の態度が変わったことにより、ターニャの肩を持つものは誰もいなくなった。必然的に周りの反応も冷たくなり、最終的にバングからは暴力まで振るわれるようになってしまった。
「あの人は人が変わってしまったわ」
王城に彼女の居場所は無くなった。
そんな絶望のドン底にあってもターニャの心が折れなかったのは、他ならぬバングとの間に生まれたシルフィの存在だった。ターニャはシルフィを溺愛しており、そのシルフィの幸せを考えているだけで他の全てを犠牲にする覚悟があった。
そんな立場に追いやられ、四年の月日が経過した。
精神的にも肉体的にも限界を迎えてしまったターニャは、やがて病にかかり寝たきりの生活が続いた。
後宮の一室で暮らすことが多くなり、看病はいつもシルフィと最近配属された王妃様専用小間使いであるアリシアが行っていた。
最初はいつものように軽い風邪程度だったにも関わらず、それが重症化し、どんどんと衰弱していった。三日が経過し、一週間が経過する。
今ではシルフィが呼び掛けても、ターニャは反応しない。シルフィは涙を溢してそれを悲しんだ。
王城お抱えの治癒師にも診てもらったが原因は不明だった。シルフィとアリシアはどんな病をも治してくれる聖女様の派遣を要望したが、父バングは取り合ってくれることはなかった。
シルフィは諦めず、隙を見て隣国の聖女様へ書状をしたためる。兼ねてからターニャの親友であった者へ事情を説明し、配送を依頼したのだ。
それを受け取った心優しき聖女は、書面に記載してあった内容を鑑み、自ら正式にではなくお忍びで治療に来てくれたのだ。このことが公になれば、王が認めていないのだ。勝手なことをした処分は免れない。故に水面下で行う必要があった。聖女様は全てを理解した上で自らの立場も顧みずに協力を申し出てくれた。
目立つ場所を避ける為に密かに後宮からターニャを運び出し、王宮の外れにある今は使われていない古屋で聖女様と落ち合う運びとなった。
すぐに聖女様の治療が始まったが、すぐにその手が止まる。振り返ると、真剣な表情のまま信じられない言葉を告げる。
「病気の類ではありません。これは、何者かによる呪怨の可能性があります」
それを聞き、皆一様に言葉をなくした。シルフィに至っては、言われたことの意味が理解出来ず、周りの反応を見て只々動揺していた。
呪怨とは、呪いの一種で長い時間を掛けて儀式を行い始めて発動することが可能で、数ある呪いの類で最もその効力が一際強いと言われていた。
偏に呪怨と言っても様々あるが、中には三日と待たずに死に至る強力なものまで存在する。
「聖女様、呪怨を解く方法はあるんですか?」
皆、聞きたくても口が開かなかった。それを知って知らずかシルフィが恐る恐る尋ねる。
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聖女様が言うには、術者に解除してもらう方法がまず一つ。もう一つは、呪怨を解く為に用いられる幻想花を煎じて飲ませることだった。
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