リンの萬屋奮闘記

砂鳥 ケイ

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05:眠りの精霊 ムゥ

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リンは、巷で噂になっていた辻斬りを捕まえるべく、その足取りを追っていた。
血の匂いで追跡するべく、ペット・・ではなく、猫精霊のクロがその痕跡を辿っている。

「この先だにゃ」

クロが目で合図を送ってきた。
どうやら、この角を曲がった先にターゲットがいるようだ。

まずは、その正体を拝まして貰おう。
リンは、ゆっくりと角の先を見た。
しかし、視界には何も映っていない。
それどころか、行き止まりとなっている。

「本当にここなのか?」
「間違いないにゃ、匂いはここで途切れているにゃ」

特に怪しげな雰囲気もない。
仕方がない、この場にいる精霊と対話して、居場所を聞く事にする。

リンは、いつものように精霊と対話しているのだろう、ブツブツと何かを呟いている。

「うーん。どうしたものか」
何やらリンは考えていた。
「消えた理由が分かったのかにゃ?」

「匂いの途絶えた理由は分かったけど、何処に向かったかは、分からなかったよ」

リンが精霊から教えて貰った情報は、刀を持った黒いコートを羽織った人物が、この場で刀を自らの口の中にしまったそうだ。

「という事は、相手は骸骨族かにゃ」
「うん、だろうね。骸骨族の体内は別次元に繋がっていると言われているから、体内に武器か何かを隠しているのは良く聞く話だ」
「せめて足音でも分かれば、ノームの追跡が可能なんだけどね」

悔しいが、打つ手なしでは仕方がない。
今は取り敢えず引き上げる事にする。

リンは、ランバートさんと別れて、萬屋へと戻った。

萬屋へ戻る道中、黒一色のコートを羽織った骸骨族が、なんとリンの目の前に現れたのだ。
どうやら、僕を付けてきたらしい。

「俺を探していたな。何者だ、貴様は?」
「ただの萬屋です。今度はこっちの質問に答えてくれますか?貴方が、巷で辻斬りと呼ばれている方で間違いないですね?」
「だったらどうだと言うのだ。まさか、この俺を捕まえるとでも?」
「そのつもりですよ」

時刻はまだ朝方の3時過ぎだった。人通りはなく、辺りは異様なまでの静けさを漂わせていた。

名前が分からないため、仮で骸骨剣士と呼ぶ事にする。
骸骨剣士は、なんと自身の口の中から刀を取り出したではないか。

「その気はなかったが、貴様には此処で死んでもらう」

その瞬間だった。
骸骨剣士がリンとの距離を一瞬にして詰め、刀を一振りしてきたのだ。
縮地と呼ばれる技法だった。

カンッ!

刀が、何か硬いものにでも当たったような高い音が辺りに鳴り響く。
骸骨剣士は、二撃目、三撃目と、色々な方位から攻撃を浴びせてくる。
しかし、全ての攻撃が見えない何かのシールドに阻まれている。

「何故だ、何故攻撃が当たらん!」
「わざわざ敵にネタを明かすつもりはないよ。今度はこちらから行く」

リンは、右手を前に突き出した。

「鎌鼬!」
その瞬間、肉眼では見えない無数の風による刃が骸骨剣士を斬り刻んでいく。

骸骨剣士は、見えない攻撃を躱しようも、防ぐ事も出来ず、羽織っていた黒コートは、無残にもズタズタに引き裂かれ、骸骨本来の姿が露わとなった。
しかし、あまりダメージは無さそうだった。

「おのれ・・姿を知られたからには、絶対に生きて返さん!!」
骸骨剣士は、自身の口から刀をもう1本取り出し、今度は二刀流で襲いかかってきた。

(その程度の攻撃じゃ、手数を増やした所で、私のこの盾は貫けないんだよね~)

高い音が辺りに虚しく響き渡るだけで、リンに傷一つ与える事は、とうとう叶わなかった。

リンは、骸骨剣士の攻撃の合間に精霊を召喚していた。

「ほぅ、妾を呼ぶとは珍しいのぉ」

これまた、出現したのは、年端もいかない幼い少女だった。
「ムゥ、悪いけど、そこの骸骨剣士さんを眠らしてくれるかい?」

ムゥと呼ばれた幼女は、骸骨剣士の方へと視線をくべる。

「こんなところに、妾を呼ぶとは、物騒な奴じゃ。まぁ、お前の頼みではしょうがないのぉ」

ムゥは、眠りを司る精霊。
外見は幼女だが、言葉口調はジジ臭い。
ギャップ萌でも狙っているのかもしれない。

骸骨剣士の標的が、リンからムゥに切り替わった。
ムゥに斬りかかろうとするが、刀はムゥの身体を擦り抜ける。
ムゥは実態を持たない精霊に部類されるので、物理的な攻撃は効かない。
攻撃が当たらないとは予想していなかったのか、骸骨剣士の動きが一瞬止まった。
ムゥは、それを見逃さず、催眠魔法を骸骨剣士に放つ。

驚いたのは、その催眠の即効性だった。
骸骨剣士は、放たれたと思った次の瞬間にはその場に倒れてしまった。

「相変わらず凄い威力だね」
「妾に斬り掛かってきたからのぉ、つい本気を出してしまったわ」

ムゥを怒らしたらいけないのだ。

「そんな事より、はよう屈め」
リンは膝を折り、ムゥと同じ目線の高さまで屈む。

次の瞬間、ムゥはリンにキスをする。
頬っぺではなく、もちろん唇に。

「うむ。満足じゃ。対価は貰ったから妾は帰るぞ。こう見えても忙しい身じゃからのぉ」

もう慣れたのでリンは特に気にしていない様子だったが、ムゥを呼ぶと必ずその対価を支払う必要がある。

「さてと、シルフもありがとう。助かったよ」
リンは、骸骨剣士の姿を見た時にすぐさまシルフを召喚し、憑依していた。

骸骨剣士の攻撃を弾いていたのは、風の精霊シルフの全方位型のウインドシールドのおかげだった。
鎌鼬もシルフの魔法だ。

「あんたに怪我させたら、他の精霊達に合わす顔がないからね〜」
「また頼むよ」
「あ、そだ。私もムゥみたいに対価を要求しようかな?」

聞こえるか聞こえないかくらいの微かな声でボソッと呟いた。
勿論リンの地獄耳には届いていたが、敢えて聞き返してみる。

「えっ?何を要求するって?」
「何でもないわよ!」

シルフは、少し照れくさそうにしながら、帰っていった。

「さてと、さすがにこの場に放置は出来ないから、この近くの公まで運ぶか」
リンは、骸骨剣士を肩に担ぎ上げて移動する。

公は、24時間体制となっている為、この時間からでも取り継ぎしてくれる。

リン、辻斬りを捕らえた事を公の受付で説明した。
受付で対応してくれたのは、若い新米と思われる男性だった。

リンは、差し出された懸賞金の額を見て驚いた。
なんと、金貨1枚だったのだ。

例えば、この国で普通の宿に一泊した場合の相場は、銅貨10枚だ。金貨1枚あれば、単純計算で3年間泊まれる事になる。

「貴方は、それだけの大物を捕らえたのです。表彰ものですよ」
さすがに大金の為、準備が必要という事で、後日また訪れる事になった。

リンは、予想もしていなかった意外な高額収入が入り、浮き足立っていた。
お金も入り、人助けも出来て、まさに一石二鳥。

事務所へと戻ってきたリンは、すっかり目が覚めてしまっていたが、まだ夜も明けていないので、無理やりにでも寝る事にした。


朝になり、微妙に寝不足な気はあるが、本日の営業開始。自営と言えど、社会人として営業時間はちゃんと守らないといけない。

ガラガラとドアが開く音がする。
「すみません、仕事を依頼したいのですが」
「いらっしゅいませ!はい、まずはお話を伺いますよ」

今日は、朝一から幸先がいいようだ。

「どのような内容でしょう?」

人族の青年のウェルさんは、手紙を届けて欲しいと言う。
手紙の配達だけならば、専門の配達屋というのがあるのだが、今回は送り先の住所が分からないそうだ。
「人探しもやっておられると聞いてきたのですが、出来ますでしょうか?」

彼は、手紙を届けるだけではなく、住所が分かれば教えて欲しいという依頼だった。

こういう依頼で良くあるのが、ストーカー行為だ。
リンは人探しの依頼の時は、依頼人の素性をしっかりと確認したうえで、依頼を受けるかどうか判断するようにしている。

手紙を届けたい相手は、彼の双子の妹らしい。
早くに両親を亡くした二人は、両親の蓄えも十分にあった為、お金には困らなかったそうだが、成人して暫く経ったある日、喧嘩をしてしまった。
それを機に、妹が家から出て行ってしまい、既に3年という月日が経っていた。

「分かりました。依頼はお受けします。しかし、住所を公開するかどうかは、妹さんの許可があった場合に限りますよ」
「はい、当然です。問題ありません」
「あと、妹さんの写真か何かをお借りしても宜しいでしょうか?」

人探しの場合は写真が必需品だ。
名前だけでも探せない事はないが、圧倒的に必要日数が違ってくる。

リンは、ウェルさんから妹のシェルさんの写真を借り、ウェルさんの連絡先を聞いた。

「それでは、調査を開始しますので、何か進展がありましたら、お伺いした連絡先に連絡させて頂きますね」
「宜しくお願いします」

ウェルさんは、仰々しくお辞儀をし、帰っていった。

リンは一呼吸置き、例のごとく精霊を召喚した。

召喚された精霊は、手のひらサイズの蜂の姿をした可愛らしい精霊だった。

「やあ、ビー。久しぶり」
「おっす、リン久しぶりっすね。全然呼んでくれないから、死んじゃったのかと思ったっすよ」
「おいおい、縁起でもないことを・・。ちょっとバタバタしててね。早速で悪いけど、人探しを頼みたいんだ」
「なんだ、てっきりおいらを呼んだって事は、暗殺の依頼かと思ったっす」

ビーは、蜂の精霊。一応性別は女性らしい。
ビーの特技に分身という魔法がある。
本気を出せば、分身出来る数は1万を越えるという。
しらみつぶしに探す時は、 ビー程頼れる精霊はいない。

「おっけーっす。分身して探してみるっすよ」

リンは、ビーにシェルさんの写真を見せる。

「みんなを驚かせないようにインビシブル併用で頼むよ」

インビシブルとは透明化の事なのだが、街中を大量の蜂が飛び交うのも何も知らない人から見たら恐怖にとられる可能性がある。

分身体のサイズは、普通の人の目に見えないサイズに調整するから、透明化は必要ないと言われてしまった。

「じゃ、行ってくるっす!」
「頼んだよ」

僕は、結果を待つだけだ。
何か楽をしている気に苛まれるが、気にしたら負けだ。

そして、また暫くすると再び萬屋のドアが開かれた。
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