シスコン、異世界へ行く。〜チート能力かと思ったら、七つの大罪を押し付けられた件〜

ゆーしー

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Chapter.1 シスコン、異世界へ。

1-11:シスコン、憤怒する。

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「ッ、今の、声は?」
『その気持ち怒り、アタシが後押ししてやるよ。さぁ、もっとだ。もっと感情を昂らせろ!』
「ぐ、う……!」

 ムカつく。
 あの男の声がムカつく。
 人を見下したあの態度がムカつく。
 他人の命なんてどうでもいいと思っているようなあの表情がムカつく。
 俺を無視してヒーリを襲いに行ったことがムカつく。

 ──ああ、イライラする!



********************



『っ、マスター! この力は……!』
『まずいです。憤怒イラが目覚めようとしています』
『このタイミングでかい!? 全く彼女は! もう少し空気を読んで欲しかったな!』
『イラちゃんは細かいこと気にしないタイプだから……』
『もっと気にしてほしいのですわ! ああもう、このマイクロブラックホールが鬱陶しいですこと!』
『頑張って食べてるけど、こうも一気に来られると……!』
『そうだ! もっとだ! もっと怒れ! それはお前の武器となり、盾となる!』

 マイクロブラックホールを避け続けるルトの右足から、紋章の輝きが漏れ出す。
 溢れ出した光は、炎とグリーブを形どった。

『ああもう、本当に人の……いえ、人ではありませんが、こっちの話を聞かない子ですわね!』
『そうです。マイマスターが我を忘れて怒っていると言うなら、我を取り戻させればいいのです』
『君さ、簡単に言うけどどうやって?』
『正気を取り戻させるようなことを言えばいいのです。例えば……』
『マスター! 目を覚まして! このままだとヒーリちゃんも、ピオスくんも危ないよ!』
『そういう方向性か……なら僕も。マスター! そんなわがままっ子のお願いなんか聞いてやることはないよ! 君は、お姉さんのことだけを考えてればいいんだ!』
『──って、しまっ、一つ喰い損ねた!?』
『え、ちょ、やばいですわよマスター!?』



********************



 心の底から怒りが湧いてくる。
 俺を怒らせるもの全てを破壊しろと、誰かが囁く。
 俺の邪魔をするもの全てを薙ぎ払えと、誰かが囁く。
 燃やせ。心の炎を。怒りの炎を。
 滾るこの想いを、ぶつけるために。

 ──スター! ──リちゃんも、──スくんも、──ないよ!

 声が聞こえる。うるさいな。ああ、イライラする!

 ──スター! ──姉さんのことだけを──ばいいんだ!

 うるさい。うるさい。うるさ──え?

 ね、え、さん?

 ──姉、さん。

 ──姉さん!

 ──ヒジリ姉さん!

「俺は、ヒジリ姉さんに会わなきゃいけない──だから、こんなところで死んでたまるかぁッ!」

 右足に新たな重みが産まれるのと同時に、俺は右足で迫り来るマイクロブラックホールを
 俺の右足にぶち当たったマイクロブラックホールは、何も消滅させることなくぽーんと空へと上っていき、再び俺目掛けて落ちてくる。

『マスター!』
「ああ、一つくらいなら!」

 落ちてくるマイクロブラックホールに合わせて、左腕を天に伸ばす。
 グラにぶち当たったマイクロブラックホールは、なんてことも無いかのように消滅した。

「……ふぅ、何とかなったか」
『マスター!』
『マイマスター!』
『心配しましたわよ、マスター!』
『いやまぁね。僕もね、心配をしてあげたわけだよマスター』
「……何か、心配させたみたいだな」

 何かこう、女の子たちが泣きながら抱き着いてくる場面を想像してしまった。雰囲気的には、間違っていないのだが。
 それで、俺の身に何が起こったんだ? クルーエルに対してムカついたことは覚えているんだが……。

『ちぇっ。アタシ好みのいい怒りだったのによー。すーぐ鎮火しちまった』
『もうっ、イラさんは本当にはた迷惑な方ですわ! 目覚めるにしても、何であの状況でしたの!?』
『そうだよ。危うくマスターがマイクロブラックホールに呑み込まれかけたじゃないか』
『そんなのアタシが知るかよ! 気持ちよく眠ってたら、こう、いい感じの怒りの感情がだな……』
「みんな、少し落ち着け。それで、イラ……だったか」
『おう』

 頼れる姐さん、みたいな口調のイラは、他の大罪と同じく黒を基調としており、紅で装飾が施されている。
 特徴的なのは、くるぶしの辺りに燃えさかる炎を象った……と言うより、炎そのものが燃えていることか。今は、だいぶ小さな炎だが。

『アタシは憤怒炎脚イラ。怒りの炎を力に変える、単純明快な能力だぜ』

 どうやら俺の怒りのボルテージが上がるほど、このくるぶしの炎が強く燃え盛っていくらしい。そしてこの炎が燃えれば燃えるほど、俺の強さが上昇していくと。それで、マイクロブラックホールを直接蹴ったのに何事も無いわけか。
 しかし、イラの能力は考えて使わないといけないな。毎回こうやって我を失うというのは、勘弁したいところだ。

「とりあえず、今はクルーエルを追う。低空飛行であいつを探すぞ」
『マイクロブラックホールは全部収納してあるから、撃ち出すことも可能だからね!』
「ああ。ヤバくなったらそれを打ち出すことも視野に入れよう。インウィディア、頼めるか?」
『先ほどのでかなりエネルギーを消耗してしまいましたが……まだ半分は残っていますわ。大丈夫ですわよ!』
「よし、行くぞ!」

 俺はまず、先ほど二人を降ろした場所に向かう。その近くにいれば、話が早いのだが。
 しかし、その場所には誰の姿も無かった。ただ、破壊された周囲の家々の残骸が残るのみ。

『……いないね』
「ああ。だが、破壊痕がこっちに続いている。恐らくクルーエルのマイクロブラックホールだ。これをたどっていけば、ピオスたちの元に着くはずだ。急ごう」

 全力で翼を飛ばすこと、十数秒。
 クルーエルが両手にマイクロブラックホールを生み出し、ピオスがヒーリを庇いながら、マイクロブラックホールを弾いているところに出くわした。

 ピオスはどうやら手に持った曲刀シャムシールで普通にマイクロブラックホールを弾いているみたいだ。どうなってるんだあの剣は。
 っと、それは今はいいか。ただの朗報だからな。
 俺はアワリティアを取り出し、クルーエルの注意を引くために叫んだ。

「見つけたぞ、クルーエルッ!」
「……君は。そうか。あれでも君は死ななかったのだね」
「危ないところだったがな。その借り、倍にして返す!」
「ふむ。少し待っていてくれるかね。今、私は忙しい」
「ああ、そうか! だが、俺が待つ理由が無いな!」

 俺は翼からエネルギーを噴射し、加速しながらクルーエルに向かってアワリティアを振り下ろす。
 クルーエルは俺の行動に眉をひそめると、頭が痛いと言わんばかりに頭に手を当てた。もう片方の手で、アワリティアの斬撃を受け止めながら。
 ……こいつ、本当に人間なんだよな?

「君は頭が悪いな。それに、目も良くないようだ。この私が、穢らわしい悪魔を滅しようとしている。それを見て、何故君は私に剣を向けるのだ?」
「悪魔なんてどこにもいないからな。強いて言えば、目の前のお前の方が悪魔に近いんじゃないか?」
「なん、だと?」

 俺の言葉に、明らかな怒りを浮かべるクルーエル。どうやら今の言葉は、あいつにとっては我慢ならない言葉らしい。

「この私が悪魔? 敬虔なる神の信徒であり、神に愛され、聖なる行いをしているこの私が悪魔だと、本当に言っているのかね?」
「何度でも言ってやろう。いたいけな女の子を追い回し、関係の無い街をいくつも滅ぼして、その女の子をこうして手にかけようとしている。それのどこが聖なる行いだ。それのどこが神の信徒だ。ああ、何度でも言ってやる! お前は、クルーエル・ファナティックは、悪魔の如き所業を行うただの人殺しだ!」
「貴様ッ、言うに事欠いてこの私の行いを悪魔の如き所業だと!? 許さん! 許さんぞ貴様! 貴様は楽には殺さんぞ! この私を悪魔呼ばわりしたことを後悔させながら、じわじわといたぶって、絶望の果てに殺してやるわ!」
「ハッ、本性が顕になったじゃないか。だがな、俺だってお前に殺されてやる気はない!」
「殺してやるゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 目を血走らせ、子供も逃げ出すような形相になったクルーエルは、ピオスたちに向けていたマイクロブラックホールを全てこちらに叩きつけようとしてくる。

『あちらさん、だいぶ怒ってんな。ま、アタシからしたら良い怒りの感情とは呼べないけどよ』
『そんな話は今はいいですわ!』
「グラ、ヤバくなったらマイクロブラックホールを撃ち出して相殺してくれ。それ以外は……全て喰い尽くして構わん!」
『おっけー! でも吸収はしないで収納するだけにしておくね!』
「ああ! 腹が減ったら食べていいからな!」
『わーい! いっただっきまーす!』

 放たれたマイクロブラックホールをグラが片っ端から飲み込んでいき、それ以外のものはインウィディアが加速して置き去りにしていく。

「何なのだッ! 一体何なのだッ、貴様はァァァァァァッ!?」
「通りすがりの冒険者だ! 今のところはな!」
「ふざけおってェェェェェェッ!」

 マイクロブラックホールを撃ち出す隙をついて、アワリティアで左手首を切り落とす。手と共に血飛沫が舞い、俺を狙ったマイクロブラックホールにぶち当たって消滅していった。

「腕、私の、腕ェェェッ!?」
「叫ぶほど気に入ってくれたのなら、もう一ついかが?」

 返す刀で反対の手首も切り落とす。今回はマイクロブラックホールに当たらなかったので、グラから放ったマイクロブラックホールで消し飛ばしておく。

「血が、血が止まらないぃ! 神に愛され、人の生死すらも委ねられたこの私がァァァッ!?」
「誰もお前に、人の生死なんて委ねてないがな!」

 逃げられないように足首も切り落とす。念の為にマイクロブラックホールをぶち当てるのも忘れない。
 クルーエルが放ったマイクロブラックホールは全てグラが喰い尽くしたか、相殺させた。この場に残るのは、両手両足首を切り飛ばされた狂信者クルーエルだけだ。
 俺はクルーエルの首筋にアワリティアを当てる。

「さぁ、これでお前は逃げられない。俺の質問に答えてもらうぞ」
「だ、だ、誰が貴様なんぞに答えるかッ! 我が信仰は、死してなおも続くことだろう! 神は私のことを見てくれている! 今に見ていろ! 貴様ら悪魔の使徒に、神の裁きが下るだろう! ウルノキア神、ばんざァァァァァい!」

 クルーエルはそれだけ言うと、自分の口の中にマイクロブラックホールよりも小さな球体を生み出した。

「ピオス! 急いでここから離れろ!」
「ッ、はい!」

 直感的にそれがやばいものだと感じ取った俺は、念の為にピオスに離れるように言い、グラで、収納しようとする。

『マスター! これ、今の私じゃべ切れない! 今すぐこの街から離れて!』
「この街から、だと? この街に残っている住民は、外で戦ってるあいつらは、どうなる?」
『……』
「くそっ、こんなやつに……!」
「ははは、ひひひ、はははははははは! 死ね! 我らが神の名のもとに! 貴様らは、死ね!」
『ああ、良い怒りだ。この身を満たしてくれる、心地良い怒り。マスター、今ならこいつ、蹴り飛ばせるぜ?』

 イラの言葉に、俺は思わず自分の右足首を見た。
 くるぶしで燃えていた憤怒の炎が、ガソリンでも得たかのように燃え盛っている。触れても熱くない炎っていうのは、新鮮なものだが。

「なら、こいつが自爆する前に──」

 俺は右足をザザッと後ろに下げて、蹴り上げる体勢を取る。こいつを天高くに、あるか分からないが、成層圏の向こうまで蹴り飛ばせれば!

「無駄だ! 無駄だよ! 君程度では、この私の発動した究極魔法の範囲から逃げることなど……!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!」

 ズガン、と、振り抜いた右足がクルーエルの背中にぶち当たる。
 だが、まだ足りない。

「インウィディア! 頼む!」
『ええ! 今こそが踏ん張り時ですわ! 怪我をしても恨まないでくださいましね!』
「怪我くらいならいくらでも構わない。」

 俺はそのまま力を込め続け、翼のエネルギーを借りて足を振り抜き──

「──ぶっ飛べ、イカレ狂信者クルーエルッ!!!!!!」

 ドン! という空気が爆ぜる音と共に、クルーエルの身体が天高くに吹っ飛んでいく。

「はははははははははははははははははは! 死ね! 死ね! 死──」

 最後にクルーエルが何と言っているかは分からなかったが、ぐにゃりとやつの身体が丸まっていくと、空を覆い尽くさんばかりの大きさの黒球が姿を現した。
 それはそのままその場にあるものを飲み込み、消滅する。
 そう、クルーエルの身体だけを。

「これで、何とか……」
『まだですわ! あんな巨大なブラックホールが消滅したなら、これから起こることは──』
「ぐっ……!」

 クルーエルの身体と共に周囲の空気も根こそぎ持っていかれたらしく、何もかもががら空きになった空に空気が吸い込まれていく。
 それは、元の状態に戻ろうとする世界の理のせいか。ボロボロになった家の瓦礫や、塵何かが空に向かって上っていく。

 その最後の試練も何とか乗り切り、俺たちは無事、敬虔なる神の信徒を僭称する狂信者クルーエル・ファナティックとの戦いに勝利した。
 神聖ウルノキア皇国のことや、ウルノキア神のことについては聞くことが出来なかったが……これでひとまずは、あの二人ピオスとヒーリも安心して旅を続けられるだろう。

 その時俺はどうするのか。それは、今の俺には分からないことだ。
 とりあえずは、空気が元に戻ったことによって落ちてくる瓦礫を何とかするところから始めようか。
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