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Chapter.2 シスコン、旅に出る。
2-3:シスコン、竜を拾う。
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ガタガタの地面を行っているのにも拘わらず、揺れがほぼ無い、快適すぎる馬車の旅。
一日目は馬車の旅が初めてということもありそれなりに楽しかったが、二日目、三日目となるとそれなりに飽きてくる。まぁ、やることが無いから仕方ないのだが。
「ナイフ!」
『ふ、ふ、ふ? ふー、フェアリー!』
『リンゴ』
『ゴぉ? ゴブリン、はダメだし……あ、ゴマ!』
『魔法ですわ』
『うー、馬!』
「まか……ま、マッドスライム」
「む、むむむ……」
最早やることが無さすぎてみんなでしりとりをやっているくらいだ。このしりとりも、もう何回もやっているから飽きてきてはいるのだが。
そんなことをしていると、いつもは揺れない馬車がズズン、と揺れた。
何事だと思っていたら、御者席の方から何とも言えない表情をしたピオスが現れた。
「どうした?」
「あー、ルトさま。ルトさまにお客様です」
「俺に客?」
こんな街道とも呼べないくらいの道の真ん中でか?
覚えている限り、この近くには街どころか村もなくて、しばらくは野宿になるなと思っていたのだが……。
だが、ピオスは俺を指名という。微妙な表情を浮かべていたピオスに、嫌な予感画止まらない。
仕方なく馬車から降りた俺を待っていたのは、馬車全体を包むような大きな影と、生暖かい鼻息だった。
『ようやく見つけたぞ、人間!』
「え、は、竜!?」
そう。そこに立っていたのは、木々よりもさらに身長の高い、赤い鱗を持つ竜種。
それが、周りの木々をへし折りつつ、目の前に降り立った。
こいつは、あれだよな。クルーエルの時の竜……で良いんだよな?
どうやら戦った時の怪我はもう治っているようだ。あれだけの大怪我が一週間程度で治るとか、やはり竜種は規格外なのかもしれない。
……と、現実逃避をしている場合じゃなかったな。一体こいつは俺に何の用なんだ?
ようやく見つけた……つまり、この竜は今まで俺の事を探していたということだ。
こいつはクルーエルに操られていたわけだが、まさかその時の傷について何かを請求しようと言うのだろうか?
とりあえず話を聞かないことには始まらないと思い、竜に問いかける。
「あー、えっと、とりあえず俺はあんたのことをどう呼べばいい?」
「ふむ? 我の名を所望するか。良かろう。我は偉大なる竜帝の子にして赤き者の名を賜りし者なり!」
「つまり、あんたのことはルージュと呼べばいいと?」
「許そう。そして、我が名を伝えたのだ。人間……貴様の名を告げるがいい」
「俺はルト。ただのルトだ」
「ふむ。ルトか……ではルト。我は汝に願いがある」
「願い?」
赤き竜……ルージュは両手を上げてその腹を見せると、響き渡るような大声で言った。
『汝の持つ剣で、我が腹を穿って欲しい!』
訪れる静寂。バサバサと、木々の方から鳥たちが飛び立っていく音だけが聞こえた。
……こいつ、今何て言った? 何だか、妙な言葉が聞こえたような気がしたんだが。
『む? 聞こえなかったのか? 汝のあのすっごい剣で我の腹を……翼でも良いのだが、ぶち抜いて欲しいのだ!』
「何言ってやがるんだこの竜は!?」
何だ? 俺の頭がおかしくなったのか? 街で散々酒を飲まされたから、頭がバカになってるのか?
そうでないなら、俺は一体何をさせられようとしているんだ? と言うか、わざわざ俺を探してまでしてもらいたことがそれか!?
俺は思わず後ろを振り返る。
そこには、なんとも言えない表情をしたピオスとヒーリの姿があった。
その視線は、どこか俺の事を責めているようにも見える。
「ルトさま……」
「ルトさん……」
「待ってくれ! 俺は何も悪くない! そもそもだ! 何でルージュは俺にそんなことをして欲しいんだ!?」
「む、そんなことだと? 我にとっては大事なことなのだが」
「いいから答えてくれ」
俺がそう詰めると、ルージュはやれやれと言わんばかりに話し始めた。
「むぅ。仕方ないな。我があの男にいいように操られていたのは分かっているとは思うが」
「ああ。それは分かってる。だが、それで何であんなお願いに繋がるんだ?」
「汝、忘れたとは言わせないぞ? あれだけ激しく、我が腹と翼をぶち破ったのに」
いや、あの、その言葉を発しながら指先をちょんちょんってやるのやめてくれないか? 何やら別の意味に聞こえてくる。実際は、普通に命のやり取りをしていただけじゃないか。
「腹の方はクルーエルがルージュの上に乗っていたからだし、翼の方はヒーリたちの元へと向かったクルーエルを追いかけるためにだな……」
「そう。我は今まで痛みというものを知らなかったのだ。我ら竜種は強いからな。痛みを知らずに生きるものがほとんどなのだ」
「いやまぁ、強いとは思うが」
竜は強くて、強いからこそ痛みなんてほとんど感じない。それは分かる。
分かるが、どうして痛みを受けたいという願いになるのか、それが分からない。やはり竜種は人と感性が違うのだろう。
「それで、恥ずかしい話なのだが、汝の剣を受けた時、痛みと共に感じたことの無い感覚が全身を駆け巡ってな。もう一度その感覚を味わいたいと思っても、我は竜種。生半可な攻撃では痛みを受けられぬ。故に汝を探していたというわけだ」
「ただのドMじゃないかッ!」
「ドエム!? 何だその心惹かれる響きはッ!?」
いや、本当に何なんだ!? 俺が一体何をしたと言うんだ!?
だって、仕方ないだろう? あの時の判断は間違ってなかったと思うし、少しでも判断が遅れていたらピオスかヒーリのどちらかが死んでしまっていてもおかしくない状況だった。だから俺は、俺の選択に後悔はない。
後悔はないが、その結果がこれか……!
『それに、汝を見ていると何故か股が疼いてくるのでな。汝に会ってから初めてなことだらけだ。だからこそ、我は汝を……ルトを探していたというわけだ』
「な、なるほど」
というか、その姿で股が疼くとか言うの止めてもらえるか? 竜に好かれてもこれっぽっちも嬉しくないわけだが。
それに黙ってはいるが、大罪たちはこの状況を見て楽しんでいるようにも思える。さっきからずっと微かに笑い声が漏れてきてるからな。
『というわけで我もルトの旅に着いていくぞ! 拒否されたらそこらの街で暴れ回ってやるからな!』
「とんでもない脅迫だ……」
ルージュがそこらの街で暴れたら大変なことになるだろう。何せ彼女は竜種で、ピオスが真正面から戦うのは避けたいと思うレベルには強い存在なのだ。
きっと街の一つや二つは平気で滅ぼせるだろう。あの時街を焼いていた炎のブレスも脅威だしな。
俺は半ば諦めの気持ちで、後ろの二人に振り返った。
「……と、言っているがどうする? 俺個人としては消去法で受け入れるしかないと思っているんだが」
「まぁ、私たちもダメとは言えませんよね」
「そのせいで街が滅んでしまうのはちょっと……」
「だよな……あー、ルージュ? ちょっといいか?」
『うむ』
「その、小さくなったりとか出来るか? さすがにその大きさのお前を連れて行くのは難しいんだが」
『なんだ。そんなことか。それくらいならばお易い御用だ』
ルージュがそう言うや否や、その身体が赤い光に包まれた。
目も開けていられないほどの光が輝き、その光が収まると、そこには一人の女の子がいた。
ルージュの鱗と同じ色の髪に、左右に出っ張った二本の角。
つり目がちで、勝ち気そうな表情を浮かべる八重歯が魅力的な女の子は、腰に手を当てて「どうだ! これが我の新たなる姿よ!」と自信満々に叫んだ。
……とりあえず服は着てるな。よし。
「そなたら人間の姿を模してみたが、どうだ? この姿であればついて行っても問題はあるまい?」
「……ああ。問題なし。むしろ、かなり可愛いから驚いてるよ」
「か、可愛いか。そうか、そうか。我は可愛いか。むふふ、そうかそうか」
俺に可愛いと言われたルージュは、どこか照れたような表情でもじもじとしだした。こうやって見ると、さっきの竜種と同一人物……竜物? には見えないな。本当に可愛い人間の女の子だ。
まぁ、人間には生えていない角なんかは生えていたりするが。
ひとしきりニヤニヤした笑顔を浮かべていたルージュは、俺たちの視線に気付いたのかわざとらしく咳払いをした。
「こほん。さて、改めて自己紹介をしよう。我が名は、ルージュ・ヴァーミリオン。偉大なる竜帝、カイザー・ヴァーミリオンの子にして、炎を司る竜姫なり。以後、よろしく頼む」
「ああ。よろしく。改めて、俺はルト。こっちの二人はヒーリにピオスだ」
「よろしくお願いします、ルージュ様」
「よろしくお願いしますね、ルージュさん」
「それと、こいつらも俺の仲間だ」
俺はそう言って、今目覚めている七つの大罪をフル装備する。
ヒーリたちはもう慣れているが、ルージュは急に現れた武具に驚いているようだ。
『どーも! グラです! よろしく!』
『アワリティアです。よろしくお願いします』
『僕はスペルビア。よろしくしてやってもいいよ?』
『もう突っ込みませんわよ? わたくしはインウィディア。よろしくお願いいたしますわ』
『俺はイラだ。あんたとは、いい喧嘩相手になれそうだぜ』
「イラ、その場合戦うのは俺になるんじゃないか……?」
『ははは、細かいことは気にするなよマスター!』
「いや、全然細かくは無いからな?」
「ほ、ほう。そやつらは意志を持っているのか……まこと珍しい」
「そうなんだ。だからルージュも、仲良くしてくれると嬉しい」
「うむ! 他ならぬご主人様の頼みだ。よろしく頼むぞ!」
「……ん?」
ちょっと待て。今なんか呼び方がおかしくなかったか?
「なぁルージュ? 俺はいつからお前のご主人様とやらになったんだ?」
「む? 先ほど我のことを受け入れてくれたでは無いか。その時だぞ」
「……えっ!?」
「ご主人様はあの男と似た能力を持っているだろう? どうやらその力の影響での。我はご主人様のものになってしまっているようだ」
『マイマスター。ルージュさんは【テイム】の影響下に入ってしまっているようです』
「……つまり?」
『ルージュさんはマイマスターのテイムモンスターになってしまったということです。
……この場合ルージュさんはモンスターではありませんので、しもべと言った方がいいでしょうが』
「うむ。というわけでな。これからよろしく頼むぞ、ご主人様!」
そう、とびきりの笑顔で言うルージュ。
まぁ、なんだ。あれだ。竜種というとびきり強い味方を手に入れた、と考えれば精神衛生上の問題は無いだろう。
たとえそれが、御し難いドMドラゴンだとしてもだ。
「……あぁ。よろしく頼む」
「心強い仲間を得ましたね、ルトさま」
後ろからとびきりの笑顔でそう言うピオス。どうにも俺には、面白がっているようにしか見えないんだがな。
俺はそれにため息混じりに答える。
「……本当にそう思ってるか?」
「ええ。もちろんでございます。これで、神聖ウルノキア皇国に対抗出来る手札が増えたとも言えますから」
「なるほどな。確かに竜種はそれだけの力がある、か」
ピオスと共にルージュに視線を向けていると、首を傾げてルージュが聞いてくる。
「む? 何の話だ?」
「何でも──いや、そうだな。ルージュが俺たちの仲間になるって言うなら、俺たちの事情も話しておかないとな。これからどこに向かって、どんなことをするのかとか」
「我が聞いてしまっても良いのか?」
「こうなったら一蓮托生だ。お前にも活躍してもらうつもりだから、期待してるよ」
「期待……期待か。うむ。任せるがいい。して、どういった事情で旅をしているのだ?」
「その話の前に、まず馬車に戻ろう。このままここで立ち話も何だしな。馬車の中を見たら、ルージュもびっくりするんじゃないか?」
「はっはっは。竜種たる我が驚くなど、そうそうあるものでは──のぉぉ!? 何だこの広さは!? 本当にこれが馬車なのか!?」
「あぁ、やっぱ竜種でも驚くようなものなんだな、この馬車は」
そうして俺たちは、ルージュという新たな仲間を加えて、神聖ウルノキア皇国への旅を続けるのだった。
一日目は馬車の旅が初めてということもありそれなりに楽しかったが、二日目、三日目となるとそれなりに飽きてくる。まぁ、やることが無いから仕方ないのだが。
「ナイフ!」
『ふ、ふ、ふ? ふー、フェアリー!』
『リンゴ』
『ゴぉ? ゴブリン、はダメだし……あ、ゴマ!』
『魔法ですわ』
『うー、馬!』
「まか……ま、マッドスライム」
「む、むむむ……」
最早やることが無さすぎてみんなでしりとりをやっているくらいだ。このしりとりも、もう何回もやっているから飽きてきてはいるのだが。
そんなことをしていると、いつもは揺れない馬車がズズン、と揺れた。
何事だと思っていたら、御者席の方から何とも言えない表情をしたピオスが現れた。
「どうした?」
「あー、ルトさま。ルトさまにお客様です」
「俺に客?」
こんな街道とも呼べないくらいの道の真ん中でか?
覚えている限り、この近くには街どころか村もなくて、しばらくは野宿になるなと思っていたのだが……。
だが、ピオスは俺を指名という。微妙な表情を浮かべていたピオスに、嫌な予感画止まらない。
仕方なく馬車から降りた俺を待っていたのは、馬車全体を包むような大きな影と、生暖かい鼻息だった。
『ようやく見つけたぞ、人間!』
「え、は、竜!?」
そう。そこに立っていたのは、木々よりもさらに身長の高い、赤い鱗を持つ竜種。
それが、周りの木々をへし折りつつ、目の前に降り立った。
こいつは、あれだよな。クルーエルの時の竜……で良いんだよな?
どうやら戦った時の怪我はもう治っているようだ。あれだけの大怪我が一週間程度で治るとか、やはり竜種は規格外なのかもしれない。
……と、現実逃避をしている場合じゃなかったな。一体こいつは俺に何の用なんだ?
ようやく見つけた……つまり、この竜は今まで俺の事を探していたということだ。
こいつはクルーエルに操られていたわけだが、まさかその時の傷について何かを請求しようと言うのだろうか?
とりあえず話を聞かないことには始まらないと思い、竜に問いかける。
「あー、えっと、とりあえず俺はあんたのことをどう呼べばいい?」
「ふむ? 我の名を所望するか。良かろう。我は偉大なる竜帝の子にして赤き者の名を賜りし者なり!」
「つまり、あんたのことはルージュと呼べばいいと?」
「許そう。そして、我が名を伝えたのだ。人間……貴様の名を告げるがいい」
「俺はルト。ただのルトだ」
「ふむ。ルトか……ではルト。我は汝に願いがある」
「願い?」
赤き竜……ルージュは両手を上げてその腹を見せると、響き渡るような大声で言った。
『汝の持つ剣で、我が腹を穿って欲しい!』
訪れる静寂。バサバサと、木々の方から鳥たちが飛び立っていく音だけが聞こえた。
……こいつ、今何て言った? 何だか、妙な言葉が聞こえたような気がしたんだが。
『む? 聞こえなかったのか? 汝のあのすっごい剣で我の腹を……翼でも良いのだが、ぶち抜いて欲しいのだ!』
「何言ってやがるんだこの竜は!?」
何だ? 俺の頭がおかしくなったのか? 街で散々酒を飲まされたから、頭がバカになってるのか?
そうでないなら、俺は一体何をさせられようとしているんだ? と言うか、わざわざ俺を探してまでしてもらいたことがそれか!?
俺は思わず後ろを振り返る。
そこには、なんとも言えない表情をしたピオスとヒーリの姿があった。
その視線は、どこか俺の事を責めているようにも見える。
「ルトさま……」
「ルトさん……」
「待ってくれ! 俺は何も悪くない! そもそもだ! 何でルージュは俺にそんなことをして欲しいんだ!?」
「む、そんなことだと? 我にとっては大事なことなのだが」
「いいから答えてくれ」
俺がそう詰めると、ルージュはやれやれと言わんばかりに話し始めた。
「むぅ。仕方ないな。我があの男にいいように操られていたのは分かっているとは思うが」
「ああ。それは分かってる。だが、それで何であんなお願いに繋がるんだ?」
「汝、忘れたとは言わせないぞ? あれだけ激しく、我が腹と翼をぶち破ったのに」
いや、あの、その言葉を発しながら指先をちょんちょんってやるのやめてくれないか? 何やら別の意味に聞こえてくる。実際は、普通に命のやり取りをしていただけじゃないか。
「腹の方はクルーエルがルージュの上に乗っていたからだし、翼の方はヒーリたちの元へと向かったクルーエルを追いかけるためにだな……」
「そう。我は今まで痛みというものを知らなかったのだ。我ら竜種は強いからな。痛みを知らずに生きるものがほとんどなのだ」
「いやまぁ、強いとは思うが」
竜は強くて、強いからこそ痛みなんてほとんど感じない。それは分かる。
分かるが、どうして痛みを受けたいという願いになるのか、それが分からない。やはり竜種は人と感性が違うのだろう。
「それで、恥ずかしい話なのだが、汝の剣を受けた時、痛みと共に感じたことの無い感覚が全身を駆け巡ってな。もう一度その感覚を味わいたいと思っても、我は竜種。生半可な攻撃では痛みを受けられぬ。故に汝を探していたというわけだ」
「ただのドMじゃないかッ!」
「ドエム!? 何だその心惹かれる響きはッ!?」
いや、本当に何なんだ!? 俺が一体何をしたと言うんだ!?
だって、仕方ないだろう? あの時の判断は間違ってなかったと思うし、少しでも判断が遅れていたらピオスかヒーリのどちらかが死んでしまっていてもおかしくない状況だった。だから俺は、俺の選択に後悔はない。
後悔はないが、その結果がこれか……!
『それに、汝を見ていると何故か股が疼いてくるのでな。汝に会ってから初めてなことだらけだ。だからこそ、我は汝を……ルトを探していたというわけだ』
「な、なるほど」
というか、その姿で股が疼くとか言うの止めてもらえるか? 竜に好かれてもこれっぽっちも嬉しくないわけだが。
それに黙ってはいるが、大罪たちはこの状況を見て楽しんでいるようにも思える。さっきからずっと微かに笑い声が漏れてきてるからな。
『というわけで我もルトの旅に着いていくぞ! 拒否されたらそこらの街で暴れ回ってやるからな!』
「とんでもない脅迫だ……」
ルージュがそこらの街で暴れたら大変なことになるだろう。何せ彼女は竜種で、ピオスが真正面から戦うのは避けたいと思うレベルには強い存在なのだ。
きっと街の一つや二つは平気で滅ぼせるだろう。あの時街を焼いていた炎のブレスも脅威だしな。
俺は半ば諦めの気持ちで、後ろの二人に振り返った。
「……と、言っているがどうする? 俺個人としては消去法で受け入れるしかないと思っているんだが」
「まぁ、私たちもダメとは言えませんよね」
「そのせいで街が滅んでしまうのはちょっと……」
「だよな……あー、ルージュ? ちょっといいか?」
『うむ』
「その、小さくなったりとか出来るか? さすがにその大きさのお前を連れて行くのは難しいんだが」
『なんだ。そんなことか。それくらいならばお易い御用だ』
ルージュがそう言うや否や、その身体が赤い光に包まれた。
目も開けていられないほどの光が輝き、その光が収まると、そこには一人の女の子がいた。
ルージュの鱗と同じ色の髪に、左右に出っ張った二本の角。
つり目がちで、勝ち気そうな表情を浮かべる八重歯が魅力的な女の子は、腰に手を当てて「どうだ! これが我の新たなる姿よ!」と自信満々に叫んだ。
……とりあえず服は着てるな。よし。
「そなたら人間の姿を模してみたが、どうだ? この姿であればついて行っても問題はあるまい?」
「……ああ。問題なし。むしろ、かなり可愛いから驚いてるよ」
「か、可愛いか。そうか、そうか。我は可愛いか。むふふ、そうかそうか」
俺に可愛いと言われたルージュは、どこか照れたような表情でもじもじとしだした。こうやって見ると、さっきの竜種と同一人物……竜物? には見えないな。本当に可愛い人間の女の子だ。
まぁ、人間には生えていない角なんかは生えていたりするが。
ひとしきりニヤニヤした笑顔を浮かべていたルージュは、俺たちの視線に気付いたのかわざとらしく咳払いをした。
「こほん。さて、改めて自己紹介をしよう。我が名は、ルージュ・ヴァーミリオン。偉大なる竜帝、カイザー・ヴァーミリオンの子にして、炎を司る竜姫なり。以後、よろしく頼む」
「ああ。よろしく。改めて、俺はルト。こっちの二人はヒーリにピオスだ」
「よろしくお願いします、ルージュ様」
「よろしくお願いしますね、ルージュさん」
「それと、こいつらも俺の仲間だ」
俺はそう言って、今目覚めている七つの大罪をフル装備する。
ヒーリたちはもう慣れているが、ルージュは急に現れた武具に驚いているようだ。
『どーも! グラです! よろしく!』
『アワリティアです。よろしくお願いします』
『僕はスペルビア。よろしくしてやってもいいよ?』
『もう突っ込みませんわよ? わたくしはインウィディア。よろしくお願いいたしますわ』
『俺はイラだ。あんたとは、いい喧嘩相手になれそうだぜ』
「イラ、その場合戦うのは俺になるんじゃないか……?」
『ははは、細かいことは気にするなよマスター!』
「いや、全然細かくは無いからな?」
「ほ、ほう。そやつらは意志を持っているのか……まこと珍しい」
「そうなんだ。だからルージュも、仲良くしてくれると嬉しい」
「うむ! 他ならぬご主人様の頼みだ。よろしく頼むぞ!」
「……ん?」
ちょっと待て。今なんか呼び方がおかしくなかったか?
「なぁルージュ? 俺はいつからお前のご主人様とやらになったんだ?」
「む? 先ほど我のことを受け入れてくれたでは無いか。その時だぞ」
「……えっ!?」
「ご主人様はあの男と似た能力を持っているだろう? どうやらその力の影響での。我はご主人様のものになってしまっているようだ」
『マイマスター。ルージュさんは【テイム】の影響下に入ってしまっているようです』
「……つまり?」
『ルージュさんはマイマスターのテイムモンスターになってしまったということです。
……この場合ルージュさんはモンスターではありませんので、しもべと言った方がいいでしょうが』
「うむ。というわけでな。これからよろしく頼むぞ、ご主人様!」
そう、とびきりの笑顔で言うルージュ。
まぁ、なんだ。あれだ。竜種というとびきり強い味方を手に入れた、と考えれば精神衛生上の問題は無いだろう。
たとえそれが、御し難いドMドラゴンだとしてもだ。
「……あぁ。よろしく頼む」
「心強い仲間を得ましたね、ルトさま」
後ろからとびきりの笑顔でそう言うピオス。どうにも俺には、面白がっているようにしか見えないんだがな。
俺はそれにため息混じりに答える。
「……本当にそう思ってるか?」
「ええ。もちろんでございます。これで、神聖ウルノキア皇国に対抗出来る手札が増えたとも言えますから」
「なるほどな。確かに竜種はそれだけの力がある、か」
ピオスと共にルージュに視線を向けていると、首を傾げてルージュが聞いてくる。
「む? 何の話だ?」
「何でも──いや、そうだな。ルージュが俺たちの仲間になるって言うなら、俺たちの事情も話しておかないとな。これからどこに向かって、どんなことをするのかとか」
「我が聞いてしまっても良いのか?」
「こうなったら一蓮托生だ。お前にも活躍してもらうつもりだから、期待してるよ」
「期待……期待か。うむ。任せるがいい。して、どういった事情で旅をしているのだ?」
「その話の前に、まず馬車に戻ろう。このままここで立ち話も何だしな。馬車の中を見たら、ルージュもびっくりするんじゃないか?」
「はっはっは。竜種たる我が驚くなど、そうそうあるものでは──のぉぉ!? 何だこの広さは!? 本当にこれが馬車なのか!?」
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