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神器争奪編
四百五十一話
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「先刻のドルゲニアではドーモです。
あれだけの恥辱を受けたのです、それはもう毎夜、どれだけ枕を濡らしたことか。
ギデさん、私が今日という日をどれだけ待ちわびていたのか分かりますか?
穢されたこの身を清めるには、貴方にも同様の想いをさせるしかないですよぉ~」
顔を紅潮させたまま相手を非難する。
自分の非を認めることは決してなく、常に被害者のように振る舞う。
誤解を招くように、わざと意味深な発言をしながら、興奮気味に語る変態がそこにいた。
ドルゲニアの時とさして変わってはいない。
そんな彼女にギデオンは目もくれようようとはしない。
相手にするだけ無駄ということだ。
他者の話を聞こうともせずに、自分だけが言いたいことを言う。
男でも女でも、そんな身勝手な者が真っ当に相手されるわけがない。
『なんて無礼なヤツなんだ! カナはちゃんと挨拶しているのに』
本人の代わりに怒りをあらわにしたのは、二体の精霊たちだった。
アマナとカムナという摩訶不思議な存在。
諸説あるが知覚と気をつかさどる精霊とされている。
彼らはカナデから生まれた輝く光球、その中に住む小人。非常に感受性が豊かであり、お喋りだ。
カナデが手にする大鎌はオーソライズキャリバーによって武器に変化したアマナとカマナである。
この女こそ、ワイズメルシオンの賢者でありブラックバカラの幹部も兼任している。
さして脅威を感じないし、実際に強敵というわけでもない。
なのに、何故かカナデの周りには嫌な空気が立ち込めている。
いかなる状況も淡々と受け流す姿勢と、したたかさは自信の表れとも取れる。
「今日は信者たちが一緒じゃないのか? 彼らがいなくて大丈夫なのか?」
「皮肉のつもりで? カナカナたちは戦争しにきたのではなく、貴方たち不穏分子を説得しにきたのですよぉ。
それに、大群を投じるだけ時間と労力がかさむでしょ。
美しくないのですよ、そういう数でどうにかしようなんて」
「どの口が言うんだ。
ドルゲニア公国で暴動を起こしたことを忘れたとは言わせないぞ」
「やだぁ~、ケースバイケースって奴ですよぉ」
両手を口元の前にかざし、はしゃぐカナデの姿はいつになく人を小馬鹿している。
やはり、会話するだけコチラのペースが掻き乱される。
溜息をつきながらギデオンは少女と対峙した。
「無駄なお喋りはそこまでだ」
練功による闘気が右腕のガントレットに込められてゆく。
蒼白い光のラインが全体拡がると、ガントレットのパーツがリフトアップした。
その合間から放出される闘気が加速力となり、ギデオンの剣戟の威力を増幅させる。
エイルからもたらされた力により、黒薔薇たちを狩り取る。
プラーナで生成した刃を握りしめると、ギデオンの方から先に仕掛けた。
「そういえば、貴方には、まだシオンとして名乗り上げていませんでしたね」
剣閃が火花を散らす。
ギデオンの斬撃を受け止めたのはカナデ自身ではなく、彼女の周囲に浮遊する硬質な金属の盾だった。
「魔法か!」
黒色のヘキサゴン。それは地属性の魔法だった。
本来、地属性は天属性と相性が悪く、このようにガードすること自体、容易ではないはすだ。
しかも、あり得ないことに、いかなる物も一刀両断することができるギデオンの一撃を軽々しのでみせた。
思いがけない番狂わせに、剣を握る手が震え出していた。
「力でどうにかできる物でもないんですよぉ~。
カナカナの能力は事実の上書き、改変。
貴方がいくら強くとも攻撃が攻撃にならないのなら、悲しいだけですねぇ」
「クッ、リッシュのバリュエーションに近い弱体化能力か。
いや……これは、それの上位互換に該当するのか?
コイツは不味いぞ……僕の行動が全て不利なカタチに変えられてしまう」
「どーでもいいですけどぉ。それだけがカナカナの全てではないんですよ。
ギデさん、貴方はもうすでにコチラの射程内に入ってしまっているんですよ」
カナデの言葉に合わせて、ギデオンの身体がガクッと下がった。
どこも負傷していないのに、急な脱力感が全身を駆け巡ってきた。
「な、なんだ……これは? 意識が朦朧とする。いったい……何を…………したんだ?」
「貴方に毒は効果ないので、睡眠薬を投与したんですよ。
申し遅れました私はポイズンピル。
シオンの賢者にして猛毒と薬品のスペシャリスト……そして貴方の運命を狂わせた張本人なんですねぇ~」
「まっ……まさか! お前がそうなのか? 僕を操り、司教様を手にかけた。
ぜ、んぶ…………お前のしわざ……だな」
「さぁ、どうでしょう? 真実とは時に残酷なものですよ。
仕組んだのは私、カナカナですが、実行犯が誰なのか? 貴方が一番知っているはずです」
その瞬間、ギデオンの全身に寒気が走った。
あまりにも現実味を帯び過ぎている、あの悪夢の正体。
すべてを理解するのに時間はかからなかった。
猛毒に苦しみ、息絶えてゆくエゼックト司教の最期は実際に彼自身が目にした光景だ。
それが意味するところは、ギデオンにとって受け入れ難い真実でしかない。
あれだけの恥辱を受けたのです、それはもう毎夜、どれだけ枕を濡らしたことか。
ギデさん、私が今日という日をどれだけ待ちわびていたのか分かりますか?
穢されたこの身を清めるには、貴方にも同様の想いをさせるしかないですよぉ~」
顔を紅潮させたまま相手を非難する。
自分の非を認めることは決してなく、常に被害者のように振る舞う。
誤解を招くように、わざと意味深な発言をしながら、興奮気味に語る変態がそこにいた。
ドルゲニアの時とさして変わってはいない。
そんな彼女にギデオンは目もくれようようとはしない。
相手にするだけ無駄ということだ。
他者の話を聞こうともせずに、自分だけが言いたいことを言う。
男でも女でも、そんな身勝手な者が真っ当に相手されるわけがない。
『なんて無礼なヤツなんだ! カナはちゃんと挨拶しているのに』
本人の代わりに怒りをあらわにしたのは、二体の精霊たちだった。
アマナとカムナという摩訶不思議な存在。
諸説あるが知覚と気をつかさどる精霊とされている。
彼らはカナデから生まれた輝く光球、その中に住む小人。非常に感受性が豊かであり、お喋りだ。
カナデが手にする大鎌はオーソライズキャリバーによって武器に変化したアマナとカマナである。
この女こそ、ワイズメルシオンの賢者でありブラックバカラの幹部も兼任している。
さして脅威を感じないし、実際に強敵というわけでもない。
なのに、何故かカナデの周りには嫌な空気が立ち込めている。
いかなる状況も淡々と受け流す姿勢と、したたかさは自信の表れとも取れる。
「今日は信者たちが一緒じゃないのか? 彼らがいなくて大丈夫なのか?」
「皮肉のつもりで? カナカナたちは戦争しにきたのではなく、貴方たち不穏分子を説得しにきたのですよぉ。
それに、大群を投じるだけ時間と労力がかさむでしょ。
美しくないのですよ、そういう数でどうにかしようなんて」
「どの口が言うんだ。
ドルゲニア公国で暴動を起こしたことを忘れたとは言わせないぞ」
「やだぁ~、ケースバイケースって奴ですよぉ」
両手を口元の前にかざし、はしゃぐカナデの姿はいつになく人を小馬鹿している。
やはり、会話するだけコチラのペースが掻き乱される。
溜息をつきながらギデオンは少女と対峙した。
「無駄なお喋りはそこまでだ」
練功による闘気が右腕のガントレットに込められてゆく。
蒼白い光のラインが全体拡がると、ガントレットのパーツがリフトアップした。
その合間から放出される闘気が加速力となり、ギデオンの剣戟の威力を増幅させる。
エイルからもたらされた力により、黒薔薇たちを狩り取る。
プラーナで生成した刃を握りしめると、ギデオンの方から先に仕掛けた。
「そういえば、貴方には、まだシオンとして名乗り上げていませんでしたね」
剣閃が火花を散らす。
ギデオンの斬撃を受け止めたのはカナデ自身ではなく、彼女の周囲に浮遊する硬質な金属の盾だった。
「魔法か!」
黒色のヘキサゴン。それは地属性の魔法だった。
本来、地属性は天属性と相性が悪く、このようにガードすること自体、容易ではないはすだ。
しかも、あり得ないことに、いかなる物も一刀両断することができるギデオンの一撃を軽々しのでみせた。
思いがけない番狂わせに、剣を握る手が震え出していた。
「力でどうにかできる物でもないんですよぉ~。
カナカナの能力は事実の上書き、改変。
貴方がいくら強くとも攻撃が攻撃にならないのなら、悲しいだけですねぇ」
「クッ、リッシュのバリュエーションに近い弱体化能力か。
いや……これは、それの上位互換に該当するのか?
コイツは不味いぞ……僕の行動が全て不利なカタチに変えられてしまう」
「どーでもいいですけどぉ。それだけがカナカナの全てではないんですよ。
ギデさん、貴方はもうすでにコチラの射程内に入ってしまっているんですよ」
カナデの言葉に合わせて、ギデオンの身体がガクッと下がった。
どこも負傷していないのに、急な脱力感が全身を駆け巡ってきた。
「な、なんだ……これは? 意識が朦朧とする。いったい……何を…………したんだ?」
「貴方に毒は効果ないので、睡眠薬を投与したんですよ。
申し遅れました私はポイズンピル。
シオンの賢者にして猛毒と薬品のスペシャリスト……そして貴方の運命を狂わせた張本人なんですねぇ~」
「まっ……まさか! お前がそうなのか? 僕を操り、司教様を手にかけた。
ぜ、んぶ…………お前のしわざ……だな」
「さぁ、どうでしょう? 真実とは時に残酷なものですよ。
仕組んだのは私、カナカナですが、実行犯が誰なのか? 貴方が一番知っているはずです」
その瞬間、ギデオンの全身に寒気が走った。
あまりにも現実味を帯び過ぎている、あの悪夢の正体。
すべてを理解するのに時間はかからなかった。
猛毒に苦しみ、息絶えてゆくエゼックト司教の最期は実際に彼自身が目にした光景だ。
それが意味するところは、ギデオンにとって受け入れ難い真実でしかない。
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