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神器争奪編
四百五十話
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最愛の友、相棒を失ってしまった。
嘆きや悲しみが押し寄せてくる中でも、それらをグッとこらえる。
でなければ、最後に託してくれた彼の希望が無駄になってしまう。
それは、ギデオンを救うべく雑木林を駆け抜けてきた。
疾風よりも早く、木の葉のごとく空を舞い主の元へと馳せ参じた。
白狼のハーティ。
ギデオンが創り出した聖獣であり、スコルとは相反する能力を持っている。
破壊がスコルの使命なら、誕生こそがハーティの担う役割だ。
過去を振り払い、未来を導く。
そのために彼女は、絶えず走り続けていた。
ハーティのおかげで、絶望の淵に立たされていてもギデオンは前へ進むことができる。
その先に道が敷かれていなくとも、歩く勇気を分けてくれる。
自分は決して独りではないと誰かが支えてくれる限り、何度でも立ち上がる。
ギデオン・グラッセはそういう男であり、ギデという冒険者は未知なる世界を切り拓いてゆくハンターだ。
「スコルはいなくなったわけじゃない。
これからも、僕たちと心を通わせながら傍にいてくれる。
だから、そんなに辛そうな表情をするな、ハーティ」
低い鳴き声を出して項垂れている、ハーティの喉元を優しく撫でると気持ち良さそうに瞳を細めていた。
スコルが消滅したことは、同様の存在である彼女もすでに理解している。
「居たたまれない言葉をブチまくのは、すべてが片付いた時でいい。
今は、奴らに思いの丈を叩きつけてやる。
そうしないとスコルが浮かばれないし、なにより僕自身が奴らを赦すことなどできない」
「またまた、こわぁ~い。
そんな怖いことを言う人には、お仕置きが必要ですねぇー」
視線の先には、大鎌を携えるカナデの姿があった。
それだけでなく、同時に空間の壁を開いて現れたのは淑女という言葉がピッタリと当てはまるドレスの女性と、オーリエ・クラウゼの美術館にいた青年だった。
わざわざ、向こうが名乗らなくても、人をかどわかすような甘ったるい香の匂いは一度嗅いだら忘れられない。
国境を越えドルゲニア公国を侵略しようとしたブラックバカラの教祖。
間違いなく女の正体は魔女マリーヴェンシルだ。
「アイツ、母さんの方ばかり見ているよ。本当に卑しい奴だ」
伸びた前髪をおろし片目を隠す青年が、しかめっ面で暴言を吐き出していた。
彼の横柄な態度は、以前とまったく変わりない。
自分たち黒薔薇の使徒こそが世界の正義だと言わんばかりに、気に食わない者を否定してくる。
「こら、ピーちゃん。滅多なことを言わないの。
これじゃ教団の人が差別主義者と勘違いされてしまうわ。
人の運命は皆それぞれなのだから、中には私の救いを必要とする傷だらけの鳥さんだっているのよ」
「実質、初対面なのに好き勝手言ってくれるじゃないか、マリーヴェンシル。
僕が鳥ならアンタは何だ? まさか、神とでも名乗るつもりか?」
聖銃と化したハーティの銃口をマリーヴェンシルの方へと向ける。
ギデオンの行為にガマンならないと青年が顔を真っ赤にして即座に前へと出てきた。
すると、大鎌の柄頭が地面に強く叩きつけられた。
ドスンと響く重量ある音に青年の脚は思わず止まった。
「易い挑発ですやん、ピーさん。
貴方の仕事は母様の護衛であることを忘れないでくださいよ。
ホント、ラモードを見習った方がえーですよ。
なんせ、あの厄介な聖剣を使えなくしたのですから大活躍じゃないですか!」
「頭を触らないで……子供じゃないから」
頭を撫でようするカナデに、ラモードが愛想なく答えた。
「そっか……アハハッ」と苦笑しながら伸ばした手を引っ込めるが、褒める気持ちなど最初から微塵もなかったのだろう。
カナデは平然した様子で、ギデオンの方へと歩いてきた。
「どうやら、お仲間も揃ったみたいですね。
キャハッ! そろそろぉ、私たちも始めましょうか?」
こちらに向かって走ってくるラスキュイとジャスベンダーを見ながら、カナデが冷淡な笑みを浮かべる。
メイド服の上から外套を羽織る少女の姿は違和感しかなかった。
「そうそう、面白い物を持ってきたんですよ。
貴方のハートもワシ掴み! 皆の天使、カナカナでぇーす」
「ふざけるのも大概にしろ、何だの布切れは?」
ウィンクするカナデを瞬時にバッサリと斬り捨てる。
辛辣なギデオンの言葉にケラケラと笑いながら、カナデは手にした包みを広げた。
そこに、おさまっていたのは完全に血抜きされた臓器のような物体だった。
これが何なのか? いくら問い詰めてもカナデは答えようとはしない。
人間の物か、動物の物かさえも分からないグロテスクな物体を見せられた挙句、特定できない。
悪質な臭わせにギデオンも気分を害し、カナデに対して闘気を燃焼させる。
「心理戦のつもりかは知らないが、お前は色々やり過ぎだ。
ラモードとは違い明確な悪意しかない。
お前には一切の手心は加えない、覚悟し後悔しろ」
嘆きや悲しみが押し寄せてくる中でも、それらをグッとこらえる。
でなければ、最後に託してくれた彼の希望が無駄になってしまう。
それは、ギデオンを救うべく雑木林を駆け抜けてきた。
疾風よりも早く、木の葉のごとく空を舞い主の元へと馳せ参じた。
白狼のハーティ。
ギデオンが創り出した聖獣であり、スコルとは相反する能力を持っている。
破壊がスコルの使命なら、誕生こそがハーティの担う役割だ。
過去を振り払い、未来を導く。
そのために彼女は、絶えず走り続けていた。
ハーティのおかげで、絶望の淵に立たされていてもギデオンは前へ進むことができる。
その先に道が敷かれていなくとも、歩く勇気を分けてくれる。
自分は決して独りではないと誰かが支えてくれる限り、何度でも立ち上がる。
ギデオン・グラッセはそういう男であり、ギデという冒険者は未知なる世界を切り拓いてゆくハンターだ。
「スコルはいなくなったわけじゃない。
これからも、僕たちと心を通わせながら傍にいてくれる。
だから、そんなに辛そうな表情をするな、ハーティ」
低い鳴き声を出して項垂れている、ハーティの喉元を優しく撫でると気持ち良さそうに瞳を細めていた。
スコルが消滅したことは、同様の存在である彼女もすでに理解している。
「居たたまれない言葉をブチまくのは、すべてが片付いた時でいい。
今は、奴らに思いの丈を叩きつけてやる。
そうしないとスコルが浮かばれないし、なにより僕自身が奴らを赦すことなどできない」
「またまた、こわぁ~い。
そんな怖いことを言う人には、お仕置きが必要ですねぇー」
視線の先には、大鎌を携えるカナデの姿があった。
それだけでなく、同時に空間の壁を開いて現れたのは淑女という言葉がピッタリと当てはまるドレスの女性と、オーリエ・クラウゼの美術館にいた青年だった。
わざわざ、向こうが名乗らなくても、人をかどわかすような甘ったるい香の匂いは一度嗅いだら忘れられない。
国境を越えドルゲニア公国を侵略しようとしたブラックバカラの教祖。
間違いなく女の正体は魔女マリーヴェンシルだ。
「アイツ、母さんの方ばかり見ているよ。本当に卑しい奴だ」
伸びた前髪をおろし片目を隠す青年が、しかめっ面で暴言を吐き出していた。
彼の横柄な態度は、以前とまったく変わりない。
自分たち黒薔薇の使徒こそが世界の正義だと言わんばかりに、気に食わない者を否定してくる。
「こら、ピーちゃん。滅多なことを言わないの。
これじゃ教団の人が差別主義者と勘違いされてしまうわ。
人の運命は皆それぞれなのだから、中には私の救いを必要とする傷だらけの鳥さんだっているのよ」
「実質、初対面なのに好き勝手言ってくれるじゃないか、マリーヴェンシル。
僕が鳥ならアンタは何だ? まさか、神とでも名乗るつもりか?」
聖銃と化したハーティの銃口をマリーヴェンシルの方へと向ける。
ギデオンの行為にガマンならないと青年が顔を真っ赤にして即座に前へと出てきた。
すると、大鎌の柄頭が地面に強く叩きつけられた。
ドスンと響く重量ある音に青年の脚は思わず止まった。
「易い挑発ですやん、ピーさん。
貴方の仕事は母様の護衛であることを忘れないでくださいよ。
ホント、ラモードを見習った方がえーですよ。
なんせ、あの厄介な聖剣を使えなくしたのですから大活躍じゃないですか!」
「頭を触らないで……子供じゃないから」
頭を撫でようするカナデに、ラモードが愛想なく答えた。
「そっか……アハハッ」と苦笑しながら伸ばした手を引っ込めるが、褒める気持ちなど最初から微塵もなかったのだろう。
カナデは平然した様子で、ギデオンの方へと歩いてきた。
「どうやら、お仲間も揃ったみたいですね。
キャハッ! そろそろぉ、私たちも始めましょうか?」
こちらに向かって走ってくるラスキュイとジャスベンダーを見ながら、カナデが冷淡な笑みを浮かべる。
メイド服の上から外套を羽織る少女の姿は違和感しかなかった。
「そうそう、面白い物を持ってきたんですよ。
貴方のハートもワシ掴み! 皆の天使、カナカナでぇーす」
「ふざけるのも大概にしろ、何だの布切れは?」
ウィンクするカナデを瞬時にバッサリと斬り捨てる。
辛辣なギデオンの言葉にケラケラと笑いながら、カナデは手にした包みを広げた。
そこに、おさまっていたのは完全に血抜きされた臓器のような物体だった。
これが何なのか? いくら問い詰めてもカナデは答えようとはしない。
人間の物か、動物の物かさえも分からないグロテスクな物体を見せられた挙句、特定できない。
悪質な臭わせにギデオンも気分を害し、カナデに対して闘気を燃焼させる。
「心理戦のつもりかは知らないが、お前は色々やり過ぎだ。
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