異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
47 / 546

四十七話

しおりを挟む
蜜酒を使い、銃身の紅みが発光しつつ増してゆく。
どうやら、強化成功だ。
あとは、ヴォールゾックに一撃を見舞ってやるだけだ。

ところが、事はそう上手く進まない。
魔銃の変化に気づいたヴォールゾックが、いち早く二十人以上はいる集団の中に紛れこんでしまった。

混戦となり敵味方が入り乱れた状況の中で、ギデオンはクロッサとその兄の姿を発見した。
槍を構え、敵を薙ぎ払う妹と少し離れた後方から弓矢で支援攻撃をする兄。
絶妙なコンビネーションは息の合う兄妹だからこそ成せる業だろう。

とはいえ、今は敵のボスを見つけださないといけない。
切迫した空気の中、ギデオンの額から嫌な汗が流れ頬を伝う。
戦況はエルフの方が押しているような感じだ。
そもそも集落とはいえ外敵から民を守る為、村の周囲には堀や木の塀が設置されている。
敵が大人数で攻め込みにくいような山道にくわえて、バリケードだって作られている。

なのに、人攫いの集団は容易に侵入してきている。
普通では考えにくい。
陣地に立てこもる相手を制圧するには防衛側より何倍もの兵力を要する。
が、敵は少数精鋭で攻めてきている。
大自然の要塞を構築しているエルフの集落に対して、何のためらいもなく彼らはやってきたのだ。
この戦力差をひっくり返すほどの自信、余程の腕前を持っていなければ死地を求める戦にしかならない。

だが、それらを可能にする切り札は敵の手元にはある。
ヴォールゾックとあの魔剣だ。
特に魔剣の方は殲滅せんめつ兵器に近い。
戦況を一変にくつがえすことなど、容易だろう。

ギデオンは半ば強引に争闘の渦へと身を乗り出した。
飛び交う矢を避け、武器を構える敵を軽やかに剣でいなすと周囲に一閃を放つ。
一撃で三人の敵兵が崩れ落ちる。
斬ったと思ったら、次の相手を切り伏せている。
剣聖顔負けの剣技は、泥沼状態となっていた戦闘に早くも変化をもたらした。
他の戦士たちを圧倒し、追随を許さない。
そんな彼の凄さに、見入ってしまう戦士たちは敵味方問わず棒立ちになってしまう。
全員、彼の一挙一動を余すところなくまぶたに焼きつけようとしていた。

「ギデさん! 後ろです!」

真っ赤に染まった刃を振り上げ、勇往邁進ゆうおうまいしんする彼に、クロッサが叫ぶ。
身体をひねり、間近に迫った蛇の牙を薙ぎ払う。

「おほっ! マジか、一度ならず二度も、俺の蛇頭牙じゃとうがを防ぐとは……オジさん、カンゲキしちゃうよ」

「悠長に話している場合か!?」

ヴォールゾックの前に飛び掛かるギデオンの姿があった。
さしもの、ソードマンもこれには度肝を抜かれただろう。
眼を見開きながら、鼻を鳴らす。

「サジタリウスぅうう―――!!!」

短く伸縮を繰り返す魔剣の刃が、高速で解き放たれる。
あまりの速度により、周囲からはヴォールゾックの手元から刃の山が生えたように見える。

「それがどうしたぁぁああ!!」

ギデオンが銃を手に取り、素早く引き金をひく。
銃口から、放出されたのはいつもの魔弾ではない、黒炎だ。

ピストン運動を繰り返す刃が炎で焼かれる。
急いで消火しようとヴォールゾックは刃を振り回すが、消える気配は一向にない。
それも、そのはず。
ガルムの吐く炎は、闇属性魔法ダークフレイムそのものだ。
一度、引火したらと呼ばれる魔法で清めない限り消える事のない呪いの炎である。

「チクショ――め。やってくれるな」

熱を帯びて、真っ赤に溶けていく刃先を地面に叩きつけへし折るヴォールゾック。
迫りくるギデオンの追撃にあわせ、男はニヤリと悪意の笑みをこぼした。
折れて半分ほどになった刃を遠くにむけて伸ばした。
眼の前の彼を無視して、非情なる一撃が放たれる。

「貴様ァアアア――!!」

ヴォールゾックを蹴り飛ばし、即座に後ろを振り返る。
ギデオンはその光景を見て血が流れ出るほど拳を握りしめていた。
彼が見たモノは、胴体を刃に貫かれ串刺しとなったエルフの戦士たちだった。
その中にはクロッサや彼女の兄もいた。

言葉にならない怒りが全身を駆け巡り、ギデオンは引き金を引いた。
その先にある物は、黒炎に焼かれ焼却される魔剣の残り半分だった。

「わ……私は…………何を? どうして……こんな場所に」

地面に横たわったまま、ヴォールゾックは首だけを起こした。
全身を震わせながら、力なく呟く彼のつぶらな瞳には一筋の光が射していた。

「アンタは魔剣に支配されていたんだろうな。魔剣が消えたおかげで正気を取り戻したようだな」

「そうか……私はもう……。すまない……名も知らぬ少年よ。そして、私を止めてくれた事に感謝する――――この償いは地獄で済ませることに……しよう。もっとも、赦さることなどないだろうが」

「お互いにな……祈りは無いが、今度こそ安らかに眠れ」

「その言葉だけで……充分だ。少年よ、まだだ! まだ、この戦は……おわ――――」

「何ぃ? この戦いがどう……くっ」

意味深な一言と共に、ヴォールゾックは永い眠りについた。
この救われない魂にしてあげられる事は、開ききったままのまぶたを閉じてあげるぐらいだ。

彼の言葉が気になるも、ギデオンは負傷したエルフたちの元へと駆けよる。
わずかな希望を信じて。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...