62 / 545
六十二話
しおりを挟む
「本日、9時半にて蒸気機関ワイルドメアー号は当駅を出発する。それまで、各自準備を怠らぬように! いいな!」
共和国軍、兵長の号令が駅の構内に反響する。
早朝から、集合した冒険者たちはどこかガラの悪い連中が多かった。
内半分は重たい瞼を手で擦りながら適当な相槌を打つ。
もう半分は、周囲と会話するのに夢中で話すら聞いていない。
それもそのはずだ。
共和国軍は、都市部や聖王国首都の大規模なギルドに対して、護衛依頼を申請していなかった。
無駄な出費をはぶくために、片田舎や辺境のギルドのみを対象に募集をかけたのだ。
軍の行いはそれだけでギルド規約に違反する。
従来ならば、依頼を限定的に出すのは禁止されている。
お咎めなしなのは、国家権力がなせる力技だ。
共和国軍としても内々で解決したいのは山々だろう。
その想いとは裏腹に、彼らがギルドを頼り応援を要請しなければならないのは、それなりの理由がある。
ギデオンはその辺り事情を薄々と把握していた。
だが、依頼主が鉄道会社ではなかったのは正直、面を喰らった。
知っていたら、この手の依頼は引き受けなかった。
これは戦場に武器や弾薬、その他諸々の必需品を運ぶための輸送列車だ。
場合によっては、人材そのものが荷だったりもする。
どうやらシルクエッタたち、治癒師一向もこの列車に搭乗するようだ。
護衛がついているのは、道中の危険から彼女たちを守る為のモノだろう。
汽車が発車するまでの隙間時間。
手配された席に背負っていたカバンを下ろすとギデオンはおもむろに中を開いた。
蜜酒の入った瓶を手にして、中へと注ぎ込む。
そこには、鉢植えに入ったアルラウネの蕾があった。
こうして毎日、一度は蜜酒を与えて彼女の成長を促している。
なかなか目覚めてくれないのが、気がかかりではある。
さすがに、急速に成長するほど都合良くとはいかないのだろう。
実にもどかしくもあるが、その分成長するのが楽しみでもある。
「おら! 薄ノロ!! さっさと俺様たちの席を探せや――」
出発の時刻が迫っていた。
その頃になると、他の冒険者たちも列車の中に乗り込んできた。
今回、集まった冒険者はざっと数えて五十人ぐらいはいる。
因みに、前から順に一両目は共和国軍兵士。
二両目がシルクエッタたち治癒師と護衛騎士たち。
三両、四両は貨物倉庫。
そして、この五両目が冒険者用に用意された車両である。
一車両につき定員八十名、まず席が足りなくなる心配はない。
問題があるとすれば、傍にいる連中のモラルの低さだ。
「ったくよぉー、俺様たちは荷物以下かよ。軍人てのは、本当にイケ好かない奴らばかりだぜ!!」やけに偉そうな物言いをするリーダー格の男。
「そうそう! 俺たちに頼らなければ、なぁーんもできないくせにな」いかにも調子だけは良さそうな取り巻きの男。
「大体、鉄道に魔物が出るからってビビりすぎなんだよ! お前もそう思うよね? ティム!」紅一点、女の声もする。
「そ……そうだね。僕らがいれば怖いものなしさ!」その中心には彼らの玩具がいた。
「おっ、言うねぇ。そんじゃ、窓を全開にして箱乗りしてみようか!? 勿論、上は脱ぎなよ」
女は弄り役の男に、無茶苦茶な要求をする。
憂さ晴らしつもりなのだろうか?
まったく持って、他の人たちの迷惑など考えてもない。
「えええっ!! そ、そんな事したら風を引いちゃう……」
「ん? ああ!? なんだと! ティム、ずいぶんとシラケさせてくれるじゃねぇか?」
嫌がる彼に、リーダー格の男が凄んでいる。
そこを畳み掛けるように残りの二人がはやし立てる。
「でもよ、俺たちは知っているぜ。お前はやればできる子だってな! ギャハハハハッ――――」
「そうそう、アタイら、アンタには期待しているんだからさぁ~」
正直、ギデオンにとって彼らが何者で、どのような関係にあるのかは微塵も興味がなかった。
ただ、煩い!
はやく、黙れ! とつい、苛ついてしまう。
四人組の会話に不快感を示しているのは彼だけではない。
自分たちだけが良ければ、それでいいという態度は周囲の冒険者たちからも反感を買う流れになっていた。
それでも、彼らはプロだ。
こうしたトラブルに一々、私情を挟んでいてはキリがないという事をよく理解している。
弄られている者が助けを求めない以上、誰も動くことはない。
何より、今は任務中だ。
ここで余計な真似をして言い争うことになれば、後の仕事に差し支えが生じるかもしれない。
彼らの判断は冒険者として、極めて的確だった。
ティムと呼ばれている男は女の言うとおり上着を脱ぎだしていた。
彼らの動向を探るつもりはギデオンに全くない。
通路を挟んで向かい側の席に彼らがいるから、どうして映ってしまう。
ギデオンはふと考えた。
どうしたら連中を大人しくさせることができるのか?
という事を画策するよりも、もっと楽しい方法があるじゃないかと。
匙加減を間違えれば、騒ぎなってしまうかもしれない。
それでも、自分なら上手く立ち回れることを自覚している。
彼は彼ならではの流儀を持っている。
貴族時代に身につけたそれは、使いようによっては強力な武器となる。
共和国軍、兵長の号令が駅の構内に反響する。
早朝から、集合した冒険者たちはどこかガラの悪い連中が多かった。
内半分は重たい瞼を手で擦りながら適当な相槌を打つ。
もう半分は、周囲と会話するのに夢中で話すら聞いていない。
それもそのはずだ。
共和国軍は、都市部や聖王国首都の大規模なギルドに対して、護衛依頼を申請していなかった。
無駄な出費をはぶくために、片田舎や辺境のギルドのみを対象に募集をかけたのだ。
軍の行いはそれだけでギルド規約に違反する。
従来ならば、依頼を限定的に出すのは禁止されている。
お咎めなしなのは、国家権力がなせる力技だ。
共和国軍としても内々で解決したいのは山々だろう。
その想いとは裏腹に、彼らがギルドを頼り応援を要請しなければならないのは、それなりの理由がある。
ギデオンはその辺り事情を薄々と把握していた。
だが、依頼主が鉄道会社ではなかったのは正直、面を喰らった。
知っていたら、この手の依頼は引き受けなかった。
これは戦場に武器や弾薬、その他諸々の必需品を運ぶための輸送列車だ。
場合によっては、人材そのものが荷だったりもする。
どうやらシルクエッタたち、治癒師一向もこの列車に搭乗するようだ。
護衛がついているのは、道中の危険から彼女たちを守る為のモノだろう。
汽車が発車するまでの隙間時間。
手配された席に背負っていたカバンを下ろすとギデオンはおもむろに中を開いた。
蜜酒の入った瓶を手にして、中へと注ぎ込む。
そこには、鉢植えに入ったアルラウネの蕾があった。
こうして毎日、一度は蜜酒を与えて彼女の成長を促している。
なかなか目覚めてくれないのが、気がかかりではある。
さすがに、急速に成長するほど都合良くとはいかないのだろう。
実にもどかしくもあるが、その分成長するのが楽しみでもある。
「おら! 薄ノロ!! さっさと俺様たちの席を探せや――」
出発の時刻が迫っていた。
その頃になると、他の冒険者たちも列車の中に乗り込んできた。
今回、集まった冒険者はざっと数えて五十人ぐらいはいる。
因みに、前から順に一両目は共和国軍兵士。
二両目がシルクエッタたち治癒師と護衛騎士たち。
三両、四両は貨物倉庫。
そして、この五両目が冒険者用に用意された車両である。
一車両につき定員八十名、まず席が足りなくなる心配はない。
問題があるとすれば、傍にいる連中のモラルの低さだ。
「ったくよぉー、俺様たちは荷物以下かよ。軍人てのは、本当にイケ好かない奴らばかりだぜ!!」やけに偉そうな物言いをするリーダー格の男。
「そうそう! 俺たちに頼らなければ、なぁーんもできないくせにな」いかにも調子だけは良さそうな取り巻きの男。
「大体、鉄道に魔物が出るからってビビりすぎなんだよ! お前もそう思うよね? ティム!」紅一点、女の声もする。
「そ……そうだね。僕らがいれば怖いものなしさ!」その中心には彼らの玩具がいた。
「おっ、言うねぇ。そんじゃ、窓を全開にして箱乗りしてみようか!? 勿論、上は脱ぎなよ」
女は弄り役の男に、無茶苦茶な要求をする。
憂さ晴らしつもりなのだろうか?
まったく持って、他の人たちの迷惑など考えてもない。
「えええっ!! そ、そんな事したら風を引いちゃう……」
「ん? ああ!? なんだと! ティム、ずいぶんとシラケさせてくれるじゃねぇか?」
嫌がる彼に、リーダー格の男が凄んでいる。
そこを畳み掛けるように残りの二人がはやし立てる。
「でもよ、俺たちは知っているぜ。お前はやればできる子だってな! ギャハハハハッ――――」
「そうそう、アタイら、アンタには期待しているんだからさぁ~」
正直、ギデオンにとって彼らが何者で、どのような関係にあるのかは微塵も興味がなかった。
ただ、煩い!
はやく、黙れ! とつい、苛ついてしまう。
四人組の会話に不快感を示しているのは彼だけではない。
自分たちだけが良ければ、それでいいという態度は周囲の冒険者たちからも反感を買う流れになっていた。
それでも、彼らはプロだ。
こうしたトラブルに一々、私情を挟んでいてはキリがないという事をよく理解している。
弄られている者が助けを求めない以上、誰も動くことはない。
何より、今は任務中だ。
ここで余計な真似をして言い争うことになれば、後の仕事に差し支えが生じるかもしれない。
彼らの判断は冒険者として、極めて的確だった。
ティムと呼ばれている男は女の言うとおり上着を脱ぎだしていた。
彼らの動向を探るつもりはギデオンに全くない。
通路を挟んで向かい側の席に彼らがいるから、どうして映ってしまう。
ギデオンはふと考えた。
どうしたら連中を大人しくさせることができるのか?
という事を画策するよりも、もっと楽しい方法があるじゃないかと。
匙加減を間違えれば、騒ぎなってしまうかもしれない。
それでも、自分なら上手く立ち回れることを自覚している。
彼は彼ならではの流儀を持っている。
貴族時代に身につけたそれは、使いようによっては強力な武器となる。
10
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる