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八十七話
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「ゴホッ! ゴホッ! 痛い痛い痛い――!! 沁みる! この煙、目に沁みるぅぅ――」
暴漢と化す生徒たち。
多勢に無勢でいきがる彼らに恐ろしい制裁がくわえられた。
紅き煙を吸い込んだ途端、彼らはもだえ苦しみ始めた。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにする姿は、誰から見ても悲惨な状態だった。
「お味はどう? ミスリム特製の辛子弾よ! おいたが過ぎる、悪い子にはお仕置きが必要よね」
「よくもやりやがったなぁ~! この、変態痴女が!」
「だ、誰が痴女よ!!」
バージェニルの放った煙から逃げ惑う暴漢たち。
我先にと押しかけ合うが、目もまともに開けられない状態。
「のわああ―――!! てめぇ! ジャマだぁ――!!」
転倒し、互いの身体をぶつけ合い、しまいには仲間同士で取っ組み合いを始めてしまった。
それでも、辛子弾の餌食にならずに済んだ逆方向の一団が怯まずに攻めてきた。
決して恐れ知らずだからではない。
半分はヤケクソ気味だ。
「ちょちょと!! おいおいおおい――!!」
今度は、全員一斉に尻餅をつく。
冬でもないのに、地面が氷ついている。
すぐに立ち上がろうとするが、アイスバーンの上で醜悪に踊り続けている。
「よし!」魔術師の少女が満足気にうなづく。
それを皮切りに、ギデオンとブロッサムは二手にわかれ突撃を開始した。
相手の人数は確認できるだけで五十人近くはいる。
首狩り大刀や超重量の鉄鎚、投擲斧にダイナマイト。
どれも殺意に満ちた一品だが、全部ハッタリ用だ。
身近で分かる武器の状態。
どれも未使用であり、こびりついた血からは薬品の匂いしかしない。
ただ、微かに血の香りはする。
この男たちが、他の生徒を襲撃した可能性は大いにある。
当然、自分たちを襲ってきた時点で、彼らに手心をくわえようなどとは思っていない。
スコルを走らせ敵の動きを牽制する。
一人、二人、三人とリズムよく当身技を叩き込んでゆく。
一団を制圧するのに、そう時間を要さなかった。
「駄目だ、まだ臭いがする!」
ギデオンは慌てて、来た道を戻った。
此処までの間、暴漢たちの半数は倒してきた。
けれど、それは目視で確認できた人数だけだ。
明らかに異なる臭いが離れた場所からする。
少数ではなく、大所帯の臭いが!
「くっ、やはりか! 二人とも早く城の中へ逃げろ――――!!」
戻るなり、別部隊の暴漢たちに囲まれかけているバージェニルたちの姿があった。
全力で丘の急斜面を下っているも、このままでは間に合わない。
「スコル! 魔銃形―――――!?」
視界の端からオレンジの光が上がる。
夜空を飛び交う流線形の輝きは、火属性魔法のフレイムランスだ。
火の雨が容赦なくバージェニルたちの前に降り注ぎ、悪漢を焼き払う。
「ぎゃやややあいいいいいい!!!」
地面を転げ回り、引火した炎を消す一団。
圧倒的、不利な状況と判断した数名は戦線離脱をはかる。
直後、剣とポールアックスを振り回す男子生徒たちによって一掃されていた。
「ああっ!!! いた!」遠巻きからローブ姿の少女が手をふっていた。
ギデオンの方にではない!
バージェニルと魔術師の少女に向けたものだ。
魔術師の恰好をした彼女の姿と声はよく覚えている。
クラスメイトのリッシュと同行していた彼の仲間、カナッペだ。
男子生徒の方はリッシュとオッドだった。
「ようやく会えたね、ギデ君!」合流するなり、涼しい顔で笑うリッシュ。
「ああ、絶妙なタイミングで駆けつけてくれて助かった」
額の汗をぬぐいながら、そう告げると彼は首を横に振る。
「助けてもらったのは僕らの方だよ。君たちといた彼女、クォリスは僕らの仲間なんだ……ハハッ」
「なっ!?」思わず、ギデオンの素っ頓狂な声がもれる。
少女の素性が判明した。
それ自体は良い事なのだが……不意打ち過ぎる。
そう思うのはギデオンだけだった。
クォリスの隣にいるバージェニル、今し方戻ってきたブロッサムはさほど気にしてもいない様子だ。
リッシュたちと早々に打ち解けていた。
「コラ! クォリス。どうして、俺たちに黙って別行動したんだ?」
「気づいたら……皆、いなかったんで」
「カァ――! マイペースすぎるのもほどがあるぜ。つーか、なんでギデたちに名前も教えなかったんだよ?」
「その…………ぽいっ……かなと」
「おう、綺麗さっぱり分かんねぇよ? お前の頭の中の宇宙は俺には広すぎるわ!」
クォリスの奇抜な回答に、オッドが独り頭を抱えていた。
そんな彼を見てバージェニルが得意気になる。
「私にはクォリスの気持ちが分かるわ! 彼女はなりたかったのよ、そう! 人は誰しも一度は自分ではない特別な存在に憧れるもの。ふふっ、正体不明の助っ人……最高の演出じゃない~! 貴女もそう思うでしょっ?」
「えっ? 私には何が何だか……」
話を振る相手を間違えた。
きっと、そう思ったであろう。
バージェニルが独り夜空の星を数え始めた。
カナッペはフワフワとした不思議系の見た目とは違い、わりとリアリストだった。
暴漢と化す生徒たち。
多勢に無勢でいきがる彼らに恐ろしい制裁がくわえられた。
紅き煙を吸い込んだ途端、彼らはもだえ苦しみ始めた。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにする姿は、誰から見ても悲惨な状態だった。
「お味はどう? ミスリム特製の辛子弾よ! おいたが過ぎる、悪い子にはお仕置きが必要よね」
「よくもやりやがったなぁ~! この、変態痴女が!」
「だ、誰が痴女よ!!」
バージェニルの放った煙から逃げ惑う暴漢たち。
我先にと押しかけ合うが、目もまともに開けられない状態。
「のわああ―――!! てめぇ! ジャマだぁ――!!」
転倒し、互いの身体をぶつけ合い、しまいには仲間同士で取っ組み合いを始めてしまった。
それでも、辛子弾の餌食にならずに済んだ逆方向の一団が怯まずに攻めてきた。
決して恐れ知らずだからではない。
半分はヤケクソ気味だ。
「ちょちょと!! おいおいおおい――!!」
今度は、全員一斉に尻餅をつく。
冬でもないのに、地面が氷ついている。
すぐに立ち上がろうとするが、アイスバーンの上で醜悪に踊り続けている。
「よし!」魔術師の少女が満足気にうなづく。
それを皮切りに、ギデオンとブロッサムは二手にわかれ突撃を開始した。
相手の人数は確認できるだけで五十人近くはいる。
首狩り大刀や超重量の鉄鎚、投擲斧にダイナマイト。
どれも殺意に満ちた一品だが、全部ハッタリ用だ。
身近で分かる武器の状態。
どれも未使用であり、こびりついた血からは薬品の匂いしかしない。
ただ、微かに血の香りはする。
この男たちが、他の生徒を襲撃した可能性は大いにある。
当然、自分たちを襲ってきた時点で、彼らに手心をくわえようなどとは思っていない。
スコルを走らせ敵の動きを牽制する。
一人、二人、三人とリズムよく当身技を叩き込んでゆく。
一団を制圧するのに、そう時間を要さなかった。
「駄目だ、まだ臭いがする!」
ギデオンは慌てて、来た道を戻った。
此処までの間、暴漢たちの半数は倒してきた。
けれど、それは目視で確認できた人数だけだ。
明らかに異なる臭いが離れた場所からする。
少数ではなく、大所帯の臭いが!
「くっ、やはりか! 二人とも早く城の中へ逃げろ――――!!」
戻るなり、別部隊の暴漢たちに囲まれかけているバージェニルたちの姿があった。
全力で丘の急斜面を下っているも、このままでは間に合わない。
「スコル! 魔銃形―――――!?」
視界の端からオレンジの光が上がる。
夜空を飛び交う流線形の輝きは、火属性魔法のフレイムランスだ。
火の雨が容赦なくバージェニルたちの前に降り注ぎ、悪漢を焼き払う。
「ぎゃやややあいいいいいい!!!」
地面を転げ回り、引火した炎を消す一団。
圧倒的、不利な状況と判断した数名は戦線離脱をはかる。
直後、剣とポールアックスを振り回す男子生徒たちによって一掃されていた。
「ああっ!!! いた!」遠巻きからローブ姿の少女が手をふっていた。
ギデオンの方にではない!
バージェニルと魔術師の少女に向けたものだ。
魔術師の恰好をした彼女の姿と声はよく覚えている。
クラスメイトのリッシュと同行していた彼の仲間、カナッペだ。
男子生徒の方はリッシュとオッドだった。
「ようやく会えたね、ギデ君!」合流するなり、涼しい顔で笑うリッシュ。
「ああ、絶妙なタイミングで駆けつけてくれて助かった」
額の汗をぬぐいながら、そう告げると彼は首を横に振る。
「助けてもらったのは僕らの方だよ。君たちといた彼女、クォリスは僕らの仲間なんだ……ハハッ」
「なっ!?」思わず、ギデオンの素っ頓狂な声がもれる。
少女の素性が判明した。
それ自体は良い事なのだが……不意打ち過ぎる。
そう思うのはギデオンだけだった。
クォリスの隣にいるバージェニル、今し方戻ってきたブロッサムはさほど気にしてもいない様子だ。
リッシュたちと早々に打ち解けていた。
「コラ! クォリス。どうして、俺たちに黙って別行動したんだ?」
「気づいたら……皆、いなかったんで」
「カァ――! マイペースすぎるのもほどがあるぜ。つーか、なんでギデたちに名前も教えなかったんだよ?」
「その…………ぽいっ……かなと」
「おう、綺麗さっぱり分かんねぇよ? お前の頭の中の宇宙は俺には広すぎるわ!」
クォリスの奇抜な回答に、オッドが独り頭を抱えていた。
そんな彼を見てバージェニルが得意気になる。
「私にはクォリスの気持ちが分かるわ! 彼女はなりたかったのよ、そう! 人は誰しも一度は自分ではない特別な存在に憧れるもの。ふふっ、正体不明の助っ人……最高の演出じゃない~! 貴女もそう思うでしょっ?」
「えっ? 私には何が何だか……」
話を振る相手を間違えた。
きっと、そう思ったであろう。
バージェニルが独り夜空の星を数え始めた。
カナッペはフワフワとした不思議系の見た目とは違い、わりとリアリストだった。
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