異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百話

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「サーマリア共和国には、グランドルーラーと呼ばれる国家元首がいる」

神妙な面持ちでゴーダ学長が語り出す。
会話に合わせ、ミチルシィ教諭が持ち運んだ黒板にチョークを走らせる。

「人民により選ばれし国の代表は、三十三の貴族、豪族を従える権利を持つ。すでに貴族制は形骸化しつつあるも決して捨て去る事はできない。貴族たちは地域に根強い支配力を持つ。故にいくら権力と切り離そうとしても、徹底した根回しにより反発されてしまう。一度、権力者たちから顰蹙ひんしゅくをかえば内政は安定しなくなる」

シルクエッタが即座に挙手する。

「失礼かもしれませんが……話の要領を得ません。ボクたちも共和国の内情はある程度、熟知しておりますので」

「つまり、焦点はそこじゃないってところだろ? 先生方は、歴史の補習を受けさせたいわけじゃないよ、シルクエッタ」

革張りのソファに背中を預け、ギデオンが即答する。
正解だと言わんばかりに学長が口角を上げる。

ミチルシィが黒板に共和国の地図を描いてゆく。
地図の北西部分にバツ印をつけると二人の方を振り向く。

「こうした背景の中、共和国北方のルーツグウ方面では一部の豪族が結託し内乱が勃発した。反乱を鎮静化する為、グランドルーラーは軍の大半を投入し戦闘を開始したのだよ」

「それが今から、三年前ですね。初めは短期間で終戦すると見做されていましたが、何故か未だに膠着状態にある……それどころか、最近では共和国軍の方が押されているとも、噂立ってます」

「君の言う通り。共和国軍と豪族が集めた私兵、実力差は圧倒的だ。事態は収束を迎えるはずだった……そう彼らさえ介入してこなければ……」

学長は見悶えていた。
テーブルに両肘をついたまま、祈るように手を組み合わせている。
経営者らしかぬ弱気な言動にギデオンが冷ややかな視線を送る。

とは? ここの学長である貴方が追い詰められるほどの相手だ。さぞ、恐ろしい存在なんでしょう」

「公国だ」ゴーダが指先に爪を立てていた。

「隣国が突如、停戦協定を破棄すると言い出してきてな。公国はルーツグウ方面とは正反対の南方に位置する。ここで、さらなる火種が生まれれば――――」

「共和国軍が挟撃を受けるだけではなく、最南端のツインポートがレッドラインになるわけですか。それで、軍隊を北方に集結できず苦戦している……といった具合ですか?」

「うむ、大体あっているゾ」ギデオンの考察にミチルシィが同調する。

「まぁ、エリエとナズィールの代表者が定期的に公国へと向かい交渉にあたる事で最悪は回避しているが……」

かんばしくないんですね。それこそ、聖王国から治癒師を派遣してもらわないといけない程に」

実際を見た治癒師の言葉は重みが違う。
前線の惨状に耐えてきた瞳は何を捉えていたのか?
素朴な疑問が少年の口をついて出る。

「シルクエッタ、済まない。この中で前線の状況を一番知っているのは君だ。君の口から聞きたい、前線では何が起こっていた? 本当に共和国軍は反乱分子と戦っていたのか!?」

「公にはするなって言われているけど……」表情を曇らせながら当惑する幼馴染。

「頼む!」ダメ押しの一声には弱く、結局は懐柔されてしまう。

「人間だけじゃないんだ……敵は、どこからか魔物を大量に集めて仕掛けてくる。その時に限って、近くから笛の音が聞こえるんだ」

「なんと……そのような事が」さらけ出された真実に教師たちが生唾を飲む。

「笛か……?」

「ギデオン?」

「いや、問題はそこではないな。それでお二人は、僕たちに何をして欲しいんですか!? して欲しい事があるから呼んだのでしょう!」

「ああ。ナズィールに訪れた宰相ガルベナールを監視して欲しい。君たちの事情までは知らんが、何かしら彼と因縁があるのだろう? 監視し、異常があれば逐一、俺達に報告して欲しい」

学長に対し、ギデオンは眉をひそめた。
まるで、見てきたかのようにずばり言い当ててくる。
その様子に、落ち着くように教諭がうながす。

「諸君の事を学長が知っているのは、私の固有スキル・千望挽歌トレース・ルートのおかげだよ。これは他者の未来をランダムで読む能力。見えるのではなく、その者に起こる不都合を予知できる程度にすぎないが、的中率は百パーセントだゾ」

「二人とも俺たちに手を貸してくれないか!? 条件次第では、学校の方でもバックアップしてやってもいいぜ!」

「願ってもない話です、学長。ただ、一つだけ……僕たちの内情を詮索しないのであれば監視役を引き受けましょう」

「ぼ、ボクもお手伝いします! ミチルシィ先生の予知がボクたちを選んだのなら、きっとそれはミルティナス様のお導きだと信じます!」

ゴーダの提案に乗る二人。

「これで、万全の状態になる……」風向きが良い方へと変わりつつある。
少年はほくそ笑みながら教師たちに深々と頭を下げた。
対ガルベナールの計画は着々と進行していた。
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