198 / 545
百九十八話
しおりを挟む
夜空の追走劇が始まった。
いくら眼が案順応したからといっても、ギデオンには何も見えない。
周囲の景色はおろか、肝心のガルベナールの姿さえも見えない。
頼みの綱は、オッドだった。
グリフォンは夜目が利く。
動体視力も優れていて、自分が今、どの辺りを飛行しているのか? ちゃんと把握している。
南陽門の手前でガルベナールの姿を発見した。
このままでは国境線を越えてしまう。
そうなって、しまえば追走を断念させざるを得ない。
国境線ことはガルベナールもよく理解していた。
何が何でも抜けだせれば、自身の安全は保障される。
公国の地理もある程度は明るい。
このまま、川沿いを避けるように迂回して南東方向へすすめば公都、天楼閣にたどり着く。
どちらにとっても、共和国を出るまでが勝負だった。
ガルベナールに急接近したオッドは油断から飛行速度を落としてしまった。
それを、黒衣龍は見逃さなかった。
追走する相手の隙をついて、更に翼を広げる。
風圧の渦を巻き起こし、そこから爆発的な推進力を生み出し一気に遠退いてゆく。
すぐに気づくも、制止させるタイミングなど掴めるはずもなく完全に後の祭りだった。
「クッソォォ――――!! やられた! 気が緩んだところをで引き離されっちまった」
「このままでいい、オッド。先に進むんだ」
「じょ、冗談だろ……!? このまま公国入りをしたら俺とお前は領空侵犯で、お縄になるだけだぞ!!」
「ガルベナールを取り逃せば、共和国民ように、また大勢の人が不幸になる。放置しておけるわけがない」
刻一刻を争う中、空を飛翔するグリフォンに物事を天秤にかける暇などなかった。
ここで止まるか? 継続して追うかのどちらかだ。
『二人とも奴を追うんだ。公国の間者にカナッペ君を連れ去らわれてしまった。できるだけ足止めはしたものの……失敗して、この有様だ。どうやら、ナズィールでの混乱に乗じて公国に帰郷したようだ……ゴールデンパラシュートの包囲網での察知が利かない』
同じパーティメンバーとして、苦楽共に戦ってきた。
仲間の窮地を耳にし、迷っている場合ではないとオッドは、ようやく腹をくくった。
『ギデ、今の私は聖獣としての縛りがあるせいで、共和国の先から移動することはできない。だからこそ、君やオッドに託そうと思う。どうか、戦火の犠牲になった者たちの仇を討ってくれ』
「勿論だ。奴の罪はすべて清算させる。そう、でもしなければ今度は、魔道具抜きで暴動に発展する」
『頼んだぞ! 若き希望たちよ』
南陽門を通過したのを皮切りに、ジェイクとの念話が途絶えた。
孤立無援の状態で、よく知らぬ土地を進まないといけない。
前をゆくガルベナールに、追いつく算段はない。しかし、一方的に相手の方が有利になるとは考えにくい。
案の定、無理やり移動速度を上げていたことがたたり、確実に速度が落ちてきている。
ギデオンたちが追撃を継続させてきたことが、彼にとっての大誤算だった。
より速く、もっと先へ、そういった想いを念頭に翼を動かすが、少しも前に進めてはいない。
「この光は? 視界がやけに明るくなってきたぞ」
まるで、夜明けの朝の陽ざしのように少しずつ、辺りが鮮明になってきた。
朝を迎えたのではなく……夜が存在しないのだ。
どういう理屈なのかは、ギデオンたちには想像もつかなかった。
地上全体が色濃く輝いていた。
本当にそこが現実の世界なのか? 疑ってしまうほどの眩さが彼らの来訪を歓迎していた。
「ここが、軍事国家ドルゲニア……軍事というからには、もっと灰色の街並みとか想像していたんだけど?」
オッドの言いたいことは、よく分かる。
軍事どころか兵器すら見当たらない大自然が大地を埋めつくす様は、平穏無事な国だと錯覚を覚えるほどだ。
とにかく、これで黒衣龍のいる位置がハッキリと見える。
「観念しろ!! ガルベナール、ここで貴様に引導を渡してやる」
「空中で戦うこともままならない、人間ごときに何ができるというのだ」
「落下することは出来るぞぉぉ!!」
ギデオンの声に視線を上に向けるとグリフォンから飛び降り高高度落下してくる、その姿が見えた。
ごく僅かな時間だった。
カーミ・ターミスを両手で握り、全力を込めた一振りを振り抜く。
ガルベナールは防御することも忘れ叫んでいた。
「いつ、どこで間違えた! どこの馬の骨ともしらないコイツがグラッセ家に引き取られた時か? いいや、違う!! アイツのせいだ。エゼックトの奴がぁあああぁあ、聖歌隊なんぞ、創設したからこうなったんだぁぁ」
頑強なバトルメイスが龍の頭部を粉砕した。
いくら眼が案順応したからといっても、ギデオンには何も見えない。
周囲の景色はおろか、肝心のガルベナールの姿さえも見えない。
頼みの綱は、オッドだった。
グリフォンは夜目が利く。
動体視力も優れていて、自分が今、どの辺りを飛行しているのか? ちゃんと把握している。
南陽門の手前でガルベナールの姿を発見した。
このままでは国境線を越えてしまう。
そうなって、しまえば追走を断念させざるを得ない。
国境線ことはガルベナールもよく理解していた。
何が何でも抜けだせれば、自身の安全は保障される。
公国の地理もある程度は明るい。
このまま、川沿いを避けるように迂回して南東方向へすすめば公都、天楼閣にたどり着く。
どちらにとっても、共和国を出るまでが勝負だった。
ガルベナールに急接近したオッドは油断から飛行速度を落としてしまった。
それを、黒衣龍は見逃さなかった。
追走する相手の隙をついて、更に翼を広げる。
風圧の渦を巻き起こし、そこから爆発的な推進力を生み出し一気に遠退いてゆく。
すぐに気づくも、制止させるタイミングなど掴めるはずもなく完全に後の祭りだった。
「クッソォォ――――!! やられた! 気が緩んだところをで引き離されっちまった」
「このままでいい、オッド。先に進むんだ」
「じょ、冗談だろ……!? このまま公国入りをしたら俺とお前は領空侵犯で、お縄になるだけだぞ!!」
「ガルベナールを取り逃せば、共和国民ように、また大勢の人が不幸になる。放置しておけるわけがない」
刻一刻を争う中、空を飛翔するグリフォンに物事を天秤にかける暇などなかった。
ここで止まるか? 継続して追うかのどちらかだ。
『二人とも奴を追うんだ。公国の間者にカナッペ君を連れ去らわれてしまった。できるだけ足止めはしたものの……失敗して、この有様だ。どうやら、ナズィールでの混乱に乗じて公国に帰郷したようだ……ゴールデンパラシュートの包囲網での察知が利かない』
同じパーティメンバーとして、苦楽共に戦ってきた。
仲間の窮地を耳にし、迷っている場合ではないとオッドは、ようやく腹をくくった。
『ギデ、今の私は聖獣としての縛りがあるせいで、共和国の先から移動することはできない。だからこそ、君やオッドに託そうと思う。どうか、戦火の犠牲になった者たちの仇を討ってくれ』
「勿論だ。奴の罪はすべて清算させる。そう、でもしなければ今度は、魔道具抜きで暴動に発展する」
『頼んだぞ! 若き希望たちよ』
南陽門を通過したのを皮切りに、ジェイクとの念話が途絶えた。
孤立無援の状態で、よく知らぬ土地を進まないといけない。
前をゆくガルベナールに、追いつく算段はない。しかし、一方的に相手の方が有利になるとは考えにくい。
案の定、無理やり移動速度を上げていたことがたたり、確実に速度が落ちてきている。
ギデオンたちが追撃を継続させてきたことが、彼にとっての大誤算だった。
より速く、もっと先へ、そういった想いを念頭に翼を動かすが、少しも前に進めてはいない。
「この光は? 視界がやけに明るくなってきたぞ」
まるで、夜明けの朝の陽ざしのように少しずつ、辺りが鮮明になってきた。
朝を迎えたのではなく……夜が存在しないのだ。
どういう理屈なのかは、ギデオンたちには想像もつかなかった。
地上全体が色濃く輝いていた。
本当にそこが現実の世界なのか? 疑ってしまうほどの眩さが彼らの来訪を歓迎していた。
「ここが、軍事国家ドルゲニア……軍事というからには、もっと灰色の街並みとか想像していたんだけど?」
オッドの言いたいことは、よく分かる。
軍事どころか兵器すら見当たらない大自然が大地を埋めつくす様は、平穏無事な国だと錯覚を覚えるほどだ。
とにかく、これで黒衣龍のいる位置がハッキリと見える。
「観念しろ!! ガルベナール、ここで貴様に引導を渡してやる」
「空中で戦うこともままならない、人間ごときに何ができるというのだ」
「落下することは出来るぞぉぉ!!」
ギデオンの声に視線を上に向けるとグリフォンから飛び降り高高度落下してくる、その姿が見えた。
ごく僅かな時間だった。
カーミ・ターミスを両手で握り、全力を込めた一振りを振り抜く。
ガルベナールは防御することも忘れ叫んでいた。
「いつ、どこで間違えた! どこの馬の骨ともしらないコイツがグラッセ家に引き取られた時か? いいや、違う!! アイツのせいだ。エゼックトの奴がぁあああぁあ、聖歌隊なんぞ、創設したからこうなったんだぁぁ」
頑強なバトルメイスが龍の頭部を粉砕した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる