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百九十九話
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軍事国家ドルゲニアの上空にて雌雄は決した。
腐りきった野望とともに打ち砕かれたガルベナールの意識は完全に途絶えていた。
龍の姿のまま、巨躯が重力に引きずられてゆく。
地上への降下は必至だが、このまま身柄を確保せずに手ぶらで帰るわけにもいかない。
「オッド! 奴を追うぞ」
全身に空気層をまといながら、声を振り絞り頭上に待機していた友を呼んだ。
「ダメだ!! この場から一刻も早く離れないといけねぇ、ギデ!」
オッドの警告が何を意味するのか? 考えるよりも早く事態は最悪の方向へと直行していた。
身を反転させ、地上の方へ眼を向けると、何かが空を斬り裂きギデオンの真横を通過した。
一瞬のことに背筋がゾワッとする。
フックだ……地上から飛んできたのは弓矢や槍などではない。
人間の頭部サイズぐらいはあるデカいフックが、チェーンの付いたままカタチで突っ切ってくる。
一撃で終われば、肝を冷やすだけで済んだ。
無論、これは対空砲火だ。一発で終わるわけがない。
確実に不法侵入者を始末するためにチェーンフックの嵐が一気に乱舞してくる。
意識のないガルベナールは無抵抗のまま、その身に凶器を受けていた。
瞬時にしてフックが貫通し、全身穴だらけとなった。
その状態で生存しているとは、もはや望み薄だ。
生け捕りにして、知っていることをすべて洗いざらい吐かせる予定が、完璧に狂った……。
キンバリーの時といい、ここまで上手くいかないことにギデオンの不満が募る。
意図的に阻害されているのではないかと、怒りを剝き出しにし魔獣を構える。
「せっかくの証拠がぁぁ……僕のジャマをするなぁぁあぁあ――――!!」
リコシェット・セフィーロを乱発させ、フックの群れを弾き飛ばしてゆく。
無造作に弾いているだけではない。跳弾しながら、別のフックの軌道をもずらしてゆく。
弾道に合間に一筋の活路が見えた。
「そこだぁぁ! グラバスタ―」
魔装砲バハムートによる超長距離かつ神速射は、地上に潜んだままの術者を撃退させる為に撃ち込まれた。
正確な位置など、どうでも良かった。
グラバスターはマイクロブラックホールだ。
ほんの数十秒しか展開できない技だが、強烈な重力により傍にあるモノを片っ端から吸い込んでゆく。
「ぐっぎゃ!! クソ……」
これで、ひとまず攻撃がおさまる、そう安堵する暇すらなかった。
右の翼にフックが突き刺さり、グリフォンの身体が大きく傾いた。
バランスが保てなくなったオッドは、真っ逆さまになって地上へと吸い込まれてゆく。
「ウネ、オッドのことを頼む。僕のことは心配ない、スコルがいる」
背中のバッグが、ひとりでに開くと花のつぼみに包まったウネが飛び立った。
「うにゅ……」直後、名残惜しいそうにギデオンを見詰めていた。
その背を押すように主たる彼は強く頷いた。
ウネはその想いを汲んで、オッド方へと急いで蔦を飛ばした。
「さあ、後はどうなるかだ? スコル、着地は任せたぞ」
*
公都、天桜閣の中核にあたる朱襟城。
謁見の間にある、朱塗りの玉座がじきに空こうとしていた。
現国王であるアナバタッタは、持病を患い五年前から闘病生活が続いていた。
これまでは気力によって政務をこなしてきたが歳も歳だ、よいよ持って体力の限界を感じていた。
自分の後継者に相応しい者はだれか?
自分、独りだけでは決め兼ねたアナバタッタは、信頼がおける四人の大臣に相談を持ち掛けた。
東西南北の一端を各々が取り仕切る彼らは、誰一人欠けることなく王の招集に馳せ参じた。
四人、全員が口を揃えて王に進言する。
「新王候補の任命は我にお任せあれ」と。
齢八十であっても、王は弱小国家だった公国をたった一代でここまで発展させた名君だ。
自分たちが選んだ後継者を影で操り傀儡しようせんとす浅はかな、家臣の目論見など見抜いていた。
その上で、彼らの言葉に従う事を選択した。
王に、時間は残されていなかった。
例え、大臣たちの思惑に沿ったとしても次の王がしっかりと引き継いでくれれば、どうにかなるはずだ。
アナバタッタは了承する代わりに四人の大臣に条件を付けくわえた。
「新王の選定は、この公国が象徴でもある武力をもってして一番、優った者を王とする」
ドルゲニア公国で示す力とは、兵器有無や所属兵士の数のことではない。
簡潔に言えば、王になるに相応しい強い力。
武芸や魔法、それらを駆使して他のライバル候補者たちを圧倒する能力こそが、純然たる力と見なされる。
腐りきった野望とともに打ち砕かれたガルベナールの意識は完全に途絶えていた。
龍の姿のまま、巨躯が重力に引きずられてゆく。
地上への降下は必至だが、このまま身柄を確保せずに手ぶらで帰るわけにもいかない。
「オッド! 奴を追うぞ」
全身に空気層をまといながら、声を振り絞り頭上に待機していた友を呼んだ。
「ダメだ!! この場から一刻も早く離れないといけねぇ、ギデ!」
オッドの警告が何を意味するのか? 考えるよりも早く事態は最悪の方向へと直行していた。
身を反転させ、地上の方へ眼を向けると、何かが空を斬り裂きギデオンの真横を通過した。
一瞬のことに背筋がゾワッとする。
フックだ……地上から飛んできたのは弓矢や槍などではない。
人間の頭部サイズぐらいはあるデカいフックが、チェーンの付いたままカタチで突っ切ってくる。
一撃で終われば、肝を冷やすだけで済んだ。
無論、これは対空砲火だ。一発で終わるわけがない。
確実に不法侵入者を始末するためにチェーンフックの嵐が一気に乱舞してくる。
意識のないガルベナールは無抵抗のまま、その身に凶器を受けていた。
瞬時にしてフックが貫通し、全身穴だらけとなった。
その状態で生存しているとは、もはや望み薄だ。
生け捕りにして、知っていることをすべて洗いざらい吐かせる予定が、完璧に狂った……。
キンバリーの時といい、ここまで上手くいかないことにギデオンの不満が募る。
意図的に阻害されているのではないかと、怒りを剝き出しにし魔獣を構える。
「せっかくの証拠がぁぁ……僕のジャマをするなぁぁあぁあ――――!!」
リコシェット・セフィーロを乱発させ、フックの群れを弾き飛ばしてゆく。
無造作に弾いているだけではない。跳弾しながら、別のフックの軌道をもずらしてゆく。
弾道に合間に一筋の活路が見えた。
「そこだぁぁ! グラバスタ―」
魔装砲バハムートによる超長距離かつ神速射は、地上に潜んだままの術者を撃退させる為に撃ち込まれた。
正確な位置など、どうでも良かった。
グラバスターはマイクロブラックホールだ。
ほんの数十秒しか展開できない技だが、強烈な重力により傍にあるモノを片っ端から吸い込んでゆく。
「ぐっぎゃ!! クソ……」
これで、ひとまず攻撃がおさまる、そう安堵する暇すらなかった。
右の翼にフックが突き刺さり、グリフォンの身体が大きく傾いた。
バランスが保てなくなったオッドは、真っ逆さまになって地上へと吸い込まれてゆく。
「ウネ、オッドのことを頼む。僕のことは心配ない、スコルがいる」
背中のバッグが、ひとりでに開くと花のつぼみに包まったウネが飛び立った。
「うにゅ……」直後、名残惜しいそうにギデオンを見詰めていた。
その背を押すように主たる彼は強く頷いた。
ウネはその想いを汲んで、オッド方へと急いで蔦を飛ばした。
「さあ、後はどうなるかだ? スコル、着地は任せたぞ」
*
公都、天桜閣の中核にあたる朱襟城。
謁見の間にある、朱塗りの玉座がじきに空こうとしていた。
現国王であるアナバタッタは、持病を患い五年前から闘病生活が続いていた。
これまでは気力によって政務をこなしてきたが歳も歳だ、よいよ持って体力の限界を感じていた。
自分の後継者に相応しい者はだれか?
自分、独りだけでは決め兼ねたアナバタッタは、信頼がおける四人の大臣に相談を持ち掛けた。
東西南北の一端を各々が取り仕切る彼らは、誰一人欠けることなく王の招集に馳せ参じた。
四人、全員が口を揃えて王に進言する。
「新王候補の任命は我にお任せあれ」と。
齢八十であっても、王は弱小国家だった公国をたった一代でここまで発展させた名君だ。
自分たちが選んだ後継者を影で操り傀儡しようせんとす浅はかな、家臣の目論見など見抜いていた。
その上で、彼らの言葉に従う事を選択した。
王に、時間は残されていなかった。
例え、大臣たちの思惑に沿ったとしても次の王がしっかりと引き継いでくれれば、どうにかなるはずだ。
アナバタッタは了承する代わりに四人の大臣に条件を付けくわえた。
「新王の選定は、この公国が象徴でもある武力をもってして一番、優った者を王とする」
ドルゲニア公国で示す力とは、兵器有無や所属兵士の数のことではない。
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