異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百三十五話

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 ロングブーツのかかとをカツカツと鳴らしアビィは街中を歩いていた。
 周囲には商店が建ち並んでおり、人の往来もそれなりにある。
 ある場所に差し掛かった彼女は、そこで足を止めた。

 どうやら敵は彼女を完全に逃さないつもりだ。
 碁盤ごばんの目のように連なる通りの中で、唯一開けた大広場。
 街の中心部にあたる場所をグルっと囲い込むように閑泉の兵が集結していた。

 ただならぬ、空気を察知し町民たちは広場から離れてゆく。
 今しがたまで、開いていた店も急いで店仕舞いの支度を始めている。

「まるで、猛獣でも取り押さえるような警備ね……まっ、それなら好都合なんだけどね」

「三大導士、霊幻のアビィだな! 我らは閑泉守備隊。貴様はすでに我々によって包囲されている、ハチの巣にされたくなければ素直に投降しろ!」

 全身に鎧を装着した兵士長らしき男が声を張り上げた。
 同時に鉄砲隊が、どこからともなく出現した。
 この街の守備隊は決して正規軍のような大規模なものではない。
 軍とは程遠い組織ではあるが、最低限の連携は取れている。
 優秀な、指揮官がいる証拠だ。

「銃兵の数が、ざっと30人といったところか……ワタシを警戒しているせいで、なかなか近寄ってこない。ったく、メンド―極まりないね」

 アビィは肉眼では一切、敵を確認していない。
 敵の気の流れ、自分にむけてくる殺意を探知し索敵していた。

「さて、ひと暴れといきますか! 守備隊、死にたくなければ早々に立ち去れ!! 我が要望は当主ナンダだけだ」

 ジャケットの裏地に忍ばせておいた巻物をアビィが取り出すと、それが開戦の引き金となった。
 鉄砲隊は、アビィの動きに合わせ銃口を向ける。
 乾いた発砲音が、いくども天に響き渡る。
 ものの一分と立たないうちに、銃声は兵士たちのどよめきに変わった。

 開かれた巻物が螺旋を描いて伸びてゆく。
 偶然ではない、導士たるアビィがそう願ったから実現している。
 飛来する銃撃の嵐を遮るように、巻物が銃弾をはたき落としていた。
 鞭のごとくしなやかに動く巻物と、それを自在に操るアビィ。
 兵士たちの中には、まるで天女の舞だと見惚れてしまう者までいた。

「お前ら、手を止めるなぁ―――!! 霊幻に攻撃する暇を与えるな!」

 一向に命中しない銃撃に兵士たちは戸惑い始めていた。
 即座に兵士長が士気を高める。
 かろうじて我に戻った鉄砲隊の者たちは、後方で待機していた術士隊と隊列を入れ替えてゆく。
 牽制けんせいにしかならなかったが、第二撃へのつなぎとしては充分だ。

炎破掌えんはしょう」術士隊の攻撃が始まった。
 気功波による遠距離攻撃でアビィに集中砲火を浴びさせる。
 手の平から放たれた灼熱の気功波が広場全体を明るく包んだ。
 避けることもなく直撃したのだ。導士とて無傷では済まない。
 兵士たちの誰もがそう思っていた。
 そうあって欲しいと願っていた。これで、傷一つ負わせられなければ悪夢としかいいようがない。

「ぐぁああっ!」術士の一人が悲鳴を上げた。
 アビィがいた場所から飛んできた巻物が、術士の顔面に直撃していた。
 勢いで直角に曲がり今度は他の術士へと被害が及ぶ。
 数名を兵士を経由すると今度は、折り畳まれ短くまとまってゆく。
 それは折り紙のよう変幻し最終的に弓となる。

「換装、イスカリオテ弓」

「ば、馬鹿な……どうして?」

 気功波の光を背に、霊幻の導士が傷一つ負うことなく歩いてくる。
 手には、巻物の弓がしっかりと握られている。

「決まっているじゃん。当たらなければ意味がない、気功波ってのはこう使うんだよ」

 練功により弓の弦と矢が生成される。
 弦を引くと矢尻の先端に闘気が集束してゆく。莫大な気の塊である、その一矢いっしは兵たちではなく、天を穿うがつように放たれた。

 導士の奇行に呆然とする兵士たち。
 大空を照らす意図を理解した者たちだけが、己の失態を悔いていた。

「何? 今のは、合図……増援か……。敵の別動隊がいるとしたら、不味いぞ! 今、ナンダ様の屋敷の警固は手薄になっている」

「さてと……やることやったし、後はワタシの好きさせて貰うよ、大元」

 軽く右肩を回すと、再び弓を構える。
 次こそ確実に兵士たちに向けられた一撃が飛んでくる。
 得も言われぬ恐怖が、守備隊の中で渦巻いていた。
 今から逃げ出そうとしても間に合わないと思うのは、さきほどの一撃目を見てしまったからだ。
 大多数の者たちは足元がすくみ、その場から身動きとれずいる。

 弦が引かれ、矢が閃光となる。
 大気を押し込んでくるかのよう感覚に全身が包まれ、兵士たちは己の最期を覚悟した。

「退いていろ!」兵たちの合間を縫うように人影がすり抜けたのは、その時だった。
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