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二百四十四話
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「このナンダ相手にここまで奮戦したのは褒めてやろう。だが……その身体、いつまで持つかな」
猫のように喉元をゴロゴロと鳴らし、獲物を仕留めようと姿勢を低くする。
敵将を討つためには悪鬼羅刹にもなれる。
好機を見出したナンダはさらに追い打ちの一手を講じる。
魔獣化したその腕から紋章を象る光を帯びた線が浮き上がる。
聖白の闘気の一種であることは、ギデオンにも確かに感じ取れる。
ただ、その気の集合体である紋章は、これまで感じたことのないプレシャーを放つ。
一目見た時点で、近づく者すべてを破壊してしまうのはないかという不安が襲ってくる。
紋章はなおも輝きを増し立体投影したように顕現し窮奇の一部となった。
それは見えない糸で吊り上げているかのように、両腕に沿って宙を浮いていた。
白みがかった色と人間の肋骨にも似た形状をし、腕の動きに連動して自在に操ることができる鉤爪。
二本の腕が四本に増えたように見え、ますまうバケモノ染みている。
「紋章功、不朽のカランドリエ……コイツを見た者は全員、屠ってきた。骸の腕に抱かれた者は終わることない苦痛を味わうのだ!」
「そいつが……お前の切り札か。僕を仕留めるつもりなら、もっと早くに使用しておくんだったな」
「ふん、虚勢を張りおって。貴様の首もらい受ける!!」
鷲の翼を全開に広げ、ナンダは高速で滑空してきた。
ここまで、ほぼ無傷の魔獣にとって負傷している者など、取るに足りない相手である。
そう示すようにナンダは、小細工もせずに直接、ギデオンに向かって突っ込んでいった。
「もう少しだ。もう少しで……何かが掴めそうな気がする。けれど、今はアイツの攻撃を凌ぐことで手一杯だ」
「必殺の一撃を正面から受け止めるなど、もっとも愚かしい行為である! フハハハッ」
「智将のくせに、ゴリ押すことしか考えられないのか? 剛の剣では耐えられなくとも、そよ風なら合間をぬってお前の額を貫いてくるぞ」
「ならば、口先だけではないと立証してみせろぉお!! 閃輝暗撲」
一閃のごとく急加速する獣、伸ばした四本腕が肉を引き千切ろうと迫ってくる。
殴られれば吹き飛び、叩けば潰れる。
脆い人体など、ナンダにとっては粘土細工も同然だ。
特に、カランドリエに抱かれたら逃げられない。
最愛の者を手放さない、どこかに逃げるのも許さない。
ずっと一緒、いつもそばにいる――――。
窮奇の紋章功は、他者に対して依存性の高い性格を秘めていた。
紋章系の練功は、生粋の武ではなく、人の生存本能から生み出されたものである。
それゆえ、自己防御面に特化したスキルだ。
練功でできた剣がスッとカランドリエに向けられる。
その数秒で幾度となく剣閃が火花を散らし、ナンダの足を止めた。
それでも紋章功の地力は凄まじい。
双方、防戦一方の流れからじりじりとギデオンを追い詰めている。
戦いが長引けば、それだけ多くの血が失われてゆく。
このまま防御に徹しているだけでは、いずれ敗戦を喫する。
「―――えええい! チョコマカ、チョコマカと。どうしてもう一歩が届かないのだ!? 奴をガランドリエで押さえつけさえすれば決着はつくのに!」
「眼が……霞んできた。ブリーズ・アチーブメントで、あとどれほど食い止めていられるかだ。これ以―――――」
「――――オン。ギデ…………オン。ギデオン!」
「誰だ? 僕を呼ぶのは…………」
混濁する意識の中で、少女が自分の名前をしきりに呼んでいる。
自分がどこにいるのかもわからず、ギデオンは波間を漂う海月のように流れに身を任せていた。
そこいるのに実体のない曖昧さ、不確定要素。
少女がどこにいるのか特定できない。
声ははっきりと聞こえているのに、彼女の姿はどこにもない。
「大丈夫、もう貴方にはできるから……」
「何の話だ? 君は一体何者なんだ? 僕にどうして欲しいんだ?」
「諦めないで……以前は出来なかったことも、今の貴方ならできるようになっているよ。思い出して、ここまで歩んできた道のりを」
「あまり、楽とは言えなかったな。けれど、外の世界は僕がこれで知らなかった知識を与えてくれた、そこで出会った連中は皆、様々な想いを抱え暮らしていた。好奇心は尽きることなく、いつも心が躍っていた。冒険者になって、僕は初めて本当の意味で世界に広さを実感したんだ」
「積み重ねてきたモノは決してムダではないの。道はいつでもどこでも続いている。その中で人は歩いた分だけ成長するのよ」
少女の言葉には不思議な響きがあった。
彼女が大丈夫と応援してくれば、不可能だと思われたもののできるように思えてきてしまう。
理屈では解明できない特殊な力が働いている。
「さあ! 進みなさい……気が赴くままに。ギデオン・グラッセ、貴方なら皆の道を照らせる」
猫のように喉元をゴロゴロと鳴らし、獲物を仕留めようと姿勢を低くする。
敵将を討つためには悪鬼羅刹にもなれる。
好機を見出したナンダはさらに追い打ちの一手を講じる。
魔獣化したその腕から紋章を象る光を帯びた線が浮き上がる。
聖白の闘気の一種であることは、ギデオンにも確かに感じ取れる。
ただ、その気の集合体である紋章は、これまで感じたことのないプレシャーを放つ。
一目見た時点で、近づく者すべてを破壊してしまうのはないかという不安が襲ってくる。
紋章はなおも輝きを増し立体投影したように顕現し窮奇の一部となった。
それは見えない糸で吊り上げているかのように、両腕に沿って宙を浮いていた。
白みがかった色と人間の肋骨にも似た形状をし、腕の動きに連動して自在に操ることができる鉤爪。
二本の腕が四本に増えたように見え、ますまうバケモノ染みている。
「紋章功、不朽のカランドリエ……コイツを見た者は全員、屠ってきた。骸の腕に抱かれた者は終わることない苦痛を味わうのだ!」
「そいつが……お前の切り札か。僕を仕留めるつもりなら、もっと早くに使用しておくんだったな」
「ふん、虚勢を張りおって。貴様の首もらい受ける!!」
鷲の翼を全開に広げ、ナンダは高速で滑空してきた。
ここまで、ほぼ無傷の魔獣にとって負傷している者など、取るに足りない相手である。
そう示すようにナンダは、小細工もせずに直接、ギデオンに向かって突っ込んでいった。
「もう少しだ。もう少しで……何かが掴めそうな気がする。けれど、今はアイツの攻撃を凌ぐことで手一杯だ」
「必殺の一撃を正面から受け止めるなど、もっとも愚かしい行為である! フハハハッ」
「智将のくせに、ゴリ押すことしか考えられないのか? 剛の剣では耐えられなくとも、そよ風なら合間をぬってお前の額を貫いてくるぞ」
「ならば、口先だけではないと立証してみせろぉお!! 閃輝暗撲」
一閃のごとく急加速する獣、伸ばした四本腕が肉を引き千切ろうと迫ってくる。
殴られれば吹き飛び、叩けば潰れる。
脆い人体など、ナンダにとっては粘土細工も同然だ。
特に、カランドリエに抱かれたら逃げられない。
最愛の者を手放さない、どこかに逃げるのも許さない。
ずっと一緒、いつもそばにいる――――。
窮奇の紋章功は、他者に対して依存性の高い性格を秘めていた。
紋章系の練功は、生粋の武ではなく、人の生存本能から生み出されたものである。
それゆえ、自己防御面に特化したスキルだ。
練功でできた剣がスッとカランドリエに向けられる。
その数秒で幾度となく剣閃が火花を散らし、ナンダの足を止めた。
それでも紋章功の地力は凄まじい。
双方、防戦一方の流れからじりじりとギデオンを追い詰めている。
戦いが長引けば、それだけ多くの血が失われてゆく。
このまま防御に徹しているだけでは、いずれ敗戦を喫する。
「―――えええい! チョコマカ、チョコマカと。どうしてもう一歩が届かないのだ!? 奴をガランドリエで押さえつけさえすれば決着はつくのに!」
「眼が……霞んできた。ブリーズ・アチーブメントで、あとどれほど食い止めていられるかだ。これ以―――――」
「――――オン。ギデ…………オン。ギデオン!」
「誰だ? 僕を呼ぶのは…………」
混濁する意識の中で、少女が自分の名前をしきりに呼んでいる。
自分がどこにいるのかもわからず、ギデオンは波間を漂う海月のように流れに身を任せていた。
そこいるのに実体のない曖昧さ、不確定要素。
少女がどこにいるのか特定できない。
声ははっきりと聞こえているのに、彼女の姿はどこにもない。
「大丈夫、もう貴方にはできるから……」
「何の話だ? 君は一体何者なんだ? 僕にどうして欲しいんだ?」
「諦めないで……以前は出来なかったことも、今の貴方ならできるようになっているよ。思い出して、ここまで歩んできた道のりを」
「あまり、楽とは言えなかったな。けれど、外の世界は僕がこれで知らなかった知識を与えてくれた、そこで出会った連中は皆、様々な想いを抱え暮らしていた。好奇心は尽きることなく、いつも心が躍っていた。冒険者になって、僕は初めて本当の意味で世界に広さを実感したんだ」
「積み重ねてきたモノは決してムダではないの。道はいつでもどこでも続いている。その中で人は歩いた分だけ成長するのよ」
少女の言葉には不思議な響きがあった。
彼女が大丈夫と応援してくれば、不可能だと思われたもののできるように思えてきてしまう。
理屈では解明できない特殊な力が働いている。
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