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二百四十六話
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瞬きする度にチラついて見える獣の姿に、ナンダは恐れ慄く。
周囲を警戒しならがら、慎重に見回す。
練功を駆使して気の流れを追ってみせるが何も感知しない。
「黒とは違う……白銀の猟犬。あれは、まさしく神気を帯びていた。トクシャカ様、以外に神獣を喚ぶことができる者がいるとは……いいや! あり得ない、あってはならんことなのだ!!」
胸中に渦巻く疑念を払拭せんとナンダは額に手を当てる。
眉一つ動かないまま対峙する当事者に目尻をすぼめ、殺意を向けた。
やらなければ、自身が始末されてしまう……。
あの凍てつくように冷淡な瞳は、普通の少年のものではない。
ナンダの中の何かが、叫んでいた。
飛びかかる火の粉は、早急に消し去らないといけない。
無意識に足元が前へと進もうとする。
途端! 鋭い何かが脇腹をかすめた。
「まただ……また! 見えんかった……。グルウルル、小僧おぉ―――!! 本当に神獣の力を手に入れたのか!?」
ナンダの問いなどお構いなしに、ギデオンは凝り固まった首筋を軽くほぐす。
敵の質問、神獣の是非に回答するつもりは、さらさらないという意思表示でもある。
ただ、分からないままでは味気ないのも確かではある。
問いの答え代わりに、彼はナンダに告げた。
「手の内を知りたければ、自力で明かしてみろよ。既存の魔法は僕には扱ないものしかなかった……だから、新しく僕が使う為の魔法を生み出しただけだ」
「真面目に答えろ!! 魔法を一から創っただと? しかも、このワシと戦っている最中で……そんな、一朝一夕に行くわけがなかろうよ!!」
「ああ、アンタはそこそこ強いよ……練功ありきで……な? けど、生身では戦いに不向きな、ただのオッサンだ。動きに統制がなく、まばらで無駄が多い……戦慣れしてない素人の動きだ。それで、よく僕の動きを封じ切れるなんて思ったよな」
「認めん認めんぞぉぉぉ――――。ワシは四凶、窮奇のナンダだぁ!! 敗戦の将になることは決して許されん!」
「本当は、もう気づいているんだろう? オマエは敵に自身の実力を悟られないように知略を用いてブラフや、粗暴な振る舞いをみせていた。少しまえに似たような奴と拳を交えた、だからハッキリと分かる……もっとも、ソイツは利己的な考えしか持っていなかったがな」
すべてを見抜かれた―――その事実はナンダにとって避けなければならないことに該当した。
いかなる方法を用いても秘密を知った者は許されない。
殺気がより一層、色濃くなってきた。間違いなく、理性がぶっ飛んでしまった。
これでは、獣や魔物と然程、変わりない。
ガムシャラになってギデオンを手にかけようとする。
「蒼炎リコシェット!」
ナンダの周囲に無数の裂け目ができる。
何の前ぶれもなく出現した、その小さな隙間から燃え盛る銃弾が一斉に飛び出し、チオンチの身体である聖白の闘気を撃ち破ってゆく。
糸の切れたマリオネットのように、フラフラと舞いながら集中砲火を浴びる。
「あと少し……もう少しで……奴の喉元に手が―――」
「ワイルドカードリッジ。カーミ・ターミス」
ナンダの希望が潰える一言が響いた。
銃撃は依然として止まないのに、目前ではバトルメイスを振りかぶるギデオンがいる。
ならば、この銃弾は一体、誰も手によって放たれたというのだろうか?
目蓋を静かに閉じると、再度一匹の獣の姿が浮き上がってきた。
ナンダの周囲をグルグルと周回しながら、口元から銃弾の元となる蒼炎の闘気を吐き出していた。
白銀のそれは、なんとも荘厳で気品に満ちあふれていた。
目蓋をゆっくりと持ち上げると、極天をまといし鉄鎚が真正面から腹部へと打ち込まれた。
ギデオンのフルスイングによって、チオンチはその身をくの字に曲げたまま広場中央にある石垣へと激突した。
「ワシの負けだ。武人として情けを与えてくれる……のなら一思い殺してくれ―――どうせ、一度は捨てた命だ」
近づいてくるギデオンの気配を感じながら、ナンダは潔く敗北を認めた。
練功が解け、魔獣から人の姿に戻っている。
石垣に沈んだ、全身はまったく動かせないほどズタボロになっていた。
「そうしてやってもいいが止めておく……アンタを裁く権利もないしな。アンタの処分はアビィに任せる、それが筋ってもんだろう? それに――――」
視線を左右に動かすギデオン。その四方を槍を構えた兵士たちが囲っていた。
「な、ナンダ様は―――お前なんかに討ち取らせはしないぞ!」
ナンダが思っていた以上に、彼を慕う者は多くいた。
主を守るまいと勇猛果敢に槍の切っ先を突きつけてくる。
この程度の相手なら、造作もなくいなすことはできる。
……が、あまりにも血を流しすぎたギデオンは酷い眩暈に襲われていた。
「命拾いしたな。感謝するんだな、自分の部下たちに……」
周囲を警戒しならがら、慎重に見回す。
練功を駆使して気の流れを追ってみせるが何も感知しない。
「黒とは違う……白銀の猟犬。あれは、まさしく神気を帯びていた。トクシャカ様、以外に神獣を喚ぶことができる者がいるとは……いいや! あり得ない、あってはならんことなのだ!!」
胸中に渦巻く疑念を払拭せんとナンダは額に手を当てる。
眉一つ動かないまま対峙する当事者に目尻をすぼめ、殺意を向けた。
やらなければ、自身が始末されてしまう……。
あの凍てつくように冷淡な瞳は、普通の少年のものではない。
ナンダの中の何かが、叫んでいた。
飛びかかる火の粉は、早急に消し去らないといけない。
無意識に足元が前へと進もうとする。
途端! 鋭い何かが脇腹をかすめた。
「まただ……また! 見えんかった……。グルウルル、小僧おぉ―――!! 本当に神獣の力を手に入れたのか!?」
ナンダの問いなどお構いなしに、ギデオンは凝り固まった首筋を軽くほぐす。
敵の質問、神獣の是非に回答するつもりは、さらさらないという意思表示でもある。
ただ、分からないままでは味気ないのも確かではある。
問いの答え代わりに、彼はナンダに告げた。
「手の内を知りたければ、自力で明かしてみろよ。既存の魔法は僕には扱ないものしかなかった……だから、新しく僕が使う為の魔法を生み出しただけだ」
「真面目に答えろ!! 魔法を一から創っただと? しかも、このワシと戦っている最中で……そんな、一朝一夕に行くわけがなかろうよ!!」
「ああ、アンタはそこそこ強いよ……練功ありきで……な? けど、生身では戦いに不向きな、ただのオッサンだ。動きに統制がなく、まばらで無駄が多い……戦慣れしてない素人の動きだ。それで、よく僕の動きを封じ切れるなんて思ったよな」
「認めん認めんぞぉぉぉ――――。ワシは四凶、窮奇のナンダだぁ!! 敗戦の将になることは決して許されん!」
「本当は、もう気づいているんだろう? オマエは敵に自身の実力を悟られないように知略を用いてブラフや、粗暴な振る舞いをみせていた。少しまえに似たような奴と拳を交えた、だからハッキリと分かる……もっとも、ソイツは利己的な考えしか持っていなかったがな」
すべてを見抜かれた―――その事実はナンダにとって避けなければならないことに該当した。
いかなる方法を用いても秘密を知った者は許されない。
殺気がより一層、色濃くなってきた。間違いなく、理性がぶっ飛んでしまった。
これでは、獣や魔物と然程、変わりない。
ガムシャラになってギデオンを手にかけようとする。
「蒼炎リコシェット!」
ナンダの周囲に無数の裂け目ができる。
何の前ぶれもなく出現した、その小さな隙間から燃え盛る銃弾が一斉に飛び出し、チオンチの身体である聖白の闘気を撃ち破ってゆく。
糸の切れたマリオネットのように、フラフラと舞いながら集中砲火を浴びる。
「あと少し……もう少しで……奴の喉元に手が―――」
「ワイルドカードリッジ。カーミ・ターミス」
ナンダの希望が潰える一言が響いた。
銃撃は依然として止まないのに、目前ではバトルメイスを振りかぶるギデオンがいる。
ならば、この銃弾は一体、誰も手によって放たれたというのだろうか?
目蓋を静かに閉じると、再度一匹の獣の姿が浮き上がってきた。
ナンダの周囲をグルグルと周回しながら、口元から銃弾の元となる蒼炎の闘気を吐き出していた。
白銀のそれは、なんとも荘厳で気品に満ちあふれていた。
目蓋をゆっくりと持ち上げると、極天をまといし鉄鎚が真正面から腹部へと打ち込まれた。
ギデオンのフルスイングによって、チオンチはその身をくの字に曲げたまま広場中央にある石垣へと激突した。
「ワシの負けだ。武人として情けを与えてくれる……のなら一思い殺してくれ―――どうせ、一度は捨てた命だ」
近づいてくるギデオンの気配を感じながら、ナンダは潔く敗北を認めた。
練功が解け、魔獣から人の姿に戻っている。
石垣に沈んだ、全身はまったく動かせないほどズタボロになっていた。
「そうしてやってもいいが止めておく……アンタを裁く権利もないしな。アンタの処分はアビィに任せる、それが筋ってもんだろう? それに――――」
視線を左右に動かすギデオン。その四方を槍を構えた兵士たちが囲っていた。
「な、ナンダ様は―――お前なんかに討ち取らせはしないぞ!」
ナンダが思っていた以上に、彼を慕う者は多くいた。
主を守るまいと勇猛果敢に槍の切っ先を突きつけてくる。
この程度の相手なら、造作もなくいなすことはできる。
……が、あまりにも血を流しすぎたギデオンは酷い眩暈に襲われていた。
「命拾いしたな。感謝するんだな、自分の部下たちに……」
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