278 / 546
二百七十八話
しおりを挟む
本隊を囮とし右翼、左翼が同時に進軍を始める。
黒仮面ことパスバインの隊は勢いに乗って出来たばかりの橋へと登ってゆく。
次から次へと、大門を突破しようとやってくる南の兵士に対し、西軍もただただ気圧されているわけではない。
パスバイン隊を迎え撃つために門の内側から梯子をかけ、橋の反対側から全力疾走してきた。
門の右側は、早くも交戦状態となっていた。
その最中、銃皇隊の歩兵とジャスベンダー隊の法術師たちは、共同で消火活動にあたっていた。
依然として、東門正面口は燃え盛る炎によって通行不能になっていた。
着実に消化はできているも火の回りは、それ以上の速度で拡がっている。
部隊の中心で指揮をとる銃皇にも焦りの色が見えてきた。
戦場を移動するギデオンたちからも彼の怒声がはっきりと聞き取れた。
「ギデ、間もなく目標地点です」
先陣を切って走行するエイルの知らせとともに合戦の音が鳴り響いてきた。
そこは門左に位置するパンテノール部隊がいた場所だ。
ギデオンは常に、戦況を観察しながら戦況がどのように動くのか? 熟考していた。
無論、武将としても、軍師としても経験は皆無。
素人同然だが、ワイルドハンターであるおかげで勘だけは異様に鋭い。
南軍がどうやって都に攻め入るのかは分からない。
西が門の向こうで、どれほどの兵力を集結させているのかも定かではない。
それでも、天性の嗅覚は勝利の予感も嗅ぎ取る。
戦場全体を一望して場の揺らぎを見つける。発見したら、即座にその場所へと駆けつける。
あくまで怪しい動きだけを察しワンテンポ早い状態で部隊を動かしていた。
特に怪しいのは、橋の前に放たれた火矢だった。
炎で敵軍の様子が見えなくなるのは西も同じ、本当に時間稼ぎしかメリットはない。
その上、敵の進路上だけではなく、広範囲に渡って火矢を放ち続けていた。
西の狙いが何なのか、ギデオンにはすぐに分かった。
だからこそ、真っ先に対処しなければならない相手を止めるために、わざわざ自軍を二手に分けた。
「早速、お出ましのようだな」
騎馬を加速させギデオンは、さらに川岸奥へとむかう。
橋の前では、すでにパンテノール隊が敵部隊の伏兵に包囲されていた。
西の連中がどこからきたのか、そのずぶ濡れた忍装束をみれば誰でも気づく。
この兵士たちは都から川を渡って南軍の傍まで忍びよってきた。
思いがけない、敵襲に部隊としての連携が上手く取れず左側は、苦戦を強いられていた。
肝心のパンテノールの姿がどこにも見えない。
彼らの様子を見て駆けつけたギデオンは、パンテノールが不測の事態に陥っていると悟った。
「エイル、伏兵どもを追い払ってくれ! 僕たちは、そこにいる兵たちを拾う」
「はい。では、状況がクリアになり次第、再度合流します」
特大サイズの鉄球クロオリが西の兵らを狙い、猛スピードで転がってくる。
「罠だ! ガリュウのやつら、得体の知れない罠を持って持っているぞぉお!!」
戦場を縦横無尽に走りながら自分たちを押し潰そうする異質な塊に当然、敵方は混乱していた。
蜘蛛の子を散らすように走り出しながら、草の者たちは次々に川へと飛び込んでゆく。
「上手くいったようだな……大丈夫か?」
「お、お前は! 北の―――」
声をかけた途端、パンテノールの部下が騎乗したままのギデオンに剣を向けてきた。
昨日のことで南の者たちの心象は最悪になってしまったらしい。
あきらかに敵意を向けてきている。
「ヤメロ! 今はそんなことをしている場合じゃないだろう」
しばらく、そのままでいると別の兵士が仲間をなだめるためにやってきた。
「我々は今、北と共闘中だ。剣をおさめろ! お前はガリュウ様に恥をかかせるつもりか?」
「くっ……こんな奴らに頼らないといけないなんて!」
憤りを込めて兵士は剣を地面に突き立てた。
感情で動くことは、決して悪いことではないと、ギデオンは今まで信じて疑わなかった。
しかし、それは諸刃の剣である。
周囲に間違いを正してくれる人物がいなければ、判断を見誤る可能性が高い。
この男は幸運だとギデオンは思った。
その先にある闇に堕ちてしまったら二度と元の場所には戻れない。
彼は、そのことを知っていた。
「ダル……パンテノール殿は何処にいった?」
「それが、西の奴らによって川に引きずり落されてしまい―――」
自分たちの将を見失った、兵士たちの表情に陰りが見えた。
先が見えないことへの不安と自身が置かれた過酷な現実に、彼らの心はすっかり折れてしまっていた。
一度戦意を失えば、兵として再帰するには時間が要る。
「うつむく暇はないぞ! 生きて故郷に帰りたいのなら、死に物狂いで僕についてこい!!」
荒療治であるが、再度、戦う意味を思い出される。
人が持つ生への執着心は、この程度で砕けてしまうほど脆くはない。
特に戦地に立つ彼らは、こんな所では終われないと強く実感しているはずだ。
ギデオンはソコに賭けることにした。
黒仮面ことパスバインの隊は勢いに乗って出来たばかりの橋へと登ってゆく。
次から次へと、大門を突破しようとやってくる南の兵士に対し、西軍もただただ気圧されているわけではない。
パスバイン隊を迎え撃つために門の内側から梯子をかけ、橋の反対側から全力疾走してきた。
門の右側は、早くも交戦状態となっていた。
その最中、銃皇隊の歩兵とジャスベンダー隊の法術師たちは、共同で消火活動にあたっていた。
依然として、東門正面口は燃え盛る炎によって通行不能になっていた。
着実に消化はできているも火の回りは、それ以上の速度で拡がっている。
部隊の中心で指揮をとる銃皇にも焦りの色が見えてきた。
戦場を移動するギデオンたちからも彼の怒声がはっきりと聞き取れた。
「ギデ、間もなく目標地点です」
先陣を切って走行するエイルの知らせとともに合戦の音が鳴り響いてきた。
そこは門左に位置するパンテノール部隊がいた場所だ。
ギデオンは常に、戦況を観察しながら戦況がどのように動くのか? 熟考していた。
無論、武将としても、軍師としても経験は皆無。
素人同然だが、ワイルドハンターであるおかげで勘だけは異様に鋭い。
南軍がどうやって都に攻め入るのかは分からない。
西が門の向こうで、どれほどの兵力を集結させているのかも定かではない。
それでも、天性の嗅覚は勝利の予感も嗅ぎ取る。
戦場全体を一望して場の揺らぎを見つける。発見したら、即座にその場所へと駆けつける。
あくまで怪しい動きだけを察しワンテンポ早い状態で部隊を動かしていた。
特に怪しいのは、橋の前に放たれた火矢だった。
炎で敵軍の様子が見えなくなるのは西も同じ、本当に時間稼ぎしかメリットはない。
その上、敵の進路上だけではなく、広範囲に渡って火矢を放ち続けていた。
西の狙いが何なのか、ギデオンにはすぐに分かった。
だからこそ、真っ先に対処しなければならない相手を止めるために、わざわざ自軍を二手に分けた。
「早速、お出ましのようだな」
騎馬を加速させギデオンは、さらに川岸奥へとむかう。
橋の前では、すでにパンテノール隊が敵部隊の伏兵に包囲されていた。
西の連中がどこからきたのか、そのずぶ濡れた忍装束をみれば誰でも気づく。
この兵士たちは都から川を渡って南軍の傍まで忍びよってきた。
思いがけない、敵襲に部隊としての連携が上手く取れず左側は、苦戦を強いられていた。
肝心のパンテノールの姿がどこにも見えない。
彼らの様子を見て駆けつけたギデオンは、パンテノールが不測の事態に陥っていると悟った。
「エイル、伏兵どもを追い払ってくれ! 僕たちは、そこにいる兵たちを拾う」
「はい。では、状況がクリアになり次第、再度合流します」
特大サイズの鉄球クロオリが西の兵らを狙い、猛スピードで転がってくる。
「罠だ! ガリュウのやつら、得体の知れない罠を持って持っているぞぉお!!」
戦場を縦横無尽に走りながら自分たちを押し潰そうする異質な塊に当然、敵方は混乱していた。
蜘蛛の子を散らすように走り出しながら、草の者たちは次々に川へと飛び込んでゆく。
「上手くいったようだな……大丈夫か?」
「お、お前は! 北の―――」
声をかけた途端、パンテノールの部下が騎乗したままのギデオンに剣を向けてきた。
昨日のことで南の者たちの心象は最悪になってしまったらしい。
あきらかに敵意を向けてきている。
「ヤメロ! 今はそんなことをしている場合じゃないだろう」
しばらく、そのままでいると別の兵士が仲間をなだめるためにやってきた。
「我々は今、北と共闘中だ。剣をおさめろ! お前はガリュウ様に恥をかかせるつもりか?」
「くっ……こんな奴らに頼らないといけないなんて!」
憤りを込めて兵士は剣を地面に突き立てた。
感情で動くことは、決して悪いことではないと、ギデオンは今まで信じて疑わなかった。
しかし、それは諸刃の剣である。
周囲に間違いを正してくれる人物がいなければ、判断を見誤る可能性が高い。
この男は幸運だとギデオンは思った。
その先にある闇に堕ちてしまったら二度と元の場所には戻れない。
彼は、そのことを知っていた。
「ダル……パンテノール殿は何処にいった?」
「それが、西の奴らによって川に引きずり落されてしまい―――」
自分たちの将を見失った、兵士たちの表情に陰りが見えた。
先が見えないことへの不安と自身が置かれた過酷な現実に、彼らの心はすっかり折れてしまっていた。
一度戦意を失えば、兵として再帰するには時間が要る。
「うつむく暇はないぞ! 生きて故郷に帰りたいのなら、死に物狂いで僕についてこい!!」
荒療治であるが、再度、戦う意味を思い出される。
人が持つ生への執着心は、この程度で砕けてしまうほど脆くはない。
特に戦地に立つ彼らは、こんな所では終われないと強く実感しているはずだ。
ギデオンはソコに賭けることにした。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる