異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百九十一話

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『マナシをここから100メートル以上、離せば理論上可能です』

 オートマタはエイルは基本、与えられた命にしか答えない。
 機械なのだから、当然の反応だがギデオンという人物が持つ不確定要素は彼女にも、未だ量りきれていない。
 そえゆえ、だろうか……答えを一つに絞り切れない時がある。
 機械の性質上、決められた答えしかだせないが、そのメインフレーム自体が正解を見つけらないと訴えている。
 エイルは追加の答えを要求されていた。

 そこに彼女に求めるモノがあるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
 マスターという存在以外、必要ではないとプログラムされている。
 しかし、エイルが優先するのは機械からの命ではない。
 主たる、彼の言葉だ。
 エイルは迷った時、いつもこの言葉を解として選ぶ。

「分からない時は、僕でも誰でもいい。とにかく、人から聞いてみてそれを判断材料にすればいい」
 再び人格データが起動してすぐ、ギデオンにそう告げられた。
 人間にとっては当たり前の判断かもしれないが、セブナリスシリーズにとっては違う。
 ありとあらゆる世の中の情報を網羅し、瞬時に必要な情報を検索し明確な解とする。

 少なくとも、前回の眠りに入る以前……メサイヤ戦争までは検索エンジンが機能していた。
 再度、目覚めた世界では、かつて栄華を誇っていた文明も影すらなく、科学技術のレベルは恐ろしく衰退していた。

『ギデ、マナシを移動させること自体が危険だと進言します。どう思われますか?』

「ここで戦えば、最悪水門が壊れてしまう。そうなれば下流にいる蓬莱渠の民に被害が及ぶ、それだけは避けたい」

『ですが、ここは溜め池。橋には敵味方、大勢の兵士が入り乱れています。橋を渡り切ることすら困難だと予想されます』

「そこは、ボクに考えがある。エイルは兵士たちとともに橋を下り、待機中の部隊を回収した後、代官所を押えてくれ!」

『…………ご武運を』

 感情のない彼女には、否定するという選択肢はない。
 ギデオンがそう決めたのなら、従うのみだ。
 実際、彼の判断は間違ってはいない。
 本体とは別行動を取る自分たちが早く戻らないと部隊は指揮官不在のまま機能しなくなる。
 その間に西軍の増援部隊にでくわせば一網打尽にされてしまうだろう。

 ただ……エイルの中に疑問が生まれようとしていた。
 本当に部隊を指揮するのは自分で良いのかと……。
 ならば、ギデオンがやるべきだと言うのなら、それも違う気がしてならない。
 マスターが動かすのは、部隊規模ではなく、もっと大局的なモノであるとエイルは感じていた―――――


 エイルが移動を開始するのを見届けるとギデオンは、天を見上げた。
 上空で浮かんでいる赤子マナシは変わらず、剣璽橋のそばから動かない。
 ここから先、100メートルとなると溜め池の中まで移動しなければならない。
 それこそ、天馬に乗って空に飛び立たない限り、無理な話だ。

「くたばれぇえええ! あひゃややあ!!」
 錯乱する兵士の斧をかわし、足元を引っ掛け転倒させる。
 このように時折、襲われるが雑兵相手に後れを取る彼ではない。
 軽くあしらうと、西軍がかたまっている橋の東側へと足を向けた。

「待ってください。わ、私も同行します……」

 声をかけてきたのは、パスバインだ。
 電磁波の影響から、彼女は依然として具合が悪そうな感じだ。

「安静にしていた方が良いのんじゃないのか? この不快感も、じきに治まるはずだ」

 ギデオンの発言に、パスバインは仮面の頭を横に振った。

「そうは行きません。ここは敵陣の中……軍を失ってしまえば皆、完全に孤立して身動きがとれなくなってしまう」

「特に、アンタのトコロは危ないな。銃皇の軍と別行動をとったのは誤算だったな」

「あの方には、為すべきことがありますから。私には、それが何か分かりかねますが……ジャスベンダー殿ほどの方が言うのです。この国にとって重要なことなのでしょう」

 ―――帝国軍人の考え方はもっと合理的で冷淡な印象だ。
 ギデオンは表情にこそ出していなかったが、内心ではパスバインの帝国軍人らしからぬ、物の考え方に驚かされていた。
 ジャスベンダーという男は、まさに、そのイメージを体現したような人物だ。
 対して彼女は戦局よりも兵のことを気にしている。
 本気でそう思っているのなら、ここで手を貸すのもやぶさかでない。

「ギデ殿、差し出がましいのですが……お願いがあります。貴殿のミードを一口、譲ってもらえませんか? あれがあれば、私の容態も回復するはずです」

「そこまで、調べているのか……分かった、受け取れ」
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