306 / 547
三百六話
しおりを挟む
少し離れた場所から、凄まじい量のプラーナを感じた。
おそらくは師匠であるカイが、東軍と一戦交えているのだろう。
加勢したい気持ちが先走りオッドは妙にソワソワしている。
「気が散るから邪魔をするな!」と釘を刺されていたからこそ、こうして耐えている。
……が折角、新しい力を授かったのに実戦で試すことができないのは、もどかしい。
蛇の生殺しのようになっていたが、はやりカイの方へは行けない。
ウネが、満願の方が気になると触覚をレーダーのようにピンと張り詰めていた。
まだ、敵の一部隊しか南域には侵入していないはずだと、オッドは誤認していた。
珍しくウネが騒ぐので戻ることに決めたが、後ろ髪を引かれるのは、依然として変わらない。
とにかく、今は都の警固をしよう、そうすれば気が楽になる。
オッドは道を急いだ。都は現在ガリュウ守護代によって守られている。
言うまでもなく、蟻んこ一匹通さないほどの厳戒態勢が敷かれている。
「――――そこを何とか……都の中には病に苦しむ孫が下ります故……この薬草を届けないと」
「そう言われても……なぁ~? 悪いけど、手形を持っていない人間を都の中へと入れることはできない決まりとなっているから、当面は辛抱してくれよ」
満願への入り口にあたる正門が何やら騒がしい。
薄汚れた身なりをした山菜取りの老人が、手形も持たずに中へと進もうとし門番と言い争っていた。
「手形ぐらいいいじゃないか」そう言ってあげたいのも山々なのだが、東軍の魔の手が忍び寄っている今、オッドも下手なことを口走れない。
「だったら、代わりに俺が薬草を届けてやるよ。爺さんの孫の家は何処にあるんだい?」
出来ることと言えば、この程度のお使いぐらいだ。
お人好し過ぎるかもしれないが、困ったときはお互い様とも言う。
それに理由が理由なのだ……知らん顔して通れるほど、オッドは情を割り切ってゆけなかった。
「本当ですか……!? それなら、是非にお願いしますだ」
老人はオッドを手を握りながら何度も頭を下げ感謝を述べた。
本当にうれしそうだ、はち切れんばかり笑顔で目を細めている。
「オッド! 逃げてぇぇええ!!」
「へぇ……! あっぁああ!!」
腹部がやけに熱を帯びていた。ウネの叫び声で異常に気付いたオッドが老人の方を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
オッドの脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。
切り傷よりも刺し傷の方が致命傷になるリスクは大きい。なぜならば、場所によっては内臓を損傷してしまうことがある。
オッドの場合はかなり深く刺された。肉体の損傷以前に出血が酷い。
着流しがすぐに血で湿ると、ボタボタと地面に血が流れ落ちてゆく。
「じ、ジジィ! お前は……」
「くっひゃやあああああ――――!! 調子に乗って人助けしようとしたのが仇になったなぁ。ゴミカスよ、貴様が向かうのは地獄のみだ。せめてもの情けに、今すぐ楽にしてやるぅぅぅ!!」
先程まで大人しくなった老人が豹変した。
変わったのは口調や性格だけではなく、その容姿も変化してゆく。
しゃがれ声は、ハツラツとしたものとなり、皮膚のたるみやシワが消え、張りのある素肌に変わってゆく。
縮んでいた背丈が伸びて、やつれた全身が膨張し、肉づきの良いガタイとなった。
「くせ者め!! 東軍の間者か、貴様!?」
突如として現れた青年に門番の二人も長槍を手にとらずにはいかなかった。
もはや、老人ではなく若々しく力溢れる姿に畏怖すら覚える。
「余の邪魔をするとは、極刑だ」
男が手にした杖には、先端に輪っか状の大きな刃をついていた。
そのリングを門番の一人の首にひっかけ、杖を振り払う。
刹那、門番の首が飛んだ……あまりにも異質で凄惨な方法を用いて門番たちを仕留めてゆく。
男の常軌を脱した冷酷無情、残忍な行いは、周囲に鮮烈的な衝撃を与えた。
その手に携える杖の名は首狩り鎌と呼ばれる処刑器具だ。
見かけ騙しなどではなく、殺傷能力に優れた器具が屈みこんだままのオッドに差し向けられる。
すると、細長い緑の蔦が高速で飛び出て、男の行く手を遮った。
「あっと! 危うく串刺しにされる所でしたよ。魔人か……面倒なモノを引き連れている」
「オマエ、キライ!! オッドをキズつけた!!」
「んあ? オマエ呼びとは恐れいった。所詮、ゴミはゴミか……いいか! よく聞け愚民ども。余の名はガイサイ。ドルゲニアの第一王子、ガイサイ=レグ=ドルゲニアだ!! 余の名を称え、そしてくたばるがいい」
暴君の声が、満願の空へと響き渡った。
おそらくは師匠であるカイが、東軍と一戦交えているのだろう。
加勢したい気持ちが先走りオッドは妙にソワソワしている。
「気が散るから邪魔をするな!」と釘を刺されていたからこそ、こうして耐えている。
……が折角、新しい力を授かったのに実戦で試すことができないのは、もどかしい。
蛇の生殺しのようになっていたが、はやりカイの方へは行けない。
ウネが、満願の方が気になると触覚をレーダーのようにピンと張り詰めていた。
まだ、敵の一部隊しか南域には侵入していないはずだと、オッドは誤認していた。
珍しくウネが騒ぐので戻ることに決めたが、後ろ髪を引かれるのは、依然として変わらない。
とにかく、今は都の警固をしよう、そうすれば気が楽になる。
オッドは道を急いだ。都は現在ガリュウ守護代によって守られている。
言うまでもなく、蟻んこ一匹通さないほどの厳戒態勢が敷かれている。
「――――そこを何とか……都の中には病に苦しむ孫が下ります故……この薬草を届けないと」
「そう言われても……なぁ~? 悪いけど、手形を持っていない人間を都の中へと入れることはできない決まりとなっているから、当面は辛抱してくれよ」
満願への入り口にあたる正門が何やら騒がしい。
薄汚れた身なりをした山菜取りの老人が、手形も持たずに中へと進もうとし門番と言い争っていた。
「手形ぐらいいいじゃないか」そう言ってあげたいのも山々なのだが、東軍の魔の手が忍び寄っている今、オッドも下手なことを口走れない。
「だったら、代わりに俺が薬草を届けてやるよ。爺さんの孫の家は何処にあるんだい?」
出来ることと言えば、この程度のお使いぐらいだ。
お人好し過ぎるかもしれないが、困ったときはお互い様とも言う。
それに理由が理由なのだ……知らん顔して通れるほど、オッドは情を割り切ってゆけなかった。
「本当ですか……!? それなら、是非にお願いしますだ」
老人はオッドを手を握りながら何度も頭を下げ感謝を述べた。
本当にうれしそうだ、はち切れんばかり笑顔で目を細めている。
「オッド! 逃げてぇぇええ!!」
「へぇ……! あっぁああ!!」
腹部がやけに熱を帯びていた。ウネの叫び声で異常に気付いたオッドが老人の方を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
オッドの脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。
切り傷よりも刺し傷の方が致命傷になるリスクは大きい。なぜならば、場所によっては内臓を損傷してしまうことがある。
オッドの場合はかなり深く刺された。肉体の損傷以前に出血が酷い。
着流しがすぐに血で湿ると、ボタボタと地面に血が流れ落ちてゆく。
「じ、ジジィ! お前は……」
「くっひゃやあああああ――――!! 調子に乗って人助けしようとしたのが仇になったなぁ。ゴミカスよ、貴様が向かうのは地獄のみだ。せめてもの情けに、今すぐ楽にしてやるぅぅぅ!!」
先程まで大人しくなった老人が豹変した。
変わったのは口調や性格だけではなく、その容姿も変化してゆく。
しゃがれ声は、ハツラツとしたものとなり、皮膚のたるみやシワが消え、張りのある素肌に変わってゆく。
縮んでいた背丈が伸びて、やつれた全身が膨張し、肉づきの良いガタイとなった。
「くせ者め!! 東軍の間者か、貴様!?」
突如として現れた青年に門番の二人も長槍を手にとらずにはいかなかった。
もはや、老人ではなく若々しく力溢れる姿に畏怖すら覚える。
「余の邪魔をするとは、極刑だ」
男が手にした杖には、先端に輪っか状の大きな刃をついていた。
そのリングを門番の一人の首にひっかけ、杖を振り払う。
刹那、門番の首が飛んだ……あまりにも異質で凄惨な方法を用いて門番たちを仕留めてゆく。
男の常軌を脱した冷酷無情、残忍な行いは、周囲に鮮烈的な衝撃を与えた。
その手に携える杖の名は首狩り鎌と呼ばれる処刑器具だ。
見かけ騙しなどではなく、殺傷能力に優れた器具が屈みこんだままのオッドに差し向けられる。
すると、細長い緑の蔦が高速で飛び出て、男の行く手を遮った。
「あっと! 危うく串刺しにされる所でしたよ。魔人か……面倒なモノを引き連れている」
「オマエ、キライ!! オッドをキズつけた!!」
「んあ? オマエ呼びとは恐れいった。所詮、ゴミはゴミか……いいか! よく聞け愚民ども。余の名はガイサイ。ドルゲニアの第一王子、ガイサイ=レグ=ドルゲニアだ!! 余の名を称え、そしてくたばるがいい」
暴君の声が、満願の空へと響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる