異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
355 / 547

三百五十五話

しおりを挟む
 ヘイガンの態度はそれまでとは打って変わり、毅然としていた。
 広い視野で物事を捉え、発せれる言葉の端々にが漂う。
 彼とて一国の王子である。
 このような非常時がいつか訪れると、覚悟を決めていたのだろう。

 それまで、ワガママな単細胞王子かと思っていたギデオンたちの中で、王子の評価を見直す機会となった。
 しかし、先入観と現実のギャップの溝は、そう簡単には埋められそうにない。
 とどのつまり、キャラが合っていない。
 目つきは鋭く歯並びが悪い。ヘイガンの人相の悪さはどちらかと言えば下品である。
 それ故、素直に認め辛いのだ。

「状況を整理しよう。立ち話もなんだ――――」

 部屋の中央にある円卓、傍らには十二脚の椅子が円に沿って並べられていた。
 うち一つにヘイガンが腰をつけると、家臣たちも着席し出した。
 ギデオンとオッドもそれに倣い、席に着いた。
 貴族出身であるギデオンはともかく、この様な状況に不慣れなオッドは落ち着かないようだ。
 終始、ソワソワしている。

「さきに述べた通り、俺たちはこれから防衛線を張り、都の守りを強固にしなければならない。その為には時間が必要だ。そこで、お前たちにクド将軍の足止めをして貰いたい。そうしてくれれば俺たちも非常に助かる」

「決まっているさ、僕はクドを追う。北方地区でも東軍が侵略を開始していると聞いた。迷宮遺跡でアイツは僕を待っていると言っていた。遺跡について知っていることがあれば教えてくれ」

 迷宮遺跡という名を聞いて、テーブルの周囲に立っている警備兵たちから、ざわつきの声が上がった。
 何やら遺跡について話しているようだが「危険」「不吉」「禁足地」とネガティブな単語が飛び交っている。
 動じる兵士たちに向けバァン!! とテーブルを手で叩きつけたの他ならぬヘイガンだった。
 切れ長の目元から発せられる眼光は、並みならぬ気迫で満ちている。

「テメーら! ガタガタ抜かしてんじゃねぇ――ぞ!! あそこが死者の迷宮と呼ばれていようが所詮は言い伝えでしかねぇ。そうだろう? ジャス!」

「肝心なところで私に振らないでください。ギデ殿、迷宮遺跡は太古の昔、この地を支配していた龍神族の亡骸が多く埋葬されていると文献には記されております。長い年月、人が訪れていなかったせいか、近年の調査では魔物の巣窟になっていることが判明し、立ち入り禁止区域に指定されているのです」

「そんな、所にクドは僕を呼び出しそうしているのか……」

「罠である可能性は大いにあるでしょう。クド将軍については一年ほど前に傭兵団を率いて、この国に流れて来たようです。彼は大王に謁見えっけんするなり前任の将軍との対決を望んだそうです。その圧倒的な武で、前将軍を瞬殺したという話は一時期、この国全体を震撼させるほど話題になりましたな」

 口元を指先で擦りながら、ジャスベンダーは淡々と語る。
 緊迫した空気にオッドがゴクリと喉を鳴らしていた。
 クド将軍と一戦交えた彼にとって、その脅威は思い返すだけでも鳥肌が立つほど恐ろしいものがあるようだ。

「アイツに限って、罠を張るなんて姑息な真似はしないだろう」

「知り合いなのか?」

 ギデオンの一言に再度、兵士たちが沸き立っ。
 問いただすヘイガンにギデオンは「そうだ、同郷だ」と短く返した。
 ここで自分とクドの関係を否定したり、隠していても得策ではない。
 疑われることを覚悟で申告した方が、後々に厄介なことにならずに済む。
 そう判断し回答することにした……が詳細までは伝えなかった。

 ギデオンにとってクドは昔の仲間であり、かつての友である。
 ヘイガンたちとは和解したものの、彼らは依然として仲間という関係ではない。
 両者を天秤にかければ、どちらかに傾くことはない。
 曖昧な状況下では、中立的に接することしかできないのである。

「迷宮遺跡に行くのなら、パスバインを連れてゆけ。遺跡の内部はその名の通り入り組んでいる、コイツの方向感覚の良さが役立つだろう」

「やけに彼女を押し付けるな?」

「ああ、本音を言えばコイツは戦闘と交渉ごと以外はだ。基本、やらなくいいことに手を出して余計な面倒を増やしてくれる」

「若ぁ……そんな、風に思っていたのですか?」

 辛辣なヘイガンの評価は余程、堪えたのだろう。パスバインは一人で項垂れていた。
 当然ながら、そんなことはあるはずもない。
 本音半分、嘘半分といったところだ。

「分かった、彼女には協力して貰おう」

 ヘイガンたちはパスバインに絶大な信頼をおいている。ギデオンの傍におこうするのは、監視役としてでだ。
 万が一、彼が自分たちに反旗を翻そうともパスバインなら上手く交渉してくれると確信している証だ。
 それとなく察したギデオンは、彼らの提案を飲むことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...