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三百五十七話
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いくら、アルラウネの分身だと言ってもウネはまだ幼い。
小さな双肩にこの場を預けるのは、重荷ではないのか?
逡巡するギデオンの傍に駆け寄り、ウネは葉の触覚をピンと伸ばし真っすぐな眼差しを向ける。
以前とは姿や性格もまるっきり別人だ。記憶を引き継いでいないのだから当然なのだが……。
アルラウネの娘として接した方が良いのかもしれない。
「ウネ、覚えてないけど……主様のこと、なつかしく感じる。主様が赤ん坊だったウネを育ててくれたんだよね?」
「そうだとも、僕が君をエンデリデ島から連れ出してきたんだ」
「もうすぐだよ。ここまでの主様の歩みが一つにつながるのは……」
意味深げなウネの言葉はまるで未来を示唆しているようである。
魔族特有の勘と言う奴かと、ハンターであるギデオンは納得していた。
直感に頼ることが多々ある彼にとっては、あながち軽視できないものだ。
今まで何度も窮地を乗り切った能力が告げてくる。
確実な物などどこにもない。結果は後からついてくるものだと。
決して信じていないわけではない。単にリスクの問題だ、ウネを参戦させることで状況がどのように変化するのか未知数としか言いようがない。
「頼めるかい?」
ギデオンがそう言葉にすると、雪のような白肌を赤らめながらウネは明るい表情を見せた。
リスクなど初めから背負っている。方法があるのだとしたら、積極的に取り入れるべきだ。
思いっきりの良さこそギデオンの持ち味だ。
判断の速さこそが鍵となる。いくつか修羅場をくぐったことで学んだ教訓だ。
「それでどうやって本体を探るんだ?」
「うにゅ、これを飛ばすの!」
「ダンデールの花の綿毛か!」
ウネの手元には桃色の綿毛をつけた一凛の花があった。
ダンデールと呼ばれる花で温暖な地域ではよく目にする。
種子のついた綿毛を風に乗せて、遠くの場所まで運んでゆく。
綿毛ではいささか、心もとない。パスバインたちの反応は芳しくはない。
不満気なウネの頭を撫でてオッドが明朗快活に笑い飛ばす。
「周りの反応なんざ気にすんな。お前の力を見せつけて南の連中の度肝を抜いてやれ!」
「オッド……うにゅ、そうする。綿毛たちよ、宙に舞え!!」
両手をかかげたウネの足下が瞬く間にダンデール畑と化した。
植物なら、どんなモノでも生み出せるアルラウネ、成長する速度ですら容易に調整できる。
「俺に任せろ!」オッドの手から薙刀が飛び出す。
ガリュウの私物だが、ハルバードを扱っていた彼は長物の扱いに長けていた。
扇ぐように一振りすると、たちまち綿毛が散らばり辺りをピンク一色に染め上がる。
「本体の居場所は触れれば判明するの、植物たちが教えてくれるから。ダンデールの綿毛は生物にしか付着しない」
ウネのセンサーだけが頼りだ。目で追うには、綿毛はあまりにも細かすぎる。
「見つけた! 主様、犬の方角三キロほど先に本体がいる」
「さ、三キロだと――――」
仰天するほどの数値にギデオンたちは絶句していた。
このままだと遺跡に入る前に、無数の鬼火と格闘することになる。
向こうからむやみやたらに、攻撃をしかけてこないのは有難いことではある。
侵入者に対しては燃え盛る火炎を見舞ってくる。
さしずめ、魔物のバリケードといったところだが、突破できる確証がない……。
「ベツレイムクライシス!」
行く手を遮る魔物の群れをパスバインが生み出す竜巻によって一斉に吹き飛ばしてゆく。
鬼火の海の一部が欠けただけですぐに道が塞がってしまう。
「突っ切ります! ついて来てください」
先陣を切りパスバインが鬼火の海へと突入した。すぐさま、ギデオンが後を追いかける。
まさに時間との戦いだ。ベツレイムクライシスを連発するのには、限りがある。
その間に、三キロのフルスピードマラソンをしなければならない。
「くっ……すみません。あと一撃が限界です」
「構わないさ、よく頑張ってくれた」
二キロ完走するまで、およそ十五回も大技を連発した。ここでの消耗は手痛いが立ち往生しているわけにもいかない。北の進軍を止めるため、カナッペの呪いを解くために死力をつくす他、手立てはない。
「残り一キロをきった! パスバイン!!」
「はい! これでラストです。あとは宜しくお願いします」
「パーミッショントランス!!」
最後の一撃と共に滑走するギデオン。放たれた弾丸のごとく超高速移動で本体を叩きにゆく。
「邪魔だ―――!! 極天蒼炎鸞」
目には目を炎には炎を、青白い光がオレンジ色の灯火を喰らい尽くす。
敵が体当たりしてくる度に、全身を覆う極天の炎が削られてしまう。
「いたぞ……アイツか!?」
すぐ傍に一際、光輝く白銀の炎の姿が見えた。
火炎というよりは燃え盛る魂と言うのが正しいのだろう。
ウィル・オ・ウィスプ、鬼火たちを生み出し操っていた元凶だ。
接近するギデオンを察知し、鬼火たちを集結させ壁を作ろうとするが、そう好きやらせるほど彼は甘くない。
「ハーティ、ファーストブレイカー」
地を蹴り上げ、身を乗り出すように跳躍すると白きアサルトライフルを腕に抱え、そこから狙いをつけた。
壁が埋まるよりも前に発砲音が響く。
撃ち込まれた弾丸がウィル・オ・ウィスプを貫き粉々にした。
小さな双肩にこの場を預けるのは、重荷ではないのか?
逡巡するギデオンの傍に駆け寄り、ウネは葉の触覚をピンと伸ばし真っすぐな眼差しを向ける。
以前とは姿や性格もまるっきり別人だ。記憶を引き継いでいないのだから当然なのだが……。
アルラウネの娘として接した方が良いのかもしれない。
「ウネ、覚えてないけど……主様のこと、なつかしく感じる。主様が赤ん坊だったウネを育ててくれたんだよね?」
「そうだとも、僕が君をエンデリデ島から連れ出してきたんだ」
「もうすぐだよ。ここまでの主様の歩みが一つにつながるのは……」
意味深げなウネの言葉はまるで未来を示唆しているようである。
魔族特有の勘と言う奴かと、ハンターであるギデオンは納得していた。
直感に頼ることが多々ある彼にとっては、あながち軽視できないものだ。
今まで何度も窮地を乗り切った能力が告げてくる。
確実な物などどこにもない。結果は後からついてくるものだと。
決して信じていないわけではない。単にリスクの問題だ、ウネを参戦させることで状況がどのように変化するのか未知数としか言いようがない。
「頼めるかい?」
ギデオンがそう言葉にすると、雪のような白肌を赤らめながらウネは明るい表情を見せた。
リスクなど初めから背負っている。方法があるのだとしたら、積極的に取り入れるべきだ。
思いっきりの良さこそギデオンの持ち味だ。
判断の速さこそが鍵となる。いくつか修羅場をくぐったことで学んだ教訓だ。
「それでどうやって本体を探るんだ?」
「うにゅ、これを飛ばすの!」
「ダンデールの花の綿毛か!」
ウネの手元には桃色の綿毛をつけた一凛の花があった。
ダンデールと呼ばれる花で温暖な地域ではよく目にする。
種子のついた綿毛を風に乗せて、遠くの場所まで運んでゆく。
綿毛ではいささか、心もとない。パスバインたちの反応は芳しくはない。
不満気なウネの頭を撫でてオッドが明朗快活に笑い飛ばす。
「周りの反応なんざ気にすんな。お前の力を見せつけて南の連中の度肝を抜いてやれ!」
「オッド……うにゅ、そうする。綿毛たちよ、宙に舞え!!」
両手をかかげたウネの足下が瞬く間にダンデール畑と化した。
植物なら、どんなモノでも生み出せるアルラウネ、成長する速度ですら容易に調整できる。
「俺に任せろ!」オッドの手から薙刀が飛び出す。
ガリュウの私物だが、ハルバードを扱っていた彼は長物の扱いに長けていた。
扇ぐように一振りすると、たちまち綿毛が散らばり辺りをピンク一色に染め上がる。
「本体の居場所は触れれば判明するの、植物たちが教えてくれるから。ダンデールの綿毛は生物にしか付着しない」
ウネのセンサーだけが頼りだ。目で追うには、綿毛はあまりにも細かすぎる。
「見つけた! 主様、犬の方角三キロほど先に本体がいる」
「さ、三キロだと――――」
仰天するほどの数値にギデオンたちは絶句していた。
このままだと遺跡に入る前に、無数の鬼火と格闘することになる。
向こうからむやみやたらに、攻撃をしかけてこないのは有難いことではある。
侵入者に対しては燃え盛る火炎を見舞ってくる。
さしずめ、魔物のバリケードといったところだが、突破できる確証がない……。
「ベツレイムクライシス!」
行く手を遮る魔物の群れをパスバインが生み出す竜巻によって一斉に吹き飛ばしてゆく。
鬼火の海の一部が欠けただけですぐに道が塞がってしまう。
「突っ切ります! ついて来てください」
先陣を切りパスバインが鬼火の海へと突入した。すぐさま、ギデオンが後を追いかける。
まさに時間との戦いだ。ベツレイムクライシスを連発するのには、限りがある。
その間に、三キロのフルスピードマラソンをしなければならない。
「くっ……すみません。あと一撃が限界です」
「構わないさ、よく頑張ってくれた」
二キロ完走するまで、およそ十五回も大技を連発した。ここでの消耗は手痛いが立ち往生しているわけにもいかない。北の進軍を止めるため、カナッペの呪いを解くために死力をつくす他、手立てはない。
「残り一キロをきった! パスバイン!!」
「はい! これでラストです。あとは宜しくお願いします」
「パーミッショントランス!!」
最後の一撃と共に滑走するギデオン。放たれた弾丸のごとく超高速移動で本体を叩きにゆく。
「邪魔だ―――!! 極天蒼炎鸞」
目には目を炎には炎を、青白い光がオレンジ色の灯火を喰らい尽くす。
敵が体当たりしてくる度に、全身を覆う極天の炎が削られてしまう。
「いたぞ……アイツか!?」
すぐ傍に一際、光輝く白銀の炎の姿が見えた。
火炎というよりは燃え盛る魂と言うのが正しいのだろう。
ウィル・オ・ウィスプ、鬼火たちを生み出し操っていた元凶だ。
接近するギデオンを察知し、鬼火たちを集結させ壁を作ろうとするが、そう好きやらせるほど彼は甘くない。
「ハーティ、ファーストブレイカー」
地を蹴り上げ、身を乗り出すように跳躍すると白きアサルトライフルを腕に抱え、そこから狙いをつけた。
壁が埋まるよりも前に発砲音が響く。
撃ち込まれた弾丸がウィル・オ・ウィスプを貫き粉々にした。
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