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三百七十五話
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所々が朽ちかけたブロックレンガの広間。崩れた壁の合間から木の根が顔を覗かせている。
煌々と室内を照らす、松明の炎は誰がつけたわけでもない。
人が広間に足を踏み入れたら自動で火種が着火される仕組みだ。
薄暗く頼りない灯りの下、一際巨大なオブジェクトがひっそりと安置されていた。
大きさにして、象型の魔獣アグカリモスの倍の質量がありそうだ。
まるで繭のようなカタチを形成し胎動する度に何かのシルエットが現れる。
人でもなく魔獣でもない、大樹ようなずっしりとした構えをしたソレには、枝葉の合間から丸い蕾が大量についていた。
「この物体の正体も気になるが、シルクエッタ……だよな?」
「厳密には君の知るシルクエッタではないよ。シルクエッタを媒体にして潜んでいた女神さ」
「じゃあ、今までの彼女はなんだったんだ!? ちゃんと存在して僕の傍にいたはずだ」
「それはボクの一部だよ。精神の一部を分離して仮の人格を創造したんだ」
ミルティナスとしてのシルクエッタは過去の自分を肯定していないようだった。
純真無垢だった時は違い、高潔で勇ましい面構えになっている。
何より、吸い込まれるような明度ある瞳の色が神々しく見える。
神様なのだから当たり前なのだが、直視されると全てを見透かされている気がして落ち着かない。
「ギィィイデェェエエエ――――!! くたばれやぁあああああ――――!」
「なっ……どうしてお前がここに居る!? ファルゴ!」
ギデオンを一目見て、業を煮やした男が飛び出してきた。
ファルゴは彼との再戦を心待ちにしていた。
当然ながら、正々堂々と挑もうとするのではなく、バイオレンス……相手が気に喰わないから暴力に打って出たいだけだ。
「ファルゴ、止めなさい!」
「ふぬっ! ぐわああああ――――!!」
手の甲の聖痕が浮き上ると、ファルゴは耐えきれず悲鳴をあげた。
左手の神の刻印は、女神の従者としての契約の証だ。
ミルティナスの意思に反発するのであれば、即座に反応し苦痛を与える。
「俺が何をしたっていうんだ!? 一方的に契約を交わしやがって」
「君たちは生まれた時から神の加護を与えられてきた。そのせいで、肉体は疲弊し、人として耐えきれないほどの負荷を追ってしまっている。契約紋は君たちの延命処置であり、眷属化する為に必要不可欠な物だ」
「それが身勝手だと言っている」
「加護の付与自体は、ボクがどうこうしたわけではないよ。六人将に選定したのも、君たちを保護するあたって、それなりの理由づけが必要だったからだ」
「何が言いたい? 恩でも売るつもりか?」
「ボクには君が壊れてゆくのを眺めるだけという選択肢もあった。そうしなかったのは偏にボクの甘さだと言えよう。君が改心すると信じたからだ」
未だ、反抗心が潰えないファルゴを説得するのは容易ではなかった。「マジかよ」と冷笑する暴君に優しい言葉をかけても通じようがない。
「シルクエッタ、そんな奴は相手にするな。コイツは人が困るのを愉しんでいるだけの変態だからな」
「んだとぉ!! このすかし野郎! もういっぺん言ってみやがれ!!」
「ああ、何度でも言ってやるさ。高慢ちきで煽り耐性ゼロの負け犬め」
もはやラチがあかない。いがみ合う二人の相性は最悪そのものだ。
どちらかが罵倒すれば、もう一方が言い返す。そんなやり取りを長々と続けている。
「なぁ、アイツら抜きで説明して貰えないか? その方が手っ取り早い」
「シゼルも同感。あの二人、一生やっていろってカンジ~」
オッドの言うことは正論だった。このままでは話が進まない。
ミルティナスは一つ、ため息をつくとジェイクを呼んだ。
「ボクよりもジェイクさんの方が詳しいから彼の話を聞こう」
「俺たちに見せたい物ってこのデカブツだよな?」
部屋の奥にある繭を指さしながらオッドが尋ねると、聖獣であるジェイクがシゼルの肩に止まって話始めた。
「ここにあるのは古代文明時代の遺産が一つ、レジェンドクラスの魔導機だ。魔動機とは魔道具が誕生する以前に普及していた大掛かりな魔導装置の総称だ。これは【マイトリーの大椿】と呼ばれるものでレイキャストと言う装置によりレイラインからエネルギーを貯蓄し運用してゆく―――――」
「サッパリ、分からないんだが……?」
「ボクたちの知るところではマジックブースター、ようはバッテリーという奴さ。大椿はその為のコンデンサであり、オッド君が持つ、タオウ―のオーブがバッテリーに該当する物なんだ」
「あのオーブって、コイツの一部だったのか!?」
煌々と室内を照らす、松明の炎は誰がつけたわけでもない。
人が広間に足を踏み入れたら自動で火種が着火される仕組みだ。
薄暗く頼りない灯りの下、一際巨大なオブジェクトがひっそりと安置されていた。
大きさにして、象型の魔獣アグカリモスの倍の質量がありそうだ。
まるで繭のようなカタチを形成し胎動する度に何かのシルエットが現れる。
人でもなく魔獣でもない、大樹ようなずっしりとした構えをしたソレには、枝葉の合間から丸い蕾が大量についていた。
「この物体の正体も気になるが、シルクエッタ……だよな?」
「厳密には君の知るシルクエッタではないよ。シルクエッタを媒体にして潜んでいた女神さ」
「じゃあ、今までの彼女はなんだったんだ!? ちゃんと存在して僕の傍にいたはずだ」
「それはボクの一部だよ。精神の一部を分離して仮の人格を創造したんだ」
ミルティナスとしてのシルクエッタは過去の自分を肯定していないようだった。
純真無垢だった時は違い、高潔で勇ましい面構えになっている。
何より、吸い込まれるような明度ある瞳の色が神々しく見える。
神様なのだから当たり前なのだが、直視されると全てを見透かされている気がして落ち着かない。
「ギィィイデェェエエエ――――!! くたばれやぁあああああ――――!」
「なっ……どうしてお前がここに居る!? ファルゴ!」
ギデオンを一目見て、業を煮やした男が飛び出してきた。
ファルゴは彼との再戦を心待ちにしていた。
当然ながら、正々堂々と挑もうとするのではなく、バイオレンス……相手が気に喰わないから暴力に打って出たいだけだ。
「ファルゴ、止めなさい!」
「ふぬっ! ぐわああああ――――!!」
手の甲の聖痕が浮き上ると、ファルゴは耐えきれず悲鳴をあげた。
左手の神の刻印は、女神の従者としての契約の証だ。
ミルティナスの意思に反発するのであれば、即座に反応し苦痛を与える。
「俺が何をしたっていうんだ!? 一方的に契約を交わしやがって」
「君たちは生まれた時から神の加護を与えられてきた。そのせいで、肉体は疲弊し、人として耐えきれないほどの負荷を追ってしまっている。契約紋は君たちの延命処置であり、眷属化する為に必要不可欠な物だ」
「それが身勝手だと言っている」
「加護の付与自体は、ボクがどうこうしたわけではないよ。六人将に選定したのも、君たちを保護するあたって、それなりの理由づけが必要だったからだ」
「何が言いたい? 恩でも売るつもりか?」
「ボクには君が壊れてゆくのを眺めるだけという選択肢もあった。そうしなかったのは偏にボクの甘さだと言えよう。君が改心すると信じたからだ」
未だ、反抗心が潰えないファルゴを説得するのは容易ではなかった。「マジかよ」と冷笑する暴君に優しい言葉をかけても通じようがない。
「シルクエッタ、そんな奴は相手にするな。コイツは人が困るのを愉しんでいるだけの変態だからな」
「んだとぉ!! このすかし野郎! もういっぺん言ってみやがれ!!」
「ああ、何度でも言ってやるさ。高慢ちきで煽り耐性ゼロの負け犬め」
もはやラチがあかない。いがみ合う二人の相性は最悪そのものだ。
どちらかが罵倒すれば、もう一方が言い返す。そんなやり取りを長々と続けている。
「なぁ、アイツら抜きで説明して貰えないか? その方が手っ取り早い」
「シゼルも同感。あの二人、一生やっていろってカンジ~」
オッドの言うことは正論だった。このままでは話が進まない。
ミルティナスは一つ、ため息をつくとジェイクを呼んだ。
「ボクよりもジェイクさんの方が詳しいから彼の話を聞こう」
「俺たちに見せたい物ってこのデカブツだよな?」
部屋の奥にある繭を指さしながらオッドが尋ねると、聖獣であるジェイクがシゼルの肩に止まって話始めた。
「ここにあるのは古代文明時代の遺産が一つ、レジェンドクラスの魔導機だ。魔動機とは魔道具が誕生する以前に普及していた大掛かりな魔導装置の総称だ。これは【マイトリーの大椿】と呼ばれるものでレイキャストと言う装置によりレイラインからエネルギーを貯蓄し運用してゆく―――――」
「サッパリ、分からないんだが……?」
「ボクたちの知るところではマジックブースター、ようはバッテリーという奴さ。大椿はその為のコンデンサであり、オッド君が持つ、タオウ―のオーブがバッテリーに該当する物なんだ」
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