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三百七十六話
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「二人ともいい加減しないか!」
魔導機の性能に驚嘆するオッドの向かい側で一喝が飛んだ。
今し方まで饒舌に説明していたジェイクだが、お役御免だと悟ってしまったようだ。
今度は、ギデオンたちの仲裁に入っていた。
暴れることができないファルゴはふて腐れていた。
ギデオンからすれば受け入れ難い相手だ。個人的な感情の問題ではなく、この男の奥底を垣間見たことがある者からすれば至極当然のことである。
卑怯ではなくとも卑劣ではある。最終的には自分にために己が理念をかなぐり捨てても手段を選らばないだろう。
そんな人物を仲間として引き入れるのだ。リスクは覚悟しておかないといけない。
最悪、背後から襲われてもおかしなことではない。
「ギデ、ファルゴ、ちゃんとボクの話を聞いている?」
「このデカブツがドルゲニアの動力、心臓ってことだろう? レイラインのエネルギーを地下から吸い上げて蓄積させてゆく。だとすると、矛盾が生まれる。一、どうしてドルゲニア公国はエネルギー不足に悩まされているのか? 二、溜め込んだエネルギーをどうやって消費しているのか? また、そうしないといけない理由は何なのか? 疑問だらけだな」
「女神さんよぉ。俺はコイツみたいにチマチマと考察するのは好かねぇー! 勿体ぶってねぇーで、さっさと本題に入りやがれ。あのサイコ野郎の目的とはなんだ?」
ギャーギャー騒がしくしていた割に、二人ともちゃっかりと内容を把握していた。
そればかりか、話の本質に気づいている。
この話の要点はマイトリーの大椿の機能ではなく、役割にある。
いくらエネルギーを蓄積できるからといって半永久的に起動させているのは普通、考えられない。
吸収し続けていけば、いつしか枯渇すると誰しも懸念はするはずだ。
ギデオンが提示した疑問の答えは、公国の一日に夜がないという現象が非常に関与している。
正確には夜が来ないのではなく夜が視認できないのだ。
その事実はエイルよって解き明かされた。ゆえにギデオンは、ドルゲニアの秘密の一つを既知していた。
「大椿が得たエネルギーのほとんどがドルゲニア全土の草木に流れてゆく。大地の恩恵を得た植物たちは枯れることも成長することもなく、ずっと秋模様を保ち続けてきた。余剰のエネルギーはそれら大自然が自らを発光させて放出しているんだ。奴らを避け封じておくために……昼夜問わず、公国全土が光に満ち溢れているんだ」
「結界の一種ってところだね。悪魔除けの」
シルクエッタの説明に共感を示すシゼル。何度か頷いているが、軽快な口調とは裏腹にどこか硬い表情を見せている。
無理もなかった……数週間ほど前に共和国の英誕祭でアークデーモニアの襲撃を受けたばかりだ。
シゼルにとって悪魔は、もはやトラウマの対象でしかない。くわえて、仲間の犠牲が彼女を必要以上に追い詰めていた。
「シゼルさん、大丈夫だよ。これは貴女一人が抱える問題じゃないんだ。ボクたち全員で向き合わないといけない試練なんだ」
女神の声にハッと我に返ったようだ。元役者の彼女はいつも調子を取り戻すべく頭を振り、素手で自分の頬を叩いていた。
「地下に何があるんだシルクエッタ? 口振りからして悪魔が関わっていることなんだろう?」
「うん、千年ほど前のドルゲニアは数多の魔族が住まう魔族にとっての楽園ような場所だったんだ。この迷宮遺跡を含む地下には悪魔の帝国、古代都市がいまだ発掘されずに眠り続けている」
「レイラインから流れ出てくるエネルギーに触発され、最悪が目覚めないよう大椿は絶えず機能していた。どうやら魔導術式によってエネルギーの排出量を調整しているようです、女神よ」
大椿を眺めながるジェイクが魔力を干渉させ術式を強制展開させた。パネル状の魔法陣がいくつも出現し、それぞれが繭の近くを浮遊していた。
「これを見ると、クドの狙いは自ずと見えてくる……やはり、この魔導機を停止させようと術式を書き換えた痕跡がある」
「悪魔の古代都市を復活させる気か! あの馬鹿、まだ過去を引きずっているのか!?」
「それでも、完全停止には至らなかったようだ。憶測にすぎないけど、クドがボクたちをここに呼び寄せたのは、大椿を破壊したかったから……ボクを人質にして君にそれをやらせようとしたんだろうね」
「それが失敗した今、アイツはどう動くつもりなんだ?」
神器であるシャングドリングを魔力操作で手元に手繰り寄せるとシルクエッタは口を開いた。
「その考え方は早計かもしれない……ギデ、もう一つだけ古代都市を復活させられる方法がある。もし、ボクの正体をクドが知っていたというならば、魔導機は囮だ! 大将自らが時間稼ぎをしていた……ありえない話じゃない」
「シルクエッタ、奴がどこにいるのか分かるか? 次こそケリをつけてやる!」
「ダメだ! 本調子ではない、今のままでは君に勝ち目はない。まずはオーブだ、七つ集めることによってレイラインが完成する。それをエイルに手渡すのが先決だ、勝利の鍵は彼女が握っている」
魔導機の性能に驚嘆するオッドの向かい側で一喝が飛んだ。
今し方まで饒舌に説明していたジェイクだが、お役御免だと悟ってしまったようだ。
今度は、ギデオンたちの仲裁に入っていた。
暴れることができないファルゴはふて腐れていた。
ギデオンからすれば受け入れ難い相手だ。個人的な感情の問題ではなく、この男の奥底を垣間見たことがある者からすれば至極当然のことである。
卑怯ではなくとも卑劣ではある。最終的には自分にために己が理念をかなぐり捨てても手段を選らばないだろう。
そんな人物を仲間として引き入れるのだ。リスクは覚悟しておかないといけない。
最悪、背後から襲われてもおかしなことではない。
「ギデ、ファルゴ、ちゃんとボクの話を聞いている?」
「このデカブツがドルゲニアの動力、心臓ってことだろう? レイラインのエネルギーを地下から吸い上げて蓄積させてゆく。だとすると、矛盾が生まれる。一、どうしてドルゲニア公国はエネルギー不足に悩まされているのか? 二、溜め込んだエネルギーをどうやって消費しているのか? また、そうしないといけない理由は何なのか? 疑問だらけだな」
「女神さんよぉ。俺はコイツみたいにチマチマと考察するのは好かねぇー! 勿体ぶってねぇーで、さっさと本題に入りやがれ。あのサイコ野郎の目的とはなんだ?」
ギャーギャー騒がしくしていた割に、二人ともちゃっかりと内容を把握していた。
そればかりか、話の本質に気づいている。
この話の要点はマイトリーの大椿の機能ではなく、役割にある。
いくらエネルギーを蓄積できるからといって半永久的に起動させているのは普通、考えられない。
吸収し続けていけば、いつしか枯渇すると誰しも懸念はするはずだ。
ギデオンが提示した疑問の答えは、公国の一日に夜がないという現象が非常に関与している。
正確には夜が来ないのではなく夜が視認できないのだ。
その事実はエイルよって解き明かされた。ゆえにギデオンは、ドルゲニアの秘密の一つを既知していた。
「大椿が得たエネルギーのほとんどがドルゲニア全土の草木に流れてゆく。大地の恩恵を得た植物たちは枯れることも成長することもなく、ずっと秋模様を保ち続けてきた。余剰のエネルギーはそれら大自然が自らを発光させて放出しているんだ。奴らを避け封じておくために……昼夜問わず、公国全土が光に満ち溢れているんだ」
「結界の一種ってところだね。悪魔除けの」
シルクエッタの説明に共感を示すシゼル。何度か頷いているが、軽快な口調とは裏腹にどこか硬い表情を見せている。
無理もなかった……数週間ほど前に共和国の英誕祭でアークデーモニアの襲撃を受けたばかりだ。
シゼルにとって悪魔は、もはやトラウマの対象でしかない。くわえて、仲間の犠牲が彼女を必要以上に追い詰めていた。
「シゼルさん、大丈夫だよ。これは貴女一人が抱える問題じゃないんだ。ボクたち全員で向き合わないといけない試練なんだ」
女神の声にハッと我に返ったようだ。元役者の彼女はいつも調子を取り戻すべく頭を振り、素手で自分の頬を叩いていた。
「地下に何があるんだシルクエッタ? 口振りからして悪魔が関わっていることなんだろう?」
「うん、千年ほど前のドルゲニアは数多の魔族が住まう魔族にとっての楽園ような場所だったんだ。この迷宮遺跡を含む地下には悪魔の帝国、古代都市がいまだ発掘されずに眠り続けている」
「レイラインから流れ出てくるエネルギーに触発され、最悪が目覚めないよう大椿は絶えず機能していた。どうやら魔導術式によってエネルギーの排出量を調整しているようです、女神よ」
大椿を眺めながるジェイクが魔力を干渉させ術式を強制展開させた。パネル状の魔法陣がいくつも出現し、それぞれが繭の近くを浮遊していた。
「これを見ると、クドの狙いは自ずと見えてくる……やはり、この魔導機を停止させようと術式を書き換えた痕跡がある」
「悪魔の古代都市を復活させる気か! あの馬鹿、まだ過去を引きずっているのか!?」
「それでも、完全停止には至らなかったようだ。憶測にすぎないけど、クドがボクたちをここに呼び寄せたのは、大椿を破壊したかったから……ボクを人質にして君にそれをやらせようとしたんだろうね」
「それが失敗した今、アイツはどう動くつもりなんだ?」
神器であるシャングドリングを魔力操作で手元に手繰り寄せるとシルクエッタは口を開いた。
「その考え方は早計かもしれない……ギデ、もう一つだけ古代都市を復活させられる方法がある。もし、ボクの正体をクドが知っていたというならば、魔導機は囮だ! 大将自らが時間稼ぎをしていた……ありえない話じゃない」
「シルクエッタ、奴がどこにいるのか分かるか? 次こそケリをつけてやる!」
「ダメだ! 本調子ではない、今のままでは君に勝ち目はない。まずはオーブだ、七つ集めることによってレイラインが完成する。それをエイルに手渡すのが先決だ、勝利の鍵は彼女が握っている」
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