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三百七十七話
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今のままのギデではクドには勝てない。
その言葉の心意を理解する者は一戦交えた者だけだった。
「あの野郎は、まだ何かを隠しているようだったな。というわけだ! アイツは、この俺がくびり倒してやるから心配すんな」
「俺もそれは感じた。異様な冷静さ、つーか……不気味な感じが終始、まとわりついていた」
ファルゴとオッドが交互にクドの印象を語る。話を聞く限り、やはり本気を出さずに戦っていたようだ。
唯一、過去のクドを知るギデオンでも、現在はどこまで強くなっているのか見当もつかない。
ただ純粋な殴り合いなら、充分に勝てる見込みがある。
シルクエッタが懸念するのはそれ以外のところにある……。
虚構を現実に置き換える言霊の力。クドには世界で唯一無二の能力が備わっている。
敵を排除することだけが勝利ではない。敵に攻撃させないのも勝利の条件となりうる。
最初から同じ土俵に上がろうとしない相手と、殴り合ったところで、虚偽に踊らされるだけだ。
「張り切っているところ悪いけど……ファルゴ。はっきり言って君のウイナーズカースはクドと相性が悪い」
「だから、どうした? シオンの力なんざ、アテにしなくとも人を壊すことなんざ容易い」
「まぁ、自己を過信して負けてりゃ世話ねぇけどな……」
「あん!? 何か言ったか? 仮面の英雄、ナンチャラ。テメェ―のような弱者がよく生き残れているな!」
「ちっ、人の黒歴史を思い出させるなよ。あん時も俺を見下して敗北の切っ掛けを作ってしまったことを忘れているのか?」
痛いトコロばかりをついてくるオッドに、さしもの暴君もバツが悪いようだ、押し黙ってしまった。
どれだけ強がろうと何度拒絶しようとも過去の結果は変えられない。
彼だけの無双時間は、とうに終わりを迎えていた。
「ギデ、これを受け取って欲しい。終末へのカウントダウンはすでに始まっている。君の協力なくして最悪を止めることはできない」
「言われなくとも、そのつもりだ」
シャングドリングをシルクエッタがその手に携えると矛の先端から二つのオーブがこぼれ落ちてきた。
二つとも丁度、四凶の核と同等サイズであり緑と紺色に色づいていた。
他のオーブと異なる箇所は、内包するレイラインエネルギーが微弱であることぐらいだ。
「神器の力を抑えるためにオーブ二つで制御していたようだね。オッド君、君が持つタオウ―のオーブもギデに手渡して欲しいんだ。構わないかな?」
「構うも何も、そうしないと不味いんだろっ? だったら渡すさ。それにコレはガリュウのおっさんの私物であって俺の物でもないからな」
「君の理解に感謝します」
物欲に捕らわれていないオッドは力を手放すことにあっさりと応じた。
装備した者はリスクなしで四凶の力を得ることができる優良なアイテムだが、オッドには明確な踏ん切りがついていた。自身の力でなければ保持する意味はない。そう彼は考えていた。
シルクエッタが手をかざしオッドの体内からオーブが摘出された。
これで三つ。ギデオンがこれまで得た二つを足すと五つとなる。
未入手のオーブは残り二つをきり女神はギデオンに新たなる道を示す。
「良かった……どうやら記憶通り、通路が残っているみたいだ」
数歩ほど進んだ先でシルクエッタが矛の柄で床下を突いた。
カツンと音を鳴らしレンガの一部が陥没した。
遺跡に仕掛けられたスイッチの一つであり、大椿の奥側となる壁が左右に開くと隠されていた通路が開き出した。
「時間はあまり残されていない。クドはこの先にいる。ファルゴ、シゼルさん、そしてギデ。三人にはそちらに向かってほしい。君たちのパーミッショントランスなら三時間で、目的地に到着するはずだから」
「ちょっと! シルクン。シゼルは高速移動なんてできな――――きゃっああ!! ファルゴ? いきなり何を!」
「うっせぇ! こうすりゃ、いいんだよ。コイツは俺が担いでゆく! ミルティナス、一足先に行かせて貰うぞ。そこの野郎と一緒に走るのだけは、ゴメンこうむるからなぁ」
「それで構わないよ。ボクの忠告を守ってくれるのなら」
返事もろくにせず、足下を浮かしながらファルゴは走り去っていった。
本当に約束を守る気はあるのか? 先が思いやられる。
「シルクエッタや他のメンバーはどうするんだ?」確認の為、ギデオンは女神に尋ねた。
「ボクとジェイクさんは、ここで魔動機の術式を修復させるよ。ここまま放置しておけば、いつ止まってもおかしくはないからね。オッド君とパスバインには南へと戻って貰いたい。正体は掴めていないけど嫌な気配がする」
「パスバインはともかく、俺が戻っても戦力になるとは思えないけどな?」
「オッド君、君にしかできないことだってあるんだ。それを忘れていけないよ」
「よく分からねぇーけど、任されたのなら仕方ねぇ! だよな、パスバイン?」
皆が視線を向ける先に重く口を閉ざしたパスバインがいた。
この部屋に入ってから彼女の様子がおかしい。
シルクエッタや他のメンバーも、あえて触れないでいたが、パスバインは女神に向けて絶えず気を張っていた。
そこまでして警戒しているが結局はたんなる逆恨みだ。一人で反発しても女神復活の流れは何も変わらない。
自分の感情と折り合いがつかず、苦悩する彼女に小さな包み紙が手渡された。
その言葉の心意を理解する者は一戦交えた者だけだった。
「あの野郎は、まだ何かを隠しているようだったな。というわけだ! アイツは、この俺がくびり倒してやるから心配すんな」
「俺もそれは感じた。異様な冷静さ、つーか……不気味な感じが終始、まとわりついていた」
ファルゴとオッドが交互にクドの印象を語る。話を聞く限り、やはり本気を出さずに戦っていたようだ。
唯一、過去のクドを知るギデオンでも、現在はどこまで強くなっているのか見当もつかない。
ただ純粋な殴り合いなら、充分に勝てる見込みがある。
シルクエッタが懸念するのはそれ以外のところにある……。
虚構を現実に置き換える言霊の力。クドには世界で唯一無二の能力が備わっている。
敵を排除することだけが勝利ではない。敵に攻撃させないのも勝利の条件となりうる。
最初から同じ土俵に上がろうとしない相手と、殴り合ったところで、虚偽に踊らされるだけだ。
「張り切っているところ悪いけど……ファルゴ。はっきり言って君のウイナーズカースはクドと相性が悪い」
「だから、どうした? シオンの力なんざ、アテにしなくとも人を壊すことなんざ容易い」
「まぁ、自己を過信して負けてりゃ世話ねぇけどな……」
「あん!? 何か言ったか? 仮面の英雄、ナンチャラ。テメェ―のような弱者がよく生き残れているな!」
「ちっ、人の黒歴史を思い出させるなよ。あん時も俺を見下して敗北の切っ掛けを作ってしまったことを忘れているのか?」
痛いトコロばかりをついてくるオッドに、さしもの暴君もバツが悪いようだ、押し黙ってしまった。
どれだけ強がろうと何度拒絶しようとも過去の結果は変えられない。
彼だけの無双時間は、とうに終わりを迎えていた。
「ギデ、これを受け取って欲しい。終末へのカウントダウンはすでに始まっている。君の協力なくして最悪を止めることはできない」
「言われなくとも、そのつもりだ」
シャングドリングをシルクエッタがその手に携えると矛の先端から二つのオーブがこぼれ落ちてきた。
二つとも丁度、四凶の核と同等サイズであり緑と紺色に色づいていた。
他のオーブと異なる箇所は、内包するレイラインエネルギーが微弱であることぐらいだ。
「神器の力を抑えるためにオーブ二つで制御していたようだね。オッド君、君が持つタオウ―のオーブもギデに手渡して欲しいんだ。構わないかな?」
「構うも何も、そうしないと不味いんだろっ? だったら渡すさ。それにコレはガリュウのおっさんの私物であって俺の物でもないからな」
「君の理解に感謝します」
物欲に捕らわれていないオッドは力を手放すことにあっさりと応じた。
装備した者はリスクなしで四凶の力を得ることができる優良なアイテムだが、オッドには明確な踏ん切りがついていた。自身の力でなければ保持する意味はない。そう彼は考えていた。
シルクエッタが手をかざしオッドの体内からオーブが摘出された。
これで三つ。ギデオンがこれまで得た二つを足すと五つとなる。
未入手のオーブは残り二つをきり女神はギデオンに新たなる道を示す。
「良かった……どうやら記憶通り、通路が残っているみたいだ」
数歩ほど進んだ先でシルクエッタが矛の柄で床下を突いた。
カツンと音を鳴らしレンガの一部が陥没した。
遺跡に仕掛けられたスイッチの一つであり、大椿の奥側となる壁が左右に開くと隠されていた通路が開き出した。
「時間はあまり残されていない。クドはこの先にいる。ファルゴ、シゼルさん、そしてギデ。三人にはそちらに向かってほしい。君たちのパーミッショントランスなら三時間で、目的地に到着するはずだから」
「ちょっと! シルクン。シゼルは高速移動なんてできな――――きゃっああ!! ファルゴ? いきなり何を!」
「うっせぇ! こうすりゃ、いいんだよ。コイツは俺が担いでゆく! ミルティナス、一足先に行かせて貰うぞ。そこの野郎と一緒に走るのだけは、ゴメンこうむるからなぁ」
「それで構わないよ。ボクの忠告を守ってくれるのなら」
返事もろくにせず、足下を浮かしながらファルゴは走り去っていった。
本当に約束を守る気はあるのか? 先が思いやられる。
「シルクエッタや他のメンバーはどうするんだ?」確認の為、ギデオンは女神に尋ねた。
「ボクとジェイクさんは、ここで魔動機の術式を修復させるよ。ここまま放置しておけば、いつ止まってもおかしくはないからね。オッド君とパスバインには南へと戻って貰いたい。正体は掴めていないけど嫌な気配がする」
「パスバインはともかく、俺が戻っても戦力になるとは思えないけどな?」
「オッド君、君にしかできないことだってあるんだ。それを忘れていけないよ」
「よく分からねぇーけど、任されたのなら仕方ねぇ! だよな、パスバイン?」
皆が視線を向ける先に重く口を閉ざしたパスバインがいた。
この部屋に入ってから彼女の様子がおかしい。
シルクエッタや他のメンバーも、あえて触れないでいたが、パスバインは女神に向けて絶えず気を張っていた。
そこまでして警戒しているが結局はたんなる逆恨みだ。一人で反発しても女神復活の流れは何も変わらない。
自分の感情と折り合いがつかず、苦悩する彼女に小さな包み紙が手渡された。
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