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神器争奪編
四百十五話
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ウネの指摘にカナデの表情が固まった。
不吉な一言に誰もが絶句していた。
もし、本当に毒を所持しているのであれば、どうして、そんな物騒な物を持ち歩いているのか?
問わないといけないと、カナッペの視線が訴えていた。
疑心暗鬼の気配が渦巻く中、カナデ当人はすぐに気を取り直し明るく努めていた。
「いやだな。皆さん、そんなに大袈裟にしなくても……アハハッ。
そりゃあ、護身用に幾つかは用意もしますよ。
別にやましい事など何もありませんよ」
自身の潔白を、証明しようとカナデは躍起になっていた。
手持ちの毒が危険性の少ない物だとポーチから出して見せてきた。
「確かに、そこまでの危険性はなさそうですね。
せいぜい、身体を一時的にマヒさせる程度しか効果はなさそうです」
渡されたアンプルを手にとると、パスバインが即答した。
「パスバイン。お前、毒物の知識があるのか? すげぇーな」
「まぁ、一応……一般的に出回っている物なら分かります」
感心するオッドに、仮面越しから咳払いが聞こえた。
危険性がないことが証言されるとカナデは胸元に手をあてがい安堵の吐息をついた。
「良かったですぅ。疑いが晴れて!
ささっ、お二人も御一緒にトクシャカ様の元へと向かいましょう」
「トクシャカ様ですか? どうして、あの方が満願に?」
「御方は、この地にかつてないほどの災いが起ると予見し参られたのです」
右目の泣きボクロが特徴的な少女の話は、パスバインからすると若干いかがわしいところがあった。
長年、世俗を避けて続けてきたドルゲニアの生き神がわざわざ危険を冒してまで蓬莱渠を離れるだろうか?
普通はそう考える。
ただ、目の前で気丈に振る舞うカナデは、誰の目から見ても嘘をついているとは思えなかった。
『狡猾な者の嘘は、真実でもあるのだよ』
ふと、パスバインの脳裏にジャスベンダーの言葉が甦った。
嘘をつくのが上手い者は、事実と虚言を混ぜてくるという。
しかも、それを立証する手段は何もない。
絶対に尻尾を見せないし、ボロ出さないように細心の注意を払ってくる。
なまじ、一部が事実であるゆえに見破るのは容易ではない。
疑いたくはないが疑わしい。
妙なもどかしさがパスバインの胸中をかけていた。
「わりぃけど、一緒には行けねぇ! だろ? カナッペ」
「どういう意味ですか?」
虚を突くような、オッドの発言にカナデの声色が急に低くなった。
視線だけを動かし、自身が仕える姫の方を無言で見詰めていた。
掴んでいたはずの手が、いつの間にか離れている。
「酷いじゃないですか? フキ姫様も私を疑うのですか?
あれだけ尽くしたのに……いつも付き添ってあげたのにぃ…………。
あんな魔物の一言を信用するのですか?」
「魔物とか関係ねぇよ。ウネがお前を見て怖がっている。
理由はそれで充分だ。
俺たちには分からなくてもコイツには分かるんだ」
「心外です。たかが子供の戯言を鵜呑みにするなんて……」
目元を震わせながらカナデがオッドの方を見た。
彼の肩越しから顔を覗かせていたウネがさっと身を引っ込めた。
怖がり方が尋常ではない。
「分かりました。そこまで疑われるのでしたら私一人でトクシャカ様の元へと帰ります」
両手を腰につけて鼻息を荒くしたカナデは、そのまま一人で去ってゆく。
残されたカナッペはどうすれば良いのか? その場で揺れ動いていた。
呼びとめたくとも声が出せない以上、追いかけるしかない。
『追うな! ソイツがまく毒でやられるぞ!』
一行を囲うようにして地中から九つ宝座が浮上した。
それと同時に、カナデの進路を塞ぐようにして中年男が待ち構えていた。
セットなどろくしないボサボサの頭と口元無精ひげ。
見慣れた男の姿にオッドは思わず叫んだ。
「カイ師匠! 生きていたのかよ!?」
嬉しそうに声を張り上げる弟子に、気怠そうに手を振る男は間違いなく三大導士、幽玄のカイだった。
「スマンな、馬鹿弟子。俺は生きちゃいねぇ、死んだんだわ」
「はっ? はぁぁああ!? 何を言っているんだよ。
ピンピンしているじゃねぇか、冗談がすぎるぜ」
「相変わらず察しが悪い奴だな。まぁ……詳しくは後だ。
まずはこのテロリストどうにかしないとな」
ボリボリと頭を掻くカイは清潔感とは無縁の男だった。
嫌悪の眼差しを向けながらカナデは身構えていた。
「何か御用でしょうか? テロリストとは、また聞き捨てならない言われようですね」
「知るかよ。テメーらが公国の混乱に乗じて【黒薔薇】を撒こうとしているのはお見通しなんだよ。
目的はこの国そのものか?」
カイの口から黒薔薇という単語が出てきた瞬間、カナデは溜息をついた。
諦めともとれる仕草と共に、淡々と答えた。
「そこまで知っているのなら、もう隠す意味はないか……」
パチン! と指先を弾き鳴らすと周囲にいた重装歩兵たちが一斉に動き出した。
まるで、彼女を護るかのように兵士たちが続々と集まってくる。
不吉な一言に誰もが絶句していた。
もし、本当に毒を所持しているのであれば、どうして、そんな物騒な物を持ち歩いているのか?
問わないといけないと、カナッペの視線が訴えていた。
疑心暗鬼の気配が渦巻く中、カナデ当人はすぐに気を取り直し明るく努めていた。
「いやだな。皆さん、そんなに大袈裟にしなくても……アハハッ。
そりゃあ、護身用に幾つかは用意もしますよ。
別にやましい事など何もありませんよ」
自身の潔白を、証明しようとカナデは躍起になっていた。
手持ちの毒が危険性の少ない物だとポーチから出して見せてきた。
「確かに、そこまでの危険性はなさそうですね。
せいぜい、身体を一時的にマヒさせる程度しか効果はなさそうです」
渡されたアンプルを手にとると、パスバインが即答した。
「パスバイン。お前、毒物の知識があるのか? すげぇーな」
「まぁ、一応……一般的に出回っている物なら分かります」
感心するオッドに、仮面越しから咳払いが聞こえた。
危険性がないことが証言されるとカナデは胸元に手をあてがい安堵の吐息をついた。
「良かったですぅ。疑いが晴れて!
ささっ、お二人も御一緒にトクシャカ様の元へと向かいましょう」
「トクシャカ様ですか? どうして、あの方が満願に?」
「御方は、この地にかつてないほどの災いが起ると予見し参られたのです」
右目の泣きボクロが特徴的な少女の話は、パスバインからすると若干いかがわしいところがあった。
長年、世俗を避けて続けてきたドルゲニアの生き神がわざわざ危険を冒してまで蓬莱渠を離れるだろうか?
普通はそう考える。
ただ、目の前で気丈に振る舞うカナデは、誰の目から見ても嘘をついているとは思えなかった。
『狡猾な者の嘘は、真実でもあるのだよ』
ふと、パスバインの脳裏にジャスベンダーの言葉が甦った。
嘘をつくのが上手い者は、事実と虚言を混ぜてくるという。
しかも、それを立証する手段は何もない。
絶対に尻尾を見せないし、ボロ出さないように細心の注意を払ってくる。
なまじ、一部が事実であるゆえに見破るのは容易ではない。
疑いたくはないが疑わしい。
妙なもどかしさがパスバインの胸中をかけていた。
「わりぃけど、一緒には行けねぇ! だろ? カナッペ」
「どういう意味ですか?」
虚を突くような、オッドの発言にカナデの声色が急に低くなった。
視線だけを動かし、自身が仕える姫の方を無言で見詰めていた。
掴んでいたはずの手が、いつの間にか離れている。
「酷いじゃないですか? フキ姫様も私を疑うのですか?
あれだけ尽くしたのに……いつも付き添ってあげたのにぃ…………。
あんな魔物の一言を信用するのですか?」
「魔物とか関係ねぇよ。ウネがお前を見て怖がっている。
理由はそれで充分だ。
俺たちには分からなくてもコイツには分かるんだ」
「心外です。たかが子供の戯言を鵜呑みにするなんて……」
目元を震わせながらカナデがオッドの方を見た。
彼の肩越しから顔を覗かせていたウネがさっと身を引っ込めた。
怖がり方が尋常ではない。
「分かりました。そこまで疑われるのでしたら私一人でトクシャカ様の元へと帰ります」
両手を腰につけて鼻息を荒くしたカナデは、そのまま一人で去ってゆく。
残されたカナッペはどうすれば良いのか? その場で揺れ動いていた。
呼びとめたくとも声が出せない以上、追いかけるしかない。
『追うな! ソイツがまく毒でやられるぞ!』
一行を囲うようにして地中から九つ宝座が浮上した。
それと同時に、カナデの進路を塞ぐようにして中年男が待ち構えていた。
セットなどろくしないボサボサの頭と口元無精ひげ。
見慣れた男の姿にオッドは思わず叫んだ。
「カイ師匠! 生きていたのかよ!?」
嬉しそうに声を張り上げる弟子に、気怠そうに手を振る男は間違いなく三大導士、幽玄のカイだった。
「スマンな、馬鹿弟子。俺は生きちゃいねぇ、死んだんだわ」
「はっ? はぁぁああ!? 何を言っているんだよ。
ピンピンしているじゃねぇか、冗談がすぎるぜ」
「相変わらず察しが悪い奴だな。まぁ……詳しくは後だ。
まずはこのテロリストどうにかしないとな」
ボリボリと頭を掻くカイは清潔感とは無縁の男だった。
嫌悪の眼差しを向けながらカナデは身構えていた。
「何か御用でしょうか? テロリストとは、また聞き捨てならない言われようですね」
「知るかよ。テメーらが公国の混乱に乗じて【黒薔薇】を撒こうとしているのはお見通しなんだよ。
目的はこの国そのものか?」
カイの口から黒薔薇という単語が出てきた瞬間、カナデは溜息をついた。
諦めともとれる仕草と共に、淡々と答えた。
「そこまで知っているのなら、もう隠す意味はないか……」
パチン! と指先を弾き鳴らすと周囲にいた重装歩兵たちが一斉に動き出した。
まるで、彼女を護るかのように兵士たちが続々と集まってくる。
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