異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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神器争奪編

四百二十六話

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 聖王国ゼレスティアは東大陸一の宗教国家である。
 原則として女神ミルティナス以外を崇拝することは禁止されている。
 その一方で宗教自体が身近なものであり、国民に理解されやすい。
 だからなのだろう……黒薔薇の信徒のようなカルト教団が定期的に誕生するのは。

 すべての人間が選択することもできず、唯一神を崇めなければならない。
 それは同調圧力であり、拒否できない仕組みとなっている。
 当然のことながら、現状に息苦しさを覚えや疑問を呈する者たちは少なからず出てくる。

 そんな離反者たちを取り締まるのが神聖庁に属する司法会と騎士団の務めだ。
 これら二大勢力を軸に、この国の治安は維持されてきた。

 司法会組織である聖歌隊の一員だったギデオンにとって騎士団は目の上のたんこぶに等しい。
 王国騎士団とは名ばかりで、実際は大した戦闘実績もない。
 悪魔討伐も常に聖歌隊や審問官任せであった。
 さらに自分たちは汚職に手を染め、民衆を好き勝手に虐げる下劣な組織である。

 団員は陰湿で高慢な態度を見せてくる者が多い。
 出会った頃のランドルフもその毒気にあてられていた。
 団員個人に問題があるのではなく、騎士団という組織の歪みが彼らの精神こころよどませていた。

 むろん、それがすべてではない。
 騎士を目指そうとする若き獅子が絶えないのは、騎士団の顔とも呼べる者たちの人望が厚いからだ。
 裏側を知るギデオンと違い、民は国を護るため勇敢に戦う彼らを【王国の誇り】と賞賛していた。

 表舞台にでることはないギデオンにとっては皮肉の一つでも言いたくなる相手だ。

「そこの魔物の動きを封じているのはお前か、魔術師?」

 騎士たちの中で、ひときわ洗練されたプレートアーマーを装着する男が姿をみせる。
 小麦色に日焼けした肌と、鍛錬により引き締まった肉体。
 実年齢よりも若く見える甘いマスクによく通る美声。

 レイナード・フィリップ騎士団長は聖王国民なら誰でも知っている国の英雄だ。

 昔、一度だけ彼の剣技をみたことがある。
 ギデオンですら、惹きつけられるほどレイナードの剣技は強くて美しく一切の無駄がない。

 正直な話、今の騎士団は彼の人気で持っているようなモノだ。

「いかにも、我が魔法により捕縛しておりますが手出しは無用ですよ。
コイツは、コチラで始末します」

 ジャスベンダーが答えると団長はさらりと返す。

「変な言い方をする?
ここでさらった人間を魔物に変えている者たちがいるというタレコミがあった。
悪意とは思考を腐らせる劇薬だ。いかなる理由があろうとも、お前たちを見逃すことは王国騎士として許されないことだ。
俺が責任をもって、お前らを処断しよう」

「誤解もいいところですよ……我々はつい先程、公国から聖王国に入国してきたばかりだ。
どうして、人さらいなどできましょう?
オレノア船の乗客名簿を調べてみれば、確認がとれるはずですよ」

「黙れ、それを決めるのが我々の仕事だ。
名簿を調べようが、お前たちの素性がハッキリとしない限り主張を認めるわけにはいかない」

 弁明するだけ徒労に終わる。
 レイナードの言っていることは間違っていないが、それだけである。
 ギデオンたちが事件に関与している証拠も、何の為に魔物を造りだしていたのか動機すらつかんでいない。

 ろくに捜査もせずに杜撰ずさんな取り締まりをおこなう。
 不穏な分子を、排除できれば騎士団はメンツが保てる。

 ゆえに最初からちゃんと調べようとはしない。
 すべてが騎士団の匙加減で決まってしまう。
 これも神聖庁が法を改正しないせいである。

「サタニズムの処置は教会の仕事だ。
よって騎士団は事件の詳細に関与しない。ただ、容疑者を捕らえるのみ」

 駄々っ子のような理屈をこねくり回してくる。
「話しにならない」と、紳士たるジャスベンダーも頭を伏せて嘆いていた。

「我々を罪人として扱うなら、騎士団には山羊の相手をしてもらいましょう」

 かざしていた手元の魔力を絶つ、ジャスベンダー。
 刹那、陥没していた床が元にもどり贖罪の山羊が解き放たれた。

『クルシイ……ヤメテ、ヤメテ。コロ……サナ……デ』

 胸元の顔から命乞いが聞こえた。
 あまりの気味悪さに団員たちは、攻撃を躊躇ちゅうちょしていた。
 そこに冷酷なる悪魔の手が向かってくる。

 素手で一振りしただけで団員たちの身体が破裂した。
 まるで風船が割れたかのように呆気なく散ってゆく仲間の姿に誰もが言葉を失っていた。
 真っ赤な雨を降らし、迫りくる山羊の悪魔は脅威でしかない。
 早くも騎士団員たちから逃走し離脱する者が現れ始めた。

「まったく……誰が逃げろと命じた。逃げた奴は後で懲罰房送りな。
お前らは何もしなくていい。
束になっても、この悪魔を倒すことはできないからだ。
悪魔を退治する方法は、祓うか払うかだ」

 ガシュン! と鳴り響く鞘からレイナードの剣が引き抜かれた。
 艶のある重厚な刀身が淡い光を反射させていた。
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