異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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神器争奪編

四百二十九話

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「むぅ……照りつける太陽とカラッとした西風は暑さの反抗期だな」

 炎天下の中、汗だくとなったジャスベンダーが呟いた。
 帝国の温暖な気候に慣れているせいで、聖王国の暑さに身体がついてゆかないようだ。
 道中、しゃがみ込むと地面を進むありの行列を静観していた。

「そろそろ、休憩を挟もう。ジャスベンダーのオッサンが限界だ」

「マジっすか! 自分、ようやく温まってきたところなんですけど……」

 ギデオンが先頭をスタスタと歩いてゆく女騎士に声をかけた。
 彼女はハツラツとした顔でコチラを振り向くも、全身から汗が噴き出ている。
 誰がどう見ても、やせ我慢している姿にギデオンは顔を手でおおった。
 とんだ貧乏クジを引かされてしまった気分だ。
 そう嘆いても後戻りはできない。

「ジャスベンダーさんからも何か言ってやってくれないか?
このままだと、案内役の彼女の方がもたないぞ」

「バルゥゥゥ―――ん!」

 その女騎士よりも先にジャスベンダーが猛暑にやられて幼児退行していた。
 いよいよ、もってヤバイと判断したギデオンは彼らを強引に木陰がある方へと押し込めた。

 どうしてこうなったのか、それはラスキュイに会わせて欲しいと要望したからだ。
 団長レイナードの話によれば、彼は任務で南のオルネキア水中洞窟にいるという。
 戻ってくるのを待つより、先にこちらから迎えに行った方がいい。
 そう判断したのは、ラスキュイに課せられた仕事が黒薔薇関連のモノだからだ。

 彼が与えられた任務とは、オルネキア近郊にあるという教団施設を捜索だった。
 レイナードは「問題ないだろう」と楽観視していた。
 その考え方が余計に不安を煽ってきた。

 希少な能力を持ちのラスキュイをわざわざ敵陣に送り込む。
 騎士団長の考えは、ギデオンからすれば信じ難いモノだった。
 それだけ敵が手強いのは、分からなくもないが万が一の場合もある。

 ここでラスキュイを失えば、聖王国だけではなく近隣諸国も甚大な痛手を負うことになる。
 カナッペ、シユウ、エイルを救うには【引き寄せる力】がどうしても必要だ。
 不穏な空気が漂い始めているからこそ、オルネキアへと急行しなければならない。

 のだが……サバンナでの陽射しに耐えきれずこの様だ。

「ひとまず、日中は動かない方がいいかもしれない。
移動するのは陽が傾いてきてからだ」

「そ、そうッスね。夜間が魔物が多いですねど仕方ありませんよね」

「なんか、嬉しそうじゃないか?」

 言葉に反して口元をだらしなくさせている女騎士ルーディナ。
 オルネキアまでの道案内を頼んでしまったが、行先の不安は一抹いちまつどころではない。
 そこはかとなく狂気の臭いがする。

「暑くないか? フロックコートを脱いだ方がいいんじゃないか?」

「いや、ご心配なく! これは自分にとって騎士団の一員としての誇りですから。
そう簡単に脱ぐわけにはいきません」

 妙なところで変にこだわりを持っている。
 見た感じ年齢はギデオンと然程、離れていないようだが割りと堅物だ。
 単に童顔キャラなだけかもしれないが……込み入った話をするほど彼女とは親しくはない関係だ。
 余計な詮索はあえて控えた。

「カナッペたちを預け――――」

「ギデ君、厄介事がやってきたぞ」

「ああ……みたいですね。プンプン臭ってくる」

 突然、神妙な面持ちになる二人の様子に、ルーディナも落ち着かない様子で周囲を見渡していた。
 ギデオンたちが何を察知したのか?
 常人では理解が追いつかない。

 天性のハンタースキルと熟練した魔力サーチスキルは、これから来る問題をしっかりと捉えていた。

「アンタらぁ―――! とっと逃げなぁ――――でねぇと、蟲に大群に食われんぞ!」

 ガタガタと車体を左右に振り爆走する荷馬車。
 コチラに向かって大声で喚き散らしてきたのは、馬車の手綱を握る村人風の男だった。
 彼が近づかなければ別段、問題にはならなかった。
 なのに、わざわざ近くに寄ってまで注意喚起してくれる親切心が仇になってしまった。

「げっ……嘘だろ」

 久々にギデオンの目が点になった。
 逃走する馬車の背後から大蜂型の魔物、ヘルゲイズワスプの大群が爆音量の羽音を轟かせながらやってきた。

「ジャスベンダーさん……あの一団を焼きつくしてくれません?」

「むっ? 炎魔法は専門外なんだが……?」

 死にそうなるほど、虫嫌いなギデオンにとってヘルゲイズワスプの大行進はおぞましい光景でしかない。
 見ているだけで、背筋がゾワッとし並みならぬ殺意が沸きあがる。

「消えろ、クソ虫ども」魔銃を片手で構える目つきは完全に常軌を逸していた。
 この瞬間、彼はいかに速く目の前の障害を排除するか。
 そのことだけで頭が一杯だった。
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