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神器争奪編
四百四十四話
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「例えばの話だ。
この世界の出来事は、すでに何者かによって決められてしまっている。
その中で、ギデオン……お前ならどう立ち回るんだ?」
ラスキュイの話は雲をつかむような物だった。
運命論など話題に出されても、正解を知る者はどこにもいない。
ただ、話を聞く限りでは何かを訴えかけようとしている。
「私にはそれが分かるか……それとは、未来のことを示唆しているのか?」
直球的なギデオンの回答に、旧友は頬を緩めた。
嬉しさというよりは、安心できたような顔立ちをしていた。
「見えているのではないが、これから起こりうる出来事が何となくだが感知できるようになった。
それが一年ほど前の話だ。
ちょうど、シルクエッタがサーマリア共和国に派遣された時期と重なる」
「まさか……」そう言いかけたところでギデオンは口をつぐんだ。
心当たりがないわけでもない。
シルクエッタがミルティナスだという事実を踏まえれば、ラスキュイの変化も頷ける。
もっとも、仮説にすぎないし何より、彼の身体には刻印らしき物が見当たらない。
可能性としての話ではあるものの彼が女神の将に選ばれていても別段、おかしなことではない。
「見方を変えよう。じゃあ、僕たちはこれから何をすればいい?
自分で決めた道筋すら誰かの手玉に取られているんだ。
それをくつがえさない限り、僕たちに未来はないぞ!」
「分かっているさ、我々が救われる方法を含めてな。
だが、それを成し遂げるにはハードルが高すぎて手に負えないんだ」
「どんな未来を予想しているのかは知らないが、ラス……僕はあえて先のことは聞かない。
たとえ、明日何が起こるのか決まっていても、未来はその先にある。
今日、変えられないことも、一週間後または一年後に変化が訪れるやもしれない。
ひょっとしたら、まったく別の道を進んでいるのかもしれない。
それが人の生き様と信じる限りは、決定づけられた運命など認められない」
持論でしかなかったが、ラスキュイの心には届いたみたいだ。
少しだけ目を丸くするも、納得したように呟いた。
「未来を越えた先か……考えてもみなかった。
そうだよな、未来は一つだけとは限らないんだ。
絶えず更新上書きされて、新たなる結末を生み出すことだってある」
手短に弾丸の補充を済ませるとラスキュイは立ち上がった。
いかに分厚い雲で空をおおい隠そうとしても、その切れ目から射し込んでくる光は阻止できない。
打破することのできない状況が、刻一刻と変化しつつある。
そのことにラスキュイも気づいたようだ。
無気力に近かった態度も徐々に勢いを取り戻しつつある。
ひとえにギデオンという存在が周囲に多大なる影響を及ぼしている。
そう言っても過言ではない。
ギデオンの言葉やその在り様、揺らぐことのない信念が道すらない未来を開拓してゆく。
「まったく、お前にはいつも驚かされるよ。
おかげで私も腹をくくることができる。
ここから先は、我々にとって厳しい道のりとなるだろう」
「ああ、覚悟しているさ。
村にいたはずの逝き人形の大群がまったく見当たらない……ということは、そうなんだろう?」
鋭く物事の核心をついてくるギデオンの勘は、冴え渡っていた。
この地に留まる黒薔薇はヴィたちだけではない。
共に行動していたメンバーの中にも教団関係者がいた。
そう考えると色々と辻褄が合う。
「そうだ。準備は出来ているよな……ジャスベンダーさんには魔力を回復して貰わないといけない。
タイド村の防衛戦は我々、二人だけでどうにかしないといけない。
捕らえた信徒たちから情報を得られるのが一番だが、奴らは口が堅いし平気で嘘をついてくる。
拷問にかけても意味を成さないほど教団に心酔している」
「問題はないさ。ただ、村人たちを洞窟から解放しても良かったのか?」
「それで良い。逝き人形対策になるからな。
戸締りさえしっかりしていれば、それほど脅威ではない。
奴らは、少数相手ならまとまった行動ができるが、こうも人気が多いと、まばらに動くことしかできない。
その隙を狙って討伐してゆく」
外に出ると夜風が吹き抜けてきた。
今から日の出まで、村を守るための持久戦が始まる。
遠くから、魂なき亡者の足音が響いてきた。
顔の無い人形たちが列を成しぞろぞろとやってきた。
早速、村を取り囲もうとしている。
前回とは真逆の展開だが、今度は後れを取らない。
「ラス、防御に撤していても数で圧倒されるだけだ。
僕は攻めてゆく、練功で防御すれば奴らに触れられても命を吸い取られる心配はない」
「了解した。だが、動くのは逝き人形を操る者の居場所が特定できてからだ。
それまでは、村に入ってくる奴らを撃退するぞ」
村の防壁にラスキュイが結界術を施す。
これで、しばらくは人形たちの侵攻を足止めできる。
あとは出入口から誘き寄せて一網打尽にするだけだ。
両手に蒼炎の刃を手にしたギデオンはその時を待つ。
この世界の出来事は、すでに何者かによって決められてしまっている。
その中で、ギデオン……お前ならどう立ち回るんだ?」
ラスキュイの話は雲をつかむような物だった。
運命論など話題に出されても、正解を知る者はどこにもいない。
ただ、話を聞く限りでは何かを訴えかけようとしている。
「私にはそれが分かるか……それとは、未来のことを示唆しているのか?」
直球的なギデオンの回答に、旧友は頬を緩めた。
嬉しさというよりは、安心できたような顔立ちをしていた。
「見えているのではないが、これから起こりうる出来事が何となくだが感知できるようになった。
それが一年ほど前の話だ。
ちょうど、シルクエッタがサーマリア共和国に派遣された時期と重なる」
「まさか……」そう言いかけたところでギデオンは口をつぐんだ。
心当たりがないわけでもない。
シルクエッタがミルティナスだという事実を踏まえれば、ラスキュイの変化も頷ける。
もっとも、仮説にすぎないし何より、彼の身体には刻印らしき物が見当たらない。
可能性としての話ではあるものの彼が女神の将に選ばれていても別段、おかしなことではない。
「見方を変えよう。じゃあ、僕たちはこれから何をすればいい?
自分で決めた道筋すら誰かの手玉に取られているんだ。
それをくつがえさない限り、僕たちに未来はないぞ!」
「分かっているさ、我々が救われる方法を含めてな。
だが、それを成し遂げるにはハードルが高すぎて手に負えないんだ」
「どんな未来を予想しているのかは知らないが、ラス……僕はあえて先のことは聞かない。
たとえ、明日何が起こるのか決まっていても、未来はその先にある。
今日、変えられないことも、一週間後または一年後に変化が訪れるやもしれない。
ひょっとしたら、まったく別の道を進んでいるのかもしれない。
それが人の生き様と信じる限りは、決定づけられた運命など認められない」
持論でしかなかったが、ラスキュイの心には届いたみたいだ。
少しだけ目を丸くするも、納得したように呟いた。
「未来を越えた先か……考えてもみなかった。
そうだよな、未来は一つだけとは限らないんだ。
絶えず更新上書きされて、新たなる結末を生み出すことだってある」
手短に弾丸の補充を済ませるとラスキュイは立ち上がった。
いかに分厚い雲で空をおおい隠そうとしても、その切れ目から射し込んでくる光は阻止できない。
打破することのできない状況が、刻一刻と変化しつつある。
そのことにラスキュイも気づいたようだ。
無気力に近かった態度も徐々に勢いを取り戻しつつある。
ひとえにギデオンという存在が周囲に多大なる影響を及ぼしている。
そう言っても過言ではない。
ギデオンの言葉やその在り様、揺らぐことのない信念が道すらない未来を開拓してゆく。
「まったく、お前にはいつも驚かされるよ。
おかげで私も腹をくくることができる。
ここから先は、我々にとって厳しい道のりとなるだろう」
「ああ、覚悟しているさ。
村にいたはずの逝き人形の大群がまったく見当たらない……ということは、そうなんだろう?」
鋭く物事の核心をついてくるギデオンの勘は、冴え渡っていた。
この地に留まる黒薔薇はヴィたちだけではない。
共に行動していたメンバーの中にも教団関係者がいた。
そう考えると色々と辻褄が合う。
「そうだ。準備は出来ているよな……ジャスベンダーさんには魔力を回復して貰わないといけない。
タイド村の防衛戦は我々、二人だけでどうにかしないといけない。
捕らえた信徒たちから情報を得られるのが一番だが、奴らは口が堅いし平気で嘘をついてくる。
拷問にかけても意味を成さないほど教団に心酔している」
「問題はないさ。ただ、村人たちを洞窟から解放しても良かったのか?」
「それで良い。逝き人形対策になるからな。
戸締りさえしっかりしていれば、それほど脅威ではない。
奴らは、少数相手ならまとまった行動ができるが、こうも人気が多いと、まばらに動くことしかできない。
その隙を狙って討伐してゆく」
外に出ると夜風が吹き抜けてきた。
今から日の出まで、村を守るための持久戦が始まる。
遠くから、魂なき亡者の足音が響いてきた。
顔の無い人形たちが列を成しぞろぞろとやってきた。
早速、村を取り囲もうとしている。
前回とは真逆の展開だが、今度は後れを取らない。
「ラス、防御に撤していても数で圧倒されるだけだ。
僕は攻めてゆく、練功で防御すれば奴らに触れられても命を吸い取られる心配はない」
「了解した。だが、動くのは逝き人形を操る者の居場所が特定できてからだ。
それまでは、村に入ってくる奴らを撃退するぞ」
村の防壁にラスキュイが結界術を施す。
これで、しばらくは人形たちの侵攻を足止めできる。
あとは出入口から誘き寄せて一網打尽にするだけだ。
両手に蒼炎の刃を手にしたギデオンはその時を待つ。
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