暗殺ギルドのリザレクター

心絵マシテ

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黄昏る命

Panic Hospitality 4

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 敵の弱点を治癒すれば変化が起きるのか?
 通常なら答えはNOだ。敵が回復するだけでしかない。
 ただし、コイツ……ブラックサモナーは例外だ。
 特殊能力である願望成就は自身に作用する物ではなく、自分の縄張りに侵入してきた者に影響を及ぼす。

 この能力の特性に気づかなかったら、完全に僕は敗北していた。
 知らず知らずのうちに恐怖から自身の妄想に追い込まれてしまう。
 人の心理、心の弱さをついた嫌な能力だ。
 不思議なことに人は誰しも不運が続けば運気が悪いと思い込んでしまう。
 その是非は不透明であるのに、他者の経験則を見聞きして自分もそうなるのだと決めつけている。

 偉そうなことを言ってしまっているが、僕も……僕こそがそれを信じて止まない人間なのだ。
 だからこそ、それが偽りだと見抜けた。
 できすぎた幸、不幸は連発して起こらないのが日常である。
 必ずどこかに切っ掛けがあり、それが後に変化をもたらしているだけというのが僕の持論だ。

 ブラックサモナーがいかに強大な力をもつ魔神でも、この力のタネを明かしてしまえば恐れるにたらず。
 強大すぎる力は、かえって自身を滅ぼす物となる。
 願望成就はそれを見事なまでに表わしていた。

 龍の逆鱗が正常化すると、さっそく変化が出てきた。
 今度はそれ以外の全身の鱗が真っ赤に変色してゆく。
 僕がヒーリングで体質を反転させるように願ったからだ。

 身体中が弱点だらけになった時の苦痛は凄まじい。
 不快感から極度のストレスを感じたであろうブラックサモナーは、もはや戦いに集中することができない。
 身悶えながら、手にしたトライデントを乱雑に振り回していた。

 ほどなくして、周囲を囲っていた暗黒が消滅すると、夜空の星の光りが視界に飛び込んできた。
 敵が弱っている証拠だ。すでに結界を張る余力すらないらしい。

 知らない間に僕は病棟の屋上に移動していた。
 急激な景色の変化にはマジで焦った。
 それこそ秘境なんかに瞬間移動させられていたら洒落にない。

「せんぱぁぁーい! 大丈夫か?」

 屋上のドアが飛び跳ねるとヤイナが怒涛の勢いで駆けつけてきた。
 その背後には、これまで集めたであろうコープスの大群が列を作って追いかけてくる。

「いぎゃあああ――――! 大丈夫じゃない、後ろ後ろ!
どうにかしろよ、そのオーディエンスを」

「何、言ってんだ。こんな時こそクレリックの出番だろう?
ボスはオレに任せておけよ。キッチリと折り畳んでやっからさぁ――――」

 ヤイナが僕の前を通過した時、胸元にズシッした重さを感じた。
 何かが当たったと、咄嗟につかんで見ると、それはマジックポーションが入った小瓶だった。

「これを使用してMPを回復させろということかよ。
大量発生したコープスを相手にするのは無理があるが、コイツは助かる」

 投げ渡され小瓶を一気に飲み干した。
 苦い! けど良薬は口に苦しとも言う。
 マジックポーションの効果は抜群だ。
 飲んだ直後から急速にMPが上昇し満タン状態となった。

「リザレクション! こっちだ着いて来い」

 またしても自身にバフをかけて走り出す。
 僕の方が追いやすいのか、コープスたちの注意を引くことに成功した。
 モンスターたちが追ってきているのを確認しながら屋上の手柵まで全力ダッシュをする。

 途中で足下に激震が走った。
 視線を真横に動かすとヤイナの殺人ロケットキックがブラックサモナーの胴体に突き刺さっていた。
 宣言通り、彼女は敵ボスを二つに折り畳んでいた。

 手柵を踏み台にして僕は病棟からジャンプした。
 隣の棟まで距離が離れ過ぎている、人の脚力では到底届きそうにない。
 だから、狙うと隣の棟ではなく、その間に位置する老いた巨木だ。

「リザレクション……蘇れ、大樹よ」

 木の枝に指先が触れた。
 すると成長を止めていた巨木が急成長し枝葉をグングン伸ばしてゆく。
 落下していた僕の身体を若葉で優しく包み込むと、全体に蕾をつけてなおも育ってゆく。
 大きな白い花が次々と開花して、清々しい香りを辺りに放つ。

 淀んでいた空気が生命の息吹によって清浄化している。
 僕を追っていたコープスたちは、仲間同士で押し合いとなり老朽化した手柵は見事に破壊されていた。
 バランスを崩した彼らは、足を止めることもできずにそのまま地面へとダイブすることになった。

 敵が壊滅したことを確かめると、ヒーリングで自身を回復させて、すぐに地上へと降りた。
 丁度、そのタイミングで天からブラックサモナーの本体が降ってきた。
 それを人と呼ぶには、あまりにも無惨な姿をしていた。
 衝撃で飛び散った怪物の残骸の中から皮と骨だけになったミイラが飛び出ていた。
 その手には蒼き宝珠が握られている。

 宝珠を回収するなり、僕は遺体にリザレクションをかけた。
 乾き干からびた細胞が命を吹き返し、損傷していた肉体が徐々に復元されてゆく。
 肌が色艶を取り戻し、髪や爪も再生した。
 ここまで来ると自分は自然の摂理に反していると罪悪感が募ってくる。
 肉体すら正常に保たれていなかったレイズ・スタカートを僕は蘇生してしまった。

 そうするだけの価値が彼にはある。
 というのは表向きの理由だ……。
 本当は、自分の蘇生術がどこまで効果を発揮できるのか?
 気になって、試してしまった。
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