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女神転移計画
宝珠の行方 1
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激務を完遂させた僕たちは、そこから一日かけてエルンストへと戻った。
無事に帰ってきたのは良いが……遠足気分どこか、壮絶な地獄でしかなかった。
不死であるコープスたちが執拗なまでに追いかけてくる中、レイズの爺さんを背負いながら敷地の外に出るのは一苦労どころではなかった。
そこから、路線に沿って歩いたが真夜中に列車が運行しているわけない。
結局、半日近くも徒歩で移動する羽目になった。
体力馬鹿のヤイナはともかく、僕はクタクタだった。
肉体だけではなく精神的な疲労もだいぶ蓄積していた。
おそらく原因は先のブラックサモナーたちとの一戦にある。
ボスと戦闘において僕は治癒や蘇生魔法を乱発しすぎた。
このゲームでは、クールタイムこそ表示されないがスキルや魔法を連続使用すると身体に負荷がかかる仕組みになっているようだ。
それはパラボードのヘルプ画面にも注意事項として、しっかりと記載されていた。
ともあれ、ボスモンスターを討伐した恩恵はデカい。
ヤイナが奴を瀕死まで追い込んだ所でのリザレクションが決め手となった。
僕たちは共に行動しているが、パーティを組んでいるわけではない。
だから、別々に動くことができた。
仮に同行者である彼女が、ブラックサモナーにトドメを刺してしまったら経験値は入らなかっただろう。
そういう意味も含め、運よく経験値を獲得できた僕のレベルは8⇒12まで上がった。
ストーリー進行の関係で、余剰経験値が蓄積してゆく一方だが後々のことを考えれば貯金と思えばいい。
レベルアップも大事だが、ボス撃破の恩恵はそれだけに留まらない。
ここに来て待望のオートセーブ条件を満たすことができたのは非常に助かる。
オレガシーマでは、ボスを倒すことによってオートセーブが更新がされる。
正規版では小まめにオートセーブできるようになるそうだが、β版では何故か限定的になっている。
依頼されていたチンターマニをその手に、僕たちはウエストゲートにある喫茶【フォートリヒト】に向かった。
我らがギルドは現状、ギルド本部すら設立されていない。
僕とロビンが加入したことで、ようやく最低人数である五人が揃いギルドとしての承認が下りたのはつい先日のことだ。
一応、本部建設の段取りは組んでいるが、すぐにどうこうできる話でもない。
しばらくは、この喫茶店が仮の本部になる。
「……にしても光の砦か。皮肉が利き過ぎているだろう」
商業区画にある、こじんまりとした喫茶店へ足を踏み入れると、芳醇な珈琲の香りが鼻孔をくすぐってきた。
個人経営ならではの店中の狭さだが、キチンと整理整頓がなされ清潔感は保たれている。
ピカピカに磨かれたアンティーク調のテーブルと座椅子、その脇には装飾用の花瓶が申し訳程度に配置されている。
壁には小さな額縁がいくつか飾ってあり、その下の収納棚には珈琲豆の詰まった瓶が立ち並んでいた。
僕から見てもアンゾは美的センスに優れている。
むろん、店自体の評判も上々で客足は途絶えることがない。
本業である喫茶店経営も手抜きせずにしっかりと行っている。
だからこそ余計に気になってしまう。
こんな普通の事業主が何故、闇ギルドを立ち上げようとするのか不思議で仕方ない。
「ああ――、マスター! もう我慢ならねぇ、シャワー借りるわ。
それと着替えも用意しろよ。
ったく、あんな汚ねぇ場所は金輪際、お断りだからな」
カウンター席越しに新聞を読みながらくつろいでいるアンゾを見るなり、ヤイナが騒ぎ出した。
ズカズカと足を踏み鳴らし店の奥へと進んでゆく。
そういえば、コイツが潔癖症だったのをすっかり忘れていた。
よく、ここまで文句を言わずに耐えていたものだ。
そこはプロの暗殺者としての自覚を持っているということなのだろうが……。
今になって思い返すとアイツは治療院の中の物には一切、素手で触れていない。
扉を開けるにしても蹴り飛ばしていた。
突然の嵐に不意を突かれたアンゾが、瞬きを繰り返していた。
仕方がないのでチンターマニが入った袋を手渡すと、ようやく事のあらましを理解できたようだ。
涼し気な笑顔を見せて、カウンターの中へと移動した。
「お帰り、驚いたよ。まさか、昨日の今日で依頼を達成してしまうとはね。
どんな手品を使ったんだい?」
「大したことじゃない、移動手段が確保できただけだ。
それよりも報告がある、レイズ・スタカート本人を連れてきた」
予期せぬことだったのだろう。
僕の言葉にアンゾは思わず手を滑らせ宝珠を落としかけた。
「おととっ! それで彼は今、どこに?」
「意識が戻るまでモッジのところで預かって貰っている。
ここだと、色々と面倒なことになるだろう?
なんせ、相手は行方不明になっていた名高い医師だ。それが発見させたと知れたら大事になるだろう。
その点、彼女のところなら色々と融通が利く。
この辺りは、ベテラン冒険者も滅多にこないようだから」
「すまんな。気を遣わせてしまったようだね。
後は私がなんとかしよう。
美術館から盗まれたコイツを返せば我々の仕事は終了――――」
「ならぬ! それだけはいかんぞ」
僕らの会話を遮るように白髪の老人が店内に怒鳴り込んできた。
ワイシャツ姿のその男こそ、この案件の渦中に立つレイズ医師、本人だ。
無事に帰ってきたのは良いが……遠足気分どこか、壮絶な地獄でしかなかった。
不死であるコープスたちが執拗なまでに追いかけてくる中、レイズの爺さんを背負いながら敷地の外に出るのは一苦労どころではなかった。
そこから、路線に沿って歩いたが真夜中に列車が運行しているわけない。
結局、半日近くも徒歩で移動する羽目になった。
体力馬鹿のヤイナはともかく、僕はクタクタだった。
肉体だけではなく精神的な疲労もだいぶ蓄積していた。
おそらく原因は先のブラックサモナーたちとの一戦にある。
ボスと戦闘において僕は治癒や蘇生魔法を乱発しすぎた。
このゲームでは、クールタイムこそ表示されないがスキルや魔法を連続使用すると身体に負荷がかかる仕組みになっているようだ。
それはパラボードのヘルプ画面にも注意事項として、しっかりと記載されていた。
ともあれ、ボスモンスターを討伐した恩恵はデカい。
ヤイナが奴を瀕死まで追い込んだ所でのリザレクションが決め手となった。
僕たちは共に行動しているが、パーティを組んでいるわけではない。
だから、別々に動くことができた。
仮に同行者である彼女が、ブラックサモナーにトドメを刺してしまったら経験値は入らなかっただろう。
そういう意味も含め、運よく経験値を獲得できた僕のレベルは8⇒12まで上がった。
ストーリー進行の関係で、余剰経験値が蓄積してゆく一方だが後々のことを考えれば貯金と思えばいい。
レベルアップも大事だが、ボス撃破の恩恵はそれだけに留まらない。
ここに来て待望のオートセーブ条件を満たすことができたのは非常に助かる。
オレガシーマでは、ボスを倒すことによってオートセーブが更新がされる。
正規版では小まめにオートセーブできるようになるそうだが、β版では何故か限定的になっている。
依頼されていたチンターマニをその手に、僕たちはウエストゲートにある喫茶【フォートリヒト】に向かった。
我らがギルドは現状、ギルド本部すら設立されていない。
僕とロビンが加入したことで、ようやく最低人数である五人が揃いギルドとしての承認が下りたのはつい先日のことだ。
一応、本部建設の段取りは組んでいるが、すぐにどうこうできる話でもない。
しばらくは、この喫茶店が仮の本部になる。
「……にしても光の砦か。皮肉が利き過ぎているだろう」
商業区画にある、こじんまりとした喫茶店へ足を踏み入れると、芳醇な珈琲の香りが鼻孔をくすぐってきた。
個人経営ならではの店中の狭さだが、キチンと整理整頓がなされ清潔感は保たれている。
ピカピカに磨かれたアンティーク調のテーブルと座椅子、その脇には装飾用の花瓶が申し訳程度に配置されている。
壁には小さな額縁がいくつか飾ってあり、その下の収納棚には珈琲豆の詰まった瓶が立ち並んでいた。
僕から見てもアンゾは美的センスに優れている。
むろん、店自体の評判も上々で客足は途絶えることがない。
本業である喫茶店経営も手抜きせずにしっかりと行っている。
だからこそ余計に気になってしまう。
こんな普通の事業主が何故、闇ギルドを立ち上げようとするのか不思議で仕方ない。
「ああ――、マスター! もう我慢ならねぇ、シャワー借りるわ。
それと着替えも用意しろよ。
ったく、あんな汚ねぇ場所は金輪際、お断りだからな」
カウンター席越しに新聞を読みながらくつろいでいるアンゾを見るなり、ヤイナが騒ぎ出した。
ズカズカと足を踏み鳴らし店の奥へと進んでゆく。
そういえば、コイツが潔癖症だったのをすっかり忘れていた。
よく、ここまで文句を言わずに耐えていたものだ。
そこはプロの暗殺者としての自覚を持っているということなのだろうが……。
今になって思い返すとアイツは治療院の中の物には一切、素手で触れていない。
扉を開けるにしても蹴り飛ばしていた。
突然の嵐に不意を突かれたアンゾが、瞬きを繰り返していた。
仕方がないのでチンターマニが入った袋を手渡すと、ようやく事のあらましを理解できたようだ。
涼し気な笑顔を見せて、カウンターの中へと移動した。
「お帰り、驚いたよ。まさか、昨日の今日で依頼を達成してしまうとはね。
どんな手品を使ったんだい?」
「大したことじゃない、移動手段が確保できただけだ。
それよりも報告がある、レイズ・スタカート本人を連れてきた」
予期せぬことだったのだろう。
僕の言葉にアンゾは思わず手を滑らせ宝珠を落としかけた。
「おととっ! それで彼は今、どこに?」
「意識が戻るまでモッジのところで預かって貰っている。
ここだと、色々と面倒なことになるだろう?
なんせ、相手は行方不明になっていた名高い医師だ。それが発見させたと知れたら大事になるだろう。
その点、彼女のところなら色々と融通が利く。
この辺りは、ベテラン冒険者も滅多にこないようだから」
「すまんな。気を遣わせてしまったようだね。
後は私がなんとかしよう。
美術館から盗まれたコイツを返せば我々の仕事は終了――――」
「ならぬ! それだけはいかんぞ」
僕らの会話を遮るように白髪の老人が店内に怒鳴り込んできた。
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