追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

文字の大きさ
87 / 100
四章、贖罪の系譜

86話 優しい涙

しおりを挟む
 所詮は甘い夢だ。
 自分のような凡庸な人間と才能あふれるロジェットとは最初から釣り合いが取れていなかったのだ。
 なのに自分は一人で何を浮かれていたのだろうか?

 そう思うとサラの中で何かが崩れた。
 後悔と惨めさが押し寄せ自分を攻め立ててくる。

 優れた者は、より優れた者と惹かれ合う。
 カーマン社の御曹司である彼には音楽の才のみならず、地位や富、美貌とありとあらゆる物が備わっていた。
 そんな素晴らしい彼に相応しいのはアニエスのような高潔で完璧な女子だけだ。

 悲しみ以上に絶望していたサラだが、それすら気づけないほど自分が分からなくなってしまっていた。
 だからだろう……精一杯の強がりを言ってしまったのは。

「わ、私はいいから……アニエスさん。
ロジェット君がこう言ってくれているんだから、一緒に演奏すれば?」

「でも、サラだってバンドに入りたいんでしょう?」

 表情を曇らせる友人に明るく気丈に振る舞ってみせる。

 ――――足枷あしかせになるのは嫌だ。
 ――恩を着せられるのも嫌だ。
 同情されるのも、才能の違いを見せつられるのも……ご免だ。
 あれもイヤ! これもイヤ! もうこれ以上は何も見たくないし聞きたくもない。
 ――――嫌い、全部……ぜんぶ大っ嫌い。どうして私だけ……。

「大丈夫だよ。演奏はできなくとも皆をサポートすることはできるから、ね?」

 サラの嘘が胸を絞めつけてくる。
 本心をひた隠しにして、自分までも騙そうとした彼女に救いはなかった。

 唯一、自分を助けられるサラ自身が救済を放棄してしまった。
 ロジェットのことを諦めた彼女はそれから音楽祭までの間、バンドのサポーターに徹した。

 ステージからアニエスとロジェットの笑い声が聞こえても振り向くことはなかった。
 ロックのビートとヴァイオリンンの音色が渾然一体となり、美しいハーモニーを響かせようがサラの心には、なんら届かなかった。

 そして運命の日を迎えた……。
 クシュルティナ音楽祭、彼らはパレ―ブランケットと名乗り、楽団として路上ライブを決行した。
 リーダーはボーカル&ギターのロジェット。
 メンバーはウッドベースに花屋お姉さん、ドラムに菓子屋の若大将。
 ヴァイオリンは音楽院生のアニエス。

 いつも練習してきたカーマン社の倉庫前を会場とし彼らの音楽祭が始まった。
 パレ―ブランケットの演奏が街中に響くと、道行く人々が足を止めて自ずと楽団の傍に近づいてくる。
 これこそがサラの見たかった光景だった。

 なのに……頬を伝う一筋の涙はとても冷たく感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...