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三話 アニキ、徘徊する
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「バスコ……ダ……ガマ」
ガーターベルトの絞めつけに耐えられず、ボクは偉人の名を繰り返し呼んでいた。
混濁した意識の中、ガーターベルトの中の人が「ヘイ!」と不信な声をかけてきた。
間違いなく幻聴だと思うけれど……取り敢えずは、よくある喋るタイプのベルトだと思っておこう。
「カァアアッペ! 毎日、他人の弁当を温め続けるのがオマエのなすべきことなのか? それで満足だというのなら、もう何も言わない。けれど、何かを変えたいと望むのならば突き進んでゆくしかない」
そんな理想論なんか、もう聞き飽きた。
仰々しいことを語る奴に限って大した事を成していない。
コンビニで他者の弁当を温めて何が悪い! それだって立派な仕事だ。
大切なのは、何者であるのかではなく、どう生きているのかだろう?
「何事も冒険なのだ。勇敢に立ち向かっていくからこそ、初見殺しが光るのだ」
マゾヒストみたいなアドバイスされてもリアクションに困る。
初見で消されても、ちっとも嬉しくはない。
石橋を叩いて渡って何がいけない。
冒険したくてもできない人間だっているんだ。その人たちにまで、その価値観を押し付けるつもりか?
それは、あまりにも酷というものだ。
ピシィ、ピシィピシッと氷がひび割れてくるような音が鳴っていた。
次第に意識が戻るにつれて「アアァッ―――オフン」とオッサンが悶えている声も混じっていることに気づいてしまった。
嫌な予感しかしないが、目を閉じままジッとしているのも苦痛だ。
「いおおおお、いいいおおおおん……とっても、リフレッシュゥゥゥ!」
想像するのが、辛すぎて思わず新世界の扉を開いてしまった。
見開いたその先に、ロープで縛られながら鞭で尻を打たれているキンニクモメンとサガワ博士の姿があった。
ヨダレを垂らし恍惚とした顔になっている中年共をみた瞬間、手遅れだと思った。
彼らを鞭でシバキ入れているのは、同じくセコイヤの元女幹部、エロス担当のムッチンプルンだ。
「キンニクさぁ。貴方、言いましたよねぇ? ワタクシの奴隷を用意して下さるって」
「だから、用意したやん! とびっきりの奴」
「ハァ~、それで我慢できなくなって手を出そうとしたと……変態極まりないです」
「そ、それはだな……博士がちゃんとした物を作らなかったせいだ!」
「なにぉぅ! ワシの作ったベルトは能力以上の性能を発揮した傑作じゃろうが!!」
イマイチ、状況が飲み込めないけど、幹部三人で揉めているようだ。
しばらく、互いに文句を言い合っていたが、晩飯を食いに行こうという結論にいたり外へと出て行った。
廃工場の中にはボク、一人が取り残されていた。
見張り役の手下たちの姿はもう、どこにも見当たらない。
よそで待機しているかもしれないけれど、逃げだすのなら今っきゃない。
ボクは芋虫のように床上を這いつくばって進んだ。
せめて、鉄足枷が外れれば楽に移動できるだけど、贅沢も入っていられない。
ここに残っていても、元の木阿弥だ。奴らに実験動物にされる運命しか見えてこない。
―――ってあれ? 足枷が足からすり抜けた……これはラッキーだ。
大方、戦闘員たちが手抜きして、ボクの脚にしっかりと嵌め込んでいなかったのだろう。
嬉しい誤算にボクは即座に立ち上がり、工場から飛び出した。
走っていて気づいた……履いていたズボンと上着がない。
今は、やけにダボダボになったロングシャツとボクサーパンツを履いたままだ。あと、ガーターベルトも……。
変質者度合いが凄まじいが、非常事態の場合は人目をひく姿の方が奴らから狙われにくいはずだ。
「うくっ、足イタっ!! これ以上、歩き続けるのはキツイなぁ……」
道路を避けながら、山道を登ってきたせいで足元もサンダルもボロボロになっていた。
普段から走り込んでいないから、やわいボクの足にはマメができ見事に爆ぜていた。
にしても……こんなに華奢な足だったっけ?
月明りでしか確認できないが妙に細くみえる。
「ひょっとして……ガーターベルトの効果なの?」
すぐにロングシャツをめくり上げるとガーターベルトがあった。
不意打ちすぎて萎えるが、どう力を込めようとも外れる気がしない。
それよりも、もっと驚くことがある。
なんと! あの腹回りの浮き輪肉が綺麗サッパリなくなっている。
信じられないほど、ボクはスリムな体型になっているのでは……どうりで、いつもより身体が軽く感じたわけだ。
すぐに確認したいところだが、ひとまずは下山しないといけない。
今が冬場ではなくて本当に良かった。
とは言え、野生のクマや猪に遭遇する危険性もあるし長居はできない。
空腹や喉の渇きだって、出てくるだろう。
動けるうちに距離を稼いで置かないと…………。
一息入れた後、雑木林を抜けると街明りがそこに散りばめられていた。
季節外れのイルミネーションは、何故だかとても綺麗に見えて感動すら覚えてくる。
いつもなら、大した光景でもないと興味すら示さないのに、思わず頬が濡れてしまう。
人が、あの光の元にいる。そう思うだけで、自然と気力が復活する。
バサバサバサバサバサ!!
ガーターベルトの絞めつけに耐えられず、ボクは偉人の名を繰り返し呼んでいた。
混濁した意識の中、ガーターベルトの中の人が「ヘイ!」と不信な声をかけてきた。
間違いなく幻聴だと思うけれど……取り敢えずは、よくある喋るタイプのベルトだと思っておこう。
「カァアアッペ! 毎日、他人の弁当を温め続けるのがオマエのなすべきことなのか? それで満足だというのなら、もう何も言わない。けれど、何かを変えたいと望むのならば突き進んでゆくしかない」
そんな理想論なんか、もう聞き飽きた。
仰々しいことを語る奴に限って大した事を成していない。
コンビニで他者の弁当を温めて何が悪い! それだって立派な仕事だ。
大切なのは、何者であるのかではなく、どう生きているのかだろう?
「何事も冒険なのだ。勇敢に立ち向かっていくからこそ、初見殺しが光るのだ」
マゾヒストみたいなアドバイスされてもリアクションに困る。
初見で消されても、ちっとも嬉しくはない。
石橋を叩いて渡って何がいけない。
冒険したくてもできない人間だっているんだ。その人たちにまで、その価値観を押し付けるつもりか?
それは、あまりにも酷というものだ。
ピシィ、ピシィピシッと氷がひび割れてくるような音が鳴っていた。
次第に意識が戻るにつれて「アアァッ―――オフン」とオッサンが悶えている声も混じっていることに気づいてしまった。
嫌な予感しかしないが、目を閉じままジッとしているのも苦痛だ。
「いおおおお、いいいおおおおん……とっても、リフレッシュゥゥゥ!」
想像するのが、辛すぎて思わず新世界の扉を開いてしまった。
見開いたその先に、ロープで縛られながら鞭で尻を打たれているキンニクモメンとサガワ博士の姿があった。
ヨダレを垂らし恍惚とした顔になっている中年共をみた瞬間、手遅れだと思った。
彼らを鞭でシバキ入れているのは、同じくセコイヤの元女幹部、エロス担当のムッチンプルンだ。
「キンニクさぁ。貴方、言いましたよねぇ? ワタクシの奴隷を用意して下さるって」
「だから、用意したやん! とびっきりの奴」
「ハァ~、それで我慢できなくなって手を出そうとしたと……変態極まりないです」
「そ、それはだな……博士がちゃんとした物を作らなかったせいだ!」
「なにぉぅ! ワシの作ったベルトは能力以上の性能を発揮した傑作じゃろうが!!」
イマイチ、状況が飲み込めないけど、幹部三人で揉めているようだ。
しばらく、互いに文句を言い合っていたが、晩飯を食いに行こうという結論にいたり外へと出て行った。
廃工場の中にはボク、一人が取り残されていた。
見張り役の手下たちの姿はもう、どこにも見当たらない。
よそで待機しているかもしれないけれど、逃げだすのなら今っきゃない。
ボクは芋虫のように床上を這いつくばって進んだ。
せめて、鉄足枷が外れれば楽に移動できるだけど、贅沢も入っていられない。
ここに残っていても、元の木阿弥だ。奴らに実験動物にされる運命しか見えてこない。
―――ってあれ? 足枷が足からすり抜けた……これはラッキーだ。
大方、戦闘員たちが手抜きして、ボクの脚にしっかりと嵌め込んでいなかったのだろう。
嬉しい誤算にボクは即座に立ち上がり、工場から飛び出した。
走っていて気づいた……履いていたズボンと上着がない。
今は、やけにダボダボになったロングシャツとボクサーパンツを履いたままだ。あと、ガーターベルトも……。
変質者度合いが凄まじいが、非常事態の場合は人目をひく姿の方が奴らから狙われにくいはずだ。
「うくっ、足イタっ!! これ以上、歩き続けるのはキツイなぁ……」
道路を避けながら、山道を登ってきたせいで足元もサンダルもボロボロになっていた。
普段から走り込んでいないから、やわいボクの足にはマメができ見事に爆ぜていた。
にしても……こんなに華奢な足だったっけ?
月明りでしか確認できないが妙に細くみえる。
「ひょっとして……ガーターベルトの効果なの?」
すぐにロングシャツをめくり上げるとガーターベルトがあった。
不意打ちすぎて萎えるが、どう力を込めようとも外れる気がしない。
それよりも、もっと驚くことがある。
なんと! あの腹回りの浮き輪肉が綺麗サッパリなくなっている。
信じられないほど、ボクはスリムな体型になっているのでは……どうりで、いつもより身体が軽く感じたわけだ。
すぐに確認したいところだが、ひとまずは下山しないといけない。
今が冬場ではなくて本当に良かった。
とは言え、野生のクマや猪に遭遇する危険性もあるし長居はできない。
空腹や喉の渇きだって、出てくるだろう。
動けるうちに距離を稼いで置かないと…………。
一息入れた後、雑木林を抜けると街明りがそこに散りばめられていた。
季節外れのイルミネーションは、何故だかとても綺麗に見えて感動すら覚えてくる。
いつもなら、大した光景でもないと興味すら示さないのに、思わず頬が濡れてしまう。
人が、あの光の元にいる。そう思うだけで、自然と気力が復活する。
バサバサバサバサバサ!!
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