RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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冒険者が統べる村

不俱戴天の凱帰

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『――様。も知――さm、きこえてますでしょうか? 貴女様のモリスンです。萌知様、応答願います』

大気が渦巻いて霧が一気に拡散していく。
アーカイブスとの通信が回復したという事は……ミストチャフの効果が完全に消失した。
無論、偶発的ではなく第三者の魔法介入になるがこの魔法を無効化させられるなんて相当な術者だ。
あの隊列の中に、最低でも一人はウィザードクラスの魔法使いがひそんでいるのだろう。
霧が晴れた直後、視界に飛び込んだのは甲冑で武装した騎兵と歩兵が隊列を成し行進する様だった。
普通の村ではあり得ない異様な光景に、見間違いかと眼を疑ってしまう。
正規軍兵士ではないのか? 行軍を眺める村人たちの殆どが懐疑的な目を向けていた。
ちゃんとした兵士であれば形はどうであれ、村の衆が沸き立たないわけがない。

「あの団体、何者なんだろ? モリスン、どう捉える?」

『はっ、旗が掲げられいますが国軍のものと異なりますね。正規軍なら家名紋の上にもう一枚、国章を印した旗がかかげられているはずです』

「家名の旗だけならば、この村を取り仕切る貴族の私兵とにらんだ方がいいかもね」

一団が護送する荷馬車に巨大な檻が載せてあるのを目撃した。
よく見ると檻の中には数十人近くの男たちの姿がある。
年齢は若者から老人まで様々、統一性はないにしろ、全員に共通して言えるのは傷だらけで泥に塗れたボロをまとっているという点。

「ヒソヒソ……また、どこぞの盗賊団でも捕まえたのかねぇ?」「気の毒に、ビーンズ姉弟に捕まったら二度と外の陽射しは浴びれないだろうよ」「かまうもんか! 彼ら冒険者のおかげで、この村の平穏が保たれているんだ」

荷馬車が前を通過する度に村人たちの囁き声が増えていく。
ビーンズ姉弟の評判は総じて賛否両論といった具合だ。
とはいえ……檻の閉じ込められている人間を見るのはあまり、いい気がしない。
素性もハッキリとしない彼らの瞳には生気もなく絶望しか映っていない。

「あら? あらあらあら! こんなところに薄汚い肉の塊が転がっていると思ったら、お留守番中のナック君じゃありませんか!」

突然、集団の中から弾むような女性の声が響き、一頭の騎馬が肉ダルマの下へと近づいていった。
騎乗するは二人の男女。
手綱を握る男の方はいかにも高価そうな漆黒の鎧に身を包んだ騎士。
その背後にいる女性は、小柄でありながらも胸元が開いた大胆な出で立ち。
認めたくはないけど、あれは法衣じゃないだろうか……。
魔術師は体内魔力の循環を高める為にあえて肌をさらす服装を着る傾向がある。
とりわけ、女性の魔術師あるあるで、彼女たちは人前で露出することに慣れっこだ。
まったく恥も外聞もありゃしない。
まあ、ほとんど場合は建前で肌を見せるホントの目的は異性の関心をひくことにある。
自分の肉体に自信を持てるのはうらやまし……生粋の魔法使いからすれば実にけしからん話だ。

「ナァッ――――ク!! おおっ、賢弟けんていと呼ばれた当家の誇りが何たることだ! 自慢の磨き抜かれた筋肉が見るにたえないほどに汚れてしまっているではないか! くそ、油断していていた。よもや、俺達の不在を狙う不届き者がいるとは……誰か、早く癒しの魔法をナックに!」

まったくの予想外だった。
てっきり、彼女の方がナックという男の窮地に手を差し出すものかと思っていた。
しかし、誰よりも真っ先に馬から飛び降りてきたのは騎士の方だった。
地面を転がるナックに気づくと脇目もふらず、彼の抱きしめ3秒もしないうちに涙する始末。
忙しないことこの上ない。
女魔術士の方は、騎士とは正反対に落ち着きをはらっているが、一歩引いた位置から二人の様子を不服そうな眼差しで眺めている。

「カシュウ、これは魔術士のしわざですわ。さっきほどの霧も魔力で生みだされたものでしたから」

「なんだと。魔法ごときでナックにここまでダメージを与えてくるとは……考えられん」

「かなりの使い手かしら。まだ近くで私たちを狙っているかもしれません、注意して下さいな!」

「ううっ、兄貴に姉さん……戻っていたのか?」

「ああ、今な。それよりも誰にやられた? 心当たりは?」

「わ、わかんねぇ。タンゾウの野郎が嫌がらせでピーマンを食わせやがった! だから調教してやろうとしていたら、いきなり……」


うわっ……なんて白々しい奴だ。
家族の手前か? あくまで犠牲者を装うつもりだ。
恫喝、器物破損、暴行罪のスリーアウト、軽く見積もってもこれだけの罪状が出てくるはずなのに、みじんも負い目を感じていない屑ぷり。
原因がナックなのは非を見るより明らかなのに、あんな言い方をすれば当然、串焼き屋さんが悪者になる。

「おのれ、タンゾウぉおおお――!! 許すまじ」

一瞬、炎で炙られたかのような錯覚を肌に覚えた。
殺気とは違う、強い怒り憎しみ。
卑劣な弟の虚言を鵜呑みした騎士カシュウは我を忘れかけている。
眼をカッと見開くと、すぐ剣の柄を手に取ろうとする。

「待って。この場で面倒を起こさないでちょうだい、人目が多すぎる」

「悠長に言っている場合か! 俺たちの大切な弟を傷つけられたんだぞ、ここで黙って引き下がればビーンズ家の名がすたれる」

「カシュウ、貴方ね……少し、ナックに甘すぎない? 昔からそう、弟のことになると周りが見えなくなる。今だって貴方が疑わないことを良いことに、この子は話を大袈裟に盛っているわ」

「そ、そうなのか? ナック」

「ひ、ひどいよ! 姉さん……俺が二人を騙そうなんてするわけないじゃないかぁ! 俺は潔白だと筋肉神に誓ってもいい」

話がてんで見えてこない。
魔術士の仕業だと言いながら串焼き屋を疑い、弟が適当言っている事で口論に転じる、ビーンズ家の3人。
凄まじいぐらい個々の主張が激しく収まりがつかない、ホントに家族なのか? 彼らは。
女魔術士はともかく、騎士の兄貴はダメダメだ、弟を擁護することしか考えていない。
その弟のいたっては、むさ苦しそうな神を崇拝している始末だ。

「二人とも、お屋敷に帰りますわよ。捕獲した野盗らを収容する必要がありますし」

聞き分けのない男衆に、荒ぶる自身の気持ちをなだめるようにしてため息をつく女魔術士。
その背中を見て、わりと不憫な人だなとわずかながらに思ってしまった。

荷車を引いた馬が遠のいてゆく。
例の三人の姿が消えると、出店通りは元の賑わいを取り戻していた。
まるで最初から何事もなかったように、降りかかる火の粉から己が身を背けて人々は日常を謳歌する。
そんな歪な気配が、この村には漂っている気がする。

「ビーンズ一家か……アリシアお婆ちゃんに詳しく訊いてみた方がいいかもしれない」

『タンゾウという男に直接訊ねた方が手っ取り早いのでは?』

「モリスン、どうやら君には配慮の心が足りないようだね。この状況をよく見なさい」

命に別状はないもの串焼き屋の店主は酷く負傷していて、具合も悪そうだった。
たまたま通りかかった魔術師に治癒魔法を施してもらっているが、時間はかかるだろう。
治療に専念できるよう、なるべく邪魔はしたくない。

『土をいじっているようですが、萌知様。いかがなされましたか?』

「ん~? まだ秘密。いくつか、疑問があってね」

始めは、些細なものだった。
この村に着いた時から、ずっと何かが引っ掛かっていた。
私の魔法をどうやって打ち消したのか?それはそれで気になるところだけど……まず、どうやってビーンズ姉弟が率いる騎馬隊が村に入ってきたのか?腑に落ちないでいる。
ミスチャフの霧が晴れた時には、すでに間近にいた彼ら。
一切、音を立てず誰にも気づかれないで出店通りの真ん中までやってくるのは、現実的に考えれば至難の業である。
答えに結び付くのかは断言しづらいが、地面を調べて一つだけ判明した。
先ほどの荷車の軌跡は私が最初に集団を目撃した地点からスタートしている。
逆に同様の痕跡は村の入り口の方へと続いてはいないようだ。
この謎が明かされれば引っかかりの正体も見えてくるやもしれないが、まだだ。
現時点では、パズルを紐解くのに必要なピースが不足している。
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