RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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プロローグ 旅の天秤

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「げほっ! げほっ! それ使うとキケンな奴だよね……試したの?」

ろくでもない言葉がさらりと出てきたおかげで、飲みかけていたアイスコーヒーを鼻から吹き出しそうになった。
事もあろうに、この人の思考にはリスクヘッジという概念が消失しているらしい。
見た目に反して後先考えず行動するタイプなのかしらとツッコミたくて仕方がない。

「まあね、リスクが高いほど燃えるよね」

「別な物が燃え尽きると思う」

「クスッ、そうね……そうだったわ。実際に失敗してにのまれかけたけど命からがら助かったってカンジ。代償として魔力をほとんど持っていかれたわ」

「小鳩さん、無茶しすぎだよ……」

「心配してくれてありがとう。でも、やってみる価値はあったわ。私……いえ、私たちみたいに魔力を持っている人間にとっては大切なことなのよ、とてもね」

「小鳩さん、あなたはいったい……」

急に息苦しくなり耳が痛くなってきた。
その先に続く、疑問を口から発するのをためらっている自分がいた。
術具を見せられた時点で察知するべきだったのだ、彼女が私に近づいてきた真意とその目的に。
彼女は魔力を宿している人間を必要としていた。
それは私だからではなく誰でも良かった。
目的は定かではないが、あの天秤を動かす為と考えるのが自然だろう。
憧れのクラスメイトと仲良くなれるかもしれない。
そんな事は有り得ないと思いつつも、心の片隅では突然、舞い降りた奇跡にすがろうとする自分がいた。
なんて、あさましい人間なのだろう私は……。
人との距離を縮めたいと望みながら、他者の都合に巻き込まれるのを拒んでいる。

「月舘さん、考え事?」

「あっ。いえ、何でもないです。魔性? それがこの世界を組み替える? 天秤を使用する制約みたいなものなのかな」

「そうともとれるし、そうではないとも言えるわ。魔性というのは普段は表に出てこない自身の魂の暗部、本来なら心の奥底に眠っているけど隠世に入り込むと魂が反転して暗部のほうが出やすくなるの。そして、それは魔法を使う者にとっては大いなる力の源になる」

「だから、私にとって必要なことだって言ったんですね……小鳩さん、もしかしたら私に隠世に行って欲しいの? 私も魔術の知識だけは豊富だから知っているよ。あなた、自分の魂を切り分けたんでしょ? だから魔力を失ってしまった」

小鳩さんが目を丸くして私を見ていた。
少し声を荒げてしまったからかもしれない。
嫌われても仕方ない、嫌われるのには慣れている。
仮に彼女の望みに従い隠世に行ったとして、能無しな私に何ができるのだろうか?
魔性とやらに蝕まれ、あっけなくやられてしまうに決まっている。

「申し訳ないけど――」

「ストップ! それ以上は言わなくてもいいよ。鋭いね、月舘さん。私が思っていた以上だよ。できれば、お願いしたいっていう話だから、ね? この話は終わり!」

「力になれなくてごめん……私が言うべきことじゃないけど、本当にいいの?」

「へーき、へーき。アテは他にいくらでもあるし。月舘さんと友達になれたのが、私にとって一番の事だよ」

「小鳩さんは私を友達としてみてくれるの? まだ少ししか話していないのに?」

「フフフッ、月舘さん。いいえ! 萌知ちゃんと呼ばせてもらうわ。友達になるのに時間はさほど重要ではないのだよ、肝心なのは秘密を共有する事さ。私は萌知ちゃんの、萌知ちゃんは私の秘密を知っていて他の誰にも打ち明けらない。つまり、私たちは運命共同体なのよ…………変かな?」

「うん、変な人」

「そう変な……えええええっ!」

屈託なく笑う彼女とともに、私も自然と笑みを浮かべていた。
悲観的な私とは対称的にどこまでも前向きな小鳩さんは、まさしくアイドルの鏡。
曇ったこの心に暖かな光を与えてくれる、お日様そのものだ。
彼女の言ったことに嘘や偽りはないのだろう。
その後、魔術関連の話は一切抜きで私たちはたわいもない互いの日常について語り合った。
趣味や家族のことから学校での出来事や恋愛話にいたるまで、女学生同士の定番だけど尽きない会話。
長い間、そうありたいと切望していた事。
それがあっさりと叶った今、私は夢見心地にひたっている。
だから、思ってしまった。
彼女、友達の願いを絶ってしまったのは間違いなのではないかと。
私の判断は被害妄想から生まれた単なる自己保身でしかないのではと。
できれば小鳩さんの願いを叶えてやりたいとさえ頭に浮かんでくる始末。
友達という一言は本当に厄介な呪詛だ。
そう分かりきってても尚、私の心を掴んで離さないのだから。
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