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心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

ふるおぺん

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どうやら、ハウリングノイズが効果を発揮したようだ。
井戸の近くにいると思もわしき男二人の声。
まだ、イマイチ精度が低く彼らの会話が所々、聞き取り辛いがもう少し距離を詰めれば音声もクリアになってくるはずだ。
しばらくは井戸に身を潜め情報を集めるべきか?

井戸の出口が見えてくると、それまでおぼろげだった男達の会話はより鮮明なってきた。
こうして人の会話に聞き耳を立てるというのも妙な背徳感があるが、冷静に考えるとこれは諜報活動の一環だ。
良いも悪いもへったくれもない。
とても重要なことであり、致し方無いことなのだ。

「お前、マジですげぇ――な!! 本気でやるんだな?」

「ああ、すでに何度か実証済みだ。だが、タイミングが肝だ。一歩しくじれば不自然になってしまう!!」

「で、できた……のか?」

「ふっ、知りたいか? そうか、知りたいのだな。あれは奇跡ミラクルプレイ、驚きの解放感に我が心は新世界の扉をノックしてしまった」

「くっそぉおお、何言ってるのかさっぱりだ!! オレも勇者様みたいに格好良く決めたいぜ! マジで、うらやましすぐるわ――」

「そう嘆くな、お前にも俺のZENKAIを見せてあげんよ。刮目かつもくせよ! これが転移者直伝の奥義――開けぇええ!! オープンステータスぅうう――!!」

「……で、どこにステータス画面が出ているんだ? しかも、開けとオープンって同じだよな?」

お願い……それ以上はツッコまないであげて……あなたの友人とって消せない黒歴史ふこうになってしまうから。
何かと思って聞いてみれば、門番の連中は他愛もない会話で盛り上がっていたらしい。
致し方がない理由があるならまだしも、いい歳した若者が恥じらいもなく人前で無闇やたらにオープンステータスしてはならない。
あまつさえ、個人情報の保護には気を遣う現代だ。隠ぺい魔法もなしで開示するのは、生まれたままの姿で街中をうろつく事に値する。
それこそ、バレたら即アウトな情報まで……。
とはいえ、転移者でない彼らにオープンステータスは少々、ハードルが高かったようだ。
まぁ、めげずに頑張ってとしか言いようがない。

「確かに……俺にはできなかったさ、ステータス開示は……けど、よく見てみろ!! 開いているだろっ!? 俺の股間パトスがぁあ」

「ま……マジかよ。すんげぇぇええ――!! ロゴスを捨て去った捨て身、全開じゃないか! まさ……か、オレたちのステータスって」

「フッ、どうやらお前も気づいたようだな。そう、俺達がオープンステータスを唱えると何故か勝手にズボンのチャックが開く現象が起きる。なぜなら、それこそが我々のステータスシンボルだからだぁぁ――!! ってなわけあるかぁああ――!! ううっ、あんまりだ……これじゃ、下半身が本体だと言われているも同然だ」

「待て、どこに行こうとして!? そっちには古井戸しかないぞ! 早まるなぁぁあ!! そなたはまだ若いぃぃ」

キィー…………キィッ……

「なんだ? 古井戸の方からヘンな音が聞こえる。見、見ろ。あそこ、井戸の手前で何かうごめいていないか?」

「き、き、気のせいじゃないかな………そう、見間違いだとも……ち、近寄ってくるなあぁぁああ! そんな風に俺達を睨むな!! まさか、君なのか? 幼少のころ、いつも我が屋敷の前で恨めしそうに立っていた不審な家政婦!?」

「オマエんち家政婦じゃねぇか、それ! オマエが不要に屋敷から締め出すから、知らないうちにオレんちキッチンの戸棚の中に入っていたぞ、アイツ。ヤバイヤバイ、這いよってきているぞぉぉ――――!!」 

は、入っていたって……菓子か何かじゃないんだから。というか、それは立派な不法侵入でしょ。
とても低次元の会話を耳にしたせいで井戸から出てくる際、思わず前のめりに倒れてしまった。
バランスを崩し、そのまま水汲みから垂れ下がっていたロープに足を引っ掛けてしまったのだ。
颯爽と飛び出そうとしたのも相まって、錆びた滑車が揺れに揺れ不気味に鳴いていた。

「はううわわわあああ――。許してくれ、君を自由にさせたかったんだ!! いつも、家事仕事に追われて外出もできなかっただろう?」

眼鏡をかけた衛兵はズボンのチャック全開のまま一心不乱に頭を下げていた。
なんせ私には関係のない過去の出来事だ、イマイチ会話が漠然しているが、この人の事情など元から知ったことではない。
対する相方はというと、すでに白目をむいて気絶している。
この際だ、彼らは放置しておこう。
大樹に直結する地点ということで充分に警戒していたが、これなら難なく突破でき――――そうでもない。
なんと、門の向こう側から他の男達がぞろぞろとやってくる。
全員衛兵だとしたら、目も当てられない。

「おい? おいおいおい、そこの女が侵入者じゃないのか!? お前ら、奴を生け捕るぞ!!」

そのまさかだ……門前で鉢合わせになると、男達は真向から私の方へ詰め寄ってきた。
思わぬほど洗練された動きに、気圧されそうになりながらも私は逃走をはかった。

門前での鬼ごっこが始まった。
ここで戦闘に持ち込むのは得策ではない。
この警備の厳重さは完全にこちらの手の内が見透かされている証拠だ。
そうなると、いくら強力な魔法を有していようと私一人ではさばききれなくなる。
それに、ここが敵の本拠地である以上、敵の数は今までの比ではないとみるべきだ。
一度でも応戦すれば、瞬く間に数の暴力に圧倒されてしまうだろう。
こうなったら、混乱に乗じて何処かに身を隠した方が良さげだ。
幸い広さだけは充分、確保されているのでに逃げ場には困ることはなさそうだ。

すでに、向こうには三十人以上の人数が集結していた。
いくら逃げても次から次へとひっきりなしに刺客が放たれるのは容易に想像がついていた。
私はできるだけ自力で走った。
策とかそういったものは抜きにして魔法に頼って逃げ出すよりも、普通に走った方が捕まりにくいからだ。
エアーブラストでの水平移動は直線的な動きで捕まりやすいし、ライトニングムーブは相手をいなし翻弄できるけど距離が稼げない。
その上、魔法の連発は体力の消耗が早い。
このような状況下においては致命的な問題になる。
それはそうとして……もとから走るのが不得意な私だ、こんな風に考えを巡らせている間にも衛兵との距離は縮まってきていた。
対処法としては――

「風に注意しろ! 直撃すれば吹き飛ばされるぞ!!」

ダウンバーストで足止めするぐらいだが、相手側にも魔法に精通している者がいるようだ。
即座に、回避行動を取られてしまっては手の打ちようもない。

「くっ、最初から包囲網が敷かれていたみたいだね。完全に詰んでいるかも……」

耳元でヒュンと何かが空を切る音がなった。
順々に地へと突き刺さる、ソレに私は足止めを喰らってしまった。
弓矢だ。
獲物を威嚇し行動を阻害することに長けた、大昔から人と共に在る狩猟道具。
門を中心に四隅に建てられた見張りやぐらに、あらかじめ待機していたであろう弓使い達は、こちらに弓を構えていた。
不味い、こうなってしまったら腹くくって、ゴリ押しするしかない。

「何だぁああ――――貴様ァアアアは!? よせ! うひゃあああ――」

それまで、気にも留めなかったが大樹への開路には最低でも二つの門は通過しなければならない。
この先にまだ門があるのか? は別として今、私の前にある門を内門とすると、後ろは外門と呼ばれる方になる。
その門の存在を無視し、爆発音とともに外壁を打ち抜いてきたソレは突如として私達の前に姿を現した。
魔物だ、筋肉の張った逞しい肉付きをした牡牛、あるいはバッファローと類似するソイツの背には――

「ひゃはっ~! モチん、遅れてあそばせぇ――」

不思議な言語を操る問題児がまたがっていた。

「グ、グレイデさん。どうしてここに来ているんですか!?」

「チッチッ、みなまで言うなし。婆に助っ人をまかされたのよ、コイツら私のピッピに酷い事したから、私も許せないわけよ」

「オラァ! グレイデ! 俺たちに歯向かう意味が理解できねーほど頭のネジが足りなくなっちまったのかぁ~?」

「はっ? 雑兵ボーイズは黙ってろよ! 大人しくナックの奴にケツでも振ってろよ」

「んだと……誰が、何だって!?」

うわっ……なんかスゴイ、ローカル感。
田舎あるあるの村人全員が顔見知り。
グレイデさんと衛兵達の関係も例に漏れず口を開く度にお互い罵倒し合っている。
外野な私は、すっかり蚊帳の外に追い出せれてしまったが、よくよく見れば連中の注意はグレイデさんに注がれている。
もしかしてもなく、これは好機ではないか?
今の内に内門を通り抜けてしまおう。
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