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心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

再突入

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アリシアお婆ちゃんの過去。
行き場のないやるせなさに苦悩し、後悔を背負い続けてきた日々、思い出すのも辛い事実を彼女は懸命に吐き出してくれた。
少しでも胸のつっかえが取れてくれればと祈ってしまう。
そう意識しているはずなのに……一方で、自分は薄情なのでは? と疑ってしまう。
せっかく、打ち明けてくれた事の顛末に対して、何一つ言葉をかけられなかった。
何を言っても軽く、嘘臭くなってしまう気がして仕方がなかった。
同情する立場でもないと分かっていても声をかけただけで不要な情けをかけてしまうのでは? と抵抗を感じた。
結局、私は相手を傷つけるのが怖いとみせかけ本当は自分が傷を負うの嫌がっている小娘にすぎない。
ここに来て、初めて自己嫌悪に直面した。

「ヘイデル様とはそれっきり。子供たちがどうやって難を逃れたのか? 私にもわからん、ゾイたちやタンゾウの奴に訊いても何一つ語ろうとしないからね。ただ、丘の聖域の避難して三日後にはビーンズ家のお屋敷があった場所に、あのドデカい大樹が出現していたのさ」

お婆ちゃんは村がある方を指差していた。
ここからだと村の一部しか見えないが、村の西にそびえる巨大樹だけは不気味なくらい威圧的な存在感を放っている。
まるで、自身が村のシンボルだと誇張しているようでかんに障る……そもそも、アレは植物ではなく大樹に見せかけた偽物だ。
命あるモノならマナが宿っていてもおかしくないはずなのにアレには何の息吹も感じ取れない。
まったくもって無機物としか言いようがないのだ。

「そういえば、お婆ちゃん。リシリちゃんお母さんと、この地に来たって言っていたよね? まだ会ったことないけど、まさか魔物の襲撃時に…………」

「いいや、あの娘は行方知れずさ。元々、軍医だったのもあって街医者として村に滞在していたが、スタンピードが発生したあの日、ヘイデル様と同じく村から失踪してしまったんだ」

「失踪ね……何かトラブルに巻き込まれた可能性が高いよね」

お婆ちゃんから聞いた話を元に、私はある仮説を立てていた。
先代の領主、オルド伯は危険とされる遺物、ダンジョンコアを持ち帰ってきてしまった。
理由は定かではないが、そうせざるを得ない状況に立たされていた可能性がある。
結果、コアの制御が利かなくなりシェルティの街でスタンピードが発生。
お婆ちゃんは、腑に落ちていない感じだけど、アーカイブスに記載されている情報によればダンジョンコアという古代の遺物は、ダンジョンの心臓部でありコアを所持する者の意志でダンジョンを自在に創造できる魔道具で錬金術の産物らしい。
話だけ聞けば、夢のあるアイテムに思えてしまうのがこの手の魔道具の怖いところ、実際は取り扱う知識のない者が触れるだけで大惨事を引き起こす呪物だ。
この件にリシリちゃんの母親が関わっていそうな気がするが、消息不明となると、やはり真実を知るのはタンゾウさんのみとなる。

「行くのかい? 聞くだけ野暮かねぇー。行くなって言ってもアンタは村に戻ってタンゾウたちを救おうとするんだろうが、何がアンタをそうさせるんだい?」

「ゲイル君にも、同じ質問を受けたよ。何の利益もなく、そうする必要もない。なのに、どうして知り合ったばかりの相手の為に行動できるんだ? ってね。そんなにヘンなことかな?」

「ふん、変わり者の大馬鹿なのも良いところさ。まあ、その俄の通し方は嫌いじゃないがね」

「一応……褒め言葉として受け取るよ。行くよ、あの三人を止めて全てを解決する為に。だって私は魔法をもってして導く者だから。お婆ちゃんこそ、その一騎当千の強さでどんな相手でもねじ伏せることができるんじゃないの?」

「あんまり、年寄りをからかうんじゃないよ……以前だったら、そうできたかもしれないが体力が持たんわ。忠告しておくが、今のビーンズ姉弟の実力は計り知れないものがある、舐めてたら痛い目みるどころじゃすまされないよ」

「覚悟はできているよ。今更、手を引くつもりはないから」

「なら、ついて来な」

お婆ちゃんにつき従い、私は夜道を進んだ。
丘を登りきると、どこか見覚えがある場所に辿りついた。
お婆ちゃんが手にしたランタンで足下を照らした。
薬草がそこらかしこに群生している、どうやらここは昼間よく訪れる畑近くの薬草園らしい。
同じ場所でも昼と夜ではこうも印象が違ってくると、すぐには気づけない。
ここにやって来たということは、転移陣を使って村の中に侵入する手筈が整っているという事なのだろうか?

「どこに行こうとしてるんだい!? そっちじゃなくて、こっちだよ」

竹藪の中に入ろうとするといきなりどやされた。
どうやらタンゾウさんが使用していたルートは不正解だったらしい。
ランタンの明りが指し示す先には大きな茂み、その裏側に隠すようにして別の転移陣が敷かれている。

「いいかい? よくお聞き。この転移陣は大樹の手前、正門口の傍にある古井戸の底へとつながっている。当然、門の前には見張りがいる、けど萌知なら魔法で上手く切り抜けることができるはず。そしたら、門をくぐって大樹に向かって走りな、協力者が大樹突入を手助けしてくれる算段になっている」

「あ、うん……」

大樹突入という切迫した言葉に、わずかながらに胸がざわめいた。
及び腰になったところで、私の選択肢など限られている。
やると言ったら有言実行しろと言いかねない婆様のことだ。
こんなものは無理難題の内には入らないのだろう。
にしても……今回の作戦はやけ根回しが良すぎる。
それこそ以前から画策していたかのような……。
そう考えると、私は知らない間にお婆ちゃんの代役を担うはめになってしまったのかもしれない。
いや……深く考えるのはそう。
これから、敵陣に飛び込むというのに集中を欠くわけにはいかない。
私は、お婆ちゃんと視線を向き合わせるとコクリと頷き転移陣に飛び込んだ。
無言の見送りだったが、それはアリシアという女性が私に向ける信頼の強さの表れのような気がする。
何とも彼女らしい在り様だが、その瞳は真っすぐに私を見つめていた。

転移陣に運ばれ古井戸の底に出た。
水が枯渇し使えなくなった古井戸。
内部は思っていたよりも周長が広く、細身の大人なら10人ぐらいでも一緒に入れそうだ。
それよりも問題なのは高さのほうだ、正しい数値化はできないものの、十数メートルはゆうにある。
これじゃ、外の様子を探ろうにも自身を起点とし発動するエアリアルサーチの魔法は使えない。
くわえて、井戸を昇ろうとしようにもを絡ませる箇所が見当たらない。
何分、使われていない井戸だ。水汲み桶の滑車も傷んでいる可能性がある。
もし昇っている最中、私自身の重さにより滑車が落下したら二重の意味での衝撃が我が身を駆け抜けるだろう。

「しょうがない、フロートで地道にいくか……っと! その前にハウリングノイズを」

井戸の外へと魔力で作った旋風をいくつか飛ばす。
この風は、周囲のどんな些細な音でも集音し、術者の頭の中に直接流し込んでくる。
お婆ちゃんの言っていたとおり、外に門番がいるとすれば何かしら反応があるはずだ。
その間に私はフロートで身を浮かせ井戸をよじ登る。
身体が浮いている分、疲れはしないが井戸の出口に辿りつくまで時間がかかるのが難点だ。
あと、壁にへばりつく蛙みたいで気分が萎えてくる、魔法の有用性はどこへやら……。

「――――な、本当なのか? その話」

「ああ、俺達にもできるさ、きっと。その為に俺は――特訓したんだ!」
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