RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

文字の大きさ
47 / 74
天上へ続く箱庭

いつか一緒に

しおりを挟む
「なっ……なんですってぇええええ!!」

カシュウの口から飛び出した、驚愕発言に開いた口が塞がらなくなっていた。
なぁにが、さあ! だ。そんな話は一切聞いていないし、承諾した覚えもない。
ディングリングにかけられた呪いの事を村人に隠す為とはいえ、さすがにこれは度が過ぎる。
何より私の心臓がもたない。
何の決心もついていないのに統帥とか言う大役を任されてもどうすればいいのさ!?

「モチ子、やったな!」

その、無神経なサムズアップやめてくんないかな……。
というか、いつの間にか会場に人々が一斉に私の方を向いているんですけど――――くっ、コロされそうだよ。
「はあ――」私は深く息を吐き出した。
ここまで注目を集めてしまったら、観念するしかない。
むしろ、脱走できる方法があるのなら教えて欲しいぐらいだ。
拳を握り、ステージへと進む。
時折、見かける期待の眼差しが私には痛い。
本当にこれでいいのか? 不安しか出てこない。

「それでは、新たに就任した統帥とうすいから一言!」

うっ……嘘やろ。原稿なんて用意してないよ、即興そっきょうでやるの?
カシュウを恨めし気に睨むも、彼はさも当然のように視線を背けている。
確信犯だ、コイツ……自分が何をしているのか、理解した上でソレが正解だと妄信しきっている。
こんな真似ができるのは、モリスンしかいない。モリスンが悪魔の囁きでカシュウをたぶらかしたんだ。
でなければ、普通――こんな事態には陥らない。
おののおれぇええ――モリスン! 後で、覚えておきなさいよ!!

「皆さん、初めまして。只今、ご紹介にあずかりました魔導士の月舘萌知です。見ての通り私は、魔法が使える以外はただの小娘です。ぶっちゃけ、自分が統帥に相応しいのかも判りません……ですが、これだけは断言できます。私はこの村を理不尽な支配から解き放つつもりです! 村の人々が安心して暮らせるように、脅威となる戦の火種は、すべて刈り取ります。当然、口先だけの理想論だとおっしゃる方もいるでしょう。しかしながら、サクリファイスの魔女たちを相手に、現状の武装形態では万に一つも勝機はありません。ならば、策を練り活路を開くのが私の役目です。無謀かもしれません、けれど私は本気です、私自身が実力を皆さんに示して初めて信用を得られると確信しています。私は自分で選び決意しました、皆さんの運命まで背おう必要があるなら、迷わずそうすると! だから、皆さんも自身で決断して下さい! 私を信じ共に歩むかどうかを――以上です」

言った、勢い任せに言い切ってやった。
分かっている、所詮は小娘の戯言だ……聞き入れてくれる人なんて――――

パチ、パチパチパチッ!

ステージを降りようとすると微かな拍手が鳴った。
こんな事をする物好きがいるんだなと、辺りを見回すとナックとリシリちゃんの姿があった。
私に拍手を送ったのは彼らだった。
その、ささやかな音色はたちまち周囲に伝播でんぱし、すぐさま大歓声へと変わった。

「すげぇーぞ! 姉ちゃん」「あのサクリファイスの連中に真向から挑もうとする奴はぁ~初めて見たぜ」
「おお、嫌いじゃないぜアンタの考え」「期待しているぞ、統帥!!」

知っていたけど、ジップ村の住人はわりとガチで好戦的だった。
私的にはずいぶんと無謀な発言をしたと意識していた。
けど、逆効果だったらしい。そのハチャメチャな思想が彼らにウケてしまった。
これではもう、着任撤回なんてできないじゃないか……。

「よう……リシリがどうしてお前に会いたいって言うから連れてきたぞ」

落ち込む私に、ナックの方から声をかけてきた。
少し気まずそうな面持ちをしているけれど、それはお互い様だ。
あんな激闘を繰り広げた後だ、私だって、どう距離を縮めて接すればいいのか分からない。
それでも、思っていた以上に元気な彼の姿を見れて内心、ホッとしていた。

「ナック、一緒に料理を食べない!? 話したい事もあるし」

「何だよ? 俺は謝らねぇーぞ、けど……殴っちまった事だけは悪いと思っている」

リシリちゃんと手をつなぎ適当な長椅子に座る。
その様子にナックは「仕方ねぇな」と頭をかきつつも、テーブル向かいに腰を下ろし串焼き肉を手に取る。

「気にしなくていいよ、謝罪はもう貰ったし。それよりも、身体は大丈夫? 当面の間は獣人化はできないと思うけど」

「はっ、甘ちゃんめ。敵だった奴の心配なんかすんなよ。お前の方こそ、平気なのか? 軍の統帥なんか引き受けて?」

「う~ん、否応なしかな……ハハッ。まずは、サクリファイスに行く。私自身、決着をつけないといけないことがあるから、軍をどうするか考えるのはその後だね」

「別に止めやしねぇーよ。ただ、兵を統べるのは生半可な覚悟でどうこうできる話じゃないからな……それを聞きたかった」

「うん、心配してくれてありがとう。にしても……まさかリシリちゃんがナックに懐いているなんて意外だったよ」

「はん? コイツと俺達は元からこんな感じだぞ? ただ、タンゾウにはもっと懐いていたがな……」

「よしっ! 何としても、奴らからリシリちゃんの中にあるコアを摘出する方法を吐き出させてみせるわ! リシリちゃん、待っててね! お姉ちゃん頑張るから」

意気込む私のとなりで飲み物が入ったコップを手に、リシリちゃんはウトウトとしていた。
すでに夜も更けている、お眠の時間になったようだ。その小さな身体を優しく抱きとめてあげる。

「モチヨ。どうして、こんな辺境の村に冒険者ギルドが建てられたのか、知っているか? いや……その話は、また今度でいいわ。帰るぞリシリ、俺の背中に乗れ!」

「ねぇー、ナック」

「何だ? まだ用があんのか?」

「もし呪いが解けたら、いつか皆で冒険しよっ!」

何気なく口に出した私の言葉にナックは背を向けたまま立ち止っていた。どういう表情をしているのか読み取れない以上、また怒らせてしまったのかもしれないと内心、焦っていると彼は呟いた。

「ちっ、さっきの串焼き……ピーマンみたいな後味がしやがる。おかげで苦ぇーたらありゃしねぇーわ」

その声は若干、鼻声になっているように聞こえた――――



明くる朝、荷を取りまとめ鞄に詰め込むと私は道具屋を後にした。
短い間だったけど気づかない内に我が家のように感じていた、この場所を離れるのは少々、名残惜しくもある。
私を見送ろうと村の入り口には親しき人たちが集まっていた。
放っておくと村全体で見送りにきそうだったので、事前に少数に留めて欲しいと頼んでおいた。

「…………」リシリちゃんが飛びつくように私に抱きつく。

「モチ子、いいかい。病気やケガには充分に気を付けるんだよ」グレイデさんが不吉な事を言う。

「グレイデ! アンタって娘は……私の台詞をとんじゃないよ、まったく! モチ、無茶だけはするんじゃないよ」アリシアお婆ちゃんはいつもの調子だ。

「気をつけて、いってらっしゃい」微笑みながら手を振るゾイと「武運を祈る」力強く胸に拳を当てるカシュウ。

ナックは――「おい! 約束、忘れんなよ!!」少し離れた高台から大声で叫んでいた。

私はジップ村に人々に向かって目一杯、手を振った。
今までの事、これからの事、すべてに感謝を込めながら……。
彼らに出会えた事が、今の私の在り方に繋がり、一つ一つの出来事が私の宝物となる。
次はどんな出会いが待っているのだろう? 期待に胸を焦がしながら私は歩き出す。

『なんだかんだ有りましたが、良い村でしたな』

「そうだね。モリスン……ちょっと後で話があるんだけど」

『そ、そんな。ご褒美だなんて勿体ない』

西から暖かい風が吹き抜けてゆく。
その気流に沿って金色の蝶々が二匹、仲睦まじく空に飛び立っていった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...