RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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禁反魂の法理

僕はエビフライ

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雲の切れ間から射しこんでくる陽が、だいぶ傾いてきた。
歩いてまで、一時間ぐらいしか経っていないはず……日照時間の短い季節なのだろうか?
いいや、ジップ村にいた時はこんなんじゃなかったはずだ。
この現象――胸騒ぎがする。
特に魔術的なモノが起因している気がしてならない。

「んーんー? なんだこの違和感」

「大の方ですか?」

「は? それなら、そこいらで済ませるわ」

何だろう? バーナードが絡むと大抵、汚い下品な話になってしまうのは……。
すでにトルテの中でも彼の汚物キャラとしての地位が確立しているみたいだし。
大体、どこまでが本心か判別がつかない。
なんせ空腹を満たすために草を食べる男だ。
とりわけ彼の言動には注意しないといけない。

「気になる事でもあるの?」腕組みしながら唸り続けているバーナードに尋ねてみた。
そうでもしないと、ずっと唸っていそうで耳障りだったからだ。

「まあな。魔物がいる痕跡があるのに静かすぎねぇーか?」

「え――! そうなんですか!? 私、てっきり安全だとばかり思ってました」

「お前さん、わりと脳筋だよな。斥候せっこうにはむかんよ」

「いいですもん。私は商人ですから、そういう才能は要りません!」

確かに彼の言うとおりだ。
私達は入門してから一度たりとも魔物と遭遇していない。
この廃墟群の中だ、辺りをうろつく侵入者を襲撃すべく身を隠す場所なんていくらでもある。
それでも、魔物が群がってくる気配は一向にない。
元から人が寄りつかない場所だから、縄張りにする理由がないといった見方もできる。
そうなると新たな疑問が生じるが。

「魔物たちはこの城下で何をしているんだろうね? ここには何もないのに、徘徊しているみたい」

「分かりませんよ~。ゴースト系だったら彷徨うのがお約束ですからね」

「うわっ……それはそれで嫌だよね。バーナードはどう思う?」

「ビルドアップ」

「ごめん……聞いて損した」

まさか、モンスター考察でその言葉を耳にするとは、ある意味では意表を突かれたわ。
筋トレする魔物なんてアーカイブスでも未確認なんですけど!
しかも、わりと納得しそうになっている私が腹立たしい。

「おい……アレ」バーナードは前方を指差した。
遺跡の居住区、公園のような広間。
おそらく、その昔にいこいの場としてあったであろう、その場所に不相応な物体が置かれている?
カリッとした金色の衣をまとい、真っ赤に染まった尻尾を持つソレ。
通常サイズとは比較ならないほど大きく、抱き枕と見間違えそうになるが見るからに美味そうな湾曲具合は本物としか言いようがない。

「で、でけぇー!! エビフリャーだ!!」

そう、私達のまえにいきなり登場したのは子供たちの人気モノであり、合わない人によっては地獄に突き落とされる食卓のアイドル、エビフライだった……。

「ちょっと待って……」

奇怪なビジュアルに眩暈めまいがした。
目視した情報を情報として正しく認識できているのか? 精査が必要になってきそうだ。
何故こんなところに、ジャンボエビフライが落ちているのか程度の話じゃ済まされない。
普通ならあり得ないモノが現にこうして見つかったのだ。
これは、明らかに人の手で仕掛けられた罠に違いない。

「モチさん、バーナードさんが!」

制止させようとしたトルテを振り切り、真っ先にエビフライの元へダッシュしていく猫。
猫である宿命なのか? どうにもエビフライには目がないようだ。
傍に立ち、まじまじと眺めている。これで、アイテムバッグからナイフを取り出そうものなら私とトルテで取り押さえなければいかなくなる。

「道端で寝とる場合かぁ――!!」

エビフライ目掛け、痛烈なローキックが入った。
不測の事態に、私達二人して呆然とすることしかできなかった。
二転、三転と飛び跳ねた後、エビフライから手足が飛び出したかと思うと、尻尾の付根部分から吐瀉物としゃぶつらしきモノを噴き出した。

「おぇええ―― ゴハッ! うおぉぉぇえ――――。こん のー、ボケカスがぁあああ! 普通、道端にエビフリャ―が落ちていたら蹴らんにぃ!!」

「落ちてるわけねぇーだろ。頭、残念なのかぁ……テメェは」

案の定、というか……エビフライが着ぐるみ姿の人なのは、この場にいる全員が気づいていた。
どうして珍妙な恰好をしているのだというツッコミは置いといて、こんな奇行に走る奴は大抵面倒事を運んでくる。

「ああっ……良かった。一応は人としての常識はあったんですね、バーナードさん」

「どういう意味!? それ!?」

「ふん。ワリャ、そんガキと戯れている場合かぁ?」

「少女と楽し気に語らう白猫に嫉妬するエビフライ。後はもうソースをかけられ食べられるだけの運命なのに、何がフライの心を掻き立てるというのか?」

「そこん姉ちゃん。一人淡々と不遜なナレーションいれんなや!」

ちっ、このエビフライ……意外と地獄耳だぜ!

「んな事より、コイツは頂いていくぜぇ~」

エビフライが見せびらかすように、かかげあげたのはバーナードのマジックバッグだった。
急いで彼の方を確認するとバーナード本人も気づいていなかったらしく、慌てふためいている。
エビフライの奴、蹴られる瞬間にバッグを奪い取ったとでもいうのか……。
なんて手癖の悪さだ。

「ワレ! そこんとこは、ぷろふぇっしょなるとかー。卓越した技能だとか褒める場面だろーに」

「ぇえっ!? 今度は、何も言ってないのに……勝手に通じ合わないでくれません?」

ホント、何なんだ……あの揚げ物は。

「はいや――!!」

私と、じゃれていたエビフライの顔面にバーナードのエルボーチョップが炸裂した。
基本、この猫は好機を逃さない。
手心なんて一切含まない、えげつない一撃がクリーンヒットしエビフライはまた跳ね回っていた。
弾む際、ピコピコハンマーみたいにポップな音を奏でていたのは、気にしてはならない。
あれは異次元の生物だ。

「ぐっ。オイスタ――!! 手伝えや」

「オラァ、もう一丁いくぞ~!! っと、伏兵か!?」

マウントを取ろうとするバーナードの前に壁のようなガタイをした、もう一人の男が割り込んできた。
その存在は私にも感知できず、驚愕するほかなかった。
完全に気配を絶っていただけじゃない。
この男……生まれつき魔力を有していない。

「はぁーあ~……ベンザガードぉ!!」

オイスタと呼ばれた男性は、手持ちの盾でバーナードを殴り飛ばした。

「バーナード!?」

「でぃ丈夫だ。ちゃんと受け身したから」

倒れ込んだ彼の元に急いで駆け込むと、彼はすぐに身体を起こした。
勢いよく弾かれたので心配したけれど存外、平気そうだ。

「ごめん、もう一人の方に気がつかなった。あっちは私が相手するよ」

「いんや、ネェーちゃんの出番はないさ。あのデカブツは俺様に任せな」

「俺様?」

肩に背負い込んでいた銀色のグリッドアーツを引き抜き、トルテはオイスタの方へと向かっていった。
やはり、普段と言動が異なる。
まるで別人になったかのようにグリッドアーツを使用する時の彼女には棘がある。
それでも、任せろと言ってくれたんだ……信頼してあげなければ。

「オイスタぁ――! ワリャ、トロイんじゃ。こっから、二体二じゃけん。フンドシ、締めていかなぁ」

「ふふっ、ふざんな……ハーン。お前、オイにあげん魔人みたいな奴ら相手に事を構えろちゅうのか!? 嫌だ、絶対に嫌だ! オイは先に帰るから、オマん一人であとはどうにかしてちょ」

突然、エビフライたちが仲間割れを起こした。
脱兎のごとく逃げ去っていくオイスタを呼びとめようとするエビフライ。
それでも、彼の相棒はわき目も振らず逃走し続ける。

「テメェー、待ちやがれ!! ウドの大木かぁ――」

なぜなら、背後から悪鬼のような少女が迫ってきているのだから。
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