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禁反魂の法理
虚偽の海原
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「おお……おっ、まさか助けに来てくれたのか? 友よ」
船長室に入ってきた私たちを見て丸眼鏡の男性が感涙の声を上げた。
察するにこの人がバーナードの友人、マキャートさんなのだろう。
「マキャート、お前……レイラインの調査をする為に、とうとう無断でサクリファイスに入ったな。ここに立ち入るなって、何度も忠告したよなぁー?」
「っはあは……済まない。つい好奇心に勝てなくて気づいたら入っていたよ。バーナードのギャンブル好きと一緒だな」
「なら……仕方あるまい」
い、いいんかい?
友との再会、男同士の他愛もない語り合いを鑑賞させて頂いていると、マキャートさんの視線が私達の方へ向いた。
目と目が合うと、彼は丁寧に頭を下げた、どっかの誰かさんとはエライ違いだ。
「失礼。占星術師兼、地理学者のフェリウス・マキャートと申します。こちらの方はこの船の船長、ミノさんです」
「……ミノ・タモンだ。見てのとおりカーペンターをしている、今はわけあってこの船のキャプテンを務めている。君たちはマキャート君の知り合いかね?」
「はい、隣にいる彼が。私は個人的にマキャートさんに依頼したことがありまして……あの、不躾な事を聞きますがカーペンターって……大工ですよね?」
「いかにも」
ニカッと白い歯を剥き出しにして笑うミノさんは、どっからどう見ても略奪者の顔をしている。
失礼なのは重々承知しているけど、バイキングメットのせいで、ついつい部屋にアックスもないかと探してしまう。
あと異常なほど眉毛が長いのも彼の特徴だ。
とはいえ、この二人は大人だ。
話し方一つ取っても品性が滲み出ている。
「それで、依頼とは?」
「実は「ちょい待て!! その前に確認したい事がある」
私達の会話に強引に割って入るバーナード。
ようやく、モリスンの居場所を探してもらえる機会が訪れたのに……。
さすがの私もこの妨害行為にはムスッとしてしまった。
バーナードはそんな私の肩にポンと手をのせる。その表情は、いつになく真剣なモノだった。
「その様子だと、気づいているようだね」
「ああ。どうして遺跡の中に海がある? ここは大河沿いにある遺跡のはずだ。それにさっきの魔物大群は何なんだ? 遠巻きでしか見えなかったが、軽く千体は越えるじゃないか!? だよな、モチ!」
「うん、視認できただけでも二千はいたよ。どう考えても自然発生したモノじゃないよね」
「話していた皇帝という奴の仕業か……どうも腑に落ちないな。その辺の事情を知ってないか? お前ら海賊だろ!?」
「違うわ!! なんて無礼な奴け! キャプテン、こうなったらワシらの正体を明かしてやりましょうや」
「えっ! あれやるの? せめて、全員が揃っている時にやろうか」
周囲に微妙な温度差が走った。
熱意ある部下がやりがちな、先走りという失敗と達観しすぎて冷めている上司のやる気のなさ。
それらが入り混じた時、我々の心は沈黙という名の暗礁に乗り上げてしまう。
「バーナード。結論から言うとお前の考えは正解だ」
灯台はすぐそこにあった。私達のやり取りなど歯牙にもかけず、考察に耽る彼の前に場の空気などあってないモノ同然だ。
マキャートさんは話を続ける。
「元々、この場所に海はない。では、どうしてないはずの海が存在するのか? ワタシも遺跡を調査して回ってやっと手掛かりにたどり着いた」
「なんか、古代のミステリーみたいでワクワクしますね~」
「そう! それだよ、お嬢さん!! 地質学調査というのは、地層を見るだけに限らない。その中にはぎっしりと、太古の神秘が詰まっているんだよ! いつ、どのような状「さっさと、話進めてくれたませんかねぇー」
マキャートさんがバーナードにしかられていた。
根っからの学者気質の彼はいつもこんな感じで、食い込み気味になっているのだろうか?
なっているんだろうなぁ~絶対に。
「おほん! 話がそれてしまったね。調査の結果、このサクリファイスにはとある魔道具が存在している事が判明した。それは、この古代都市遺跡全体に影響を及ぼすほどの強力なモノだ」
「マキャート、そこは普通に言うなよ。もうちょい、答え溜めて場を温めるとかできないの? お前」
「そうだね。ここから長い説明に入るから、夕食がてら続きを語る事にしよう!」
「いやね、そうじゃない……んだが」
ハツラツとした様子で退室する学者に取り残された我々全員が頭を抱える事になった。
……マキャートさん。
ここ隠世に来て、はや二週間ほどが経った。
その間、私は色々な人たちと出会った。
今のところ、彼レベルで話のかみ合わない人物はグレイデさんぐらいしか思い浮かばない。
ただ、天然である彼では天災である彼女には遠く及ばない。
そう考えてみると改めてグレイデさんが規格外だったんだと思い知らされる。
「ちょいちょい、姉ちゃん」
船長ミノさんの御好意で私たちは空いている客室を貸してもらえる事になった。
客室に荷を下ろしていると、背後で手招きするエビフライがいた。
「ハーン、どしたの?」
「聞いたで姉ちゃん、魔導士やって。頼みがあるんじゃが、魔法で真水出せるか?」
「出来るけど、なんで?」
「ホンマかい!! なら、デッキに貯水タンクがあるから注水したって。最近、雨が降らんくてタンクが空になって来たんよ。じゃけ、姉ちゃんが手伝ってくれるちゅうのなら特別に風呂使わしたる」
「お風呂!? ここに湯舟があるの!!」
お風呂と聞いては居ても立っても居られない。
私は浮足立って甲板へと上がった。
この世界の入浴は、大抵タライの湯で身体を拭く。
多少、値は張るものの石鹸だってある。
けれども、バスタブだけはどうしても手に入らなかった。
試しに土魔法で作ってみたりもしたんだけれど、どうもしっくりとこなかった。
鍋でもそうだったけど、魔法で作った物は人の手を使い工作した物とは、明らかに異なる。
何がどう違うのか、一概に喩えるのは難しい。強いて言葉を用いるのであれば、魔法は生きているという表現が一番、本質を突いている気がする。
「よーし、このぐらいでいいっか! お風呂、楽しみだなぁ」
「モチさん、夕食の準備できましたよー」
トルテに呼ばれ、私は作業を終わらせることにした。
不意に潮風が頬を撫でてくる。
いつしか、船は海原の上に繰り出していた。
今一度、遺跡の方に目をやる……向こうでは依然、紫甲冑たちが徘徊していることだろう。
冷静に考えてみると私達は運が良かった。もし、ハーンたちに出会ってなければ、この夜に食われていたかもしれない。
食堂に入ると、何やら懐かしくも美味そうな香りが漂っていた。
大きな丸テーブルの上にドカッと置いてある土鍋、その中にはグツグツと煮え立つ、大量のネギと肉が入っている。すでに皆、鍋を囲うように席についていた。
私が着席したのを皮切りに、ささやかな夕食が始まった。
「甘辛くて美味しい――、すき焼きだ!!」
肉を一口する度に舌が喜びを覚える。脂身の多い肉だけど以外にしつこくなく、噛み応えも程よくしっかりとしている。
「うむ。やはり、スキスキは魯山人風に限るわい。それ以外のスキスキなど偽物同然だな」
ミノさんが唸りながら食通染みた事を言っている。
どうやら、この料理はすき焼きならぬスキスキというらしい。
この類似性……大方、転移者が広めたのだろう。けれど――
「ねぇ、バーナード。ろさんじんって何?」
「魔法動画で、歌ったり喋ったりする奴らのことじゃねぇ?」
「ふーん」
良く分からない答えが返ってきた。
魔法動画か――すんごく、気になるんですけど!
船長室に入ってきた私たちを見て丸眼鏡の男性が感涙の声を上げた。
察するにこの人がバーナードの友人、マキャートさんなのだろう。
「マキャート、お前……レイラインの調査をする為に、とうとう無断でサクリファイスに入ったな。ここに立ち入るなって、何度も忠告したよなぁー?」
「っはあは……済まない。つい好奇心に勝てなくて気づいたら入っていたよ。バーナードのギャンブル好きと一緒だな」
「なら……仕方あるまい」
い、いいんかい?
友との再会、男同士の他愛もない語り合いを鑑賞させて頂いていると、マキャートさんの視線が私達の方へ向いた。
目と目が合うと、彼は丁寧に頭を下げた、どっかの誰かさんとはエライ違いだ。
「失礼。占星術師兼、地理学者のフェリウス・マキャートと申します。こちらの方はこの船の船長、ミノさんです」
「……ミノ・タモンだ。見てのとおりカーペンターをしている、今はわけあってこの船のキャプテンを務めている。君たちはマキャート君の知り合いかね?」
「はい、隣にいる彼が。私は個人的にマキャートさんに依頼したことがありまして……あの、不躾な事を聞きますがカーペンターって……大工ですよね?」
「いかにも」
ニカッと白い歯を剥き出しにして笑うミノさんは、どっからどう見ても略奪者の顔をしている。
失礼なのは重々承知しているけど、バイキングメットのせいで、ついつい部屋にアックスもないかと探してしまう。
あと異常なほど眉毛が長いのも彼の特徴だ。
とはいえ、この二人は大人だ。
話し方一つ取っても品性が滲み出ている。
「それで、依頼とは?」
「実は「ちょい待て!! その前に確認したい事がある」
私達の会話に強引に割って入るバーナード。
ようやく、モリスンの居場所を探してもらえる機会が訪れたのに……。
さすがの私もこの妨害行為にはムスッとしてしまった。
バーナードはそんな私の肩にポンと手をのせる。その表情は、いつになく真剣なモノだった。
「その様子だと、気づいているようだね」
「ああ。どうして遺跡の中に海がある? ここは大河沿いにある遺跡のはずだ。それにさっきの魔物大群は何なんだ? 遠巻きでしか見えなかったが、軽く千体は越えるじゃないか!? だよな、モチ!」
「うん、視認できただけでも二千はいたよ。どう考えても自然発生したモノじゃないよね」
「話していた皇帝という奴の仕業か……どうも腑に落ちないな。その辺の事情を知ってないか? お前ら海賊だろ!?」
「違うわ!! なんて無礼な奴け! キャプテン、こうなったらワシらの正体を明かしてやりましょうや」
「えっ! あれやるの? せめて、全員が揃っている時にやろうか」
周囲に微妙な温度差が走った。
熱意ある部下がやりがちな、先走りという失敗と達観しすぎて冷めている上司のやる気のなさ。
それらが入り混じた時、我々の心は沈黙という名の暗礁に乗り上げてしまう。
「バーナード。結論から言うとお前の考えは正解だ」
灯台はすぐそこにあった。私達のやり取りなど歯牙にもかけず、考察に耽る彼の前に場の空気などあってないモノ同然だ。
マキャートさんは話を続ける。
「元々、この場所に海はない。では、どうしてないはずの海が存在するのか? ワタシも遺跡を調査して回ってやっと手掛かりにたどり着いた」
「なんか、古代のミステリーみたいでワクワクしますね~」
「そう! それだよ、お嬢さん!! 地質学調査というのは、地層を見るだけに限らない。その中にはぎっしりと、太古の神秘が詰まっているんだよ! いつ、どのような状「さっさと、話進めてくれたませんかねぇー」
マキャートさんがバーナードにしかられていた。
根っからの学者気質の彼はいつもこんな感じで、食い込み気味になっているのだろうか?
なっているんだろうなぁ~絶対に。
「おほん! 話がそれてしまったね。調査の結果、このサクリファイスにはとある魔道具が存在している事が判明した。それは、この古代都市遺跡全体に影響を及ぼすほどの強力なモノだ」
「マキャート、そこは普通に言うなよ。もうちょい、答え溜めて場を温めるとかできないの? お前」
「そうだね。ここから長い説明に入るから、夕食がてら続きを語る事にしよう!」
「いやね、そうじゃない……んだが」
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……マキャートさん。
ここ隠世に来て、はや二週間ほどが経った。
その間、私は色々な人たちと出会った。
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ただ、天然である彼では天災である彼女には遠く及ばない。
そう考えてみると改めてグレイデさんが規格外だったんだと思い知らされる。
「ちょいちょい、姉ちゃん」
船長ミノさんの御好意で私たちは空いている客室を貸してもらえる事になった。
客室に荷を下ろしていると、背後で手招きするエビフライがいた。
「ハーン、どしたの?」
「聞いたで姉ちゃん、魔導士やって。頼みがあるんじゃが、魔法で真水出せるか?」
「出来るけど、なんで?」
「ホンマかい!! なら、デッキに貯水タンクがあるから注水したって。最近、雨が降らんくてタンクが空になって来たんよ。じゃけ、姉ちゃんが手伝ってくれるちゅうのなら特別に風呂使わしたる」
「お風呂!? ここに湯舟があるの!!」
お風呂と聞いては居ても立っても居られない。
私は浮足立って甲板へと上がった。
この世界の入浴は、大抵タライの湯で身体を拭く。
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試しに土魔法で作ってみたりもしたんだけれど、どうもしっくりとこなかった。
鍋でもそうだったけど、魔法で作った物は人の手を使い工作した物とは、明らかに異なる。
何がどう違うのか、一概に喩えるのは難しい。強いて言葉を用いるのであれば、魔法は生きているという表現が一番、本質を突いている気がする。
「よーし、このぐらいでいいっか! お風呂、楽しみだなぁ」
「モチさん、夕食の準備できましたよー」
トルテに呼ばれ、私は作業を終わらせることにした。
不意に潮風が頬を撫でてくる。
いつしか、船は海原の上に繰り出していた。
今一度、遺跡の方に目をやる……向こうでは依然、紫甲冑たちが徘徊していることだろう。
冷静に考えてみると私達は運が良かった。もし、ハーンたちに出会ってなければ、この夜に食われていたかもしれない。
食堂に入ると、何やら懐かしくも美味そうな香りが漂っていた。
大きな丸テーブルの上にドカッと置いてある土鍋、その中にはグツグツと煮え立つ、大量のネギと肉が入っている。すでに皆、鍋を囲うように席についていた。
私が着席したのを皮切りに、ささやかな夕食が始まった。
「甘辛くて美味しい――、すき焼きだ!!」
肉を一口する度に舌が喜びを覚える。脂身の多い肉だけど以外にしつこくなく、噛み応えも程よくしっかりとしている。
「うむ。やはり、スキスキは魯山人風に限るわい。それ以外のスキスキなど偽物同然だな」
ミノさんが唸りながら食通染みた事を言っている。
どうやら、この料理はすき焼きならぬスキスキというらしい。
この類似性……大方、転移者が広めたのだろう。けれど――
「ねぇ、バーナード。ろさんじんって何?」
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