RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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幻影抱く灰色の都

リバーサイド

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ジップ村から旅立って三日。

今日からサクリファイスの徹底攻略が始まる。
その為には、まず遺跡管理者に会って許可をもらわないといけない。
そこら辺の手続きは完全にマキャートさん任せで申し訳ないけれど、私たちのような素人が出しゃばっても余計な手間が増えるだけだと思う。

それに、私は私で魔法球で吹き飛ばした門の件で謝罪しなければならない。
一体、どれくらいの賠償金を請求されるのか? 内心、肝を冷やしていた。
そんな私の様子を見て、マキャートさんは大丈夫だと色々と説明してくれた。
どうやら、壊れた正門はサクリファイス遺跡の物ではないらしい。
ジオ・マギアによって移し替えられた、どこかの廃墟の一部だそうだ。
それはそれで別な問題が起こりそうだけど、あの門がどこにあるのか誰も分からないのだ。
考えたって何一つ進展しやしない。

船は私たちを乗せて西へ西へと移動していた。
ミノ船長の話によると、管理者の住んでいるエリアは今いる西奥エリアとは真逆の東エリアになるとの事。
正直、またビュンビュンライナーのお世話にならないといけないのかと、逃げる算段を練っていたが、それは杞憂で終わった。
海路で渡った方が速いと船長自らが進言したからだ。

流石に「この海がどこに続いているのか? 知らんが、海である以上はサクリファイスの反対端に繋がっているはずだ!」と気でも触れたかのような異次元論を提唱してきた時はガチで船長を取り押さえた方がいいとまで考えていた。
ともあれ、航海は無事に進んでいる。

「そろそろ、大河に入るから下船する準備をしておいた方がいいぞ」

「分かりました。あっ……」

船長に声をかけられ自室に戻ろうとした所で、甲板に上がってくるバーナードの姿が見えた。
咄嗟にマストの影に隠れやり過ごす。
物事は何もかもが順調だとは限らない。
昨晩の出来事以降、私は彼を避けたままになってしまった。
このままではいけないとは、承知している。
だけど、一度抱いた彼への恐怖心がなかなか薄れない。
今は距離を置くことしかできない。
そんな自分の脆さにつくづく虫唾が走る。

船は、ほどなくして大河流域に入った。
サクリファイスの東方。
地図上で、南東の方角から西側のクリミナルブリッジ方面へ向かって流れている大河。
は、対岸からずっと眺めていた風景そのものだった。
ならば、あの大河周辺の観光地がこちら側からも見えるはずだと、期待してみたのだが、どうも様子がおかしい。
サクリファイスの反対側をいくら目を凝らしてみても一向に何も見えて来ないのだ。
只々、大河だけが拡がっている様は、私達の知らない世界の一部が別の物に、差し替わっている事を暗に物語っていた。

「ヨーソ! オイスタ、間もなく入港するぞ。ウツロはいかりを下ろせ」

大河を進んですぐに港が迫ってきた。
こんな場所に港がある事自体が不自然極まりない。
事情を知らなければそう思ってしまうのだろう。
これもまた、地形が組み変わった弊害、そう捉えれば難なく受け入れられてしまう。
現に操舵手のオイスタを始め、他のクルーたちも落ち着きを払って行動している。
多分、何度もこういった経験を積んできたのだろう。
そう思うと出発する時にミノさんが言っていた事は、この海域を知り尽くしている者の発言だったのだという事が、改めて分かってくる。

「そこに建屋があるだろう。管理者はあそこに住んでいるんだ」

下船するとマキャートさんが真っ先に近場のホテルを指差した。
何処をどう見てもホテルだ、遺跡には不相応な近代的な建物。
無論、後付けで建てられた物ではない。
近代化しているのは辺り一帯、街規模レベルで全てが変化しているのだから。
舗装された道路がある! 歩道もある、街灯も信号機だってある。
無いのは……自動車と人の姿ぐらいだ。
この街は、時間が止まったような静けさに包まれている。
これじゃ、まるでゴーストタウンそのものだ。

「スミマセェ~ン。私、朝がすごく弱くて……あっ! モチさん、オハヨーゴザリマス」

「うん、まだ眠そうだねぇ」

フラフラと隣を歩くトルテは、寝ぼけまなこをゴシゴシと手でこすっていた。
余程時間がなかったのか、頭はボサボサのままで髪留めもつけていない。

「後で、髪を整えてあげるよ」

「じゃあ、ついでに俺の毛繕いも頼む」
「ほんなら、ワシの衣替えも頼むわ!」

すっかり仲良くなっている馬鹿二人を無視して私は歩道を渡った。
これこそ、正しい対処の仕方。
ことある事に便乗してくる輩を一々、相手にしていたら奴らは増長すること待ったなしだ。
特にバーナードとは、親しく会話をする気分にはなれない。
なんなら、オイスタやウツロ君と一緒に船の見張りでもしてくれれば、こちらの負担も軽くなるんだけど……。

ホテル前に到着した。
リバーサイドと書かれたボロボロの電飾看板は完全に輝きを失っていた。

「いらっしゃいませ! 当ホテル、リバーサイドにようこそ。ご予約のお客様ですか?」

ロビーに入った私達を出迎えたのは、きっちりとスーツを着こなし、ハードボイルドな空気を漂うわせる中年男性。
細身で高身長、厚みのある下唇、美の三点セットを兼ね備えていた。
もはや、セクシーの化身といっても過言ではない。

「この人が遺跡の管理者なの?」早速、マキャートさんに確認を取ってみた。

このベルボーイを卒業したベルダンディが遺跡の管理者というのは何となく違和感を感じる。
それに、こんな人気のない場所でホテルを開業しているのだ。
怪しさ満点だと疑われるのは当然だ。

「いいや、彼はただのホテルマンだよ。ワタシたちは管理者に用があって出向いて参りました、お目通り願えますか?」

「左様でございますか。あの御方なら五階の一番奥の部屋におられますよ」

「相変わらず、ベランダの花に水やりでもしているのか?」

「おや? よもや、貴方様はミノ様ですか!? ご無沙汰しております、十五年ぶりになりますか?」

「主も変わらずのようだな、ヨーセ。積る話はあるが、それは後程。まずはジャマするぞ」

ホテル内を闊歩かっぽしながらに進んでゆくミノ船長引率のもと、私達は五階を目指した。
ホテルといっても企業レベルのモノではなく個人経営レベルだ、さして広くはないし部屋数も少ない。
ただ、それゆえ一つしかない昇降機が壊れたまま動かなくなっていたり、砕け散った窓ガラスが床に落ちていたりと多種多彩な問題を抱えている。

「船長さん、ここの管理者さんとお知り合いなんですか?」

「昔、何度か世話になったことがある。着いたぞ、ここだ」

私の問いに答えながら、ミノさんは扉をノックする。
部屋の中から「どうぞ!」という女性の声が聞こえた。
扉を開くと、そよ風が部屋を吹き抜け廊下へと流れ出した。

「何でぇ? 誰もいねぇーじゃねぇか?」

「はえー……見て下さい。この部屋の調度品、物凄く高価な物ばかりですよ。いわゆるスイートルームじゃないですか!!」

部屋に入るなり、管理者不在という状況に小首を傾げるバーナード。
トルテは一人、内装の豪華さに声を弾ませている。
その一方で無断で人の部屋のベッドに横たわるエビフライ……あなたの部屋じゃないんですけど。

三者三葉、部屋の中に入った時点で彼らの行動や反応は全員、違ったものに変わる。
魔法によって思考が正常に働いてはない証拠だ。
精神支配の魔術。
それが部屋のドアを開けた時に吹き抜けていった風の正体だ。
これに耐えられたのは耐性がある私と船長、マキャートさんの三人。
術師は最初からずっとこの部屋にいる、不可視の状態で……。
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