10 / 152
霊峰グラエナへの道
8話
悠々と平原を突き進むメリク。
彼女とは対照的にゼノルの足取りは重い。
平原にいるのは、なにも野生の動物だけはない。
モンスターは当然。場合によって野盗と遭遇することも珍しくない。
「どうかしたの? さっきから黙っているけど」
前を歩くメリクが、振り向き様に聞いてきた。
まるで、遠足にでも行くかのような能天気さに、ゼノルは顔をしかめた。
「メリクさんは怖くないのですか?
僕らは魔法が使えないんですよ。
万が一、ここでモンスターに襲われでもしたら一溜りもないですよ」
ゼノルは口元を歪め声を震わせていた。
緊張と恐怖、プレッシャーが入り混じた複雑な心境に、どうしたらいいのか逡巡していた。
そんな彼の目の前にスッとメリクが手を伸ばした。
「ゼノル君も一つどう、気分が落ち着くよ」
彼女が手を広げると綺麗な包み紙が現れた。
掌の上で踊る、それは小さなキャンディーだった。
「こ、子供扱いしないでくださいよ。
これでも14ですから、自分の管理は自分でできます」
「そう? だったら……アレをどうにかしようか」
メリクが指差す先に、バンデットの姿が見えた。
奴らは旅人から窃盗を行う、凶悪な亜人種モンスターだ。
二人は急いで茂みの陰に身を隠した。
幸いにも周囲の草の背が高いおかげで、向こうはコチラに気づいていない。
「一先ず、アイツらが去るまでここでやり過ごしましょう。
目視できるのは二体だけですが、他にも仲間がいるはずです」
「……だね。バンデットは見た目ゴブリンに似ているけど、人並みに知性があるから。
罠を張っていてもおかしくないわ」
「それはそうと…………どうして僕に引っ付くんですか」
一緒に隠れたのは良いが、なぜかメリクに抱きかかえられるような姿勢になっていた。
ゼノルは目のやり場に困っていた……。
間近には彼女の開いた胸元がある。
魔術師なのにどうして、露出の多い着衣を身につけているか?
理解に苦しむ。
ただでさえ、防御力が低いクラスなのに危機感が足りないのではなかろうか?
ゼノルは生真面目なことを考えながら、気を紛らせていた。
だが、「どいて欲しい」とは自発的には言わない。
いや、言えない。
そのことを口にしてしまったら、自分が覗き見していたと彼女に疑われてしまう。
どうにか、メリクが気づくように仕向けないといけない。
前門のバンデット、後門のメリク。
ゼノルは二つの問題を同時に抱え、早くも悪戦苦闘していた。
「どうやら、動き出したようね」
しばらく、バンデットの動向を監視していたメリクが呟いた。
どうにか、この呪縛から解放されるとゼノルが息を吐いた瞬間――――
茂みの奥がガサゴソと音をたてながら揺れていた。
『マズいぞ、バンデットの仲間?』
ゼノルは口元を押さえながら息を止めた。
なるべく気配を殺さないと、モンスターに気づかれてしまう。
奴らはその手に刃物を持っている。
大抵はダガーナイフだが、中には長槍を持つ奴もいる。
無作為に突かれるのだけは、避けなければならない。
「なっ……」
真横を見ると手に石を持ったメリクがいた。
何を考えているのか、彼女はその石をデタラメな方向へと投げ落とした。
カツン――――
響き渡る物音に茂みの奥がますます揺れ出した。
草を掻き分けて飛び出てきたのは、やはりバンデットの一体だ。
直後、空を切る風圧がゼノルの頭上を通過した。
そこには躍動するメルクの肢体が見えた。
スタッフを手にした彼女がバンデットに痛烈な一撃を見舞う。
「あ……ぎぃ」
悲鳴すら上げる暇もなく、背後から殴打されたバンデットが地に伏せた。
「早く、君も運ぶのを手伝って」
小声でそう伝える彼女は、今仕留めたばかりの魔物を引きずろうとしていた。
ゼノルも急ぎ、バンデットのカラダをつかみ持ち運んだ。
二人して草むらの中に魔物を置くとメリクが肩に手を置いた。
「さぁ、ここからがゼノル君の出番だよ」
唐突な前振りに目が点となった。
それを見た彼女は「血統鑑定」と促してきた。
「まさかとは思いますけど……コイツで試してみろってことですか?」
「うんうん、そーだよ。
だから、頭は狙わなかった。
ぶっつけ本番で捕まえられるほど、馬はチョロくないよ。
なんせ、神経質な動物だからね。
遠くにいても私たちの意図を見抜いてくる」
「ずいぶんと馬に詳しいんですね」
正直、彼女の意見には目を見張るものがあった。
何も思慮せず、遊び半分で行動している。
そうゼノルは思い込んでいたが、何一つ彼女ことが見えてなかった。
「まぁ、動物が好きだから」
ここに居る魔術師は、他者の何倍も深く物事を考えているようだ。
不要と判断した事を省くのも、彼女なりの道理があるからだろう。
思考、そのものの質の違いに【知見ある者】との差をゼノルは痛感させられた。
彼女とは対照的にゼノルの足取りは重い。
平原にいるのは、なにも野生の動物だけはない。
モンスターは当然。場合によって野盗と遭遇することも珍しくない。
「どうかしたの? さっきから黙っているけど」
前を歩くメリクが、振り向き様に聞いてきた。
まるで、遠足にでも行くかのような能天気さに、ゼノルは顔をしかめた。
「メリクさんは怖くないのですか?
僕らは魔法が使えないんですよ。
万が一、ここでモンスターに襲われでもしたら一溜りもないですよ」
ゼノルは口元を歪め声を震わせていた。
緊張と恐怖、プレッシャーが入り混じた複雑な心境に、どうしたらいいのか逡巡していた。
そんな彼の目の前にスッとメリクが手を伸ばした。
「ゼノル君も一つどう、気分が落ち着くよ」
彼女が手を広げると綺麗な包み紙が現れた。
掌の上で踊る、それは小さなキャンディーだった。
「こ、子供扱いしないでくださいよ。
これでも14ですから、自分の管理は自分でできます」
「そう? だったら……アレをどうにかしようか」
メリクが指差す先に、バンデットの姿が見えた。
奴らは旅人から窃盗を行う、凶悪な亜人種モンスターだ。
二人は急いで茂みの陰に身を隠した。
幸いにも周囲の草の背が高いおかげで、向こうはコチラに気づいていない。
「一先ず、アイツらが去るまでここでやり過ごしましょう。
目視できるのは二体だけですが、他にも仲間がいるはずです」
「……だね。バンデットは見た目ゴブリンに似ているけど、人並みに知性があるから。
罠を張っていてもおかしくないわ」
「それはそうと…………どうして僕に引っ付くんですか」
一緒に隠れたのは良いが、なぜかメリクに抱きかかえられるような姿勢になっていた。
ゼノルは目のやり場に困っていた……。
間近には彼女の開いた胸元がある。
魔術師なのにどうして、露出の多い着衣を身につけているか?
理解に苦しむ。
ただでさえ、防御力が低いクラスなのに危機感が足りないのではなかろうか?
ゼノルは生真面目なことを考えながら、気を紛らせていた。
だが、「どいて欲しい」とは自発的には言わない。
いや、言えない。
そのことを口にしてしまったら、自分が覗き見していたと彼女に疑われてしまう。
どうにか、メリクが気づくように仕向けないといけない。
前門のバンデット、後門のメリク。
ゼノルは二つの問題を同時に抱え、早くも悪戦苦闘していた。
「どうやら、動き出したようね」
しばらく、バンデットの動向を監視していたメリクが呟いた。
どうにか、この呪縛から解放されるとゼノルが息を吐いた瞬間――――
茂みの奥がガサゴソと音をたてながら揺れていた。
『マズいぞ、バンデットの仲間?』
ゼノルは口元を押さえながら息を止めた。
なるべく気配を殺さないと、モンスターに気づかれてしまう。
奴らはその手に刃物を持っている。
大抵はダガーナイフだが、中には長槍を持つ奴もいる。
無作為に突かれるのだけは、避けなければならない。
「なっ……」
真横を見ると手に石を持ったメリクがいた。
何を考えているのか、彼女はその石をデタラメな方向へと投げ落とした。
カツン――――
響き渡る物音に茂みの奥がますます揺れ出した。
草を掻き分けて飛び出てきたのは、やはりバンデットの一体だ。
直後、空を切る風圧がゼノルの頭上を通過した。
そこには躍動するメルクの肢体が見えた。
スタッフを手にした彼女がバンデットに痛烈な一撃を見舞う。
「あ……ぎぃ」
悲鳴すら上げる暇もなく、背後から殴打されたバンデットが地に伏せた。
「早く、君も運ぶのを手伝って」
小声でそう伝える彼女は、今仕留めたばかりの魔物を引きずろうとしていた。
ゼノルも急ぎ、バンデットのカラダをつかみ持ち運んだ。
二人して草むらの中に魔物を置くとメリクが肩に手を置いた。
「さぁ、ここからがゼノル君の出番だよ」
唐突な前振りに目が点となった。
それを見た彼女は「血統鑑定」と促してきた。
「まさかとは思いますけど……コイツで試してみろってことですか?」
「うんうん、そーだよ。
だから、頭は狙わなかった。
ぶっつけ本番で捕まえられるほど、馬はチョロくないよ。
なんせ、神経質な動物だからね。
遠くにいても私たちの意図を見抜いてくる」
「ずいぶんと馬に詳しいんですね」
正直、彼女の意見には目を見張るものがあった。
何も思慮せず、遊び半分で行動している。
そうゼノルは思い込んでいたが、何一つ彼女ことが見えてなかった。
「まぁ、動物が好きだから」
ここに居る魔術師は、他者の何倍も深く物事を考えているようだ。
不要と判断した事を省くのも、彼女なりの道理があるからだろう。
思考、そのものの質の違いに【知見ある者】との差をゼノルは痛感させられた。
あなたにおすすめの小説
【完結】転生坊主のマントラ無双 ~現代日本で住職だった坊主、異世界転生して対魔法使いレジスタンスに加入したら、大僧侶にまで成り上がった件~
ともボン
ファンタジー
【あらすじ】
現代日本で数十年にわたり、徳と修行を積み重ねた真言宗(密教)の坊主がいた。
坊主の名前は長峰空心(ながみね・くうしん)。
ある日、子供をかばって命を落とした空心は、死後に魂の状態になって密教の神々が住む須弥山に導かれる。
そこで密教の最高神である大日如来に極楽生活を勧められるも、空心は「まだ修行の途中です」と断った。
空心の強い信念に感銘を受けた大日如来は、空心に対して新たな世界で望みを叶えるように告げる。
それは魔法とスキルが存在する異世界で、神々の加護と法衣を携えて弱き者たちを救うことだった。
そうして若き肉体と本物の神を真言(マントラ)で召喚できる力を得て転生した空心は、凶悪な魔法使いたちに蹂躙された国に舞い降り、紆余曲折を経て対魔法使いレジスタンスの一員となる。
やがて空心が使うマントラが魔法を凌駕したとき、異世界人たちの弱まっていた希望の心に強い光が宿る。
これは仏の道を貫く気高き精神を持った坊主が、魔法とスキルが存在する異世界で仲間たちと一国を相手に革命を起こす物語――。
※この作品は最終話まで書き上げてありますので、絶対にエタりません。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
学習スキルしかない俺、見学だけで勇者を超えてしまう
七瀬ななし
ファンタジー
本作は、いわゆる「勇者召喚」に巻き込まれてしまったガリ勉高校生・大塚誠が、地味すぎるスキル「学習」を武器に、なぜか最強へと駆け上がっていく痛快(?)異世界成長譚である。剣聖や聖女、大魔導といった華やかなスキルを持つクラスメイトたちの中で、大塚に与えられたのは「ラーニングの下位互換」と馬鹿にされる「学習」。だが彼はめげない。むしろ得意分野である“見る・覚える・積み上げる”を徹底的に実行する。
王宮での教育では座学トップ、実技は見学オンリー。しかし、見ているだけでスキルを吸収し、しかもなぜかオリジナルを超えてしまうという謎仕様が発覚する。勇者や聖女の能力をこっそり獲得しつつも、目立つのが面倒なので黙秘。やがて「これ以上見ても学ぶものがない」と判断した彼は、あっさり城を出て自由行動へ。
道場で見学、ギルドで講習、珍品を売って資金確保。努力の方向性が若干ズレているようでいて、結果的に最適解を踏み抜く大塚。気づけば“誰よりも学び、誰よりも強くなる”という、とんでもないチートの持ち主に。しかし本人はあくまで「普通に勉強してるだけですけど?」というスタンスを崩さない。
地味・堅実・観察力の化身が、無自覚に世界のバランスを壊していく。これは、派手さゼロのはずが、なぜか最強になってしまう男の、ちょっとおかしな英雄譚である。
※注意:この物語を読むと知能指数が下がる危険性があります。
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった
歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。
ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?
chocopoppo
ファンタジー
【毎日12:10更新!】
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。
特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。
第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
異世界では無自覚に最強でしたが、今さら気づいてももう遅いようです
しほん
ファンタジー
社会人の瀬戸遥真は、気づけば見知らぬ異世界にいた。
特典ゼロの落ちこぼれ召喚――のはずが、なぜか魔物も勇者も秒殺。
本人は「ちょっと運がいいだけ」と思い込んでいるが、国中では神格化が進行中だった。
美女たちに囲まれ、陰謀を踏み潰し、悪役貴族をざまぁするうちに、いつの間にか世界の頂点へ。
気づけば最強、知らぬ間にハーレム、今さら戻れない無自覚英雄譚!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。