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ベガの願い
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宮塚には近況報告をした。
病院で再会した同級生の菊本のこと。
彼の悩みを解決するために、占い師の霜月ムメイと共に策を講じていること。
ブローチの件に関しては、少し時間を取るが待って欲しいと伝えた。
頼みの綱である佐倉が柏博のアトリエを知っているそうだが、すぐには教えられないと断られてしまった。
なぜ、柏博の情報を出し渋るのか聞くのは愚問だった。
佐倉は、純然たる輪以外の柏作品と極力、関わりを持ちたくないそうだ。
影響を受けないようにするには、それなりの準備を要する。
口頭で伝えるのだけは、絶対に拒否するとまで言われてしまった。
「し、霜月ムメイ先生ですか!」
依頼の遅延に宮塚が気を悪くするかもしれない。
翔馬は内心構えていた。
だが、彼女はそれどころではない様子だ。
霜月の名を聞いた瞬間から、瞳をランランと輝かせて身を乗り出してきた。
「今庭さん、私、霜月先生の大ファンなんです。
いいなぁー、写真でしか素顔を拝見したことないんですよね。
前々からイベントとか行こうと思っているんですけど、なかなか日程が合わなくて。
で、どうした? 生の霜月先生は?」
予想外の食いつきっぷりに、翔馬はタジタジになるばかりだ。
普段は大人しい宮塚が、ここまでミーハーな女子だとは思ってもみなかった。
「そうだな、モデルみたいだった。
あと、彼女は本物だね。本人は、謙虚だから否定的だけど」
「やっぱり、そうですかぁー。それで?」
「いや、昔からお互い知っているし随分と変わったなとしか……あと、占って貰ったよ、グラタン?」
「グランタブローですよ」そう突っ込まれるのに、一秒ともかからなかった。
宮塚が霜月ムメイのことを好きなのは十分に伝わってきた。
懸念点として、あまりに熱狂的であることだ。
女学生の間では、単に占い師というだけではないようだ。
動画配信者という側面がウケ、霜月は若い世代を中心に人気を博している。
「今庭さん」上目使いで宮塚が翔馬の方に顔を向けていた。
何を言わんとしているのか、だいたい察しがつく。
憧れの占い師と関わりたいがために、菊本の件に首を突っ込もうとしている。
協力者が多ければそれに越したことはないが、やはり無理がある。
依頼人である菊本へのプライバシーを配慮すれば、昔から面識がある翔馬たちで解決するのがベターだ。
「悪いけど、人は足りているから。
また今度、彼女と約束を取り付けるから、その時にでも」
「いえ、すみません。
私こそ……熱を上げすぎてしまいました。
こんな不純な動機で、今庭さんに頼もうとしていた自分が恥ずかしいです」
物分かりが良すぎる宮塚は、たった一言だけで翔馬の考えに気づいていた。
普段明るく振る舞っている分、時折みせる落胆が色濃く見える。
気にしていない素振りを見せていても、身体は正直だ。
先程から、しきりに指で鼻筋をなぞっている。
気不味くなりかけた所に、タイミングよく翔馬のスマホが鳴った。
昼間に連絡を入れていた菊本からだった。
手短に、佐倉と決めた話の内容を説明すると、スマホ越しから躊躇いの声が聞こえてきた。
「彼女の父親ことが怖いのか?」
『そうじゃない。そうではないけど、本当に許してもらえるのか?』
「ここで、どうにかしないと一生、苦しむことになるぞ。
それでいいのなら、俺たちはこの件から手を引かせて貰う。
考えている有余はないぞ。
俺や佐倉にも都合というものがある以上、ここで即決して貰う」
先送りは出来なかった。
友人を救うには、ここでどうにかしなないとならない。
「今庭さん、ちょっと良いですか?」
菊本の煮え切らない態度に、イラつきだしていると宮塚が彼と話をしたいと言い出してきた。
真っすぐに注がれる、その視線は先程とは別物だ。
浮ついた気持ちは微塵も感じとれない。
翔馬は何も告げず、スマホを彼女に託した。
「――――はい、そうです。
間違いないと思います。
大丈夫ですよ。霜月先生がついているのなら、はい」
ほどなくして、宮塚がスマホを返してきた。
本体に耳を近づけるなり、いつもの威勢の良い声が飛んできた。
『今庭、迷ってすまんかったな!
宮塚ちゃんのおかげで決心がついたわ。
もう、アイツの好き勝手にはさせん。悪いが力を貸してくれ』
「どういう風の吹き回しか知らないけど、ようやくその気になってくれて良かった。
それじゃ、メールで指示を送るから手筈通りに動いてくれ」
翌日、菊本の口座に三百万円が入金された。
それを銀行から引き出し、アパートへと帰宅した菊本が彼女に告げた。
「し、出張に出ないといけなくなったから、この金を預かっててくれないか?
数日したら、商社から電話が来るから、指定された口座に振り込んで欲しい」
病院で再会した同級生の菊本のこと。
彼の悩みを解決するために、占い師の霜月ムメイと共に策を講じていること。
ブローチの件に関しては、少し時間を取るが待って欲しいと伝えた。
頼みの綱である佐倉が柏博のアトリエを知っているそうだが、すぐには教えられないと断られてしまった。
なぜ、柏博の情報を出し渋るのか聞くのは愚問だった。
佐倉は、純然たる輪以外の柏作品と極力、関わりを持ちたくないそうだ。
影響を受けないようにするには、それなりの準備を要する。
口頭で伝えるのだけは、絶対に拒否するとまで言われてしまった。
「し、霜月ムメイ先生ですか!」
依頼の遅延に宮塚が気を悪くするかもしれない。
翔馬は内心構えていた。
だが、彼女はそれどころではない様子だ。
霜月の名を聞いた瞬間から、瞳をランランと輝かせて身を乗り出してきた。
「今庭さん、私、霜月先生の大ファンなんです。
いいなぁー、写真でしか素顔を拝見したことないんですよね。
前々からイベントとか行こうと思っているんですけど、なかなか日程が合わなくて。
で、どうした? 生の霜月先生は?」
予想外の食いつきっぷりに、翔馬はタジタジになるばかりだ。
普段は大人しい宮塚が、ここまでミーハーな女子だとは思ってもみなかった。
「そうだな、モデルみたいだった。
あと、彼女は本物だね。本人は、謙虚だから否定的だけど」
「やっぱり、そうですかぁー。それで?」
「いや、昔からお互い知っているし随分と変わったなとしか……あと、占って貰ったよ、グラタン?」
「グランタブローですよ」そう突っ込まれるのに、一秒ともかからなかった。
宮塚が霜月ムメイのことを好きなのは十分に伝わってきた。
懸念点として、あまりに熱狂的であることだ。
女学生の間では、単に占い師というだけではないようだ。
動画配信者という側面がウケ、霜月は若い世代を中心に人気を博している。
「今庭さん」上目使いで宮塚が翔馬の方に顔を向けていた。
何を言わんとしているのか、だいたい察しがつく。
憧れの占い師と関わりたいがために、菊本の件に首を突っ込もうとしている。
協力者が多ければそれに越したことはないが、やはり無理がある。
依頼人である菊本へのプライバシーを配慮すれば、昔から面識がある翔馬たちで解決するのがベターだ。
「悪いけど、人は足りているから。
また今度、彼女と約束を取り付けるから、その時にでも」
「いえ、すみません。
私こそ……熱を上げすぎてしまいました。
こんな不純な動機で、今庭さんに頼もうとしていた自分が恥ずかしいです」
物分かりが良すぎる宮塚は、たった一言だけで翔馬の考えに気づいていた。
普段明るく振る舞っている分、時折みせる落胆が色濃く見える。
気にしていない素振りを見せていても、身体は正直だ。
先程から、しきりに指で鼻筋をなぞっている。
気不味くなりかけた所に、タイミングよく翔馬のスマホが鳴った。
昼間に連絡を入れていた菊本からだった。
手短に、佐倉と決めた話の内容を説明すると、スマホ越しから躊躇いの声が聞こえてきた。
「彼女の父親ことが怖いのか?」
『そうじゃない。そうではないけど、本当に許してもらえるのか?』
「ここで、どうにかしないと一生、苦しむことになるぞ。
それでいいのなら、俺たちはこの件から手を引かせて貰う。
考えている有余はないぞ。
俺や佐倉にも都合というものがある以上、ここで即決して貰う」
先送りは出来なかった。
友人を救うには、ここでどうにかしなないとならない。
「今庭さん、ちょっと良いですか?」
菊本の煮え切らない態度に、イラつきだしていると宮塚が彼と話をしたいと言い出してきた。
真っすぐに注がれる、その視線は先程とは別物だ。
浮ついた気持ちは微塵も感じとれない。
翔馬は何も告げず、スマホを彼女に託した。
「――――はい、そうです。
間違いないと思います。
大丈夫ですよ。霜月先生がついているのなら、はい」
ほどなくして、宮塚がスマホを返してきた。
本体に耳を近づけるなり、いつもの威勢の良い声が飛んできた。
『今庭、迷ってすまんかったな!
宮塚ちゃんのおかげで決心がついたわ。
もう、アイツの好き勝手にはさせん。悪いが力を貸してくれ』
「どういう風の吹き回しか知らないけど、ようやくその気になってくれて良かった。
それじゃ、メールで指示を送るから手筈通りに動いてくれ」
翌日、菊本の口座に三百万円が入金された。
それを銀行から引き出し、アパートへと帰宅した菊本が彼女に告げた。
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