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恋するコペルニクス
27話 分岐点
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「ははっ、あっははは」
窮地を脱した途端、変な笑いがこみ上げてきた。
無事でいるのが不思議だ。正直、駄目かと思った。
他の二人の俺と同様、顔を綻ばせている。
試練を乗り越えた時の達成感が、自然と場に拡がっていく気がする。
何より自分のスキルブック、グラビアがここまで活躍したことは今までになかったことだ。
そのことに嬉しさを隠しきれない。
「やるじゃねぇか! マイト。お前の機転がなかったら、さすがの俺も危なかったぜ」
「わたしゃ、信じていたよ! いつか、マイトちゃんが立派に成長するって」
慣れない賛辞に、鼻の下がこそばゆく感じた。
触りの良い、ことばかり言われているのは百も承知だ。
分かっていても、褒められれば、つい嬉しくなってしまう。
俺という人間とは、こうも単純なのである。
「二人とも、こっちさね。この通路を抜けた先で、ハンターたちと遭遇したんだわ」
ワカモトさんが杖で方向を指した。
この神殿は奥に行けば行くほど、道が入り組んでいる感じだ。
次第に道が分岐し始めてきた。
元、パーティーメンバーを助け出すにはワカモトさんの記憶力が鍵だ。
彼女のガイドで進めてはいるものの、もはや迷宮である。
人工的にできた遺跡だということで、すっかり忘れていたが、ここもダンジョンの一部に変わりない。
魔物は出るし、宝箱だって発見することもある。
それ以降は、いつもと変わらずグゼンとワカモトさんの独壇場だった。
数だけ多い、低ランクの魔物は大剣でぶった斬り、たまに出てくる強敵は魔法で一掃する。
完璧な布陣をまえに俺の出番なんぞ回ってくるはずない。
「着いた……けど、困ったわさ。ハンターたちの気配がこの部屋にはない」
足を止めた彼女は、しきりに手掛かりとなるモノを探していた。
それも、そのはず……ここから先は道が三叉に別れている。
ここまでの道中、他の人間には出会わなかったのだ。
ハンターたちはきっと奥へと移動している。
そして、その先には、反対側の出入口があるはずだ。
「迷っている暇はなさそうだ。ここからは手分けして探そう、丁度、道が三つに分かれている」
「待てよ、マイト。ここで、個別に動くのは危険じゃねぇ?」
「危ないと思ったら、即座に引き返す。それでいいだろ?」
俺の言葉にグゼンが不服そうな顔を見せた。
本来なら、万全を期して一つずつ調査してゆくのが上策だ。
個別での捜索は、あくまで俺個人の私見であり、本当にあるか、どうかも分からない別の出入口を警戒してのことだった。
もし、ハンターのオメガ三兄弟にでくわしたら……それこそ本末転倒である。
下手をうてば捕らえられる人数を一人増やしてしまうかもしれない。
だからといって、三人で戦って必ずしも勝つ保証はどこにもない。
そう考えると、やはり最優先とすべきはリンとシャルの行方だ。
「俺はこの道を選ぶぜ!」
「えっ? 何? もう始まってんの?」
女子大生みたいに驚く野郎には目も暮れず、俺は真ん中の道の前に立った。
杖を突いたワカモトさんも俺に倣って移動を開始する。
あまりに遅い、歩みに蠢いているのかと思った。
冷静に考えてみれば聖殿に入ってから、ずっと歩き通している。
体力のある俺たちならともかく、これ以上、歩き続けるのは高齢の彼女にとって酷でしかない。
すでに、全身がシンドクなってきているはずだ。
「じゃあ、婆はこっちにしようかね……何だい? グゼン」
「そっちには、俺が行ってやる。あんたは、ここで休んでいろ」
「何、言ってんだ。通路はあと一つあるんだ、全員で行かないと意味ねえでよ」
「ひょっとしたら、サトランの奴がここに来るかもしれねぇ。そしたら、二人して聖殿内部を調べればいい。なあ~に、確率は三分の二だ。俺か、マイト、どちらかがハンターとぶち当たるはずだ」
グゼンなりの粋な計らいなのか? 素直に捉えれば、ワカモトさんの身体を気遣っているようにも見受けられる。
当然ながら、この男にそんな甲斐性はない。
どこまで行ってもグゼンはグゼン。三つ子の魂は、すべて下心につぎ込んでいる。
彼が、ここまで親切なのは恩を売って、自分の株をあげたいからである。
自信過剰なグゼンのことだ。
今、考えているのは二人を救出した後のことだろう。
ここで自分の心象を良くすれば、再度パーティーメンバーとして加入できるかもしれないと目論んでいるのかもしれない。
これまで、散々と言い争っておきながら、今更、ワカモトさんと仲直りできるとは、俺には到底思えない。
だが、グゼンは違う。信じられないことに、すべて自分の都合の良い方向に解釈してしまう彼は、本気で許してもらえると思っている。
ここまでの話は決して俺の妄想などではない。
ここ数ヶ月、行動を共にしてきた俺は、グゼンの癖など、とっくに見抜いていた。
グゼンは嘘をつくとき、しきりに尻を手でさすろうとする。
俺は今、それを目の当たりにしている。
窮地を脱した途端、変な笑いがこみ上げてきた。
無事でいるのが不思議だ。正直、駄目かと思った。
他の二人の俺と同様、顔を綻ばせている。
試練を乗り越えた時の達成感が、自然と場に拡がっていく気がする。
何より自分のスキルブック、グラビアがここまで活躍したことは今までになかったことだ。
そのことに嬉しさを隠しきれない。
「やるじゃねぇか! マイト。お前の機転がなかったら、さすがの俺も危なかったぜ」
「わたしゃ、信じていたよ! いつか、マイトちゃんが立派に成長するって」
慣れない賛辞に、鼻の下がこそばゆく感じた。
触りの良い、ことばかり言われているのは百も承知だ。
分かっていても、褒められれば、つい嬉しくなってしまう。
俺という人間とは、こうも単純なのである。
「二人とも、こっちさね。この通路を抜けた先で、ハンターたちと遭遇したんだわ」
ワカモトさんが杖で方向を指した。
この神殿は奥に行けば行くほど、道が入り組んでいる感じだ。
次第に道が分岐し始めてきた。
元、パーティーメンバーを助け出すにはワカモトさんの記憶力が鍵だ。
彼女のガイドで進めてはいるものの、もはや迷宮である。
人工的にできた遺跡だということで、すっかり忘れていたが、ここもダンジョンの一部に変わりない。
魔物は出るし、宝箱だって発見することもある。
それ以降は、いつもと変わらずグゼンとワカモトさんの独壇場だった。
数だけ多い、低ランクの魔物は大剣でぶった斬り、たまに出てくる強敵は魔法で一掃する。
完璧な布陣をまえに俺の出番なんぞ回ってくるはずない。
「着いた……けど、困ったわさ。ハンターたちの気配がこの部屋にはない」
足を止めた彼女は、しきりに手掛かりとなるモノを探していた。
それも、そのはず……ここから先は道が三叉に別れている。
ここまでの道中、他の人間には出会わなかったのだ。
ハンターたちはきっと奥へと移動している。
そして、その先には、反対側の出入口があるはずだ。
「迷っている暇はなさそうだ。ここからは手分けして探そう、丁度、道が三つに分かれている」
「待てよ、マイト。ここで、個別に動くのは危険じゃねぇ?」
「危ないと思ったら、即座に引き返す。それでいいだろ?」
俺の言葉にグゼンが不服そうな顔を見せた。
本来なら、万全を期して一つずつ調査してゆくのが上策だ。
個別での捜索は、あくまで俺個人の私見であり、本当にあるか、どうかも分からない別の出入口を警戒してのことだった。
もし、ハンターのオメガ三兄弟にでくわしたら……それこそ本末転倒である。
下手をうてば捕らえられる人数を一人増やしてしまうかもしれない。
だからといって、三人で戦って必ずしも勝つ保証はどこにもない。
そう考えると、やはり最優先とすべきはリンとシャルの行方だ。
「俺はこの道を選ぶぜ!」
「えっ? 何? もう始まってんの?」
女子大生みたいに驚く野郎には目も暮れず、俺は真ん中の道の前に立った。
杖を突いたワカモトさんも俺に倣って移動を開始する。
あまりに遅い、歩みに蠢いているのかと思った。
冷静に考えてみれば聖殿に入ってから、ずっと歩き通している。
体力のある俺たちならともかく、これ以上、歩き続けるのは高齢の彼女にとって酷でしかない。
すでに、全身がシンドクなってきているはずだ。
「じゃあ、婆はこっちにしようかね……何だい? グゼン」
「そっちには、俺が行ってやる。あんたは、ここで休んでいろ」
「何、言ってんだ。通路はあと一つあるんだ、全員で行かないと意味ねえでよ」
「ひょっとしたら、サトランの奴がここに来るかもしれねぇ。そしたら、二人して聖殿内部を調べればいい。なあ~に、確率は三分の二だ。俺か、マイト、どちらかがハンターとぶち当たるはずだ」
グゼンなりの粋な計らいなのか? 素直に捉えれば、ワカモトさんの身体を気遣っているようにも見受けられる。
当然ながら、この男にそんな甲斐性はない。
どこまで行ってもグゼンはグゼン。三つ子の魂は、すべて下心につぎ込んでいる。
彼が、ここまで親切なのは恩を売って、自分の株をあげたいからである。
自信過剰なグゼンのことだ。
今、考えているのは二人を救出した後のことだろう。
ここで自分の心象を良くすれば、再度パーティーメンバーとして加入できるかもしれないと目論んでいるのかもしれない。
これまで、散々と言い争っておきながら、今更、ワカモトさんと仲直りできるとは、俺には到底思えない。
だが、グゼンは違う。信じられないことに、すべて自分の都合の良い方向に解釈してしまう彼は、本気で許してもらえると思っている。
ここまでの話は決して俺の妄想などではない。
ここ数ヶ月、行動を共にしてきた俺は、グゼンの癖など、とっくに見抜いていた。
グゼンは嘘をつくとき、しきりに尻を手でさすろうとする。
俺は今、それを目の当たりにしている。
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