29 / 122
恋するコペルニクス
29話 その手には……
しおりを挟む
「とにかく、コイツは元人間じゃ! 呪いを解いてやれば救えるぞ」
あかん! ここ数分間の記憶がなくなっておる。
というか、どうしてスケベ像を助け出す話に進展している。
「あっ、ふ~ん……」
「ふ~んって……主、まさか同族を見捨てる気か!? 我ら、魔族だって困っておる奴がおったら協力し合うのに」
「すまない……俺は、人助けすると屁が止まらなくなる体質なんだ。 俺のアナ〇ブレスは、三千度ぐらいの高熱を放出し、秒間12秒で時速450キロに到達するんだ」
「じ、地獄絵図じゃな……ラグナロクでも始めるつもりかぇ」
机もないのに、両肘をつき口元で両手を組む。
そこから中腰姿勢に入る。
これで、エアーゲンドウの完成だ。
人類の八割ぐらいが、このポーズをみてコイツはマジだ! と錯覚する。
ササブリには悪いが今の話はフィクションだ。
アットホームでホワイトな魔界と違って、人間界は泥沼の中に住む魑魅魍魎たちが金貨一枚を奪い合うセカイなのさ。
石像を助ける趣味は俺にない。というか善人ではなく悪人だから、ハンターに追われている。
三歩譲って、美女ならともかく、この吟遊詩人は野郎だ。しかも、南国育ち臭いほど顔の掘りが深い。
仮に詩人が復活したら、どうなると思っているんだ。
見た目の濃さだけでキャラ負けするじゃないか!
困ることなんて何もないけど、コイツの幸せを考えるとこのままの方が幸せかもしれん。
「仮に――仮にだ。主がコヤツのように石像に変えられたらどう思うんじゃ?」
「女湯の脱衣所に設置してくれ」
「本当にいいのか? 実物を前にずぅーと見ているだけじゃぞ。挙句、客と言えば常連のオバハン集団。アレらは遠慮がない、主が動けないことを良い事に主の全身を触りまくってくるぞ」
ゾワッと鳥肌が立った。
俺の推理は間違っていたようだ。
スケベの像は加害者ではなく被害者だった……正式名はスケベされる像。
こんな簡単なトリックも見抜けないなんて俺もまだまだだな。
苦笑いを浮かべながら俺は部屋を去った。
「待て待て待て!! 何を勝手に自己完結しておるのだ。この人間を助けるべきじゃろ!?」
「えっ――メンドクサクナイ? それより、ほら! 新たな冒険が俺たち待っているぜ! ひゃっほぃ!」
「見損なったぞ、主よ! 人とは互いの手と手を取れる種族だと母様から聞かされていたのに……この有様とは」
「……その手には、ナイフが握られていたんだよね。警戒もせず知らない奴の手なんか握れば、そうなることもあるだろうに……」
「主、一体どうしたのだと言うのじゃ? 過去に何かあったというのか……?」
それ以上は、俺も答えなかった。
話す義理もないし、話たいとも思わない。
そもそも今更、昔のことなんて思い返してどうする?
あの地獄のような苦しさと終わらない絶望を蒸し返せとでも……はっ、冗談じゃない。
このランキング世界は、俺がようやく手にいれた自由だ。
不自由だろうが理不尽であろうが、自身が意思決定できる立場にある。こんな素晴らしいことは他にはない。
もう誰にも縛られない、邪魔はさせない、ここでは俺の支配者は俺自身だ。
全部、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぅ――決めるのは俺。
「一つ、訊いていいか?」
「なんじゃ? スリーサイズとかは言わんぞ」
「本当にお前は、魔王なのか? やけに人間に肩入れしているようだが……何か裏でもあんの?」
「質問が二つじゃぞ。まぁ、良い機会だから話しておこう」
ササブリは俺のことに関して追求しようとはしなかった。
単に興味がないだけかもしれないが、豹変する俺を見ても動じることはない。
魔族で魔王なのだから、このぐらいは平気だということか……。
何を期待してんだ? 俺はもう、過去は振り返らないと決めたじゃないか!
「我は魔王じゃ、正真正銘のな。だからこそ求める、己が力の復活を! その為には、主にたくさんポイントを使用して欲しいんじゃい! さすれば、もっと大量のポイントを持つバケモノが出てくるからな」
「あはっ、はははは! あはははっ!!」
「何がおかしい!! 我は、本気じゃ!」
「いや、ごめんごめん。別に馬鹿にしたんじゃないよ」
思わず、抱腹絶倒しそうになった。
どうやら、彼女は俺が思っていた以上に魔王を自覚していた。
純真に思える言動も、愛らしい仕草もすべては自身の野望の為。
目的を果たすのに必要ならば何でもやる。
むしろ、ゴールまでの過程なんか気にもかけちゃいない。
俺を利用し、俺の望みまで叶えてくる最高の逸材だ。
ならば、俺もその流儀に習うとしよう……魔王を使役する者として。
あかん! ここ数分間の記憶がなくなっておる。
というか、どうしてスケベ像を助け出す話に進展している。
「あっ、ふ~ん……」
「ふ~んって……主、まさか同族を見捨てる気か!? 我ら、魔族だって困っておる奴がおったら協力し合うのに」
「すまない……俺は、人助けすると屁が止まらなくなる体質なんだ。 俺のアナ〇ブレスは、三千度ぐらいの高熱を放出し、秒間12秒で時速450キロに到達するんだ」
「じ、地獄絵図じゃな……ラグナロクでも始めるつもりかぇ」
机もないのに、両肘をつき口元で両手を組む。
そこから中腰姿勢に入る。
これで、エアーゲンドウの完成だ。
人類の八割ぐらいが、このポーズをみてコイツはマジだ! と錯覚する。
ササブリには悪いが今の話はフィクションだ。
アットホームでホワイトな魔界と違って、人間界は泥沼の中に住む魑魅魍魎たちが金貨一枚を奪い合うセカイなのさ。
石像を助ける趣味は俺にない。というか善人ではなく悪人だから、ハンターに追われている。
三歩譲って、美女ならともかく、この吟遊詩人は野郎だ。しかも、南国育ち臭いほど顔の掘りが深い。
仮に詩人が復活したら、どうなると思っているんだ。
見た目の濃さだけでキャラ負けするじゃないか!
困ることなんて何もないけど、コイツの幸せを考えるとこのままの方が幸せかもしれん。
「仮に――仮にだ。主がコヤツのように石像に変えられたらどう思うんじゃ?」
「女湯の脱衣所に設置してくれ」
「本当にいいのか? 実物を前にずぅーと見ているだけじゃぞ。挙句、客と言えば常連のオバハン集団。アレらは遠慮がない、主が動けないことを良い事に主の全身を触りまくってくるぞ」
ゾワッと鳥肌が立った。
俺の推理は間違っていたようだ。
スケベの像は加害者ではなく被害者だった……正式名はスケベされる像。
こんな簡単なトリックも見抜けないなんて俺もまだまだだな。
苦笑いを浮かべながら俺は部屋を去った。
「待て待て待て!! 何を勝手に自己完結しておるのだ。この人間を助けるべきじゃろ!?」
「えっ――メンドクサクナイ? それより、ほら! 新たな冒険が俺たち待っているぜ! ひゃっほぃ!」
「見損なったぞ、主よ! 人とは互いの手と手を取れる種族だと母様から聞かされていたのに……この有様とは」
「……その手には、ナイフが握られていたんだよね。警戒もせず知らない奴の手なんか握れば、そうなることもあるだろうに……」
「主、一体どうしたのだと言うのじゃ? 過去に何かあったというのか……?」
それ以上は、俺も答えなかった。
話す義理もないし、話たいとも思わない。
そもそも今更、昔のことなんて思い返してどうする?
あの地獄のような苦しさと終わらない絶望を蒸し返せとでも……はっ、冗談じゃない。
このランキング世界は、俺がようやく手にいれた自由だ。
不自由だろうが理不尽であろうが、自身が意思決定できる立場にある。こんな素晴らしいことは他にはない。
もう誰にも縛られない、邪魔はさせない、ここでは俺の支配者は俺自身だ。
全部、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぅ――決めるのは俺。
「一つ、訊いていいか?」
「なんじゃ? スリーサイズとかは言わんぞ」
「本当にお前は、魔王なのか? やけに人間に肩入れしているようだが……何か裏でもあんの?」
「質問が二つじゃぞ。まぁ、良い機会だから話しておこう」
ササブリは俺のことに関して追求しようとはしなかった。
単に興味がないだけかもしれないが、豹変する俺を見ても動じることはない。
魔族で魔王なのだから、このぐらいは平気だということか……。
何を期待してんだ? 俺はもう、過去は振り返らないと決めたじゃないか!
「我は魔王じゃ、正真正銘のな。だからこそ求める、己が力の復活を! その為には、主にたくさんポイントを使用して欲しいんじゃい! さすれば、もっと大量のポイントを持つバケモノが出てくるからな」
「あはっ、はははは! あはははっ!!」
「何がおかしい!! 我は、本気じゃ!」
「いや、ごめんごめん。別に馬鹿にしたんじゃないよ」
思わず、抱腹絶倒しそうになった。
どうやら、彼女は俺が思っていた以上に魔王を自覚していた。
純真に思える言動も、愛らしい仕草もすべては自身の野望の為。
目的を果たすのに必要ならば何でもやる。
むしろ、ゴールまでの過程なんか気にもかけちゃいない。
俺を利用し、俺の望みまで叶えてくる最高の逸材だ。
ならば、俺もその流儀に習うとしよう……魔王を使役する者として。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる